INTERVIEW
HOT MILK
2023.08.21UPDATE
2023年08月号掲載
Member:Han Mee(Vo/Gt) Jim Shaw(Vo/Gt)
Interviewer:井上 光一 Translator:安江 幸子
私たちはクリエイトしたいわけだから、いつまでも同じものを作っていかなくてもいい――"HOT MILK"っていうのは、好きなものを出せるように自分たちに付けた名前だから
-「Horror Show」はアグレッシヴなリフを軸とした、今まで以上にヘヴィな楽曲ですね。イントロのドラムンベース風のビートも効果的です。
Han&Jim:(※うなずく)
-「Party On My Deathbed」も間違いなくライヴ映えしそうな曲ですね。それこそライヴを意識して作られたように感じました。
Han:もちろん、もちろん。
Jim:昔のブリティッシュ・バンドにインスピレーションを貰って作った曲なんだ。ARCTIC MONKEYSとかもそうだったけど、単音でのリフを使うというのはブリティッシュの伝統みたいなものだからね。
Han:ドライヴ感のある曲だよね。ライヴでもいいオープニングになるなと思った。フェスでやっても盛り上がりそうだし、1曲目に持ってくるといいかもって。
-セットリストの1曲目。
Jim:そうそう。
Han:最近は1曲目に実際に持ってきているよ。今年ずっとこれでいくかは様子を見て決めるけど、いいオープニングになっていると思う。ハイ・エナジーだしね。アルバムにはこういう曲が必要だと思う。実はちょっと隠れた意味があるのよね。これを聴いた人は"なんの意味もない"なんて言うこともあるけど、それは理解していないだけなの。
Jim:基本的には"人生はあまりにも短い。楽しめる間に楽しんでおこう"ということなんだけどね。
Han:バンドと一緒に外に出ていこうってね。
Jim:そう。
-その瞬間を楽しむ感じですね。
Jim:その通りだね。
-イントロのナレーションは映画か何かの台詞のサンプリングですか?"ladies and gentlemen it was a cold blooded premeditated murder(※紳士淑女のみなさん、それは冷血な計画的殺人でした)"なんて言っていますが。
Han:たまたま見つけたものがしっくり来たのよ。
Jim:"なんだ今のは"みたいな感じに見つけたんだよね。
Han:何か台詞が欲しいと思って、自分たちでトークしてみたりもしたんだけど、このサンプルを見つけて"これはクールだな。入れてみよう"と思ったの。曲を上手くまとめてくれていると思う。
Jim:そうだね。ちょっと薄気味悪い感じで。
-あぁ、わかる気がします。
Jim:"冷血な殺人"なんて台詞、オールド・スクールなホラーのヴァイブがあるよね(笑)。それが曲にぴったりだと思ったんだ。
-ということはジェネリックなサンプル音源で、映画などから取ったわけではないんでしょうか。
Jim:正直言ってソースがわからないんだ。
Han:どこで見つけたかもわからない。たしか夜明け前みたいな感じの時間にYouTube上で見つけたんじゃないかな。ただ気に入って"いいね、それ貰おう。あれ私たちの"なんて決めただけだったから、ソースがわからなくて(笑)。
-00年代のエモを思わせるアンセミックな「Alice Cooper's Pool House」や「Zoned Out」があるかと思えば、ベースラインの強烈なグルーヴが印象的な「Over Your Dead Body」やEDM風の始まりからアグレッシヴなロックへと展開する「Migraine」もあり、といったようにジャンルにこだわらないハイブリッドな音楽性はあなたたちの強みですよね。あえて聞きますが、本作を制作するうえでインスピレーションを受けたバンドやアーティスト、作品などはありますか。
Jim:なんて言ったらいいかわからないけど、いつもそういうの(ハイブリッド性)を目指しているんだ。なんて言うんだっけ......
Han:自分たちの使命みたいなものだからね。私たちなんでも好きだし。好きなものがたくさんあるの。今は、私はダンス・ミュージックに夢中だから、例えば「Bloodstream」や「Migraine」にはダンスの要素がいろいろ入っている。でもふたりとも本当にいろんな音楽が好きだから、なんでも聴くのよ。それにすごく飽きっぽいから(笑)、いろんなジャンルがインスピレーションになっている。"もうこれ飽きた。何か違うことをやろう"なんて思ってね。それですごく変だけど人と違うものができているんだと思う。
Jim:自分たちが大好きなものをすべて網羅して祝福しているんだ。
Han:HOT MILKとして全体を束ねているのが、私とJamesがいつも中心にいることだと思う。だから何があってもちゃんとマリアージュができているの。ライヴをやると、人それぞれツボになるポイントが違うのが面白いんだよね。というか、音楽は音楽だから。ジャンルなんて嘘。ジャンルというのは単に理解させるために作ったものだから。
Jim:好きなものをプレイすればいいんだと思うよ。それで気に入ってもらえればいいし、そうでなかったらそれでいいし。つまるところ、僕たちは好きだからプレイしているわけでね。もし自分たちで好きになれなかったら、僕たちは酷い仕事をしていることになる(笑)。
Han:他人がどう思おうと構わない。自分たちがハッピーにやれるってことが大事だから。笑顔でやれれば、他人に気に入ってもらえなくてもいいと思う。
Jim:それにこのアルバムはHOT MILKの5年後のサウンドとは違うかもしれないしね。みんなのフィーリングも好き嫌いも変わっていくし。
Han:私たちはクリエイトしたいわけだから、必ずしも同じものをいつまでも作っていかなくてもいいと思うの。"HOT MILK"っていうのは、好きなものを出せるように自分たちに付けた名前だからね。
-一貫性があるとすれば、これほど情報量が多い楽曲が並ぶ中、どの曲もHOT MILKの音楽として成立している理由のひとつに、どのようなタイプの曲であっても必ずキャッチーなフックがあり、メロディやハーモニーの素晴らしさがあるということだと感じます。そのあたりは意識されていますか。
Jim:すごく意識しているね。
Han:キャッチーじゃないコーラスとかはやらない。
Jim:そうだね。僕は個人的に昔からクラシック音楽が大好きで、クラシックのハーモニーや不協和音やアレンジが好きなんだ。だから自分のプロダクションでもストリングスが入っているものが好きだったりする。あと歌うときの音域の広がり......Hanは女性で僕は男性だから......
