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INTERVIEW

mitsu

2025.10.08UPDATE

2025年10月号掲載

mitsu

Interviewer:山口 哲生

これが最期かもしれないって思うときは 作品とか今のテーマを色濃く残せるような形でやっていきたい


-うんうん。

「水深」は、外から見えている自分とか、ν[NEU]で期待されている自分とか、自分がそうありたいと思っている自分がいるんだけど、そういったものを一度全部度外視するというか。殻の中に閉じこもって隠れていたり、逃げていたりする自分がいて、外に出たいと思っているんだけど、殻の中で動けない自分としてそのことを表現しようと思っていたので、実は途中でν[NEU]の衣装を着ていたりするんですよね。メイクとかも全部ボロボロにして水に浸かるのも、ぬるま湯というか、心地いい場所から動けなくなってしまった自分を表現していて。

-そういった部分を表現するためにも映像が一番良かったから、「水深」はYouTubeのみで発表されたんですか?

そこに関しては、正直自分の中でも最適解が見えてないんですよ。パッケージ化して流通するのか配信するのか、どれが本当に自分に合ってるのかなってすごく考えるんです。もちろんコストとかもあるんですけど、それだけじゃなくて、今は配信するのが普通だよねっていう世の中じゃないですか。CDに関してはハテナが付く人も最近は増えてきていると思うし、それを作るために奪わなきゃいけないものもあって。その中でも自分が今一番全てのコストをかけたいと思ったのは、映像だったんです。そういう意味では一点突破というか。結果がどうこうは一旦置いておいて、とにかくこの曲は今じゃないと絶対に作れないと思った。まぁ、全ての曲がそうだと思うんですけど、これを作りたいっていう炎が消えてしまう前に、とにかく作りたかったんです。

-自分の中で鮮度が落ちたり、芽生えた感覚が薄れたりしてしまう前に。

それに、5年ぶりだったのでやっぱり期待にも応えたかったし、何よりも自分が5年間溜めてでも出したぞ! って言えるものにしたかったから、それでまたハードルがめちゃくちゃ上がったんですけど、とにかくここに賭けようと。サブスクで配信しなかったのは、それも甘えがちょっとあるのかもしれないけど、まだ正しいと思えないというか。それはサービスが悪いとかじゃなくて、自分が全てコントロールできるかどうか怪しいと思うので、そこがはっきりしないまま出すと作品が濁ると思ったんです。そう思ったときに一番分かりやすかったのがYouTubeだった。これがもっと大きな環境を作れていたらまた違ったと思うんですけど、今の自分のベストはこれだと考えて。それが合っているかは分からないですけど。

-ただ、今やるならここだと。

はい。これをやらないのはもはやアーティストではないなって。それまでは自分のことをヴォーカリストって言っていたんです。アーティストとは恥ずかしくて言えなくて。特に後ろめたさがあったわけじゃないんですけど、自分のやっていたことをアートだと思っていなかったのかもしれないです。これは別にどっちがいいとか悪いとかって話じゃないんですけど、ただそのときから自分はヴォーカリストであり、アーティストであるということを自覚できたんですよね。誰になんと言われても自分はアーティストだと言えるようになったのは、あの作品を残せたからだと思います。

-そういった作品を生み出せたのは本当に大きかったですね。

人生観が変わりましたね。実際出してからいろんな反響があって、物事が10周年に繋がるように動いていったので。あのときの感覚を未だに覚えているんですけど、この曲を世に出す5分前とかに、部屋の換気扇の下でタバコ吸いながら、"俺、やっとこの作品を世の中に出せるんだ"と思ったんです。作れたこともそうだし、出すまで至ったんだっていう喜びが本当に大きくて。だから、そこから先はもう本当にどうでも良かった。もちろん聴いてもらいたいですけど、それよりも大事なのは、これを世の中に残せたこと。たぶん世の中に残せないまま死んでいった人たちもいっぱいいるじゃないですか。そう思ったときに、ありがたいな、幸せ者だな、これはみんなに分けてもらった結果なんだなって感じましたね。

-今後の活動についてですが、11月11日に渋谷REXで、"mitsu BIRTHDAY LIVE2025「Lucid Grace」"を開催されますね。

よく11月11日って本当の誕生日? って聞かれるんですけど、本当の誕生日なんですよ。平成11年11月11日に11歳になったので(笑)、次で37歳になるんです。

-すごいタイミング! どんなライヴになりそうですか?

