INTERVIEW
BARONESS
2023.09.12UPDATE
2023年09月号掲載
Member:John Dyer Baizley(Vo/Gt)
Interviewer:井上 光一 Translator:川原 真理子
-続く「Beneath The Rose」のMVを観る限り、「Last Word」と対になっているように感じましたが、いかがですか?
このアルバムのコンセプト、現実の一環として、外部からの助けがほとんどなかったということがある。単に音楽の概念や曲作り、アレンジについてだけではなく、実際のレコーディングにおいてもだったんで、ビデオも自分たちで監督することにしたんだ。そして、アルバムと同じような形でやった。つまり、自分たちが持っているツールを使って、このささやかなビデオを作成したということ。最終的には、このアルバムの全曲がビデオになるんじゃないかな。そして、それがアルバムのヴィジュアル面を補足する形になり得ると思う。そういった意味で、ビデオには関連性があるんだ。曲から次の曲への流れがあるし、曲を通して同じようなことが起こっている。自分たちで監督、編集してビデオを制作したことによってビデオに連続性が生まれて、アルバムのスピリットとマッチしたんだ。
-「Beneath The Rose」と「Choir」、そして「The Dirge」までは通して聴くとひとつの流れを形成しているように聞こえます。この3曲で3部作、といったような意図はありましたか。
その3曲はまさに3部作なんだ。俺の中では、この3曲は1曲なんだよ。ただリスナーに聴いてもらうには長すぎてバラエティに富みすぎていたんでね。言わば、曲の"若年"、"中年"、"老年"といった感じかな。「Beneath The Rose」は曲の生まれたばかりの赤ん坊で、「Choir」は曲の核心でいろんな意味が含まれている。そして、「The Dirge」は曲の熟年期だね。こんなふうに、俺たちは常に非常識な音楽のコンセプトを生み出すのが好きなんだ。必ずしも3曲を続けて聴くとは限らないだろうけど、俺たちはそうしたい。この順番でかけてもらうことを前提に作ったからだ。それから、アルバムの最初の曲と最後の曲は同じメロディがベースになっていて、ブックエンドみたいなものだな。俺は、BARONESSはアルバムを作っていると思いたい。シングルは書かない。みんなに聴いてもらうためのアルバムを作っているんだ。最初と最後に同じメロディや同じ歌詞のくだりが入っていたり、あの3曲が次から次へと流れ込んでいったりしているのは、このアルバムの真の体験をするには、俺たちが考えた曲順でアルバムを聴くことだということをリスナーに知ってもらうためなんだよ。これは、今どきの音楽のリリースの仕方とは対照的だ。コマーシャルなポップ・ミュージックは1曲でどれだけのインパクトを与えるかに重点が置かれているから、ヒット曲をひとつ飛ばしてからそのあとどうするかを決める。でもBARONESSはキャリア・バンド、ライヴ・バンドだから、みんなにアルバム全体を真剣に受け止めてもらいたい。俺たちには捨て曲などない。すべてに流れを持たせたい。俺たちのライヴを観れば、同じ体験ができることがわかるよ。俺たちはストーリーを語っているから、順番が肝心なんだ。最初、中間、最後、すべてが重要なんだよ。
-まったくもって同感です。アルバムの1曲目と最後にああいった曲を配置することで、作品の一貫性がより強まっているように感じます。まるでいくつかのセクションに分かれた1本の短編映画を観ているような。
俺もそう見ているよ。俺たちのアルバムがすべてそうだとは言わないけど、結構な数あるんだ。特に、曲ができあがると曲順にこだわっている。俺の頭の中にはヴィジュアル・チャートのようなものがあって、アルバムのエナジーはそれで決まる。シネマチックなんだ。普通映画には山あり谷ありで、興奮があるかと思うと衝突があって、中間部や後半に差し掛かると深い谷に落ちていく。そして、最後に何かが持ち上がる。1~2時間の中で映画にはそういう流れがあって、それはアルバムを聴く際の完璧な感情のダイナミクスなんだ。どっちのフォーマットも、大まかに言うと似ているんだよ。だから、肝心なのは1曲ではなくアルバム全体なんだ。俺は、アルバムを聴いている45分間、それを映画のように感じるのが好きなんだよ。引き込まれて、考えて、チャレンジされたい。そして、最後は気持ちを高揚させたい。一番最後は、エンドロールの音楽が流れるんだ。"これでおしまい。帰っていいよ"ってね(笑)。
-あなた自身が手掛けているアートワークも含めて、アルバム自体がひとつのアート作品である、といったことへのこだわりは強く持っていらっしゃいますか。
