INTERVIEW
Mardelas
2022.09.06UPDATE
2022年09月号掲載
Member:蛇石 マリナ(Vo) 及川 樹京(Gt) 本石 久幸(Ba)
Interviewer:杉江 由紀
『Mardelas Ⅳ』はここからの未来を見据えながら作ったアルバムなんです
-「Last Round Survivor」はとにかくイントロが超絶カッコいい曲ですが、あの音のイメージはいかにして浮かんだものだったのでしょう。
及川:この曲はアレンジが自分でもこれ以上ない、というくらいの構成にできたかなと思ってるんですよ(笑)。それも、時間をかけたわけではなくて意外とスルスルできちゃったんですね。純粋に自分の頭の中で鳴っている音を、そのままかたちにできました。
蛇石:私が作った原曲にはあのイントロはなかったんですけど、どの曲もギター・パートはすべて任せていますし、これも自分が作ったベーシックなものに及川色が乗ってきたときに、期待通りの曲ができあがったな、という感覚でしたね。
本石:デモではベースも樹京君が弾いてたんですけど、サビのフレーズがすごくウネウネしてたんで、僕もレコーディングでは負けずにウネっていきました。
及川:間違いなく、ベースはこれが今までで一番ヌルヌルしてるんじゃないですか(笑)。
本石:あれは樹京君の現場ディレクションが良かったんだと思います(笑)。
-そんな「Last Round Survivor」の歌詞は、映画"ロッキー"がモチーフとなっているそうですが、マリナさんがここで聴き手に伝えたかったこととは?
蛇石:名画だけあって"ロッキー"にもたくさんの名ゼリフがあるので、ここではそれを可能な限りAメロの英詞部分に詰め込んでいくようにしました。それに対して、サビは日本語にしてキャッチーな爆発力を生むという構成も最初から決めてましたね。そして、この詞も単に"ロッキー"をテーマにしましたというだけではなくて、ロッキー(主人公 ロッキー・バルボア)のように頑張るすべての人たちに向けての愛と応援のメッセージを込めながら詞を書いてます。
-ということは、歌うときにもかなりの感情移入をされていったわけですか。
蛇石:たぶん、尋常ではなかったと思います(笑)。気持ちが昂ぶりすぎて、自分に対して"落ち着け、落ち着いて歌うんだ"って言い聞かせてたくらいです。
-かと思うと、今作の中で唯一のミドル・テンポ曲と言っていい「The Fox and The Grapes」は、聴かせる要素が強い歌心の生きた曲ですね。
及川:曲としてはこういうのも僕の得意なパターンのひとつで、作曲クオリティの点でこれは100点が出せてる曲でしょうね。自分の場合はメタルだけじゃなくて90年代のJ-POPとかも好きですし、ビーイング系のWANDSとかELT(Every Little Thing)なんかは、メロも良くてギターもカッコ良くてっていう音楽だったじゃないですか。あの時代の洋楽にはないメロの良さを持った日本の音楽と、ヘヴィ・メタルならではの強いサウンドを融合してかたちにしていくというのは、うちのバンドならではの強みですし、この曲にもそういう面はすごく生かされてると思います。
本石:サビ後半でメロのトーンが上がっていくところで、ベースも隙間にカウンターのメロディをいっぱい入れてるんですけど、これは弾いてても気持ちいい曲ですね。
-歌詞については、イソップ寓話の"すっぱい葡萄"の物語をベースに描いたものとなっているそうですが、及川さんがここで題材としているのは現代の世相になりますか。
及川:これは最初のほうで言った、現代の社会問題ってやつがテーマの詞です。今や普通の人たちもSNSとかをやるようになって、闇とか、前までだったら見えにくかった人の心の内側までもが目立つようになってきてる時代だと思うんですよ。"すっぱい葡萄"の物語は心理学で言う防衛機制=負け惜しみを描いたもので、防衛機制は自分の気持ちをごまかすために、本当は欲しいものなのに"あれはつまらないものだ"って言うことで自分の心を守ってる状態のことをいうんですね。それって、まさに今のSNSとかでよく見られる光景なんですよ。
-キラキラした自分を現実以上に演出する人もいれば、人の生き方に嫉妬して攻撃する人もいるという、なかなかの修羅場があちこちに生まれておりますものね。
及川:自分の中の虚無感を埋めるために、わざわざ人のことを悪く言ったりする人も多いんだろうなと思いますね。全体的にはそんな状況に対して客観的且つ批判的な姿勢で描写してるし、結構尖ってる言葉も使ってはいますけど、僕にも昔はそういうところが多少なりあったなというのもあって、これは人のことだけじゃなく過去の自分のことを書いた詞でもあるんです。そして、最終的にはそんな人たちに対する希望じゃないけど、こうして生きていくのもいいんじゃないの? ってメッセージをつけ加えることで、ポジティヴな歌詞にしました。
