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FEATURE

FOO FIGHTERS

2023.06.08UPDATE

2023年06月号掲載

メンバーの死、大事な人との別れから生み出された、フーファイ史上最もエモーショナルなアルバムついにリリース!

Writer : 吉羽 さおり

長い沈黙を経て、いよいよステージへとカム・バックするバンドのこれから


4月の半ば、FOO FIGHTERSが6月2日(国内盤6月14日)に11作目となるアルバム『But Here We Are』をリリースすることを発表。この唐突なアナウンスと共に先行シングル「Rescued」のリリック・ビデオも公開された。昨年3月25日、ツアー先であるコロンビアでドラマー、Taylor Hawkinsが急逝し約1年。共に走ってきた大事な仲間を喪失するという、大きな悲しみを受け止め、それを乗り越えていくときの複雑な心の道のりが、アルバム『But Here We Are』にはリアルに詰まっている。特にDave Grohl(Vo/Gt)はTaylorに次いで最愛の母を亡くしており、その悲しみの深さは計り知れない。これまでもその音楽を通してリスナーにエネルギーを注ぎ、アグレッシヴで圧倒的なパフォーマンスでスタジアムを沸かせ、世界中を駆け回ってきたバンドだが、今回のアルバムはパーソナリティで内省的なアルバムになっている。感情を大きく揺さぶる出来事ゆえ、どうバンドをリスタートするか、どう舵を切るのか様々な選択肢があったとは思うが、メンバーであり友人でもあるTaylor亡きあと、それでもフーファイ(FOO FIGHTERS)を続けていく道を選んだバンドにとって、このアルバムは大事なプロセスだったのだろうと思う。

アルバムの第1弾となった先行シングルであり、アルバムのオープニングにもなる「Rescued」はまさに突然訪れた漆黒の時に混乱し、状況が飲み込めないまま、恐怖の中必死に手を伸ばす様が描かれる。重く、苦しい叫びを上げる曲だが、そのサウンドはダークなだけではない。装飾的なものを取っ払い、魂の咆哮や震えをぎゅっと音に封じ込めたソリッドさと、熱量の高いバンド・アンサンブルは生々しく、フーファイらしいキャッチーさが際立っている。Kurt Cobain(Vo/Gt)の死によってNIRVANAの活動にピリオドが打たれたあと、Daveがそれまで作り溜めてきた曲を自身の手で形にし、ソロ・プロジェクトとして1995年にアルバム『Foo Fighters』としてリリースしたのが、フーファイのスタートとなる。

この「Rescued」、そしてアルバムは、その頃の雰囲気が感じられるような必要最低限の音で、でもビッグなギター・リフやダイナミックなドラム、親しみのあるコード展開やメロディ・ライン、簡潔なリリックで構成されたものとなっている。当時との違いは、信頼のおけるメンバーと出会いバンドとして長くキャリアを積み重ねてきたことだろうか。そんなそれぞれのパーソナルが反映された重奏が、サウンドをよりタフに、表情豊かに、エモーショナルにしている。

この「Rescued」に続き、パワー・ポップ的な快活さとキャッチーさが冴える第2弾「Under You」、ゲスト・ヴォーカルとしてDaveの娘であるViolet Grohlが参加した、美しくミディアムな第3弾「Show Me How」と続き、本国アメリカでのアルバムのリリース直前となる5月31日には、「The Teacher」がシングル・リリースとなった。約10分にわたる長尺の曲で2部構成となっている「The Teacher」は、Daveの母へ綴ったものだろう。教師であり、母であり、人生の師であったかけがえのない人への想いが綴られ、またDave自身も大人となり親となったからこそ芽生える想いも加わっているように思う。様々なアングルから描かれる内容が内なる思いや言葉を立体的にし、ディープでいて、普遍的な曲に仕上がっている。カオティックな感情がノイズとなってこだまするサウンドの中、慟哭のようにラストにリピートされる"Goodbye"のフレーズは痛切だ。アルバムのハイライトとしてリスナーの胸をぶち抜いていく凄まじさがある。

アルバムのタイトル曲でもある「But Here We Are」は、重厚なバンド・アンサンブルが冴える。轟々とうねり、渦を巻いている感情に絡め取られないように、力強いシャウトで放たれる歌と、重量感があって、テンションの高い演奏の熱がそのままパッケージされたようなサウンドが圧倒。ハイカロリーなフーファイのステージがありありと想像できるパワーであり、大きな一体感、シンガロングも巻き起こりそうだ。また一転して、繊細なメロディを持った、ギター1本の弾き語りでも映えるだろう「The Glass」の美しさもぐっとくる。

