INTERVIEW
MUSE
2022.08.25UPDATE
2022年08月号掲載
Member:Chris Wolstenholme(Ba)
Interviewer:菅谷 透
つまるところ、僕たちみんなが生き抜いている苦難や危機のことを歌っているんだと思う。 それらの問題は目の前であからさまに起こっているんだ
-前作『Simulation Theory』(2018年リリースの8thアルバム)はエレクトロの要素が強く出たアルバムでしたが、本作ではディストーション・ギターを中心に据えたバンド・サウンドへと回帰した印象を受けました。こうしたサウンドへと至ったのも、パンデミックによりライヴができず、オーディエンスから貰えるエネルギーが恋しかったからというのがあるのでしょうか。
そう思うね。うん。僕たちが一番恋しかったのがライヴでプレイすることだったから。過去にオフを取ったときも、ショーをやらずに半年とか9ヶ月とか経ったことはなかったと思う。僕たちはバンドとしていつも実験していたと思うんだよね。すべてを削ぎ落としてギタリストとベーシストとドラマーだけになったロック・バンドとして、これだけ長い時間が空くと、とにかくステージに戻って3人でロックしてハイ・エナジーなものを生み出したいという気持ちが強くなるんだ。コロナ禍からみんな戻ってきて、ファンとみんなで興奮を味わっているよ。音楽そのものの興奮とオーディエンスの興奮が相まって素晴らしいショーになるんだ。
-今はハードな要素についての話をお聞きしましたが、実際収録曲はグラム・ロックからシンセ・ポップ、ピアノ・バラード、メタルなど多彩なアレンジで、楽曲ごとにキャラクターが異なりながらも、どこを切り取ってもMUSEらしい作品に仕上がっています。楽曲制作において重視したポイントは?
今回はそうだなぁ......僕たちが得意なもののベストな部分を寄せ集めて、全部ミックスした感じかな。すごくヘヴィな曲にもエレクトロニックの要素が入っているし、クラシックみたいな感じの曲にもエレクトロニックやハード・ロックの要素が入っていたりする。
-たしかに。
各曲を分析してみても......例えば「Liberation」、あれは久しぶりにクラシック・ピアノっぽい要素を入れている。それでいてエレクトロニックな要素がいっぱいあって、シンセサイザーを多用している。もちろん、僕たちのトレードマークになっている壮大なバッキング・ヴォーカルもある。そんな感じで、自分たちが得意だと思っているものを1枚のアルバムに集めたんだ。
-本作はバンドがプロデュースを行い、追加のプロダクションを前作にも参加したAleks Von Korffが手掛けています。また「Won't Stand Down」のミキシングをDan Lancasterが担当しています。今回こういう布陣になった理由は? Danは現在行われているツアーのサポート・ミュージシャンでもありますよね。
そう、Danがサポートしてくれているよ。さっきメタルの進化について話したけど、ご存じのとおり彼はBRING ME THE HORIZONとのコラボレーションが多い。
-そうですね。
音的な視点から見ると、彼らがやってきたことの多くはかなりモダンだと僕たちは感じるんだ。最近のメタルのプロデュースの仕方から鑑みてね。メタルのミキシングは時としてとても難しいことがあるんだ。音数がすごく多いし、何もかもヘヴィで密だから、音のすべての要素がちゃんと聞こえるようにするのが難しいことがある。
-なるほど。
でもDanが手掛けてきたミックスやバンドを聴くと、すごく密なのにそれぞれの音がちゃんと聞こえるんだ。そこから始まって、そのうち彼が素晴らしいミュージシャンでもあることがわかった。ギターもうまいし歌もうまい。キーボーディストとしても優れている。それでサポートに入ってもらうことにしたんだ。僕たちのアルバムには昔からバッキング・ヴォーカルが多用されているけど、それをライヴではなかなか再現できていなかった。今は僕もMatt(Matthew Bellamy/Vo/Gt/Key)もDanもみんな歌うから、3部のハーモニーをいい形で歌うことができる。ショーでは結構長い間ご無沙汰していたけどね。しかも彼はすごくいいやつなんだ。音楽やプロダクションに関して先進的な考えを持っているしね。
-Aleksはいかがですか。彼は追加のプロダクションを担当したんですよね。
AleksはLA在住のエンジニアで、とにかくファンタスティックな耳の持ち主なんだ。他の人なら聞き落してしまうようなところをちゃんと聴いてくれて、何を録音しても素晴らしいサウンドにしてくれるというすごい才能を持っている。最近はミキシングでなんでも修正できると考えてしまう人が多いから(笑)、レコーディングの質の良し悪しを気にしない人が多いんだ。Aleksはレコーディングの段階ですべてを素晴らしい状態に整えてくれるから、ミキシングがずっと楽になる。ミキシングの前からサウンドがいいからね。彼のドラムスのレコーディングの仕方は素晴らしいと思うし、僕たちが使うギアについてもとても詳しい。そして彼もまた一緒にいて楽しい人のひとりだね。第三者の視点としても頼りにしているんだ。
-楽曲の歌詞を読んでいくと、パンデミックはもとより、環境危機や、民衆の持つ力、いじめ、ブラック・ライヴズ・マターなど、現代社会の問題をかなり直接的に描いているように感じました。こうした題材を取り上げた理由を聞かせていただけますか?
