LIVE REPORT
GARUDA
2023.07.26 @新宿club SCIENCE
Writer : 生田 大起 Photographer:Takeshi Hongo
めろん畑a go goでも活躍する崎村ゆふぃのもうひとつの顔"GARUDA"が今年6周年を迎えた。コンスタントなライヴ活動を続けながら、7月26日にはニュー・シングル『#GARUDA』をリリース。同日、シングルの発売を祝したソロ・ワンマン"GARUDA 1st ONEMAN LIVE 『PERFECT BLACK』"が開催された。
GARUDAの音楽性は、ROB ZOMBIEやMARILYN MANSONからの影響を公言している通り、インダストリアル・メタルに軸足を置いたスタイルだが、それゆえかアイドル・ファン以外にもメタル/パンク・ファンからの視線も熱く、事実、開演前のフロアには多様な趣向性が交錯し、混沌としている。とはいえ、この日を心待ちにしていたのは皆一様なはずで、バンドを引き連れたスペシャル・セットでのライヴとあれば期待はひとしおであったことだろう。
時間を迎えると、会場にサイレンが響き渡り、開演の知らせを告げる「GARUDA襲来-ver.02-」が流れる。静かに黒幕が開くと、漆黒の衣装、ビス止めされた黒翼を携えた崎村ゆふぃがステージに登場。手にはフラッグと赤く光る骸骨マイク、くちばしを備えたベネチアン・マスクの奥から鋭い眼光をフロアに注ぐとオーディエンスは早々にヒートアップ。けたたましいチョーキングが鳴り響き「#GARUDA」からライヴは始まった。いきなりの最新作リード・トラックに、モッシュ、シンガロングと会場は凄まじい熱気に包まれる。"行くぞ!"(崎村ゆふぃ)と、すかさず始まった2曲目は「POSER」。轟音に身を委ねる観客を見下ろし、ステージで旗を振る彼女の姿はまるで指揮者の様相だ。
ここまで、ステージがフロアを牽引するような曲が続いたが、囁くようなヴォーカル・ワークから始まるミドル・テンポの「支配者」では、フロアへ向かってじりじりとにじり寄っていくような、アプローチの変化にオーディエンスたちも拳を掲げ応えていく。ここまでで会場の盛り上がりは最高潮に達した。
"GARUDA ワンマンへようこそ"と呼び掛け、照明が会場を白く照らす。仮面を外して素顔を晒すと新曲「サイレントキル」へ。うねるようなギター・リフからフロアを這い回るようなツーバス。アグレシッヴなフレーズの数々に、さらに漲っていく観客たちは全力で応える。続く「♦の女王-My Queen-」では叩きつけるような縦ノリのリフに、艶っぽいヴォーカルが乗った独特な煙たさが魅力的だ。自然と身体がノってしまい、さらに一体となったオーディエンスに"ジャンプする準備できてますか?"とぶっきらぼうに投げ掛ける。"飛べ! 3、2、1"という一声で始まったのは「迷宮の羊」。こちらも前の曲に引き続きニューメタルよろしく縦ノリが痛快な楽曲で、オーディエンスは我を忘れて跳ね回る。それを見た崎村は"もっと飛べ!"といっそうフロアを焚きつけ、会場がさらに熱気で満たされていった。
満たされ切ったところで「もうすぐ雪が...」のアカペラ・バージョンを披露。この曲にはアカペラ・バージョンのほかに、メタル・バージョンとも言うべき2バージョンが存在し、1stアルバム『The Battle Of Nightmares』にはいずれも収録されている。アカペラ・バージョンではエフェクトのかかったヴォイスで世界観を崩さず、作品を見事にシメて見せる秀逸なトラックだが、この日は肉声一本で勝負。崎村ゆふぃというアーティストの表現力をしかと見せつけた。しかし、時間的にもまだイベントの中盤。お立ち台でスポットを浴びる崎村ゆふぃに目を奪われつつも、アカペラ・バージョンで歌唱したことに観客は新たな期待感を抱き始めていく。
