INTERVIEW
DARK TRANQUILLITY
2024.08.13UPDATE
2024年08月号掲載
Member:Martin Brändström(Key/Syn)
Interviewer:菅谷 透 Translator:川原 真理子
スウェーデンが誇るメロディック・デス・メタルの重鎮バンド、DARK TRANQUILLITYが最新作『Endtime Signals』を発表した。2020年の前作『Moment』リリース後、Christopher Amottや結成メンバー Anders Jivarpらの脱退を経て生み出された本作は、これまでバンドが築き上げてきた音楽性と似て非なる、心機一転と言うべきサウンドを展開している。さらに凄みを増したメランコリーと激情でバンドを再定義した新作について、アルバムのプロデュースも手掛けたMartin Brändströmに語ってもらった。
DARK TRANQUILLITYがやっているのは、メランコリーと激情の領域を追求することだと思う
-冒頭からヘヴィな話で恐縮です。前作『Moment』リリース後、Christopher Amott(Gt)や長年のメンバーであるAnders Iwers(Ba)、Anders Jivarp(Dr)がバンドを離れましたが、彼らの離脱をどのように感じましたか?
もちろん、あれはつらかったよ。かつてこのバンドのラインナップは長年安定していて同じメンバーだったけど、Martin Henriksson(Gt)が(2016年に)バンドをやめるともう同じではなくなった。メンバーがやめる理由は人それぞれだけど、バンドをやめて他のことをしようと思うわけだ。そしてパンデミックのせいで、人生について考えざるを得ない人が増えたんだろう。みんなが立ち止まって考えたんだよ。そして、他のことをやってみようと決心した人たちもいたわけだ。バンドをやめたメンバー全員とは、未だに仲がいい。友達なんで、ケンカしているわけじゃない。ただ、彼らはもうこのバンドでやるべきことはないと思ったんだよ。もちろん、一番つらかったのは創立メンバーのAnders Jivarpの脱退だった。あと、Anders Iwersはコンポーザーとして活躍してたくさんの曲を作っていたから、彼抜きでどうやって新しい音楽を作っていくかが課題だったんだ。
-バンドには新たにChristian Jansson(Ba)、Joakim Strandberg Nilsson(Dr)が加入しました。彼らが加入した経緯、パーソナリティやプレイヤーとしてのスキルを紹介していただけますか?
Christianはイェーテボリ出身で、ずっと前から同じシーンにいたんだ。僕たちと同い年だし、同じ地域の出身だから、彼のことはずっと前から知っていたんだよ。彼はMikael Stanne(Vo)と一緒にGRAND CADAVERというバンドもやっているから、Anders Iwersがやめてベーシストが必要になったときに彼を試してみることにしたところ、バッチリだったんだ。ChristianもJoakimも、『Moment』がリリースされた直後から僕たちと一緒にプレイを始めたから、このアルバムをレコーディングする2~3年前から彼らとはすでにプレイしていたんだよ。だから、そこまで新メンバーという感じはしない。彼らとは、これまでかなりの数のライヴを一緒にやってきたからね。JoakimはJohan(Reinholdz/Gt)の友達なんだ。2人ともスウェーデン南部の出身で、JoakimはIN MOURNINGというバンドにいた。彼のドラミング・スタイルはみんな気に入っているよ。とてもテクニカルなドラマーだからね。最初は、2人のAndersがやめたときの助っ人として単に彼らを起用しただけだったけど、ライヴを始めるとすごくしっくり行ったから、そのままバンドに残ってもらうことにしたんだ。人としての彼らはとても大らかだし、DARK TRANQUILLITYの音楽やサウンドのことをちゃんと理解してくれているから、こっちもほとんど説明しないで済む。だから最高だよ。
-アルバム『Endtime Signals』のタイトルに込めた意味や、アルバムのテーマを教えていただけますか? Mikaelが考えたのかもしれませんが、分かる範囲でお伺いできればと。
歌詞は常にMikaelが書いているし、タイトルも彼だけど、アルバムのコンセプトについては、時間をかけてニュースを観ながら世界で起こっていることについてみんなで話し合ったんだ。今僕たちが暮らしているこの時代がこうだから、よりダークなアルバムを作りたかった。もっと軽いものに対するモチベーションが湧かなかったからだ。パンデミックが僕たちを大きく変えたと思う。今ヨーロッパでは僕たちがいるところのそばで技術革新戦争が起こっているし、世界の民主主義の発展の様子を考えてみると、政治的展望が左寄りだろうが右寄りだろうが、これほど互いを理解し合うことが難しい状況はこれまでなかったと思う。そういったこと全てがこのアルバムに趣を与えたんだ。そして今僕が言ったことは全て、Mikaelの歌詞のテーマでもあった。というわけで、彼が書いた歌詞を要約すると、"前兆"なんだ。何かを変えないとこうなってしまうという、未来の世界がどうなるかが見えてくるんだよ。そこからこういうタイトル(※直訳すると"終末の前兆")になったんだ。
-前作はバンドの叙情/耽美的な路線の集大成と言えるような内容でしたが、本作では攻撃的なファスト・チューンから壮大なバラードまで、これまでバンドが積み重ねてきたサウンドを網羅しつつもどこか異なる、心機一転と言える音楽性になっていると感じました。楽曲制作において意識したことはありましたか?