今回のタイトルは、「水深」の次の作品のテーマと通じるものにしていて。今後どういうテーマを歌っていこうとしているのかは、使命として言っておくべきだなっていうのが自分の中にあって。それが誕生日だったのはキリがいいところもあるんですけど、今ってフル・バンドのワンマンを年間で3本ぐらいしかやってないんですよね。だから、11月11日の次は来年になると思うんですけど、そのときに俺が生きてるかどうか分からないじゃないですか。これは脅しではなくて。だから、これが最期かもしれないって思うときは、自分の作品とか今のテーマを色濃く残せるような形でやっていきたい。なので、今回は誕生日ではあるんですけど、感覚的にはいつ最期になってもおかしくないと思ってやろうと考えてます。これはネガティヴな意味ではなく。

-今後自分が歌っていくものをここで見せると。

そうですね。あと、「水深」と、その次の作品と、最後にもう一作の3部作で考えているんですけど、そこまでいったら音源化しようかなと思っていて。それまでは今回のやり方でやろうと考えてますね。

-ちなみに、3部作の3作目ってもう構想があったりするんですか?

これは最初から決めてました。自分がやっていることって、目に見えないことなんですよね。それこそ音楽って目に見えないものだし、CDとかインタビューみたいに形にすると目に見えるけど、見えないものってやっぱり信じづらいんですよ。基本的にみんな見えるものに安心するので。ただ、見えるものってなくなっていくし壊れていくし、いつか別れが来るものでもあるんですよね。でも、さっきの守護霊の話に戻るんですけど、目に見えないものって、たしかに見えないかもしれないけれど、めちゃくちゃ側にある感覚があって。俺、永遠はないと思っていたんですけど、ν[NEU]を完結させてみてこれが一番永遠に近いかもと思ったのが、"自分の中で終わらせること"だったんですよ。

-なるほど!

音楽って見えないものだから、そういったものに対して人がわざわざ足を運んだり感動したり、時間をかけたりすると思うと、この見えないものをどこまで見えるようにするのか。見えるようにするというのも、ただ見るというよりは、感じるとかもっと感覚的な話なんですけど、それをどれだけ形にできるかと思ったときに、この3部作は人間の精神の成り立ちみたいなものをテーマにしようと考えて。海の底の孤独から、外に出るための鍵として過去の自分と別れができた。そこから先は外の世界に出た後の話になるので、次のテーマはもうすでに見えてきています。そのための曲をどうするかっていう感じですね。

-実際にどんなものになるのか楽しみにしています。今日は個人的にいろんな学びや気付きの多いインタビューだったんですが、mitsuさんって普段から何かに思いを巡らせていたり、考えたりすることが多かったりしますか?

考えることもできるタイプではあるんですけど、考えるときって、上手くいくようにしたいとか、振り向いてもらいたいとか、これを売りたいとか、ネガ(ティヴな気持ち)から起こるものだと思っているんです。もちろん全てがそうだとは思わないし、考えることが悪では絶対にないんだけど、俺自身が考えるときって、だいたい上手くいかないことからの脱却とか、願いを届けたいための欲求とか、そっちのほうが近くて。 自分が自分のことを好きなタイミングって、楽しいとかやりたいとか、結果をあまり求めていないときなんですよ。子どもの頃は無邪気に手を伸ばしていたんですけど、大人になればなる程頭が働くようになってくるし、経験もあるから、考えるのが普通になるじゃないですか。なんなら考えようとしていなくても自然と考えるようになっている。この自然と考えてしまうことを減らしたいんです。考えることって、余計なものを付けたり、きれいにしたりするようなことなんですよね。

-あぁ。整えるというか。

だから自分としては、考えるというよりは、自分に聞くようにしているんです。さっきの"潜る"っていう話もそうだけど、今自分はどう思ってるのか。正直、どれだけ考えたとしても、俺はみんなのことなんて分からないんですよ。俺は俺で、みんなとは違う。だから俺のことは俺が一番知ってるはずなんです。"お前のことは俺が一番分かってるよ"とか言われたくないじゃないですか。そんなわけねぇだろ! って。そうやって余計なこと言われないためにも、自分が一番自分のことを知っていないといけないし、俺の乗り方は俺が一番分かっていなきゃいけない。だから、自分のことはめちゃくちゃ自分に聞いてます。そうやって自分と対話しまくると、初めて相手に伝えられるんです。考えたことを言うだけじゃ伝わらないですよ。

