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FEATURE

(sic)boy

2023.07.21UPDATE

2023年08月号掲載

ジャンルレスなサウンドで今を体現する新鋭、待望のメジャー1stアルバム『HOLLOW』リリース

Writer : 吉羽 さおり

表現の引き出しを増やすナードなこだわりと柔軟な好奇心


昨年12月29日、KT Zepp Yokohamaで開催したライヴ[(sic)boy one-man live "HOLLOW"]でメジャー・デビューを発表した(sic)boyのメジャー1stアルバム『HOLLOW』がいよいよリリースとなる。Chaki ZuluとKMというふたりのプロデューサーとラッパー JUBEEを迎えた「君がいない世界 feat. JUBEE (Prod. Chaki Zulu & KM)」や、Travis Barker(BLINK-182/Dr)とのコラボ作の他Pete Wentz(FALL OUT BOY/Ba)やUNDEROATH、SILVERSTEIN、DASHBOARD CONFESSIONALらエモ、パンク・バンドとのフュージョンで独自のスタイルを築くUSラッパー/シンガー・ソングライター NOTHING,NOWHERE.を迎えた「Afraid?? feat. nothing,nowhere.」、先のワンマンにもゲスト出演し地元が同じだというJESSE(RIZE/The BONEZ/Vo/Gt)を迎えての「Dark Horse feat. JESSE (RIZE / The BONEZ)」などなど、これまで発表した曲を含む全13曲(CDのみ全14曲)が収録されたアルバム『HOLLOW』。"ジャンル東京"と称されたKMとのコラボ・アルバム『CHAOS TAPE』(2020年リリース)での、様々なルーツ、フェイヴァリットをミックスしたジャンルレスなサウンド、何かにとらわれることなくひとつひとつの化学反応を楽しむ好奇心といったスピリットはそのままに、よりコアにディープに自身のサウンドや表現の旨味を追求し、それでいてキャッチーさにもとことん磨きを掛けていく。このメジャー1stアルバムには、そんな矛盾をも飲み込むエネルギーが行き渡っている。(sic)boyというアーティストのこだわりがパッケージされたアルバムだ。

(sic)boy - 君がいない世界 feat. JUBEE (Prod. Chaki Zulu & KM)


(sic)boy - Afraid?? feat. nothing,nowhere. (Prod. Saint Patrick)


(sic)boy - Dark Horse feat. JESSE (RIZE / The BONEZ) Prod. KM


このアルバム『HOLLOW』では、これまでにもコラボやタッグを組んでいるお馴染みの布陣に加えて、Daichi YamamotoやVERNON(SEVENTEEN)、BLINK-182やMACHINE GUN KELLYなどのプロデュースも手掛けるZakk Cerviniといった国内外のアーティスト、プロデューサーとのコラボレーションが実現している。音楽を通して多彩な往来を果たしていく(sic)boyとはどんなアーティストなのか、まずは改めてその経歴を辿っていきたい。

Sid the Lynch名義でSoundCloudに1st EP『NEVERENDING??』をアップしたのが2018年。当時からヒップホップとオルタナティヴなロックとを横断するサウンドとエモーショナルなフロウで早耳のリスナーやクリエイターから注目され、翌年には(sic)boyと改名し釈迦坊主プロデュースによるシングル「Hype's」を発表し、YouTubeに初のMVも公開した。その映像からは、音楽はもちろんヴィジュアルからもパンクやロック・カルチャーの影響が垣間見える。ドクターマーチンのブーツやロックTシャツは、この当時からも定番だ。L'Arc~en~Cielのhyde(Vo)をヒーローに挙げ、そこから洋楽にも触れて、NIRVANAやMARILYN MANSON、LIMP BIZKIT、SUM 41やMY CHEMICAL ROMANCE、またはこうしたバンドのルーツも掘り返した。現在のようなサブスクリプションを通じての音楽体験だけでなく、CDレンタル店や図書館にも足繁く通って貪るように音楽を聴いてきたことが、彼のベースを作り上げている。音楽を聴くというだけでなく、Kurt Cobain(NIRVANA/Vo/Gt)をイメージさせるルーズなボーダーニット、Billie Joe Armstrong(GREEN DAY/Vo/Gt)のようなアイメイクやネイルなど、インディペンデントで活動をしていた頃(か、それ以前)から、身体に染み込ませるように様々な憧れを纏い独自のスタイルとしてきた。音楽にしてもファッションやスタイルにしても、そのナードな部分が、リスナーやクリエイターの心を惹くのだろう。ちなみに今回のアルバムのアートワークでは韓国のクリエイティヴ・ブティック"STUDIO L'EXTREME"とコラボし、ブラックを基調にしたジェンダーレスなファッションで作品世界の幅広さを見せているのも注目だ。

(sic)boy「Hype's」


2020年の『CHAOS TAPE』後、2021年末にリリースしたアルバム『vanitas』では、AAAMYYYやKANDYTOWNのラッパー Gottzとの曲の他、LAに渡って現地のクリエイター、プロデューサーと制作した曲も収録された。トラップとエモ、パンクを掛け合わせ、のちのエモ・ラップへの流れも作っていったラッパー LIL AARONと作り上げていった「Creepy Nightmare feat.lil aaron」をはじめ、インディー・シーンでクリエイティヴな活動をするラッパー WES PERIODやJez Dior、女性シンガー PHEMとのフィーチャリング曲で、(sic)boyによる日本語の歌との新たな化学反応や、共にもの作りをするテンション感を封じ込めた。好きな音楽を共通言語にしながら、自分がそれまで培ってきた感覚と表現でリアルに勝負をしていくLAでの制作が、(sic)boyの大きな糧になっていったことは、その後の作品や今回のアルバム『HOLLOW』で多彩な面々を迎え、そのホストとして大胆にタクトを振るい、たっぷりと遊び、また時にスリリングにせめぎ合っている内容からもわかる。