Mattがいつ歌詞を書いたのか正確には知らないけど、僕の推測だとかなり多くの部分がパンデミック中に書かれたものじゃないかな。パンデミック中は他にも君が言っていたブラック・ライヴズ・マター、#Metooムーヴメント、ウクライナの戦争......あらゆることが起こっている。パンデミックのせいでその多くはステイ・ホーム中にテレビを観ていたことで知った。毎日、1日中ね。これらの問題は結構長い間続いている。でも僕たちは誰も仕事に行っていなかったから......少なくとも僕は家で1日中テレビのニュースを観ていたんだ。たぶん他の人もそうだったと思う。で、パンデミックが少し落ち着いたかと思ったら、今度は他の問題もニュースに忍び込んできた。仕事もせずにずっと家にいると、そういう他の問題も意識するようになった人がとても多いんじゃないかな。だから(歌詞が)影響を受けるなというのが土台無理な話でね。ロックダウン期間中にアルバムの曲を書いたミュージシャンも、そこからヒントを得た人が多いと思う。
-そうですね。
僕たちの場合はやりやすかった。もともとMattが以前から取り上げていた題材が多かったからね。でも君も言っていたように、今回は以前と比べてとても、とても直接的だ。曖昧だったり、聴き手の解釈に委ねたりする部分がすごく少なくなっている。実際、Mattが歌う歌詞としては一番ダイレクトなやつを聴いていると思うよ。曲を聴いて"これはなんのことだろう"と思う場面がすごく少ないんだ。なんのことかみんなわかっているというね。つまるところ、僕たちみんなが生き抜いている苦難や危機のことを歌っているんだと思う。それらの問題は、今回初めて目の前であからさまに起こっているんだ。毎日ね。世の中には山ほどネガティヴなものがある。気候変動とか、さっき挙げられた問題とか。世界中で暴動が起こりそうなレベルだよ。世の中酷い状態になっているよね......(苦笑)。そういう問題がこうしている今もすごい存在感を放っているし、とても不穏な時代だなという気がする。とても不安定な時代。今回のアルバムは、大半がそれらに言及しているんだ。
-聴き手も考えさせられますよね。一緒にどうやって対処して、切り抜けて乗り越えればいいのかバンドと一緒に考えることができて、いいことだと思います。
クールだね!
-ところで、「Won't Stand Down」、「Compliance」、「Will Of The People」のMVでは、メタリックな仮面が登場しますね。今年行われたライヴでもステージに巨大な仮面が据えられたり、メンバーが仮面をつけて演奏したりと、本作における重要なアイテムになっているかと思いますが、どのような意味があるのでしょうか?
そうだな、これは今回各自の解釈に委ねる数少ない部分のひとつだと思う。僕からは巨大で反逆的なカルトみたいに見える。世の中のあらゆる問題に抗って闘っているんだ。ディストピア的な感じというか、そういういろんなものに抗って闘いながら僕たちに寄り添っているという。それで、新しい世界を切り拓こうとしているという感じかな。わからないけど。ただ、他の人の中には全然違う解釈をする人が出てくるかもしれないね。僕の個人的な解釈はこんな感じだけど、Mattの解釈はまた違うだろうし、Dom(Dominic Howard/Dr)の解釈もまた違うだろうと思うよ。
-ちなみにあの仮面って......ライヴ中は息苦しくないですか(笑)?
......すごく息苦しいよ(笑)。すごく暑いしね。最初に作ったやつは穴がまったく開いていなかったんだ。
-それは怖いですね。
しかもツアーの序盤の会場が南欧で、すごく暑くてさ。あれをつけるとものの数秒で汗が噴き出したよ! 仕方がないから新しい仮面を作ってもらって、いくつか穴が開いているやつにした。そうしたら新鮮な空気が吸えるからね。まぁでも、あれをつけるのは1曲だけ、オープニングの曲だけだからね。あとは脱ぐから、そんなに悪くないよ(笑)。
-アルバムのツアーは、普段はアリーナ・バンドのみなさんが、現段階(※取材は7月末)ではフェス出演を除くと2,000~3,000人前後のキャパシティの公演が発表されているのみですね。
ああ。パンデミックでライヴができない間にたくさん曲を作ったバンドがたくさんあるから、今みんなライヴをやりたがっているんだよね(笑)。僕たちの場合はどうすることにしたかというと、アルバムを出してすぐに大規模なツアーをする代わりに、とにかくまたプレイしたいだけだから、フェスにいくつか出る以外は比較的小規模なショーをやって、ファンとコネクトしている実感を得ようということになったんだ。――ほら、アリーナなんかだと特にそうだけど、客席が暗くてしかも遠いところにあって、ちょっと隔離されている感があるんだよね。コロナ禍からやっとショーに戻るわけだから、オーディエンスとまたコネクトするというのが僕たちにとってはとても重要なんだ。距離を近づけて彼らと一体化してね。小さい会場のほうが、それがやりやすいんだ。それに2年半ぶりだから、いきなりアリーナに戻るというのもちょっと怖いしね(笑)。
-(笑)
ビッグなスタジアムとかさ。それより小さめの規模で気楽な感じでやりたいね。で、来年はアリーナやスタジアムに戻ると。......正直言って、個人的には小さめのショーが好きなんだ。大規模なショーでは得られないタイプのエネルギーや、ファンと繋がっている感覚があると思うしね。
-最後に日本のファンへのメッセージをお願いします。
もちろん! 僕たちみんな日本に行けずに寂しかったよ。早くまた行きたくてたまらない。日本は全員が大好きな国だからいつ行っても楽しいし、人々も食べ物も素晴らしい。それがなかったのは......寂しかったよ。日本のファンに会えなかったからね。できるだけ早く、また行きたいと願っているんだ。