アルバム『Concrete And Gold』(2017年)、前作『Medicine At Midnight』(2021年)を手掛けたプロデューサー、Greg Kurstinとバンドとで制作された今作。ADELEなどの作品を手掛けたGregとの作品で、華やかなエンターテイメント性に溢れ、また挑戦的なロック・ミュージックを追求してきた2作だったが、今回の『But Here We Are』では、この1年、バンドがいかに歩んできたかに忠実に寄り添い、心の軌跡を丁寧に紡いでいった。制作の道のりは生易しいものではなかっただろうし、曲ができたとて気持ちが晴れるものではないだろう。それでも、悲しみに向き合わせてくれるのも、悲しみをそらしてくれるのも、心癒してくれるのも、過去にも未来にも向かわせてくれるのも、音楽でありクリエイティヴだったに違いない。Taylor Hawkinsや身内を失ったことでできた作品であるのはもちろんそうなのだが、悼み弔うためだけの作品ではない、もっと根源的に突き動かされるソウルフルで、同時に身体的にもエネルギーをほとばしらせるような、ロックンロール・アルバム。ラストの「Rest」まで、ひと息で飲み込まれるようなアルバムになった。

2023年1月には、SNSで改めてTaylorへの想いが綴られると共に、バンドからファンに向けてのメッセージが放たれた。ライヴとしては、2022年9月にロンドンのウェンブリー・スタジアムとロサンゼルスのキア・フォーラムで、Taylor Hawkinsのトリビュート・コンサート("TAYLOR HAWKINS TRIBUTE CONCERTS")が開催され、Brian May(QUEEN)やLars Ulrich(METALLICA)、Chad Smith(RED HOT CHILI PEPPERS)、Travis Barker(BLINK-182)等々のドラマーがステージを彩り、またTaylorの子息もドラムで参加し、そのほかゆかりの深いアーティストがパフォーマンスを行った。以来バンドは沈黙してきたが、今年に入り"FUJI ROCK FESTIVAL '23"のヘッドライナーをはじめ、様々なロック・フェスへの出演がアナウンスされ、本格的なステージへの復帰に世界中のファンが沸き立った。

とはいえ、ドラマーが誰になるのか、サポートを迎えてのリスタートになるのかなどまだまだ不確定な要素が多かったが、このアルバムの発表があり、また5月22日(日本時間)に開催された無料グローバル・ストリーミング・イベント"Foo Fighters: Preparing Music for Concerts"で、新ドラマーとしてJosh Freeseが迎えられたことが発表された。Joshは、前述のトリビュート・コンサートにも出演しており、またこれまでTHE VANDALSでの活動をはじめ、A PERFECT CIRCLE、NINE INCH NAILS、THE OFFSPRINGなど錚々たるバンドのツアーに参加し、サポート・ドラマーとして鳴らしてきた人でもある。

レーベルのニュースに上がった、"Foo Fighters: Preparing Music For Concerts"の写真などを見る限りでも、バンドのリラックスした雰囲気が窺え、これまでの28年を受け継ぎながら、新生フーファイとして前向きにスタートを切ったことが伝わってきた。日本でその姿を観れるのは、"FUJI ROCK FESTIVAL '23"の2日目、7月29日のヘッドライナーだ。思い起こせば、"フジロック(FUJI ROCK FESTIVAL)"初回の1997年、土砂降りにも関わらず熱狂的に迎えられたステージから、2015年は少し前に足を骨折してしまったDaveが、千手観音のごとくギターをあしらった玉座に掛けてプレイし、ケガをも最高のエンターテイメントに昇華するステージで盛り上げるなど、"フジロック"の濃ゆい歴史のハイライトに欠かせないパフォーマンスを見せてくれている。今回もまた、特別なステージになることは間違いない。このアルバム『But Here We Are』、これからも続いていく長いバンドのキャリアの中で、そしてファンにとって特別で、リスナーそれぞれの、いろいろな人生とも絡み合いながら熟成されていくアルバムになるのだろう。


▼リリース情報
FOO FIGHTERS
ニュー・アルバム
『But Here We Are』
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歌詞/対訳/解説付き

1. Rescued
2. Under You
3. Hearing Voices
4. But Here We Are
5. The Glass
6. Nothing At All
7. Show Me How
8. Beyond Me
9. The Teacher
10. Rest

配信はこちら

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