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INTERVIEW

HOT MILK

2023.08.21UPDATE

2023年08月号掲載

HOT MILK

Member:Han Mee(Vo/Gt) Jim Shaw(Vo/Gt)

Interviewer:井上 光一 Translator:安江 幸子

-3枚目のEP『The King and Queen of Gasoline』では曲作りの際にDave Grohl(FOO FIGHTERS/Vo/Gt)のギターとMark Hoppus(BLINK-182/Vo/Ba)のベースを使用したという話を聞いたのですが、本当でしょうか。どういういきさつで?

Jim:あぁ!(※最高だったよ、と顔に書いてある感じで)あれは......

Han:私たち、お金がなくて......

Jim:自分たちの......

Han:楽器を(LAに)持っていけなかったの。

-あぁ、荷物として追加料金がかかるから。

Jim:そう。それで、ギターを借りておいてほしいとマネージメントにお願いしたんだ。到着したら"ギターは車のトランクに入っているよ"って。デカいステッカーに"Dave"って書いてあってさ。で......

Han:"どのDave?"なんて(笑)。

-(笑)

Jim:"ちょっと待てよ、Dave Grohlのギターを乗せたプリウスなんて乗り回せないよ!"なんて思ったね(笑)。

Han:私たちは安物のレンタカーだったし、お金もギターもないというのに、"君が使うギターはこの車のトランクに入ってる"って。"しかもDave Grohlのギター! 私たちの命より価値がある!" と思った。すぐに宿泊先のモーテルに戻って、部屋で曲を書いたよ。

-それはクリエイティヴ欲がさぞかし刺激されたことでしょうね。

Han:そう! ギターへのリスペクトがあったから、それを示すためにも絶対いい曲を書かなくちゃと思ってね。たしかその日のうちに「The King And Queen Of Gasoline」を書いたんじゃなかったかな。

Jim:書いたね。

Han:シャワーを浴びている途中に思いついて、思わずそこから"これ録音して! James(※Jimの本名)! 録音して! これ思いついたの!"と叫んだんだよね(笑)。その状態で録音して(笑)。ふたりとも、私たちが必要なものを快く貸してくれたの。

-もちろん彼らもあなた方の将来性を見込んでのことでしょうけれども。

Han:わりと初期に私たちの音楽を聴いてくれていて、気に入ってくれたらしいの。願ったり叶ったりだよ。

Jim:そうだよね。あんなにステータスのあるバンドの人たちがああやって若手に手を貸してくれるって本当に素晴らしいよね。育ててくれて、助けてくれて......ほとんどチアリーダーみたいな感じで応援してくれている。

Han:それでいて、あまり自分たちの手を出すことは好きじゃないみたい。そういうところもリスペクトしているの。あまりヘルプしすぎないというか。ただギターを貸してくれて、曲が書ける状態にしてくれる。

-最高のサポート方法じゃないですか。

Han:まったくその通りよ。それ以上のヘルプは私も望まないしね。それ以上助けてもらうわけにはいかないし、自分たちらしくやらせてもらえたのが良かった。ちょうどいい程度のヘルプをしてくれたんだと思う。そうしてくれたおかげで私たちも自分たち自身へのリスペクトをすることができたしね。

-『A Call To The Void』に話を戻しましょう。3枚のEPと比べて一度に書いた曲も多かったでしょうし、バンド・アンサンブルにしても曲作りにしても、明らかな成長を感じさせる素晴らしいデビュー作となりましたね。作品の出来栄えには手応えを感じていますか。

Jim:そうだね......まっさらな紙を目の前にして、これを色で埋めなくちゃということになったときは、圧倒されて気が遠くなりそうだったよ。僕個人はどのくらい曲を作ればいいのか見当がつかなくて、とてもナーヴァスになっていた。

Han:曲をたくさん作らないといけなかったからね。

Jim:あとで振り返って、仕方なく入れた曲たちだなと思うのは嫌だった。

Han:時間が足りないとかそういう理由でね。

Jim:あと1曲必要だから入れるとかね。アルバムに一体感が欲しかったし。

Han:一貫していい曲が続くようにしたかったの。"弱い"瞬間がないようにね。実際それは達成できた気がする。私があまり好きじゃない曲は1曲しかないし。でもそれは私の個人的な好みの話で(笑)。

Jim:そうだね。

Han:残りは大好き。本当は"特にお気に入り"があっちゃいけないんだけど、3つあるんだよね。それっていいアルバムだってサインだと思う。

Jim:たしかに僕の好みも君とは違うよね。

Han:みんなそれぞれのお気に入りがある、それってすごくいいことだと思う。

Jim:ああ。

-ちなみにEPを作っていたのはフル・アルバムの前段階として?

Han:そうね。

Jim:というか......