(sic)boy - Creepy Nightmare feat.lil aaron


今作『HOLLOW』は、イントロダクションとなる「hollow out (intro)」から、"ワン、ツー、スリー、フォー!"の掛け声からノイジーにシャウトを上げる「shockwave」で幕を開ける。虚ろ(HOLLOW)にこだまするやり場のない感情、ため息や気だるさをそのスピードで巻き上げて打ち破っていくシャウトや、タイトなビート、騒々しくかき鳴らされるディストーション・ギターが爽快だ。また、アルバム・リリース目前に先行配信&MVが公開された「sober」では、ブルース・ロックの定番と言えるフレーズを軸に、内なる葛藤を描く。天使と悪魔が揺さぶり合うドープな内容だが、アップテンポなビートと洒落た足し引きのあるアレンジ、(sic)boyの乾いたしゃがれ声のヴォーカルが、キャッチーにもユーモラスにも聴かせる曲だ。ブルースやガレージの調理の仕方も、長年共に曲を作り、(sic)boyの趣味趣向や興味も知り尽くしているだろうプロデューサー KMとのタッグだからこその遊び心が冴える。いつどこで足元をすくわれるかわからない、衆人環視の中で綱渡りするような社会のハードさを、硬いピアノの音色とラップでソリッドに表現する「(stress)2」はシンプルだが、ゴースト的にまとわりつくコーラスがひんやりと不気味だ。レイヤーのある練られたサウンドが、豊かさを増したヴォーカルと溶け合っており、アルバムとしての進化/深化を感じられる。またK-POPグループ SEVENTEENのVERNONをフィーチャリングに迎えた「Miss You feat. Vernon of SEVENTEEN」は重厚なロック・サウンドとリズミカルなトラップに、ふたりのメロディアスな歌が冴える。音楽のルーツも近しく、以前からSNSを通じて交流があったという両者。互いにリスペクトがあるからこそ実現し、日本語、英語、韓国語によるハイブリッドなリリックで紡ぎ上げた意味のある1曲となっている。

(sic)boy - sober (Prod. KM)


(sic)boy - Miss You feat. Vernon of SEVENTEEN (Prod. KM)


そして、MC Daichi Yamamotoをフィーチャーした「幽霊船 feat. Daichi Yamamoto」では、継ぎ目のない現実と非現実をゆらりゆらりと行き来する感覚を味わう。ジャジーでメロウな雰囲気とラガっぽいビートが絡む不可思議な心地が新しい。増え続ける音楽的な引き出しを開けた作品を締めくくるのは、「Wasted」。『vanitas』収録の「Last Dance feat.Wes Period」でも繊細なギターを響かせたDan Geraghty(TWENTY ONE PILOTSなどにもギターで参加)が、ここでも印象的なギターを響かせている。静謐さと、抑えのきかないノイズとが織りなす恍惚感、そのカオスの先に何を見るのかは、リスナーそれぞれの心情が反映されるだろう。ただ、終始穏やかな呼吸で語り掛けるように歌う(sic)boyの歌は、物悲しくも優しい。今もなお音楽を始めた頃の、あれもしたい、これもしたいという貪欲なまでの音楽的な飢餓感に溢れ、その欲求を全身で実現していくエネルギーに満ち、時に魔的な心の底にも触れる、そんなアルバムになっている。ただ目線の先には、この音楽、空間を分かち合う"誰か"の存在も捉えている。破壊的、退廃的なだけでない、ロック・ミュージックのパワーで虚ろな時を1ミリでも2ミリでも満たしていく。(sic)boyは、そんな咆哮を放っている。

(sic)boy - Last Dance feat.Wes Period (Prod.KM)



▼リリース情報
(sic)boy
NEW ALBUM
『HOLLOW』
(sic)boy_HOLLOW.jpg
UMCK-7219/¥5,500(税込)
[UNIVERSAL SIGMA]
NOW ON SALE!!
amazon TOWER RECORDS HMV

1. hollow out (intro) (Prod. KM)
2. shockwave (Prod. KM)
3. living dead!! (Prod. KM)
4. sober (Prod. KM)
5. (stress)2 (Prod. KM)
6. Resonance feat. Only U (Prod. KM)
7. 君がいない世界 feat. JUBEE (Prod. Chaki Zulu & KM)
8. Miss You feat. Vernon of SEVENTEEN (Prod. KM)
9. 幽霊船 feat. Daichi Yamamoto (Prod. KM)
10. Afraid?? feat. nothing,nowhere. (Prod. Saint Patrick)
11. Dark Horse feat. JESSE (RIZE / The BONEZ) (Prod. KM)
12. Falling Down (Prod. Zakk Cervini)
13. Wasted (Prod. KM & daniel geraghty)
14. Patient!! (Prod. dubby bunny) ※CD限定ボーナス・トラック

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