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INTERVIEW

武瑠

2025.07.15UPDATE

2025年07月号掲載

武瑠

Interviewer:山口 哲生

今回は一回バカになってやろうっていうのもテーマだったんですよ。とにかく自分がやりたいことをそのままやってみようみたいな。


-あと、「TOWA」もすごくいい曲だなと思いました。メロディがずっとサビみたいな強さがあるし、ビートとしては2ステップとかUKガラージ系統のものになっていて。歌詞としては2人だけの世界を描いていたものですが、この曲はどういうところから?

沖縄でイベントをやってて、GOMESSも出てたから観に行ったんですけど、その打ち上げでOZworldと初めて会ったんです。ヒップホップなのに"ファイナルファンタジー"みたいなクリエイティヴをしていたり、結構ダークなものを取り入れたりしていたので、なんでそういう世界観をやっているのかすごく興味があって。ちゃんと聞けるタイミングがあったんで聞いたら、自分は早く現実の世界からいなくなりたくて、肉体を捨てたいって言ってたんですよ。今はメタバースのチームともコラボして、いろんなプロジェクトを立ち上げているんですけど。あと、彼が掲げている"ComplexをFlex"っていうのは、(SuGのときに掲げていた)"Heavy Positive Rock"とも近いなと思って。いろんなところに共感するんですけど、俺は肉体を捨ててまでその世界に行きたいとは考えていないなと。

-自分としてはそうだと。

それがきっかけで、どういう人が肉体を捨ててでも仮想空間に行きたいと思うんだろうと考えていたら......あるカップルがいて、彼女のほうが余命数ヶ月って宣告されて。近未来というかあともうちょっとの話だと思うんですけど、仮想世界に移送できる団体がいて、本当は何十億とかかかるんだけど、"モニターになってくれるんだったらタダでいいですよ"っていうのを彼氏が見つけて、勝手に応募すると。彼女からしたら葛藤があるじゃないですか。"私だけ死ねばいいのに、なんで生きられるのに死ぬの?"みたいな。でも、彼氏は"2人でいられないと意味ないから"って。それで2人は仮想空間で生きるんだけど、美術館に2人の首から上だけでキスしているオブジェとして展示されて、その美術館に来た人はQRコードみたいなのを読み込むと、その2人がいる仮想現実を見られるっていうアートみたいなものを思いついたんです。それが"TOWA"というタイトルで、"身体を捨てて仮想空間で生きる2人のことを永遠と呼べるのか?"みたいな。そういう現代アートみたいなものを作りたいなと思ったので、まず曲にしたって感じです。

-じゃあ、いつかそういった3D的な展開も?

本当は1年前ぐらいにプロットを書いていて、ある監督と話して、短編映画にするかみたいな話が出たんですけど、数千万かかりますみたいな話になって。そもそもこのアルバムと今回のツアーで、マンションが買えるくらいの予算がかかってるから、それは死んじゃうなと(笑)。だから、一旦曲にして、いつか短編を書いて短編映画を撮ったりという展開があればいいなと思って、今はチリのアーティストにオファーして、3D空間の伝わりやすいショートCGだけ作ってもらっているんですけど。

-もうどう考えても間違いなくお金がかかるのは分かっているけど、めちゃくちゃ観たいです。テーマもすごくいいし。

そうなんですけどねぇ。さすがに自分のできる範囲じゃなくなってきて、どうしたらいいのか......俺、何してるんだろうってたまに思うんですよ。ふと我に帰ると正気じゃないなって。でも、今回は一回バカになってやろうっていうのもテーマだったんですよね。もうよく分かんないけど、とにかく自分がやりたいことをそのままやってみようみたいな。だから、今回はある程度破綻した作り方をしてますね。採算を全く取らない、取りようがない作り方をしてます。

-先程お話に出ましたが、ご自身で最後に作った曲は「予知夢」だったと。アルバムには「正夢」という曲がラスト・ナンバーに置かれていますが、アルバムの構成を考えたときに、「正夢」とセットになる曲として「予知夢」を最後に作ったんですね。

そうです。「正夢」ができあがって、5月11日のLIQUIDROOMで初披露して、自分の中で曲の立ち位置がより明確になって。改めてこれは自分の人生を表しているような曲だなと感じたので、この曲が主役である『BIBLE』にするべきだなって。で、「正夢」が最後っていうのは最初から決めていたので、その序章みたいな意味合いで「予知夢」を作りました。歌詞的にエンジニアさんがめっちゃ混乱してましたけどね(笑)。"どっちが「正夢」で、どっちか「予知夢」なの?"って。"サビで「正夢」って言ってるのは「予知夢」なんだけど"みたいな。

-(笑)「正夢」はいつ頃に作った曲なんですか?

