INTERVIEW
VOIVOD
2022.02.21UPDATE
2022年02月号掲載
Member:Denis “Snake” Bélanger(Vo)
Interviewer:菅谷 透
1982年に結成されたカナダのプログレ・スラッシュ・レジェンド VOIVODは、唯一無二の奇想天外なサウンドを奏で、シーンの異端者としてリスペクトを受け続けてきたバンドだ。2005年には初代ギタリストのDenis "Piggy" D'Amourが死去し、一時は活動終了寸前へと陥ってしまうが、Piggyの魂を受け継いだDaniel "Chewy" Mongrainが加入すると、2018年の前作『The Wake』が高い評価を受けるなど、結成40周年(!)を迎える現在においても新たな黄金時代を歩んでいる。そんな彼らの15作目となるスタジオ・アルバム『Synchro Anarchy』は、Chewy加入以降の路線を継承しつつ、さらなる独創性と革新で魅せる快作に仕上がっている。同作について、フロントマンのDenis "Snake" Bélangerに話を訊いた。
-前作『The Wake』(2018年)リリース後、2018年から19年にかけて日本も含むワールド・ツアーを行っていますが、思い出に残っていることはありますか?
あの1年間はなかなか良かったよ。ツアーも盛んにやって世界中をまわることができた。ファンタスティックだったよ。アルバムもツアーも素晴らしくて、ここカナダではジュノー賞も獲れたんだ。充実の日々だったね。......その直後にドカンと(コロナ禍が)来てしまったわけだけど(苦笑)。
-2020年からはコロナ禍に突入してしまい、すべてがストップしてしまいましたね。当初バンドにはどのような影響がありましたか?
影響はたしかにあったよ。ツアーの予定も入っていたしね。それが延期になってはキャンセル――その繰り返しだよ、この2年間は。でもできるだけポジティヴに捉えて、そのときあるもの、そのときできることにベストを尽くすようにしているんだ。なかなか生産的にきているよ。ロックダウン中は家に閉じ込められていたから集まれなかったけど、その間もチャットでアイディアをシェアすることは続けていた。規制が少し緩和されたときに時間を作って会って、そのあとライヴ・ストリーミングも何回かやったね。
-そうですね。
なんとかファンと繋がり続けていたよ。自分たちの銘柄のビールも(カナダで)出したし(笑)! とにかく何かしらファンに提供できるものがないか、ということでね。特にライヴ・ストリーミングはいい経験になったよ。ヘンな感覚だったけど、人に観てもらえたのは良かった。技術的な意味でもたくさんのことを学べたしね。プロデューサーがとてもいい仕事をしてくれたよ。オーディエンスもすごく気に入ってくれてね。"このサウンドがなんでそんなに気に入られているんだろう?"と思ったけど......何せ極めてシンプルだったから。ギター、ベース、ドラム、ヴォーカルだけで。音をレイヤーしたりとか、そういう人工的なことは一切やらなかった。ありのままでいい音だったんだ。今回のアルバムでも似たような路線を行っている。おおむねストレートで、あまり音も重ねないでね。結果、いいものができたと感じているよ。あまり人工的なものを使わずにいいサウンドになったと思う。
-あまりプロダクションに凝りすぎなかったということでしょうか。
音にはプロダクションを施したけどね。(プロデューサー兼エンジニアの)Francis(Perron)がいい音にしてくれた。できるだけピュアな形を残してくれたんだ。タスクとしてはとても困難なことだよ。
-ビールやライヴ・ストリーミングなど、コロナ禍が始まってからの気持ちの切り替えが早かったことが窺えます。ニュー・アルバム『Synchro Anarchy』の制作はいつごろからスタートしましたか。
俺たちのやり方はクレイジーだったよ(笑)。実は今年の春にツアーをやる予定だったんだ。去年2021年の夏に"来年の春なら......"なんて話になってね。そのころまでに何か新しいものがあれば最高だよな、という話になったんだ。でもすでに6月だか7月だか、そのくらいになっていた。スタジオの暖炉を囲んで話していたらMichel("Away" Langevin/Dr)が"早く作ることは可能なんじゃないの?"なんて言うから、"お前、クレイジーか"と言ってやったよ(笑)。"ということは9月には完成させないといけないじゃないか!"ってね。数ヶ月しかなかったんだ。お互い顔を見合わせて"......できると思う?"なんて目で会話していたよ(笑)。で、みんな"よし、やってみよう"と合意したんだ――後悔しているけどね(爆笑)!
