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INTERVIEW

武瑠

2025.07.15UPDATE

2025年07月号掲載

武瑠

Interviewer:山口 哲生

武瑠が1stフル・アルバム『BIBLE』を完成させた。彼の人生観や美学が細部にまで詰め込まれた一枚を掲げ7月からは日本、南米、ヨーロッパを回る自身史上最長11ヶ国25公演のワールド・ツアー"武瑠 TOUR 2025 BIBLE"を開催中で、来年1月12日にはSpotify O-EASTにて"武瑠 19TH ANNIVERSARY LIVE「CEREMONY」"も決定。"ここからどこへ行くべきなのか判断するために、全て断らないで全部やる"と例年以上に精力的に動いている彼に、じっくりと話を訊いた。

-アルバムのお話をする前に、5月11日に恵比寿LIQUIDROOMで開催された、"武瑠 18TH ANNIVERSARY LIVE「UST」"のお話をお聞きしたいと思っていて、あのライヴに向かうまでと、終えたときと、それぞれどんな感覚がありましたか?

向かうときは、自分の中でジャッジというか。10周年とか15周年とかのタイミングで、これを乗り越えられたらもうちょっと続けられるんじゃないか、みたいなライヴがあったんですけど、LIQUIDROOMはそれだったかなって思いますね。半分はお祭りで、半分はそのときの心境でその先の未来が見えるかなって。
普通に生きてると、わりとマイナスなイメージのことが多いというか。ただ生きているにしても、音楽というジャンルを切り取っても、わりと状況がネガティヴになっている現実がすごくあって。それはたぶんいろんなミュージシャンも感じていると思うんですけど、そのなかで、違う形の希望を見せてくれたようなライヴだったなと思います。この形だったらできるかもしれない。こういう気持ちになれるんだったら、今までの常識を外して頑張れるのかもしれない。そういう気持ちにリキッド(LIQUIDROOM)でなれたなって。

-たしかに、これまでの総括的な部分もありつつ、またここからという思いが強く伝わってくるライヴでした。

最近改めて、しっかりとしたレーベルやマネージメントが付いていない自主の状態で、ワールド・ツアーをやることの重みを感じていて。今までは単発でちょっと余裕でできちゃっていたから、ちょっと甘く見てたなっていう部分が結構あって(苦笑)、問題が山積み状態なんですけど。深夜バイトしていた18歳のときを思い出しますね。

-というと?

やっぱり各国の時差があるんで、何時間か寝て起きてチャットして、何時間か寝て起きて連絡してみたいな。LINEとWhatsAppとDMとGmail、いろんなものを開かないと忘れる感じ。

-そのあたりの仕込みは相当大変ですよね。

まぁ分かっていた部分と分かっていた以上だった部分があって。疲弊してでもやるって決めたのでそこは結果いいんですけど、来年はちょっと難しいかなって。でも、今年はそれも含めて判断しに行こうと思ったんですよ。ここからどこに行くべきなのかを判断するために、全て断らないで全部やろうというテーマでやっているので。生々しい話、赤字が出たら1人で払うので、たぶん今年は相当な額になるんじゃないかなって(苦笑)、ビクビクしているところもありつつ。でも、その挑戦にベットできるだけ日本のファンに支えてもらったっていうのもあるし。挑戦権は得たと思ったので。

-挑戦権。

1人になったばっかの頃は絶対無理だったけど、その挑戦権をソロで、自主で得られたってことが奇跡的なことなんですよ。だから、"動機"を忘れちゃいけないなって。いろんな壁にぶち当たってるからこそ、なぜそれをやろうとしてるのか、なぜ今その挑戦権があるのかをもう一度考え直そうね? って自分の中で何人かの自分が会議してます(笑)。

-おっしゃっていた"動機"について改めてお聞きしてもいいですか?

どこのジャンルにも所属していない時点で、SNSとそれぞれの国のファンがすごく大事になると思っていたので、コロナ前ぐらいからアメリカのフェスにちょっとずつ出るようになったんですけど。そこで初めて観た人への刺さり方とかを見ていると、もっと行けるなっていう感覚があって。どこの国でめっちゃ売れたとしても、それが日本での活動費になったり、日本の活動に繋がっていったりするし、自分としてはSuGの頃から"この国で"みたいなこだわりがそんなになかったんです。