そうだね。立体的に捉えることが俺たちにとっては重要なんだ。アルバムのオーディオ部分はもちろん一番直接的なものだよ。それがすべての土台になっているけど、アルバムのヴィジュアル面は俺にとって、とっても大切なんだ。単に俺がヴィジュアル・アーティストだからということだけではなく、NickとGinaとSebastian(Thomson/Dr)もクリエイティヴなヴィジュアル人間なんだよ。4人ともこういうことができるんで、アルバムのパッケージのことを考えなかったらせっかくのチャンスを逃すことになる。アナログ盤やビデオや俺たちの見てくれとかは、どんなバンドにとっても重要な要素なんだ。それを考えるための手段があれば、クリエイティヴな形で活用しない手はないよ。歌詞も同じくとても重要だと思う。俺たちがやっているようなタイプの音楽だと、アルバムをコマーシャルな体験ではなくアート・プロジェクトと見なせば、どうすればいいかを考えるのがちょっとだけ楽だと思う。Spotifyでストリーミングできるとか、価格がいくらだとか、そういったことは俺にとっては重要じゃない。4人とも、『Stone』みたいなアルバムは残るものだと思っている。俺たち自身で作り、パッケージも考えたんだから、俺たちの中で永遠になるんだとね。だから、俺たちはこれを誇りに思いたい。心に長く残るものとして相応しいものにしたいんだ。だから、パッケージは俺にとって音楽と同じくらいとても大切なものなんだよ。NIRVANAの『Nevermind』、PINK FLOYDの『The Dark Side Of The Moon』、THE NOTORIOUS B.I.G.の『Ready To Die』といったクラシック・アルバムを思うとき、最初に思い浮かぶのはアルバム・ジャケットだよね。NIRVANAだったら、あの青だ。NIRVANAは俺のお気に入りのバンドだけど、それでもアルバム・ジャケットのほうをまず思い浮かべる。それからレコードを取り出してトラックリストを見て、"そうか、「Smells Like Teen Spirit」があるか"と思うわけだ。ジャケットは、リスナーの体験をより深いものにしてくれるんだよ。
-アルバムのアートワークは、アルバムの完成後に着手するのでしょうか。それともアルバム制作中に、ある程度のイメージはできあがっているものなのでしょうか。
それはアルバムによるね。ちょっとロマンチックに聞こえるかもしれないけど、俺はインスパイアされるまで待つんだ。早い段階でそれが起こるほうが俺は嬉しいね。どうすればいいかわかるし、前倒しにやれるから。でも、俺は常に遅れるんだ。理由はふたつ。まずは、完成するまでは完成しないということ。アルバム・アートワークに関しては、完成したときに俺がわかる。音楽に関しては、完成したときに4人がわかる。完成していなければ、世に出しはしない。より良いバージョンを作れることがわかっているからだ。残念ながら今回は、アルバムが完成してちょっとしてからアートワークが決まったんで、リリースが1ヶ月ぐらい遅れたかな。でも前々作の『Purple』を作ったときは、アルバムがマスタリングされた頃にはあのアルバム・ジャケットとパッケージ・デザインはほぼ決まっていたと思う。そのほうがいいんだけど、俺の場合必ずしもそうなるとは限らない。今回のアルバムでは、まず音楽を作ってからそれをレコーディングして、それから俺がヴォーカルに取り組んだ。そしてアルバムをミキシングして、マスタリングして、マスタリングが終わるとジャケットの作業に取り組み始めた。これは永遠に続くものだ。このバンドが音楽をリリースするときは、やることが山ほどあるんだよ。
-ドラムのカウントから始まるパワフルな「Anodyne」が特に顕著に感じられたのですが、ここ数年と比べてアルバム全体が非常に生々しい作りでライヴ感のあるサウンドになっていますね。これも今回のようなレコーディング・プロセスならではの効果でしょうか。
俺たちに任されていたんで、ライヴの側面を出すことが心地よかったんじゃないかな。俺たちがそうしたかったんだ。スタジオの環境では、音楽の人間的な面をあまり出しすぎるとリスクを伴うことになるかもしれない。ミスやノイズといったものは、プロフェッショナルなスタジオだとプロデューサーには不必要だと思われたら取り除く義務がある。でも、(余計なものを取り除いて)きれいにしようという人が俺たちにはいなかったから、そこに俺たちの音楽のもっと純粋で確かなものがあることに気がついたんだ。時としてはすべてを曝け出してもいいんだとね。LED ZEPPELINの「When The Levee Breaks」を聴くと、(John)Bonhamが出している、キーキー言うフット・ペダルの音が聞こえる。クラシック・ロック・ソングを聴くと、シンガーがミスを犯していることがある。早く入りすぎたり、マイクがまだオンになっているのにエンジニアに話し掛けたり、といった瞬間があるけど、俺はあれはその瞬間を捉えた録音でかなりマジカルなことだと思ったね。