ここで一度、崎村ゆふぃがはけ、この日のサウンドを彩るバンド・メンバーたちによるインスト楽曲が披露された。プログレッシヴ・ロックやミクスチャー・ロック・サウンドの中で、地響きのようなベースがうねり、そのうえでエレキ・ギターからは飛び道具的なグリッチ・サウンドが飛び出す。荘厳なシンセが全体的に無機質ながらもドラマチックに演出がなされ、GARUDAワールドにも見事ハマっており、フロアからも大きな歓声が上がる。
その後、SEが流れはじめ、崎村ゆふぃが"この日のための特別衣装"を纏って再登場。白いロリータ・ファッション風の衣装はレースが印象的だ。黒くゴシックな衣装を身に纏い、ステージからフロアへ攻めのパフォーマンスを繰り広げてきた彼女とは180度異なる印象の出で立ちに、今度はフロアからステージへみな釘づけだった。頂点に達したと思われたオーディエンスの盛り上がりはライヴ折り返し地点にしてさらに上昇。彼女の持つアイドル性を見た瞬間だった。儚げな歌い出しで始まったのは「NOEL_HEROINE」。ドラマチックなロック・バラードに仕上がっている本楽曲の音と言葉が、フロアをゆっくりと包み込んでいき、これまでの熱気を解きほぐしていく。当然モッシュなどは起きないが、そのぶん視覚と聴覚に神経が集中しステージに吸い寄せられていく。GARUDA流ヒーロー・ソングを目指して作った曲とのことだったが、この日はアーティストとしての自分と向き合う、作り手の矜持や決意の歌としても響いたことだろう。
そして、ここから終盤まで一気に急加速していく。10曲目の新曲「Ewwwww!」では"ゴミ! ゴミ! ゴミ!"と直接的な表現でインダストリアル・メタルが包括するアナーキズムを純度高く放出し、続く「寝覚め」ではストレートなメロディ・ラインと疾走感、背中を強く押すメッセージ性でフロアを急加熱。会場が大いに身体性を取り戻すと"これでラスト!"とうっすらと赤く光る骸骨マイクに向かって叫び「もうすぐ雪が...」のバンド・バージョンを投下。アカペラ・バージョンとは異なり、アンサンブルの塊がヘヴィなグルーヴで会場を揺らし、シニカルなヴォーカルと共に会場へ熱狂をもたらしていく。
こうして、この日は幕を閉じた......わけもなく、特別に溢れた本ライヴ。オーディエンスの熱気が冷めるはずもなく、すかさずアンコールへ。再登場した崎村ゆふぃの口から今日に至るまでの経緯やバック・バンドのメンバー紹介など様々語られたが、GARUDAはほとんどを彼女がセルフ・プロデュースするプロジェクト。発言ひとつひとつの裏にある努力や、熱意を想像してかフロアはやはりここでも楽しげだ。
そして、"私がGARUDAをやるきっかけになった曲をやります"と告げるとMARILYN MANSONの「The Fight Song」をプレイ。待ってましたと言わんばかりに観客は一斉にモッシュ、シンガロング。"ラストかかってこい!"と崎村ゆふぃが高らかに叫ぶと最新作でもいっそうアグレッシヴな曲「拳」へ。GARUDAらしい突撃感とシニカルに彩られつつもポジティヴなメッセージ性が印象的な楽曲だが、バンド・サウンドも相まって重心の低さがいっそう際立つ。フル・パワーのパフォーマンスと、それを全身全霊で受け止める観客。フロア、ステージといった境目はもはやなくなっていた。
そしてバンドがはけ、幕が下りる。しかし興奮冷めやらぬ会場から、まさかのダブル・アンコール。リクエストに応えて再び「寝覚め」を披露。もはや、一体と化した会場で白衣装を纏い、手には釘バットを携えたその姿は、崎村ゆふぃというひとりのアーティストを1枚の絵で体現していた。"インダストリアル・メタル×アイドル"。それらは単なる音楽的要素を示すのではなく、ふたつが混ざり合って"GARUDA"というアーティストを形成していると感じざるを得ない夜だった。『#GARUDA』リリースに端を発したこの日は、深い余韻を残したまま幕を閉じた。さらなる可能性へ向け飛翔していく彼女が新たに紡ぐものから、今後も目が離せない。
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