-なるほど。

実際、SuGと浮気者をやっていたときに、海外で人気が出たのにもかかわらず行かなかったことを、自分の中ですごく悔やんでるんですよ。単純に"なぜ?"って言われたし、行ける環境になかったと言えばそれまでなんですけど。でも、自分が一番立ち返らなきゃいけないのは、自分がやりたい世界観を具現化するということだから、全然知らない国で売れたとて、そこで売れつつ、日本に住んでいろんな国に行きながら好きなものを作れればいいかなって。だから、昔からそこまでこだわりがなかったんだけど。
sleepyheadになったときは、海外に行くなんていう視野を持てる程の余裕もなかったし、そこからコロナも乗り越えて自分が思った以上の規模にファンに連れて行ってもらえたし、コアなファン、特にファンクラブのみんなに支え続けてもらって、SuGの限定復活もあって、いろんな形で挑戦する資金ができて......ってところですね。

-動機としては、自分のやりたいものを具現化するというのが一番根底にあって、そのためにはどうすればいいのかと。

そうですね。理解している人にはすごく伝わるんですけど、やっぱり自主のソロからしたら自殺行為みたいなことをしているって言われるし、そうだろうなって自分でも思ってるんですよ。どれだけヤバいことをしているのか。それをファンに伝えたいわけではないんですけど、そんなことができるのは、支えてくれていたおかげなんだよっていうことだけは伝えたいですね。海外に行って寂しいみたいなことは毎回言われるんですけど、それは逆に本当に寂しい。逆にそっちにも行かないとたぶん活動の寿命が短くなるからね? っていうのはずっと伝えていかなきゃいけないことでもありますね。

-そういったなかでリリースされる1stフル・アルバム『BIBLE』は、SuGの期間限定復活以降に発表した7曲+新曲という構成になっていて、このタームで最初にリリースされたのは「不道徳」でした。そのときからいつかはアルバムを作るという想定をしていたと思うんですけど、そのときはまだはっきりとしたヴィジョンは描いていなかったとか?

いや、「不道徳」はアルバムの1曲目にしようと思って書いてました。そのときは"深世界"っていうタイトルのアルバムにしようと思っていたんですけど、SuGの限定復活を終えて、ものすごく軽やかな気持ちになって。楽しいという感情だけで音楽を作ろうかなみたいな感じで生活していたんですけど、やっぱり世界情勢とか含めて、どんどん気持ち悪くなっていく感じがあって(笑)、そのときに思っていることを曲にしたら、「悪党 feat.ADE SARIVAN」とかになっちゃったんです。最初は、自分の知っている世界をより深く知ろう、もっともっとグルーヴを探求しようみたいな気持ちで作ろうとしていたけど、途中で"いや、違うな。こんな世界を生き抜くためのバイブルみたいなものを作ろう"っていう方向に、入れ替わっていった感じでしたね。

-その変更はあったけれども、曲としてはアルバムの1曲目として作っていたと。

ただ、『BIBLE』を作り終えてみて、今はもっともっとグルーヴだけのアルバムが作りたいなって気持ちになってるんですよね(笑)。ただこのビートが気持ちいいとか、もうちょっとフロウを追求した曲を書きたいなと思って、数日前に原型みたいなのを作っちゃったんですけど。

-早速作ってはいるんですね。それはそれですごい。

作るのしんどいから本当に減らしたいんですけどね(苦笑)。

-でも生まれてきてしまうという。

そこもみんな結構悩んでいるんじゃないですかね。CD作ってもなぁ......みたいな。みんな昔みたいな気持ちで言えてないと思いますよ、"CD買ってくれ!"って。自分も再生機器を持っていないのに、それでも悩みながら情熱を注ぎ込んで、どうか届いてくれ......! みたいな。だからみんな本当に複雑な気持ちだと思うし、それでもそれを作らないと進めないし、手に取ってもらえないと活動できないし。そういうぐちゃぐちゃな気持ちのままやってますよね、きっと。今は社会のぐちゃぐちゃな状態が移行している途中なんでしょうけど。

-たしかに。そうですね。

歴史的な意味で、そもそも音楽家や画家って王様みたいなパトロンがいて、絵を1枚描いたら何ヶ月なのか分からないけど生きていけるみたいな、1人の超ファンが支えていたような文化で。これはSuGのときからずっと言ってますけど、例えば1,000円っていう定額のCDを全員が買って均等に支えるみたいな文化って、本当は合ってないと思うんですよ。それだと全国民に好かれようとしないといけないことになっちゃうから。
やっぱりニッチな、"私しか知らない"とか、"他の人は選ばないけど自分はこれが好き"みたいな人に選んでもらって、その人たちに服とかも買ってもらうとか、今で言うとファンクラブやVIPチケットとか、そういう形で支えてもらうのは、本当はすごく自然なことなんじゃないかなと思ってるし、4年前ぐらいからそっちに切り替え始めてはいて。みんなに好かれなきゃいけない道はもう向いてないから、もっともっと深く好きになってもらおうと。