それは嬉しい褒め言葉だね。僕たちが目指していたのはまさにそれだったんだから。メンバー・チェンジがあったことで、DARK TRANQUILLITYはこれまでどうだったのか、そして今はどうあるべきかについてみんなで話し合ったんだ。僕たちの音楽がこうである理由を言葉で表そうとしたんだよ。少なくとも僕にとっては、DARK TRANQUILLITYがやっているのはメランコリーと激情(Rage)の領域を追求することだと思う。それが僕たちの使命なんだ。それが分かった時点で、メンバー・チェンジもあったことだし、僕たちの過去のあらゆる領域をこのアルバムで再訪したかったんだよ。君が言った攻撃性からバラードまでをね。だから、とてもバラエティに富んだアルバムにしたかったんだ。あともちろん、常に未来にも向かっている。そっちに向かいたいからね。新しいメンバーにDARK TRANQUILLITYの世界を説明しているうちに、僕たち自身もまたそれを見つけることができたから、こういったバラエティに富んだアルバムにすることにしたんだ。ファスト・チューンの「Unforgivable」から、「One Of Us Is Gone」や「False Reflection」といったバラードまでね。
-本作ではJohan Reinholdzのテクニカルなギター・ソロがフィーチャーされつつ、全体としてはキーボード/ギターが見事に調和したサウンドに仕上がっています。今作のメイン・ソングライターはあなたとJohanだったのですか?
そう、アルバムの曲を作ったのは僕とJohanだった。2022年の終わりに始めたんだ。彼はスウェーデン南部に、僕はイェーテボリに住んでいるんで、ある週は僕が彼のところに行き、別の週は彼が僕のところにやって来るという生活を1年間送ったんだよ。というわけで、2人でアルバムの曲の大半を作ったんだ。
-リモートでファイルを交換して作業することはなかったのですか? 必ず2人で集まって曲を作っていたのでしょうか?
個々に曲を作って、会ったときにそれを相手に聴かせることはあるけど、セッション自体は2人が1つの部屋にいるときでないとだめなんだ。少なくともアルバムを始めるにあたっては、2人が同じ部屋に(アイディア的に)同じほうを向いていないとだめなんだよ。曲がどうあるべきかについてすでに話し合ったあとであれば、リモートでも可能だろう。"ここのパートはこうしたい"といったことを言える。でも、2人でいるときは1日を曲作りに捧げるんだ。そういうときは他に何もしないで、1日12~14時間作業をする。2人が同じ町に住んでいたら、1回のセッションの時間がもっと短かっただろうけど、今回は限られた時間ですごく集中して行ったんだ。Mikaelがプロセスに参加することもあったね。早い段階で彼が歌詞を書くこともあったんで、彼が歌詞を付けるとこっちは音楽を作り直して、歌詞に合うようにしたりした。だから、曲作りではかなり見直しを行ったよ。
-資料によると元ギタリストのNiklas Sundin(本作のアートワークも担当)や、2022年に亡くなったギタリストのFredrik Johanssonも本作の楽曲に関わっているということですが、どのような貢献を果たしたのでしょうか?
Niklasは何年か前にバンドをやめたけど、彼は常にバンドと交流があるんだ。ヴィジュアル面を全て担当しているんで、僕たちは彼としょっちゅう話をしている。で、1~2年前に彼が僕たちに曲をたくさん送ってきてね、"使いたかったら好きに使ってくれ"と言ったんだ。僕たちは必ず曲の取っ掛かりとなる感情を探しているけど、そこでその感情が見つかって、それがアルバム最後のバラード「False Reflection」に繋がったんだ。あの曲は、Niklasが作った曲が取っ掛かりになったんだよ。Fredrikも同じだった。知っての通り、Fredrikは癌との闘病の末に亡くなったけど、その闘いはしばらく続いたんだ。彼もまたバンドと近しい存在だったんで、彼とは常に交流があった。癌というのは厄介でね、打ち勝ったと思ってもまた戻ってきてさらに強力になっていたりする。でもその間も彼は曲を作っていたんだ。(病気以外の)他のことで忙しくして、その日を乗り切ろうとしていたんだろう。それで彼も曲をくれて、"好きに使ってくれ"と言ったんだ。彼がバンドをやめたのは1999年のことで、『Projector』(同年リリースの4thアルバム)の後だったけど、彼は常にこのバンドを大いにサポートしてくれた。自分がやめた後のDARK TRANQUILLITYも大好きだったから、今のDT(DARK TRANQUILLITY)に何か貢献したいという気持ちがあったんだろう。というわけで、彼が曲をくれたのが闘病中だったから、あのときはそれをなんとかするのが難しかったけど、彼が亡くなってからもう一度曲を聴いてみると、強力な感情のこもった曲があって僕はそれに惹かれたんだ。それでその曲に取り組んで完成させた。それがもう1つのバラード「One Of Us Is Gone」になったんだ。歌詞を書いたのはMikaelで、彼についてなんだよ。Fredrikへのトリビュートなんだ。