-(笑)アルバムを作ることになったのが2021年の半ばだったということですね。その前から曲は書き始めていたのでしょうか。
いくつかアイディアを交換してはいたね。Michelがたくさんドラムのプログラミングをしてアイディアを出そうとしていた。それ以外は特になかったかな。一緒に部屋に入って、あったものの棚卸しをして、歌やリフやビートに立ち戻った。それを使ってサウンドを構築することができたんだ。振り返ってみればブレインストーミングの数ヶ月だったね。スピードに脳がついていかないときもあったけど(苦笑)。あんなに早く歌詞を書けたなんて信じられないよ。見直しもしなかったし、じっくり腰を据えて考えるなんて時間はなかった。自動筆記の境地にまで行ったんじゃないかという気がしているんだ。アイディアだけしか作ってなくて、仕上げないといけないものが3、4曲あった。あのときはパニックだったよ。(※人差し指をこめかみに向けながら)まるでこめかみに銃を突きつけられているようだったね(笑)! 不思議なもので、プレッシャーのかかった状態だといいものが書けたりするんだな。今にしてみれば本当にいいものができたと思うし、作って良かったよ。大変だったけどね。
-"Synchro Anarchy"というタイトルの由来についてうかがえますか? 前作『The Wake』はコンセプト・アルバムということでしたが、今作では特定のコンセプトはありますか?
あるにはあるけど、おかしなコンセプトなんだ。曲の"Synchro Anarchy"は、時にはタイミングやシチュエーションがヘンな形で起こってしまうことを表している。あるときMichelがビートをなんとかしようとして立ち上がったら、結んでなかった靴紐を踏んで転んでしまって、ドラムに頭から突っ込みそうになったんだ。そのとき"なんかアイディアが浮かんだぞ"と言って、ハーフ・タイムみたいなビートを叩き始めた。不思議なシチュエーションだったよ。"今のを録音してくれないか? 忘れたくないんだ"と言っていたね。それで録音したものをChewyは"靴紐事件"なんて名付けていたな(笑)。そこから曲を作っていったわけだけど、曲の内容は――靴紐を結ぼうとしていたときに、何かが飛んできて頭をかすめることがあるだろう? 結んでいなかったら当たっていたかもしれない。生と死のオッズはなんだろう、みたいな感じなんだ。アルバムのタイトルとしては、コロナ禍が始まったときに時間がゴムみたいに"伸びた"ような気がしたんだ。俺は1年近くひとりで過ごしたよ。犬も猫も飼っていないし、クレイジーになりそうだった。何しろ時間がゴムみたいに伸びるんだから。なのにスケジュールは白紙だし。そうするとルーティンもなくなってくる。そうやって何日も経って、それが何週間にもなって、何ヶ月にもなって......。一方で今回のアルバムは数ヶ月で仕上げて、時間が岩みたいにぎゅっと凝縮されたような感じだった。長ーく伸びたゴムから、ぎゅっと岩に縮んだんだよ(笑)!
-(笑)
ツアーもブッキングしては延期になったり中止になったりして、完全にぐちゃぐちゃの状態だった。というわけで"Synchro Anarchy"だ。歌詞の中にある言葉でね。Michelが"これ、タイトルにいいんじゃないの"と言ったんだ。
-いろんなことがシンクロして起こっていたということですね。ゴムみたいに伸びたり、岩みたいに縮んだり。
そうだね(笑)。
-今作もAwayによるアートワークが目を引く作品になっていますね。気に入っている点はありますか?
あいつは最高だよ。今回は全部白黒なのがいいね。今まではカラフルだったけどシンプルになって。"うわっ、なんてダークなんだ"と思うこともあるけどね。MVを作った人(Pierre Menetrier)が、あいつの絵を見事な形で使ってくれた。
-「Planet Eaters」のMVですね。
そうそう。あれも最高だったよね。Michelは素晴らしいアーティストだよ。いつも驚かせてくれるんだ。いつもペンと紙を持ち歩いていて、ちょっとしたスキマ時間、例えばドラムを叩いてから飯を食うまでの間にささっと落書きをするんだ。もう長い付き合いだけど昔からずっとそうだね。
-Awayがアートワークを作るときは、他のメンバーにアドバイスやアイディアは求めるんでしょうか。
そういうときもあるにはあるけど、めったにないね。メンバーのやっていることや俺の書いた歌詞、周りの状況、頭の中にパッと浮かんだもの、スタジオに車で向かっている間に見かけたものとか、いろんなものにインスピレーションを得ているらしい。"あれ、俺の絵に似てるな"、"俺の絵のネタになりそうだな"なんて言いながら運転しているよ(笑)。特にツアー中はカメラを持ち歩いているから、そのへんを歩き回って建物や像の写真を撮るとかね。
-そして完成されたアートワークを見せられて、"なるほど"と思うわけですね。
ああ。時にはあいつからピンポイントで"これ、わかる?"なんて訊かれることがある。"なんだ?"と俺が訊くと、"あのときどこそこに行っただろう? あのとき見かけた像にヒントを得たのがこれなんだ"なんて言われるんだ(笑)。"本当だ! たしかに似ている"と思うよ(笑)。