FEATURE
MARILYN MANSON
2012.05.04UPDATE
2012年05月号掲載
Writer KAORU
【MARILYN MANSON、これまでの軌跡】
MARILYN MANSONという名は、女優のMarilyn Monroeと、殺人犯のCharles Mansonから名付けられたとか、幼少期を厳格なカトリック・スクールで過ごし、その抑圧への反抗からアンチキリストになったとか、コロンバイン高校銃乱射事件の犯人がMARILYN MANSONからの影響を受けていたとされて(実際は違った)理不尽なバッシングを受けたとか、数々の訴訟を起こされたなどなど、彼のスキャンダラスな歴史はファンではない人でも少しはご存知のことだろう。あまりに興味深い彼の半生は、自伝「地獄からの帰還」で語られている。自伝とは言っても、人生語りに終始せず、ひとつの物語小説、アート作品として楽しめるこの本を読み、筆者も多大な影響を受けたものだ。
さて、94年『Portrait Of An American Famiry』から、03年『The Golden Age Of Grotesque』までの5枚のアルバムは、ラウドロック、インダストリアル史において欠かせないマスト盤であることは言うまでもない。しかし、私生活において、バーレスク・ダンサーのDita Von Teeseと離婚し、その経験が作品に大きな影響を与えた07年『Eat Me, Drink Me』は、メランコリックで剥き出しの哀しみが漂い、彼にしてはとてもパーソナルな作品で、“吸血鬼”というコンセプトはあったものの、生音が主体で、暗く内省的であり、音楽性としてはファンから賛否の分かれる作品であった。
そして09年『The High End Of Low』は、10年ぶりにTwiggy Ramirezとの再会を果たし、前作よりもインダストリアル色が戻り、「Arma-goddamn-motherfuckin-geddon」など、数曲はかつてを思わせる曲があったが、『Eat Me, Drink Me』の延長上にある歌モノの曲が多く、完成度としても今までのMARILYN MANSONの作品としては高いとは言えず、やはりこちらも賛否が分かれた。
しかし、1人のシンガーとしての成長には目を見張るものがあり、音楽的な内容も評価されるべき部分があったのは間違いない。常に同じことをせず、その時にやりたいこと、出したい音というものを忠実に作品に反映させるというポリシーも支持出来る。だが、もうかつてのアンチクライスト・スーパースターは戻って来ないのか?彼には常に怒れる怪物でいて欲しかった……と、少し寂しく思っていたのも正直な気持ちだった。1ファンとしての勝手なエゴではあるけれど。
しかし、3月に行われた来日公演はソールド・アウト。セットリストを見ると、往年のアンセムが惜しげもなく披露されているではないか。MARILYN MANSONは、今もかつてのインダストリアルな曲をプレイすることに全く抵抗はないのだろう。そして、このツアーは新作の布石となるものだ。そう考えると、新作の内容はもしや……!?
【ヘヴィなインダストリアル・サウンドが復活!】
『Born Villain』の大きな特徴は、MARILYN MANSON印のヘヴィネスへ回帰しているということだ。今作ではTwiggy Ramirezとの共作曲が多いことも起因しているだろう。そしてもうひとつは、インダストリアルなサウンドを完全に復活させているということ。しかし、そのサウンド・メイキングは『Antichrist Superstar』、『Mechanical Animals』『Holy Wood』の3部作的なアプローチとは趣が違う。単純に言えば、4つ打ちのリズムが多く、とてもダンサブルな曲が多い作品なのだ。但し、ダンサブルとは言っても、今流行のエレクトロなサウンドではもちろんない。むしろ、1億総エレクトロ化しているシーンの流れに対抗せんとばかりの、あくまでニュー・ウェーヴやゴシック起源のストイックなインダストリアル・サウンドを、現代に鳴らすサウンドとしてアップデートするためにどう進化させるか?ということに重点を置いたのではないかと推測してしまう。
ここで『Born Villain』を代表する曲をご紹介しよう。「No Reflection」はエレクトリックな打ち込みで始まり、BPM 128のダンサブルな4つ打ちで、生音のドラムのキックにヘヴィなリフを乗せている。これまでにありそうでなかった曲だ。そこから、同じく4つ打ちだがテンポを落とした「Pistol Whipped」へ流れるが、こちらは生音ドラムと打ち込みの音を同期させている。そして、今作で特に筆者が好きな「Overneath The Path Of Misery」は、静かな語りから始まり、アップ・テンポな4つ打ちで、ミニマルなAメロから、突如爆発するサビがたまらなくかっこいい(このミニマルとマキシマムの対比を巧妙に使った手法は、今作ではかなり多く見られる)。そして、往年のファンには最も喜ばれるであろう超絶ヘヴィなナンバー「Merderers Are Getting Prettier Every Day」は、絶対に聴き逃し厳禁である!
プライベートでも親交の深いハリウッド俳優Johnny Deppがギターとドラムで参加したCarly Simonのヒット曲「You’re So Vain」もなかなかの出来栄えで、アルバムのひとつのトピックとして大きな役割を果たしている。
なお、今作はシェイクスピアの戯曲「マクベス」と、ボードレールの「悪の華」からインスピレーションを受けている。これはじっくりと歌詞を読みながら堪能したいところだが、残念ながら日本盤にも対訳は付いていないようだ。これは「マクベス」と「悪の華」をちゃんと読んでくれというMARILYN MANSONからのメッセージなのだろうか(笑)? 何にしろ、この2作品を読めば、この壮大なコンセプトを持つ『Born Villain』を2倍楽しむことが出来るだろう。相変わらず、リスナーの想像力を掻き立てることがうまい人である。
前2作品を受け入れられなかったファンも、『Born Villain』を聴けば、再びMARILYN MANSONの虜となることは間違いないだろう。
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