INTERVIEW
HOT MILK
2025.06.27UPDATE
2025年06月号掲載
Member:Han Mee(Vo/Gt) Jim Shaw(Gt/Vo)
Interviewer:井上 光一 Translator:安江 幸子
-あのグロウルは、人類が今の状態をこのまま続けてしまった場合の断末魔の叫び的な感じなのですね。すごく鬼気迫るものがありました。ところでサウンド的な話になりますが、個人的には、「Sunburn From Your Bible」なんかは、明確にニューメタルからの影響を色濃く感じさせるのも興味深いのですが、多彩なスタイルを取り入れたハイブリッドな音楽性の幅広さは前作以上ながら、どの曲もきっちりHOT MILKのサウンドとして落とし込んでいますね。本作の制作を通じてお2人ともソングライター、アレンジャーとしての成長を感じているのではないですか。
Jim:そう思うね。
Han:ええ。私たち、たぶんどんなジャンルでもやれるんじゃないかな。それも私たちが純粋に音楽ファンだからこそだよ。好みがニッチな人は多いけど、私たちは結構人としても間口が広いというか、すごくオープン・マインドなの。
Jim:新しいものにトライするのが楽しいんだよね。
Han:うん。飽きっぽいしね。アルバムを聴いてもらえれば飽きやすい2人が作ったアルバムだって分かると思う(笑)。
Jim:ソングライティング的な視点で言えば、僕たちが使うギター・チューニング1つとっても、オープン・チューニングを使ったりするんだ。それはどうしてそうなったかというと、スタンダード・チューニングを使って書いていたときに、いつも手の位置が同じだってことに気付いたんだよね。それで、"ランダムでチューニングをやってみよう。筋肉の記憶に頼るんじゃなくて、音に耳を傾けることにフォーカスしよう"と思ったんだ。そんな感じで手法を膨らませていった結果、シンセを使うことにも繋がった。僕はキーボード・プレイヤーじゃないけど、手よりも耳に集中すればそこそこ弾けるからね。自分の音楽的知識を使って、何がいい音になるかを見極めるんだ。"これはこのキーで、これはレラティヴ・マイナーで......"と頭でっかちに考えるより、ずっと――
Han:フィーリング・ベースなの。"この手の曲はこう作るべき"、"この手の曲はこうやるべき"みたいなのを一切廃して。
Jim:そう。
Han:ただひたすら書くの。その曲がそのときどんな感じがするかに基盤を置いてね。自分の耳に何が心地いいか。
-アルバム全体を通して一貫したムードがありますし、ドラムンベースを導入したインタールードの役割を果たしている2曲も含めて、アルバムの曲順にもかなりこだわったのではないですか。曲は書いた順に並んでいますか。それとも全曲書いてから、ジグソー・パズルみたいに然るべき場所に当てはめていったのでしょうか。
Jim:曲ごとのマッピングをしたときは、骨組みだけの状態だったんだ。曲を書いた後にそこに立ち戻ってはめていった感じかな。
Han:まずは絵を描いて、そこに色を塗っていった感じ。
-曲の順番通りに?
