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INTERVIEW

luz

2023.12.07UPDATE

2023年12月号掲載

luz

Interviewer:高橋 美穂

ソーシャル・ミュージック・シーン発のいわゆる歌い手として活躍しており、SNSの総フォロワー数は200万人を超えるluzが、5thアルバム『AMULET』を完成させた。確固たる世界観で人気を博してきたが、2023年7月23日に30歳を迎えたタイミングで、帯刀光司という本名を公開。世界観の殻を破った自我を見せる表現を始めた。堀江晶太(PENGUIN RESEARCH)がサウンド・プロデューサーを務めた『AMULET』には、そんなluzの現在進行形をパッケージした色とりどりの13曲が収められている。今作についてたっぷりと訊いた。

-まずは、『AMULET』ができあがって、どんな感触を持っていらっしゃいますか?

2年ぶりのアルバムなんですが、そもそも『FAITH』(2021年リリース)という4thアルバムが、僕がluzとしてやりたい音楽性をすべて詰め込んだものだったんですね。なので個人的に、これを超えるものはないなって思ってしまったのもあって、これだけの月日が経ってしまったんですけど。だから今回に関しては、サウンド・プロデューサーの堀江さんがいないと作れなかったと思います。

-それだけ出し尽くしたなかで、今作に向けて新たな1歩を踏み出すきっかけって、何かあったんでしょうか。

きっかけになった楽曲が、MVも公開しているんですけど「CARNIVAL」っていう堀江さん作曲の楽曲で。MVもそうなんですけど、ダーク・ファンタジーの世界を表現していて、この時点でアルバムの構想はありました。

-「CARNIVAL」でダーク・ファンタジーを表現したことで、アルバム全体のテーマもダーク・ファンタジーになったということなんですかね。

そうですね。前作は"教祖"というテーマがあったんですが、「CARNIVAL」からは自分が表現できる世界の主人公として、ダーク・ファンタジーもありつつ、ゴシックな感じもありつつ。ただ、行きすぎてしまうと自分の中で違うなっていうのがあって、その塩梅を堀江さんと話し合って。「CARNIVAL」という楽曲も、ゴリゴリのロック・サウンドにしてしまったら、ヴィジュアル系色が強くなってしまったと思うんですよ。だからダンス・サウンドにすることでバランスを取ったという。

-そもそも「CARNIVAL」でダーク・ファンタジーを表現しようと思った火種って、どこにあったんでしょうか。

そもそも僕自身が、ティム・バートン監督の作品がめちゃめちゃ好きで。怖いけど美しい、あの世界観に惹かれるんですよね。そこは僕の楽曲や歌声にも通じるんじゃないかなと思って。そういうことを、この歌い手界隈でやっている方もいないですし、先駆者として挑戦してみようと思いました。

-堀江さんに対しては、どんな印象でしたか?

堀江さんのすごいところって、ただ単に発注した楽曲を仕上げてくれるんじゃなく、僕のパーソナルな部分も含めて、"luz君にはこういうのが合うだろうな"、"こういうluz君がもっと見たいな"とか、引き出してくれるんですよ。それって、サウンド・プロデューサーとしてすごくいいことじゃないですか。本人がやりたい世界観をさらに広げてくれるというか。自分の目線だけではなく、相手の目線にも立ってくれるので、"なんでこんな天才なんだろう"って思っています(笑)。

-聴かせていただいて、率直な感想としては、ダーク・ファンタジーとはいえいろいろなタイプの楽曲が入っていて。カロリーというか、エネルギーを使いそうというか。渾身の力で歌ったり表現しないといけない楽曲ばかりに聴こえてきたんですが、実際はいかがでしたか?

(笑)おっしゃる通りです。アルバムは13曲入っていますけど、すべてシングル・カットできるような楽曲だと思うんですよ。だからカロリーは消費しますね。ただ、1枚を通した物語も聴こえてくるものになったとは思います。

-堀江さんも作詞作曲やアレンジで数多くの楽曲に参加されていますけれども、堀江さん以外の錚々たるクリエイターさんも楽曲を提供されていますね。

そうなんですよ。今回は堀江さんと僕で、半々ぐらいで(クリエイターの名前を)出し合った感じです。

-luzさんとしては、特筆すべきエピソードがある楽曲って、どのあたりになりますか?

たくさんあるんですけど、強いて言うならやっぱり堀江さん(作詞作曲)の楽曲は、自分のパーソナルな部分を表現してくれていて。レコーディングでも、"今までのluz君のかっこ良さというよりは、ありのままの自分で歌ってほしい"って言われたんですね。それってどういうことなんだろうって思ったんですけど、今までレコーディングではガイドMIDIとかを耳に流して、ピッチやリズムを正確に歌うことを意識していたんです。でもよく考えたら、それってVOCALOIDに近くなっちゃうなと思って。人間じゃなくてもいいじゃないですか。30歳になって、音楽の正解ってないなって思うようになったし、だから一度「MONSTER'S CRY」でそれをやめて、自分の思う感情表現をしてみようと思ったんですね。「MONSTER'S CRY」の主人公は、本当は心がきれいなんだけど、人に近づけば近づくほどおかしくさせてしまうというか。で、自分にもそこに当てはまる部分があったので、すごく感情表現が自然にできて。ちょっとの話し合いで、堀江さんがここまで歌詞に昇華してくれたことにも鳥肌が立ちましたね。"人間観察力がバケモノみたいだな、堀江さんもモンスターじゃん!"って(笑)。

-たしかに(笑)。でも、ボカロ的な正確性がある表現から自分を出す方向に1歩を踏み出すのって、実力も露わになるし、勇気がいるんじゃないかなって思ったんですけれども。

30歳の誕生日に本名を......帯刀光司って公開したんですけど、今まではluzっていうものを演じなきゃいけないっていう考えも少なからずあったんですよ。そのなかで、ほんとの自分ってなんなんだろう? って考えたときに、結局luzも帯刀光司もイコールじゃんって思って。二面性っていうか、光と闇っていうんですかね。自分の中では、luzのほうが闇の部分だったと思うんです。途中からありのままの自分でいられなくなったというか。どうしても"こういうのが求められているんだろう"っていうものをやっていかなきゃいけないって。でも、一度きりの人生でそれを続けるのは違うなって思ったんです。ただ、今までのluzの音楽を否定しているわけではなくって。常に自分の目標は自分なんですよね。やっぱり、以前の自分を超えなきゃいけない。よく言われるじゃないですか、"どなたを目標にしていますか?"って。音楽に勝ち負けはないけれど、でも唯一敵として挙げるなら自分かなと。常に自分がライバルというか。このときの自分にしかない表現というか、このときの感情があったからこそこの歌を歌えたとか。昔のアルバムやライヴ映像を観ていても感じるんですよね。自分には上昇志向もあるから、『FAITH』から『AMULET』に行くうえで音でも堀江さんと一緒にこだわりましたし、堀江さんには絶対的な信頼があるので。

-今のお話と今作を照らし合わせて、腑に落ちるところも多くって。例えば「Ghost in the danse」とか、歌が叫びのようというか、肉体的で、人間的で。そこには意識の変化が関わっていたんですね。

そうです。