メロディだけで言うともう10年くらい前ですね。米津玄師君の「アイネクライネ」って曲がすごく好きで、ああいう感じのメロディのものをデモみたいな感じで作っていたんですけど、それを今の自分で形にするならどういうアレンジにすべきだろうなと思ったんです。で、matryoshkaの「Sacred Play Secret Place」って曲を舐達麻がサンプリングして、曲(「FEEL OR BEEF BADPOP IS DEAD」)を作っていたのと、先日亡くなったラッパーのJJJの「Eye Splice」っていう曲があって。それに共通しているのが、ビートはすごく強いのに、後ろにサンプリングしたものすごく切ない声が、ずっとループで入っているところなんですけど、その手法で何か作ってみたいなと。

-サウンド感としてはそういったものにしようと。

自分が16~17歳ぐらいのときに、学校にも行かずにずっと1人で部屋に閉じこもっていたんですけど、そこはいろんな言葉が生まれた大切な倉庫みたいなイメージがあって。その当時に考えていたことが正夢になっていったということを表現してみようと。あと、MVはずっと無菌室で歌っていて、最後にライヴで歌っているシーンになるんですけど、それをアレンジでも表現したかったので、最初はループの中でトラックで1人で歌っていて、最後バンドで演奏するっていうのをこの前のリキッドでも演奏できて。「正夢」のストーリーにある部屋から出なかったシーンを、プロローグとして「予知夢」で書いたっていう感じですね。

-アルバムだからできる手法というか、意味が深まるやり方というか。

はい。だから、ストーリーとしては1曲目の「予知夢」と、13曲目の「正夢」だけが繋がっている感じですね。最初と最後が自分の人生で、その間は自分の哲学っていう。自分の聖書があったとしたら、目次に「不道徳」があったり、「悪党 feat.ADE SARIVAN」があったり、「怠惰 feat.GOMESS」があったり。そこはタイトルを付けるときに結構意識してましたね。

-聖書の目次が曲のタイトルという。

そうやって聞くと、「AFTER THROUGH THE DARK feat. Karan Kanchan」もそういうふうに見えるなって。"第10章、闇を抜けた後に"みたいな。

-そのあたりのコンセプトの作り方はさすがですね。面白い。

でも、組み立てはなかったですけどね。(‎sleepyheadの)『センチメンタルワールズエンド』(2021年リリースのアルバム)みたいに話が進行していく感じではなかったので、曲の自由度はあって。でも、自由度が高いにもかかわらずチルっぽいヒップホップとかを入れなかったのは、自己分析すると、話がないからこそ統一性を出したくてわりと近めのBPMで収めてるなって思いました。

-あぁ。たしかに。それでずっと聴ける感じもあって。

今回エレクトロ寄りのBPMでだいたい合わせてるんですよ。ロックっぽい曲も意外とテンポが遅いし、「SLY DEVIL feat.Mek from Saint After Six,BLVELY」と、「TO BE LIKE THRILLER feat.IKE,星熊南巫,4s4ki」も、もっと速そうなんだけど、実は意外とエレクトロのBPMで収まっているから、恐らく無意識下で超速い曲とすごい遅い曲を入れないようにしていたんだろうなって、後で感じました。

-これはLIQUIDROOMのMCで話していたことでもあるんですけど、信じられるものがないやつは俺を信じろということをおっしゃっていて。そこは"BIBLE"ってタイトルがあっての言葉だと思うんですが、そういう強い発言ってあまりしてこなかったような印象もあるんです。どんな感覚からあの言葉が出てきたんですか?

それこそ"正夢"みたいな話で。ずっとやりたいこともなくて、生きてるだけで苦しいから、楽しいことを探そうと思って曲を作り始めた。思いついてるのに形にできないのが苦しいから作っている感覚もあったし、作ることにしか興味がなかったんだけど、その上で、だんだんみんなと作っている喜びみたいなほうに少しシフトしてきた感じがあって。
それまで作ることだけで完結していたのが、みんなと作るほうにシフトしていったのもあって、どうして支えてくれるんだろうとか、ファンの気持ちを考えるようになってきたんです。だから、「正夢」は自分の人生でありながらファンに届けた曲だなって思います。歌詞も自分の目線では、音楽を愛したせいでこんな面倒くさいことやってるけど幸せだなと思えたし、逆に言うと俺を信じてくれた、愛してくれたせいで幸せだっていうふうに言わせないといけないなと感じて。そういう思いに変わってきているんだろうなと思います。