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INTERVIEW

ALI PROJECT

2023.02.17UPDATE

2023年02月号掲載

ALI PROJECT

Member:Member:宝野 アリカ(Vo) 片倉 三起也(Key)

Interviewer:杉江 由紀

-「瓦礫ノ子守歌」については、この1年くらいの出来事と重なる点が多いせいか、聴いていて胸がしめつけられるような想いを感じました。アリプロの十八番である繊細なオーケストレーションを存分に生かした曲としての美しさ、アリカ様の慈悲を湛えた歌がリアリティをもって切々と響いてきます。

宝野:曲としてはとてもきれいなのよね。詞も、これは子守歌だから最初はママという言葉を使ったものにしようと思ってたんですけど、いざ歌ってみると声の感じがママっぽくなくて(笑)。

-"夜明けまで消えぬよう/見張っているから"、"お空の向こうが とどろく"というこれらのフレーズは、単なる子守歌には絶対に出てくるはずがないものですものね。そこには現実の残酷さというものも感じました。

片倉:どうしても、これは"あの状況"と重なるもんねぇ。

宝野:そう、とてもかわいそうな詞なんですよ。曲のタイトルに"瓦礫ノ"って付いているのはそういう意味ですから。でも、これはただ悲しいとかつらいっていう歌ではないんです。最後には"愛しさと美しいものたちを/取り返して/掌がたとえ汚れても/必ず/掴んで"とも歌っていますから。そこもこの曲の中での重要なポイントだと思います。

-そうしたシリアスな現実を直視したあと、晴れやかな「美シ国ノ四季ハ夢ム」から感じたのは一転しての救いです。日本的な情緒の漂うこの曲は、いかにして生まれたものだったのでしょうか。

宝野:いくつか曲ができていったときに、今回はまだ"きれいな曲がないね"っていうことで、片倉さんに作ってもらったのがこれだったんです。

片倉:アリプロのアルバムには毎回4分の3拍子の曲が必ず入ることになっていて、我々にとってはなくてはならないものでもあるんですが、今回そのポジションを担うことになったのもこの曲でしたね。日本的な要素というのは特に考えていなかったですけど、いわゆるペンタトニック・スケールの要素を使っているので、そこが響きの面で何かしら作用しているのかもしれないです。

-「美シ国ノ四季ハ夢ム」は、詞からいろいろな意味での普遍性が感じられるところも素敵ですね。

宝野:ワルツのきれいな曲なので、まずは詞もきれいなものにしたかったんですよ。そして、アリプロには今まで四季を歌ったものがなかったので、この1曲の中で日本の春夏秋冬を描くことにしました。前から四季の歌は作りたいと思っていたし、やっとそれをかたちにすることができたので嬉しいです。

-さて。ここからはいよいよタイトル・チューンとなる「天気晴朗ナレドモ波高シ」についてのお話もうかがっていきたいのですけれど、この曲は日露戦争がモチーフになっていることもあって、いきなり進軍ラッパあるいは突撃ラッパとも呼ばれる独特のフレーズから始まることになります。2023年を迎えた今、この音をALI PROJECTの曲の中で聴くことになる日がやってくるとは、想像もしておりませんでした。

片倉:ここで使っているフレーズは作曲者も不詳なくらいに昔からあるもので、著作権の面ではもうフリーな状態のものなんですよ。

-あのフレーズについては、私が小学生だった数十年前にチームで対決するような遊びや騎馬戦などをする際、誰かがあのラッパのメロディで"戦争開始みんなみんな殺せ~♪"と歌っていたことがあったように記憶しています。

宝野:へぇー! あれって歌詞があったんだ!?

片倉:たしかに、僕もその"みんなみんな殺せ~♪"っていうのは聞いたことあるな。これはアルバムのタイトル曲を作ろうかというところから始まって、作っていくなかであのラッパの音を入れることになりました。雰囲気としては、勇ましさとかセレモニーの空気感を醸し出していくことを軸に考えていった曲でしたね。

-ともすれば、現代のZ世代の人々などは、そもそもこのラッパのメロディがなんなのかさえわからない可能性もあるのかもしれません。もっとも、この「天気晴朗ナレドモ波高シ」という曲が持つただならぬ雰囲気は、聴いた誰しもに伝わるのではないかと思います。歌のキーもこの曲は他に比べると少し低めとなっていて、アリカ様の歌声が宝塚の男役が演じる兵士や、少年兵のようなキャラクター性を帯びたものとして聴こえてくるところがあるように感じました。

