INTERVIEW
BARONESS
2023.09.12UPDATE
2023年09月号掲載
Member:John Dyer Baizley(Vo/Gt)
Interviewer:井上 光一 Translator:川原 真理子
独自の美学と度重なるライヴで磨き上げられた鉄壁のバンド・アンサンブルに裏打ちされた孤高の芸術的ヘヴィ・メタルを武器として、熱狂的な支持を集め続けるジョージア州出身のBARONESSが約4年ぶりにニュー・アルバム『Stone』をリリース。奇しくも今年2023年に結成20周年を迎え、バンド史上初めて"色"ではないアルバム・タイトルが採用されるなど、キャリアの節目となった注目の1枚に迫るべく、バンドの創設者でありアートワークも手掛ける才人、John Dyer Baizleyにそのすべてを語ってもらった。
ひとつのアルバム・コレクションを終えて、今は新しいコレクションを始めているところ
-最新アルバム『Stone』の完成、おめでとうございます! 前作(2019年リリースの『Gold & Grey』)から約4年ぶりのアルバムとなりますが、今の心境をお聞かせください。
もうすぐホッとするよ、9月に巷に出回ったらね。アルバムが完成したのにまだ出ていなくて欲求不満が溜まっているんだ。アルバムが出ることにすごくエキサイトしているよ。みんなそうだろうけど。
-あなた方は2003年に結成されたバンドですから、結成20周年という節目にリリースされるアルバムでもありますよね。そのあたりは何か意識されていましたか。
なんとか周年のことはあまり考えないようにしているけど、気づかずにいるのは不可能だ。でもオリジナル・メンバーはもう俺だけなんで、いろいろと変わってしまって嬉しくもあり悲しくもある。でも、このバンドにこんなに長くいられてすごくハッピーだし、ついに安定したラインナップと呼べるものになったから嬉しいよ。この音楽に対してすごく熱心なメンバーばかりだから、素晴らしい。
-本作の制作は2020年の時点で始まっていたのだとか。2020年といえば言うまでもなく世界的なパンデミックに突入した年ですが、ロックダウン中に曲作りといったクリエイティヴな作業はされていたのでしょうか。
そうだね。俺たちに選択肢はなかった。できることはそれしかなかったんだ。ここアメリカでロックダウンが始まった3~4日前、俺たちはまさに荷造りをして日本("DOWNLOAD JAPAN 2020")とオーストラリアに向かおうとしていた。2010年以来の日本に行く年のはずだったんで本当に腹が立ったよ。俺たちはしょっちゅうツアーに出ているミュージシャンで、いろんな国に何度も行ったのに、なぜか日本に行くのは難しかったからずっと行きたかったんだ。あのときは行けなかったけど、近い将来ぜひとも行きたいと思っている。で、2020年にブッキングされていた1~1年半ぶんのツアーがどうやら実現しそうもないことがわかると、世界的パンデミックにおけるミュージシャンであることの現実から来る隔離や欲求不満や混乱に浸る代わりに、俺たちはすぐにクリエイティヴなことのほうに目を向けて、曲作りを始めたんだ。自分たちを勇気づけて、その年の活動を修正するためにね。
-パンデミックという社会的な混乱はあなたのクリエイティヴィティに影響を与えましたか?