だから俺たちにとって楽しかったのはそれを起こすことで、「Anodyne」ではそれが起こったんだな。Sebastianはドラミングのときはとてもエネルギッシュな人間になるんで、彼がスティックでカウントを取ろうが曲の最後で怒鳴ろうが、それは曲の一部なんだよ。俺の中では、あの曲はスティックのカウントで始まるんだ。というわけで、バンドのタイトな面と共に緩い面も見せられたんだよ。"ライヴ感vsオーケストレーションとアレンジが施されたもの"みたいな。そのダイナミクスを踏まえてプレイするのも楽しいものだ。あれは、俺たちだけでやったからああなった。それは間違いない。
-「Shine」、「Magnolia」、「Under The Wheel」と長尺な楽曲が続くアルバム後半の流れは実にドラマチックですね。BARONESSの楽曲の大きな特徴として、どれほど複雑な展開の楽曲でアグレッシヴなサウンドであっても、常に耳に残るヴォーカルやギターによる印象的なハーモニーがあります。本作では今まで以上にその点が強化されているように感じられたのですが、そのあたりは意識されましたか。
もちろん。以前と違うアルバムを作ろうとするバンドがいることは知っている。"今回はもっとメロディックにしよう"、"もっとリラックスしたものにしよう"とか言ってね。でも俺たちは、インスピレーションの赴くままにやるときが一番うまくやれるんだ。フォーク・ソングを書きたいと思ったら、そうするよ。ビッグでエピックで悲哀に満ちたバラードを書きたいと思ったら、それもまた素晴らしい。でも俺にとって重要なのは、曲がいいということ。曲でものを言うのは、ドラマーのテクニックじゃないし、ソロじゃない。曲はヴォーカルに負うところが大きいし、音楽ツールを使って俺たちの気持ちを表現して、個々のエナジーの合計よりも大きなものを生み出すことが肝心なんだ。俺の音楽の好みからすると、ベースには必ずシンプルなものがある。俺はかなりバラエティに富んだ音楽を聴いているけど、俺が一番惹かれるのは、どんなに複雑なものの中にもシンプルなものが入っている曲なんだ。このアルバムで俺たちが上達したのは、すごいテクニックを駆使したりより洗練されたアレンジを施してはいるものの、核となる部分はシンプルになっているという点かな。すべては、ほぼカントリー・ソングのように始まるんだ。自然に湧き出てくる流れがそれなんだよ。ミュージシャンである俺たちはそのシンプルなアイディアを、興味をそそる形にしていくんだ。複雑なものをシンプルにするのは間違いだと思う。俺たちは、自分たちが書いている音楽を理解するよう心掛けている。強力なメロディがあって、サビにはフックが効いていて、ヴォーカルには心に残るものがある。そういったものを人は聴いて吸収できるんだ。音楽で一番簡単なことは、メロディを繰り返すことだよ。そして、ハーモニーによって複雑にする。ハーモニーは、それとない味わいをもたらすからだ。興味をそそるリズムは、とても洗練されたベーシストがやるとすごいものになる。こういったツールは、俺たちをサポートするためのものなんだ。というわけで、シンプルだけどディープでパワフルなエモーションが感じられる曲を常にやっているんだよ。
-先ほどおっしゃったように、2020年にはもう少しで来日を果たせそうだったのに実現しませんでした。今度こそ来日を実現させてくださいね。
他の何よりもそれを実現させたいんだ。ずっとまた日本に行きたいと思っていたんだからね。日本にファンがいれば、ぜひとも実現させたいよ! でも欧米のバンドが日本ツアーを組むのには難しい面もある。俺たちにもチャンスは何度かあったんだけど、パンデミックやタイミングの問題ですべてぽしゃってしまった。すごく残念だよ。だから、今度こそまた日本に行ってちゃんとツアーしたいと思っている。フェスティバルだけじゃなくて、東京でのライヴだけじゃなくてね。初来日のときは大阪と名古屋にも行ったけど、まだほんの一部だという気がしたんで、できるだけ早くまた日本に行くことがとても重要なんだ。だから、今こうしてインタビューできてとってもエキサイトしている。
-最後に、新作と再来日を心待ちにしている日本のファンへメッセージをお願いします。
日本中がこのアルバムを聴いてくれるのが待ち遠しいよ! さっきも言ったように、世界中の他のどの国よりも、俺たちがぜひとも行きたい国が日本なんだからね! 以前もう少しで行けそうだったのに行けなかったから、とてもつらいよ。だから、できるだけ早く行ってその埋め合わせをしたいんだ。日本のファンのみんなには、ぜひともこのニュー・アルバムを楽しんでもらいたい。俺たちはものすごくエキサイトしている。もっと世界を見て、日本のことをもっと理解したいから、君たちに会えるのをとても楽しみにしているよ!