Han:そう。1つのアート作品にしたいというのがあったから。『Corporation P.O.P』でひとまとめなの。これがシングルで、これもシングルで、という感じには考えなかった。そうやってしまうと物作りの芸術性が台なしになってしまう気がして。最近は、"アメイジングなシングルを作ってくれ"みたいな感じのプレッシャーもよく掛かるけど、そうすると定式化されてしまうし。
Jim:そうだね。
Han:だから私たちはアルバムをまず1枚書いて、それをファンにあげるの。
Jim:実際アルバムを作り終えたところで僕たちが抱えた問題がそれだったんだ。みんなに"で、どれがシングルになるの?"なんて聞かれたけど、僕たちは......(※肩をすくめる)。
Han:"分からない"(笑)。
-どの曲もシングルになり得るヴァイブがあるとは思います。......今のお話がそのまま次の質問に繋がっていくような感じですが、最近は音楽があまりに"断片化"されすぎてしまっているきらいがあると思うんですよね。1曲単位どころか、TikTok等で曲の特徴的なフレーズだけが消費されることも多いですし。
Han:(※深く頷く)
Jim:そうだよね。
Han:私、ああいうの大嫌い。
-以前もそう発言していましたね。そのフレーズ以外は興味を持たない人も出てきている始末です。そんななか、あなたたちは、1つの芸術作品としてのアルバムという形態を非常に大切にしているのではないですか。アルバムの完全性を意識していることを聴いて嬉しくなります。それこそあなたたちが影響を公言しているGREEN DAYの『American Idiot』やMY CHEMICAL ROMANCEの『The Black Parade』のように。
Han&Jim:(※頷く)
Jim:全ては僕たちがどう音楽を消費して育ってきたかに帰すると思うんだよね。SpotifyやTikTokは――
Han:存在しなかったもの。
Jim:存在していなかった。お小遣いを握り締めて、月に1回HMVに行って。
Han:アルバムを1枚買っていたね。
Jim:1枚、せいぜい2枚くらいかな。何が入っているかなんて分からないけど、その月はそれだけしか手に入らない。だからそのアルバムをリピートで何度も聴くんだ。そうこうしているうちにそのアルバムと切っても切り離せない関係になってね。......でもSpotifyやiTunesのおかげで、触れられる音楽の幅がものすごく広がったんだ。いろんなプレイリストで音楽攻めになって、素晴らしいことだよ。でも......音楽が使い捨てになってしまっているよね。
Han:それが資本主義だよ。資本主義が音楽にやってきて、その核心を破壊しつつあるってこと。でもいいこともあって、たくさんの人に自分たちの音楽を届けることができるようになった。ただ、以前より底がちょっと浅くはなっているよね。
Jim:まぁ、全員じゃないけどね。人それぞれだから。でも中には1曲だけ聴いて"最高! で、次は何?"みたいな人も多いんだ。そういう人たちにとっては、音楽は使い捨ての商品に過ぎない。僕たちがたくさんの時間とエネルギーとお金を注ぎ込んだ曲でも、ビスケットみたいに消費されてしまうんだ(苦笑)。
Han&Jim:(※ビスケットをかじる真似をしながら笑う)
Jim:ちょっとかじったら終わり、みたいなさ。"次は何? もっとちょうだい!"という感じだね。すごく悲しいことだと思うよ。
Han:私たちはかなりオールドスクールだから、その辺純粋主義なの。90年代のほうが良かったなって思うもん。90年代は生きているのに最高の時代だったよ。ちょっと存在するのが遅すぎたの(笑)。
-まぁ、HOT MILKのファンはアルバム全体を聴いてくれるのではないでしょうか。だから日本でもシンガロングが起こったわけで。
Han:そう。私たちのファンは最高。私たちがやろうとしていることをちゃんと理解してくれるから、とてもハッピー。
Jim:さっき僕が言ったのも、1人残らずああいう感じという意味じゃないからね(笑)? 包括的な話なだけで。
-分かります。
Jim:全体的にはそういう人たちが結構いるけど、中には僕たちや君たちみたいな、音楽を大切にしている人たちがいて、その曲の意味するところを理解して受け入れてくれるんだ。長くてもね。
Han:素敵なことよね(※にっこり微笑む)。
Jim:いいことだよ。素晴らしいことだと思う。だから音楽が生き続けていられるんだ。
-今年の夏は"SUMMER SONIC"で日本に帰ってきてくれますね。アルバム発売からそう経たないうちでもあり、歌詞を覚えるまでの時間もあって、ちょうどいいタイミングだと思います。ということで、最後に日本のファンへメッセージをお願いします。
Han:ファンのみんなにまた会えるのがすごく楽しみ! 新しいファンに会うのも! 今年のハイライトになると思う。
Jim:だね。本当に楽しみにしているんだ。
Han:日本はお気に入りの場所の1つなんだ。日本の食べ物が好きだから、食べ尽くす(笑)! 日本ではリラックスした気分になれるし、すごくハッピーになれるんだ。ということでみんなに会って、デカいロック・ギグをやって、汗をいっぱいかくのが楽しみ(笑)。
Jim:日本のフェスがどんな感じか目の当たりにするのが楽しみだね。今日は取材してくれて本当にありがとう! 近いうちに会おう!