Han:実験として。

Jim:自分たちの人となりや、どういうものをプレイしたいのか、どんな音になっていくのかを発見していったんだ。1stアルバムがあると、みんな将来それを振り返るだろう? 1stアルバムは、いよいよ自分たちの旗を立てて(意思表示をして)1歩目を踏み出すような感じなんだ。もっと早く出せれば良かったけど、時間をかけて作れて良かったと思っているよ。

-アルバムに一体感があるのは、本作もJimのプロデュースだから、というのもあるのでしょうか。曲作りは例えばZakk Cerviniと書いたりしていますが、外部のプロデューサーを入れないほうが自分たちの音楽を表現できる、といったような理由もありますか。

Jim:100パーセントその通りだね。コアにあるのはいつも僕とHanが同じ部屋で書いたものなんだ。曲作りの初期段階からアウトソーシングするのは自分たちにとっても良くない気がするし、僕たちが望まない方向に進んでしまう可能性だってある。だから1stアルバムで自分がプロダクション上のコントロールを持っているというのは、僕たちにとって絶対必要なことだった。

Han:今もDIYスタイルが好きだしね。自分たちらしくいられるならそうしたほうがいいし、このバンドは一生やっていきたいから、あまり他人に依存するよりも、自分たちでやれるところはやったほうがいいと思う。それが居心地のいい状態だと思うんだよね。

Jim:と言いつつ、僕はコラボに関しては全面的に賛成なんだ。人とコラボするのが大好きだしね。

Han:いつでもその準備はできているよ。

Jim:Zakkともコラボしたし、Philip(Strand)も素晴らしい才能を貸してくれた。だけど最終的には僕と君(Han)の作ったものが大半であるべきなんだ。

Han:あなたと私ほど曲を気にかける人はいないからね。

Jim:いないよ。

Han:私たち以外にはいない。

-そこから一体感が出ているんですね。デビュー作を世に出すのにパーフェクトな方法だと思います。アルバム・タイトルはどのような意味を込めて付けられたのでしょうか。

Han:フランス語の"L'appel du vide"(※日本語で"虚空の呼び声"といったような意味)を翻訳したようなフレーズなの。どういう意味かというと......例えば今崖っぷちにいるとして、頭の中で"飛び降りろ"という声がするけど自分は"ノー"みたいな。闇や、救いようのない心境に引っ張り込まれるような感じ。誘惑されるような。このアルバムの中での私たちのフィーリングを要約したような言葉だと思う。作っていたときにそんな気持ちになることが多々あったし、孤独も感じたし、威圧感を味わったこともあったしね。マンモスみたいに大きなタスクが待ち構えているような気にもなったし、実生活でも深い悲しみや喪失感があったし......このフレーズが私の中で引っかかっていて、自分やJimが感じたことを全体として要約しているような気がしたの。

Jim:タイトルを決めるのにはちょっと迷いもあったけど、Hanがこれを持ち掛けたときには"あぁ、たしかにそれまで書いてきたものすべてを要約しているな"という気がしたよ。

Han:他に候補として考えていたのが"Kaleidoscope Of The Abyss(直訳:奈落の底の万華鏡)"だったけど、"Kaleidoscope"なんて言葉をちゃんと連呼できるのか自信がなくてね(笑)。タイトルを決めたときは夜遅くに車を運転していて......これもまた"L'appel du vide"がありがちな瞬間なんだよね。変なハンドルを切ってしまいそうで(笑)。それで、アルバムをそう呼んだらいいんじゃないかと思ったの。

-イントロダクション的な「Welcome To The...」から「Horror Show」へと繋がるオープニングにハッとさせられました。まさにタイトル通りアルバムの世界へと誘われるような。このようなアイディアは「Horror Show」の作曲時点で思い描いていましたか。

Jim:うーん......たぶんそうだったと思う。基本的にあのイントロのトラックでずっとやりたいと思っていたのは......

Han:アカペラみたいな曲の始まり。

Jim:このバンドでは僕とHanのヴォーカルが行ったり来たりしているし、"これが僕たちだ、これからアルバムが始まる"と示したかったというのもあるんだ。

Han:私の声とあなた(Jim)の声とストリングスがある、それだけの状態でアルバムを始めたかったの。「Horror Show」はああいうサウンドにしたいという気持ちが強かった。それであのサウンドを最初に作ったの。

Jim:あのイントロがあることで楽観的な陶酔感があって、妖精でもいそうな雰囲気になるよね。そこからバーン! レッツ・ゴー! アルバムがここから始まるぞ! みたいな感じになるし......

Han:"さすがHOT MILKだ"なんて思ってもらえると思う。

Jim:「Horror Show」は変で素晴らしい状態の祭典なんだ。

Han:自分は最悪な状態だけどそんな自分を受け容れる、という感じ。自分たちを肯定するという宣言みたいなものからアルバムが始まるの。すごく生意気な曲ではあるよね。自分たちのパーソナリティが表れるようにしているというか。