Han:私が(笑)?
Jim:他に誰がいるんだよ(笑)!......だから、他よりずっと広い音域をカバーできるんだ。
Han:シンガーがふたりいるっていうのはラッキーよね。ライヴでもハーモニーが出せるし。そうできないバンドって多いから。私たちの強みだと思う。もう少しハーモニーで遊んでみるべきかもね。
Jim:うん。
Han:生まれ持った強みだと思うしね。シンガーがふたりいるバンドってそう多くないし。
-それぞれが歌うパートはどのような形で決められているのでしょうか。役割分担は?
Jim:基本的にはフィーリングかな。
Han:そうだね。"ここはあなたが歌ったほうが"、"うわ、ここ私歌いたくないから歌って"とか。
Jim:あるいは"ここを君が歌うと、君の声域ではいい感じにならないから僕が歌ったほうがいいかも"とかね。曲によって違う。
Han:でも不思議といつも意見が一致するんだよね。いつ私がコーラスを歌っていつJimが歌うべきかとか。
Jim:うん。
Han:ここはあなた(Jim)がヴァースを歌うとかね。時にはどっちかの歌う部分が少なくなったりする。
-歌詞的にはどうでしょう? 心の痛みや人生の苦難、政治的や社会問題にも切り込んだ率直でリアルな歌詞もあなたたちが支持される要素のひとつですよね。歌詞を書く際に心掛けていることがあれば教えてください。
Han:私は......恋愛の歌詞は書いたことがない気がする。この前も"そういえばラヴ・ソングって書いたことないな"と思っていたところ。あまり他人のことを題材にしないというか、コンセプトを書くことが多いから。あるいは......
Jim:自分たちの感じていること。
Han:自分たちの感じていることね。他人のことはあまり書かない。
Jim:経験ベースの部分が大きいね。
Han:それがあるからちょっとユニークになるんだと思う。"あなたはああで、あなたはこうで"と言うんじゃなくてね。
Jim:僕は意味を引っ張り出せるものが好きだね。厳密にこれです、という内容にする必要はないというか。ストーリーテリング的にはそれもいいと思うけど、ちょっと曖昧にしておくのが好きなんだ。そうしたら聴き手が自分だけのフィーリングを引っ張り出すことができて、愛着を感じてくれるからね。
Han:言葉にはマジック(※日本語で言う"言霊"に近い意味)が宿っていると思う。ある感情を持っているときに歌詞を書いていると、その感情が歌詞にひもづかれるというか。それをコードとマッチングさせると、感情が形になるの。私たちはそういう、感情を曲に込めるのが得意なんだと思う。でも他人のことを書いているわけじゃないから我ながら不思議だよね。
-自分の思っていることを歌詞にしつつ、そこに感情を込めているからこそ、他人にも身近に感じられる曲になっているんでしょうね。
Han:そうね。どんな解釈をしてくれても大歓迎よ。私の意見を自分のものにしてくれてもいいしね。日常生活だってそうでしょう? それぞれのシチュエーションに曲が寄り添えたら素晴らしいことだと思う。
Jim:そうだね。音楽はアートだから、間違っているものなんてないんだ。
-本作のリリース後は間違いなく日本での知名度も上がると思います。来日公演の話などは現時点で出ているのでしょうか。
Han:もしかしたらね。12月に、もしかしたら一夜限りで東京でやれるかもしれない。
Jim:ずっと(マネージメントに)プレッシャーをかけ続けているからね。
Han:結成当時から、日本に行くのはずっと夢だったし。
Jim:ツアーしたい場所だってずっと思ってきたんだ。本当に素晴らしい、美しい場所だと思う。できるだけ長い時間過ごして、カルチャーを知りたいね。
Han:12月にFOO FIGHTERSとオーストラリアに行くから、その道中に日本に寄れればと思っているけど......どうなるかはお楽しみ。様子を見るよ。
Jim:実現することを願っているんだ。
-寄れることを願っていますよ。最後に、日本のファンへメッセージをお願いします。
Han:早くみんなに会いたくて待ちきれない! このバンドがどんなものか見せたいし、誰も見たことがないパーティーみたいなライヴを日本でやりたい。
Jim:控えめに言ってワクワクしているよ(笑)。今日はインタビューしてくれてありがとう! 近いうちにみんなに会えますように!