もちろん! でも、最初の頃は難しいこと、俺たちにネガティヴな影響を与えていたことに直面するほうが楽だったんじゃないかな。俺は、ネガティヴな面が少なくなるまで待つことにしたんだ。そしてこのアルバムがリリースされようとしている今、パンデミックは俺たちが書いた音楽に完璧にポジティヴな影響を及ぼしたと言える! 制約が生まれて、俺たちの活動が難しくなって、選択肢がほぼなくなったとき、俺たちは働くバンドで、俺たちの収入源の大半を占めるツアーに出られないことがわかると、今回のアルバムはより限られた予算の中で作らないといけなくなった。そして、いろんなレコーディング・スタジオを使うこともできなくなったんで、俺がこの20年間やろうとしていたことの機会が俺たちに与えられたんだ。それは、自給自足できるバンドになるということ。自分たちの音楽をリリースするだけでなく、レコーディングやプロデュースもハイ・レベルでできるようになることだった。だから、このアルバムでそれをやらない手はなかったんだ。そこでアパートを借りて、20年かけて俺が集めてきたオーディオ機材と、10~15年かけて俺が培ってきたある程度のプロダクション、オーディオ・レコーディング、エンジニアリングのスキルを使ったんだ。これで時間と金を節約して、スタジオをブッキングする心配もなくなった。逆に、自由と自立を少し得たんだ。それを制約と見なすこともできただろうけど、俺たちは自由と見なした。一緒に働いている人たちやオーディエンス、そして何よりも自分たち自身に自分たちを証明するチャンスと見なしたんだ。俺たちは、プロフェッショナルなレコーディングやツアーや曲作りのバンドとして、ほぼすべての面を網羅することができることをね。ということで、パンデミックはほぼ自立できる状態に俺たちを押しやったわけで、これは俺たちにとって素晴らしいことだった。音楽をより良くしたと思うし、4人のバンド・メンバーがもっと力を注ぐようになったと思う。久々に全員がインスパイアされた気がしたよ。昼も夜も働いても、飽きなかった。このアルバムを作るのにしばらくかかったけど、常にエキサイティングに感じられたし、インスパイアされていた。そういったクリエイティヴな面では、パンデミックは俺たちにとっていいことだったんだ。もちろん、他のみんなと同じくとても大変ではあったけどね! もちろん業界は変わったけど、俺たちは進化した。それはすごいことだよ。
-2021年から2022年にかけてあなたたちは"Your Baroness"と題されたファンからのリクエストを募ったツアーを開催しましたね。この時点でレコーディング作業はすべて終わっていたということでしょうか。
ほぼ半ばまで来ていたんだ。今回楽だったのは、各曲のインスト部分を作ることだった。2020年から2021年の初めまでインスト部分の曲作りとレコーディングを行ったけど、俺は外に出ていなかった。ツアーにも出なかったし、新しい文化や冒険や経験に浸ることもなかったし、人と話をすることもなかったんで、歌詞で言いたいことがなかった。まさかそんなことになるとは思っていなかったんで、そこが大変だったね。"Your Baroness"ツアーは、言ってみれば"BARONESSとの夕べ"のようなものだった。サポート・バンドもいなかったし、俺たちはリクエストされた10曲をやった。30分間アコースティック音楽をやって、15分間インプロヴィゼーションによるジャム音楽をやった。それから、6枚のフルレンス・アルバムから均等にセレクトした曲をやった。毎回、全部で3時間近いセットだったんだ。あれのおかげで、俺たちは昔の曲をやることができたし、ツアーすることができたし、ミュージシャンとして上達した。でもそれよりも何よりも俺にとって重要だったのは、このアルバムの内容になった歌詞を書くインスピレーションを与えてくれたということ。そのことがとても嬉しかったんだ。ああいった世界的パンデミックが起こると、当然自分にネガティヴな影響が及ぶと思うものだけど、俺にとって一番つらかったのは歌詞を書くのが難しかったということ。アルバムの歌詞の内容は、またツアーに出るまで捉えにくかった。というわけで、このアルバムの曲作りはふたつのセクションに分かれていて、まずはインスト部分をやって、それから歌詞をやったんだ。
-そのような経緯を経て誕生した『Stone』は、全17曲と大作だった前作と比べて全10曲(日本盤ボーナス・トラックを除く)という『Purple』(2015年リリースのアルバム)と同じ構成となりました。2020年の海外でのインタビュー記事を読む限り、当時のあなたはその時点で新作のために30曲ほどの曲を書いたとおっしゃっていましたね。その中から厳選した10曲を選んだということでしょうか。