宝野:私も、昨日ちょうど聴き直していたときにそれは思いました。ちょっと青年が歌ってるような雰囲気がありますよね。

-それと同時に、この「天気晴朗ナレドモ波高シ」は歌詞の内容も非常にインパクトのあるものになっております。

宝野:アリプロにはこれまでも、"大和ソング"シリーズとして作ってきたものがいろいろありましたけど、これはその中でも今作ならではのシリーズ最高峰になるものを作ろう、という気持ちで書いた詞でしたね。昔はフォーク・ソングで「戦争を知らない子供たち」っていうのがあったけど、今だって私たち自身は戦争を知らないじゃない? でも、生きていくこと自体が戦いであるとも言えるわけだから、そこのあたりをどう表現していこうかな? と考えながら書いたものでもありました。

-"戦争知らぬ ぼくらも/生きることは 戦い"という一節は、まさにそれを表現したものなのですね。

宝野:そのあとにくる"守るものは 気高い/平和という 生きもの"、"飼い慣らすなかれ/尊びつづけよ"という部分は、つまり平和ってすごく大事なものだけれど、かといって平和ボケしちゃっても世の中はあんまりいい方向には行かないんじゃない? って気持ちを言葉にした部分ですね。

-なお、この曲は後半に向かえば向かうほど高揚感を増していく展開になっていくのかと思いきや、エンディング近くの歌詞で言うと"変わらぬ 大和魂強しと"のあたりには、一抹の不穏さを漂わせるようなコード展開になる場面もありますよね。このひと筋縄ではいかないところもまた、ALI PROJECTならでのひとクセなのかもしれません。

宝野:そうなの。そういうひと匙が加わっちゃうんですよねぇ、アリプロは(笑)。

片倉:細かいところまで聴いていただいてありがとうございます(笑)。実際、そこは普通に曲を終わらせたくないなという思いもあって、アレンジをしたところなんですよね。

-また、そんな「天気晴朗ナレドモ波高シ」から、本編ラストを飾るインストゥルメンタル「夜半曇天晴レテ月蒼シ[instrumental]」へと繋がっていく場面も、実にドラマチックで、半ばこれを聴いているときの感覚は、映画におけるエンドロールを観ているようなものでもありました。

宝野:うんうん、そういう感じになるのはわかります。

片倉:たしかにあれはエンドロールっぽい感じかもしれないですね。

-ALI PROJECTは毎作コンセプチュアルな世界を提示してくださっておりますが、こと『天気晴朗ナレドモ波高シ』はドラマ性とリアリティが複雑に交錯するなかで描かれる、唯一無二で贅沢な作品に仕上がったと感じます。また、アリカ様がセーラー服スタイルとなられているこのアートワークも最高ですね。

宝野:今回は"天気晴朗ナレドモ波高シ"っていうタイトルではありますけど、写真としては戦争っぽくない感じにしたかったので、かわいくてポップな雰囲気の水兵さんになってみました。髪の毛は"キャンディ・キャンディ"(笑)。

-今思えば、少女マンガ"キャンディ・キャンディ"は第1次大戦の頃を描いたものでした。時代背景としては"天気晴朗ナレドモ波高シ"と近いことになりますね。

宝野:ほんとだ! でも、そこは偶然です。あと、表のアートワークとは別に裏は私の好きなリビング・デッドというか(笑)、ゾンビっぽい感じにもなっているので、良かったらそのヴィジュアルもぜひ楽しんでください。

-ちなみに、春には大阪と東京にて"ALI PROJECT TOUR 2023「人生、天気晴朗ナレドモ波高シ」"を開催されるそうですが、その場にも、アリカ様はこのセーラー服をお召しになったお姿で降臨されることになるのでしょうか。

宝野:きっとそうなるんじゃないかしら。今回の『天気晴朗ナレドモ波高シ』は、自分でもできあがってから珍しく何回も聴いているし、私自身がアリプロのファンであって、その私がこんなにもしょっちゅう聴いているくらいだから、その曲たちをライヴでやれるのは今から楽しみね。