LIVE REPORT
HOT MILK
2023.11.30 @代官山UNIT
Writer : 菅谷 透 Photographer:Tom Pullen
UKマンチェスター出身の4人組バンド HOT MILKが、一夜限りの来日公演を開催した。待望の日本デビュー・アルバム『A Call To The Void』を引っ提げての初来日ということで、チケットは事前に完売。会場となった代官山UNITには幅広い年代のファンが詰めかけていて、注目度の高さが窺えた。
開演時刻を少し過ぎて場内が暗転し、大歓声のなかアルバムのオープニングを飾る「Welcome To The...」が流れ始める。Han Mee(Vo/Gt)、Jim Shaw(Vo/Gt)のツイン・ヴォーカルがステージに姿を見せるとフロアの熱気もグッと高まり、Jimのコーラスに合わせてシンガロングが自然発生していく。熱狂の一夜への準備が万端になったところで、性急なビートとともにアルバム2曲目の「Horror Show」がスタート。ドラムンベースを取り入れたアグレッシヴなサウンドが観客を突き動かすと、Hanの先導でモッシュ・ピットも出現し、フロアは一気にカオス状態になった。
ロック・スター然とした佇まいで、パワフルな歌唱を繰り広げながらステージを縦横無尽に動き回るHanと、コーラス&ギターでバンドを支えつつ個の力も持ち合わせているJimのツイン・ヴォーカルは抜群のコンビネーションだ。武骨なベースを鳴らしつつ豪快なステージングで魅せるTom Paton(Ba)、サンプリング・パッドも駆使しながらエネルギッシュなドラミングを繰り出すHarry Deller(Dr)のパフォーマンスもそれぞれ素晴らしく、ライヴ・バンドとしての実力を早くも証明していた。
続く「Bloodstream」ではアンセミックなコーラスに観客が手を掲げ、大合唱が響き渡る。ラウドなサウンドの「I Just Wanna Know What Happens When I'm Dead」では巨大なモッシュ・ピットが広がり、ポップ・パンクにオールドスクールなロックも融合した「Alice Cooper's Pool House」では一体となったジャンプが会場を揺らす。オーディエンスがどれだけこの日を待ち望んでいたかが窺えるような熱狂に、メンバーも笑顔で応えていた。
フロアを左右に分けての声出し合戦でフロアのテンションをさらに高めた「Teenage Runaways」に続いて、"今夜はこの会場の外でのことは全部忘れて、今この瞬間を楽しんでほしい"というHanの言葉から「I Think I Hate Myself」をドロップ。エモーショナルなサウンドにフロアは息を呑み、思わず静まり返ってしまったが、Jimに"Tokyo~"と柔らかな声で呼び掛けられたことですぐさま生気を取り戻す。このあたりのユーモア溢れる対応もさすがだ。パワフルなコーラスでボルテージを上げる「Zoned Out」から、強烈なベース・リフで始まり、"Dead-dead"の大合唱も巻き起こった「Over Your Dead Body」と、ここでも『A Call To The Void』の流れが再現されており、改めてアルバムや楽曲の持つ強さが感じられた。
ライヴも後半戦に突入したところで、アコースティック・ギターを抱えたHanが、初めて日本に来れたことへの感謝を語る。そして"私たちのショーでは、みんなが自分らしくあってほしいと思ってる。泣きたくなったら泣いていい。会場を出たときに、人生のあらゆる場面を生き抜くための何かを得ていることが大事なんだ"とライヴへの信念を述べ、"私たちにとって大切でスペシャルな曲"と「Breathing Underwater」をプレイ。バンドの想いと呼応するかのようにシンガロングが広がったところで、大サビでは突如演奏が止まり、観客だけのアカペラに。予想外の事態ではあったが合唱が絶えることはなく、メンバーは喜びと驚きが入り混じったような顔でそれを受け取ると、お返しとばかりに演奏を再開。ステージとフロアが一体となって一心不乱に歌う光景は、実に感動的だった。そしてアウトロではJimが再度の合唱を要求。言葉の壁を越えたハーモニーを、Hanが髪をかきむしりながらくしゃくしゃの笑顔で受け止めていたのが印象的だった。
最終盤ではポップなメロディが光る「Candy Coated Lie$」でギアを上げると、Jimもギターを置いてフロアを煽り倒す「Migraine」でさらに加速。Tomのベース・ソロから「Party On My Deathbed」で何度目かの狂乱状態へ。「Split Personality」では歌詞を東京に変えるサービスも織り込みつつ、巨大なモッシュ・ピットでクライマックスを迎えた。アンコールではHanが改めて遠い日本の地に来ることができた感謝を述べ、「Glass Spiders」を披露。この日生まれた強固な絆を再確認してライヴを締めくくった。
バンドと観客双方の熱量によって、初来日公演とは思えないほどのケミストリーを生んでいた今回のステージは、間違いなく多くの人々の心に残るものになっただろう。そう遠くない将来に、さらに多くの観客の前で再び熱演が繰り広げられることを楽しみにしたい。
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