-なるほどなぁ。

もちろん作られたものに感動する人もいると思うし、それも分かるんですけど、本当の意味で心の底から震えるときって、考えられないときだと思うんです。なので、自分は考えずに発信できるようにするために、めちゃくちゃ自分と話していますね。ただ、それをするにはすごく時間がかかるし、嘘をつくと自分の声って聞こえなくなるんですよ。ちょっとスピリチュアルっぽいんですけど、たぶんこの感覚ってきっと分かるんじゃないかなと思うんですよね。 自分としては、自分と対話していくことで結果的に今まで進んでこられたと思っているので、余計なことを考えて上手くやろうとするよりは、自分が本当に思ってることだけ言おうと。正直、音源も出そうと思えばいくらでも出せるんです。適当に曲を繋げばいいし、なんなら今はAIでもできるじゃないですか。だけど、俺は本当の自分の言葉しか出したくないので。そのためにも、常に自分の声に対して嘘じゃないかな? って聞くようにしてますね。

-分かりました。今日はいい言葉をいっぱい貰えました。素敵なお話をありがとうございました。

いやいやいや(笑)。でも、これはあくまでも自分の場合ですよ? あくまでも自分が正しいと思っていることであって、俺が思っている正しいことは、俺以外の人にとっては正しくないことなので。

-でも、多くの人が気付きを得る言葉だと思いますよ。何かしら足を止める言葉、今の自分を見返すきっかけになる言葉だなと思いました。

ありがたいです。みんな幸せになりたいとか、上手くいきたいとか言うじゃないですか。それなら人のことじゃなくて、自分のことを聞いてあげなよって思うんです。"どうやったら自己肯定感って上がるんですか?"みたいな質問をよく貰うんですけど、自己肯定感って自分を肯定することだから、そもそも自分のことを知らなきゃ無理じゃない? って。自分を知ることで自分が高まると思うし、そうじゃないと人に言葉を言っちゃいけないと思う。傷つけたり、呪いになったりするから。 だし、自分が高まってないと人に分けられないと思う。さっきも言ったけど、コロナ禍のときみたいに余裕がないと人から奪ってしまうし。だから自分は、奪わなくていい自分でいたいんです。奪う自分のときは人に会いたくないし、関わりたくない。惨めだから。なので、なるべく自分を高められるように頑張ろうと思っていますね。

-たしかに自己肯定感ってあくまでも自分がどう考えるかっていう感じでしょうし。

ただ、不思議なことがあって。自分の中に深く潜って自分のことを知ろうとすると、底のほうにある言葉って、自分からのものじゃなくて、大半が人から貰った言葉なんですよね。mitsu君はこうだよねとか、mitsu君ってこういうときに救ってくれたよとか、自分の中に残ってる言葉のほとんどが人から貰った言葉なんです。

-あぁ。なるほどなぁ。

そうなると、やっぱり分けてもらったんだなと思うし、最終的に行き着くところは"俺がすごい"じゃなくて、マジで俺は人に生かされてるなっていう。だから、人のために生きるっていうことは、俺は言えないです。そんなにできた人間じゃないから。でも、人に生かしてもらっているとはマジで感じているんで、ちゃんと貰ったんだからそれは誰かに返したいし返さなきゃいけないと思うし、それが次の世代に渡っていって継がれていく、それが循環するってことだと思うんですよ。奪うのは循環じゃなくて停滞だから、これは間違えないようにしたいなって。

-そう心掛けていると。

昔氷室京介さんが、自分の書いた歌詞で学校をやめた人がいて、自分の言葉の影響力がどれだけ甚大かを知って、言葉を紡げなくなったっていう話があって。自分はそこまで大した影響力じゃないんですけど、ファンの子たちもいるし、俺に触れた人が今後の人生で呪いを背負っていくか、希望にしてくれるかは、やろうと思えばどっちもできちゃう立場にいると思ってるんです。それが10人でも100人でも1,000人以下でも別に変わらなくて。あくまでも1人対1人なので。だから呪いの言葉を言いたくはないし、そのためには自分が呪われないようにしなきゃいけないなって思いますね。 やっぱりステージに上がる立場なら、人は救わなきゃいけないよなっていうのは常に思って歌ってます。いつだって救えるわけじゃないけど、いつだって大丈夫な状況を自分で作っておきたいなと思いながら励んでますね。

-そういう状況を作っておくということが、mitsuさんにとって生きるということでもきっとあるんでしょうね。

そうですね。自分じゃない自分を演じるのは奪うことなので、普段からそう思っていないとソロはできないって、あくまでも俺は思ってます。すごく神聖なものでもあるなと思ってるんですね。歌って形がないから簡単に誤魔化せるので、その形が見えるぐらい濃くしていきたいなと考えてます。

LIVE INFORMATION
"mitsu BIRTHDAY LIVE2025「Lucid Grace」"

11月11日(火)渋谷REX
OPEN 18:00 / START 18:30
前売 ¥4,800 / 当日 ¥5,800
一般発売:10月11日(土)10:00~
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