パンデミックが始まった頃は4人それぞれが曲作りをしていたけど、みんなで集まることができなかったんで、それができるようになるまでは実質的に俺の曲だけになることはわかっていた。そうしてできあがったのが37曲ほどだったんだ。ということは、見直すことのできる曲があと27曲残っているということで、これは次のアルバムに使うこともできる。今回のアルバムに使われなかった曲からパートを取り出して、そこから新しいものを築き上げるのが俺たちは得意なんだ。というわけで、曲作りという点において、あれは俺たちにとってかなり実り多い時期だった。いつもの俺たちだったら、あそこまでの数の曲は書かない。だから、2020年や2021年にはネガティヴなことや大変なことがいろいろあったけど、そのおかげで俺たちはさらにクリエイティヴになれた。クリエイティヴィティの増加に値段をつけるのは難しいけどね。金を払ってクリエイティヴィティが増すのだとしたら、それは偽物だよ。残念ながら、こういったものは降りて来るまで待たないといけないんだ。隔離されて、欲求不満と不安が入り交じった状況のなかでそれができたのは、俺たちにとっては素晴らしいことだった。今となってはそう思えるけど、渦中にいたときは思えなかったね。
-バンド史上初めて"色"ではないアルバム・タイトルが採用されています。あなたたちは常に同じことをせずに進化し続けているバンドですが、色の名前が付けられたタイトルというコンセプトから離れることも、そういったバンドの姿勢が反映された結果なのでしょうか。
そうだと思う。最初の5枚のアルバムは、シリーズになることがわかっていたんだ。赤、橙、黄、緑、青、紫は色相環で、虹に見られる色。俺たちは順番を多少変えたけどね。で、この6色を念頭に置いたアルバムを作り終えると、アイディアはそこで終わったんだ。楽しいプロジェクトだったけど、それが終わったら何をすればいいか見極めるのが難しかった。5枚の個別のアルバムというよりやアルバム・シリーズになっていたからで、ストーリー性があるというか、一貫したコンセプトがあったんだ。それに取り組むことは時として楽しかったけど、かなりの制約があると感じることもあった。だから、あのプロジェクトを続けることをやめると決めたときは気苦労が多かったよ。でも、新しいことを始めるほうがずっとエキサイティングなんだ。BARONESSとしてアルバム・シリーズを作ることは、ファンや周りの人々にとって楽しかっただけでなく、俺たち自身も楽しかった。だから、ひとつのアルバム・コレクションを終えて、今は新しいコレクションを始めているところなんだ。必ずしも俺たちが変わったわけではなく、角を曲がったとでも言うのかな。バンドの中で何かが落ち着いて、俺たちにとって新しいものになった。その証拠のひとつが、これは文字通り安定したラインナップで作った最初のアルバムだということ。つまり、前作と今作には同じ4人が関わっているけど、2枚続けてメンバーが同じだったアルバムはこれまでなかったんだ。これは、シンガーでありバンド・リーダーである俺にとってつらいことだった。俺はメンバーがコロコロ変わることを望んでいなかったから、それが変わらなかったのはとても喜ばしいことだし、大きな変化なんだ。そのおかげで俺たちは別の形で1歩前進することができて、バンド仲間としての俺たち4人の関係を発展させることができたんで、新しい人を入れてバンドのことを教える必要がなくなったんだよ。それが俺たちにとって大きな1歩で、以前の俺たちとは大きく変わった点だね。
-先行で公開されていた「Last Word」はアグレッシヴなリフとしなやかなグルーヴ、素晴らしいハーモニーが詰まった、シーンへのカムバックに相応しい楽曲となりましたね。Nick Jost(Ba)が手掛けたMVも非常に印象的で。
あの曲を最初に出すことにとてもエキサイトしたんだ。レコーディング・セッションのかなり早い段階に書いて完成させた曲だったけど、バンドのコラボ率が一番高かった曲だからだよ。あの曲のオリジナル・バージョンはパンデミックが始まった頃にGina(Gleason/Gt)が書いたものだけど、そこに他のメンバーのインプットを入れてああいう結果を得られた素晴らしい体験だった。だから、俺たち全員があの曲との繋がりを感じていたんだな。あの曲には俺たちのトレードマークとも言えるサウンドがあるし、エネルギッシュなロックっぽさがあってエキサイティングだし、メロディやハーモニーも満載だし、ヘヴィネスやアグレッションもある。そしてすごく長い。普通の3分半のシングルのルールに則っていない。俺はそこが気に入っているんだ。俺たちのファン、特に4~5年間ご無沙汰になっていたファンにとっては、このバンドのトレードマークである馴染みあるものがすべて詰まっているから、ファンが聴くにはとてもエキサイティングだと思ったんだ。