-葡萄に対して"まずは手を伸ばしてみようよ"というメッセージをここからは感じられます。
及川:そうそう。実際にとって食べてみたら"酸っぱくないぞ"と(笑)。食べてみなきゃわかんないことって絶対あるんじゃないですかね。
本石:僕は食べたかったらすぐ手を伸ばしちゃうタイプです(笑)。
蛇石:私もですね。10代とか本当に若い頃はまだ躊躇してた時期もあったかもしれないですけど、今は欲しいものがあるなら手は伸ばすほうだと思います。
-そういえば、6曲目の「Raccoon Party」も動物シリーズの曲となっていて、こちらはライヴでの盛り上がりが想像できるような楽しい曲となっておりますね。
及川:Mardelasでは毎回アルバムに1曲、ふざけた曲っていうわけじゃないですけど、ガラッと雰囲気の変わるパーティー・ソングを入れていまして、これはそのシリーズの最新曲になります。シャッフルだけど歪んでて、テクニカルな要素もいろいろ入ってる曲ですね。
-Raccoon=たぬきが主人公の歌詞は実にかわいらしく、それでいて深いことも歌っているというところが味わい深いです。
蛇石:たぬきっていうのは、エンタメそのものを比喩した言葉でもあるんですよ。あと、Mardelasには"とらたぬ"っていうキャラクターもいるんで、これはMardelasのことを歌った曲でもありますね。内容の面では、時期的には有名人が自殺してしまうようなことが多かった頃に書いていたのもあったし、コロナ禍で自殺率が高くなったっていうニュースもあるなかで、とにかく生きてさえいればきっとどうにかなることもいっぱいあるよ! っていう気持ちを込めながら"生きてくことに疲れたなら/ここにおいで/僕がいるよ"というふうにたぬきに歌わせました。つらいときこそエンタメを頼ってよっていう意味で。生きているのがつらくなったときに、Mardelasの音楽を聴いて少しでも誰かの気持ちが楽になってくれるんだったら、私としてはそれが何よりの喜びですね。
-ところで。「Raccoon Party」から感じられるある種の遊び心は、また違ったテイストで「Force & Justice」にも滲んでいるものだと感じたのですが、こちらは及川さんの趣味が反映された曲と詞になっているそうですね。
及川:これはもう完全に僕の趣味から生まれた曲ですね。子供の頃から"スーパーロボット大戦"っていうゲーム・シリーズが好きで、この曲では"マジンガーZ"のOP曲のコード進行をそのまま使ってるので、歌メロを外して歌詞を入れ替えるときれいにハマるようになってます(笑)。あと、歌詞には"超獣機神ダンクーガ"の主人公(藤原 忍)の決めゼリフ"やってやるぜ"を入れました。アルバム全体としてはわりとシリアスなところもあるんですけど、中盤を過ぎた「Raccoon Party」とこの曲ではあえて遊んでるんですよ。
-それだけに、9曲目の「String of Life」からは佳境感が増していきますね。
及川:この曲は逆に構成が複雑なんで、遊びがほとんどないつくりになってます。ベースはこれもヌルヌルですよね?
本石:うん、すごくヌルヌル。ギターの音がそこまでハードではないこともあって、ベースの音が目立ちやすいっていうのもあると思います。
蛇石:これは方向性で言うとバラードのイメージで書いた曲で、作曲の面では一番私がやりたい放題に作った曲でもありました。
-作曲の時点から、詞については映画"ゴッドファーザー PART II"のことを意識されていたのでしょうか。
蛇石:いや、そこはアレンジがある程度はできてからでした。最初は"レオン"とどちらにしようか迷いつつ、"ゴッドファーザー PART II"の主人公が父と息子のふたりで、話が同時に並行して進んでいくというあの感じを詞の中でも表現していきました。わかりやすく言うと、上から普通に読むと息子側のストーリーで、下から読むと父親側のストーリーになっているんです。
本石:へぇー、これそうなってたんだぁ。
及川:映画は全然観ないんですけど、そういう視点を詞にも生かすって面白いですね。
蛇石:ふたりの人生が逆転していく様を、どうしても1曲の中で描きたかったんですよ。
-「String of Life」は歌唱法も他とは一線を画する印象ですね。
蛇石:R&Bの空気感を取り入れていきました。歌詞も意図的に言葉を詰めずに書いたので、よりR&B的な間合いを取りながら歌うことができたと思います。
及川:ギター・ソロもこの曲はメタル的な解釈では弾いてないですね。もともと音楽は独学だったんですけど、30代に入ってからジャズとかポップスの音楽理論を学ぶ機会があったので、そこで得たことをここでは生かしてます。ギター・ソロだけに限って言えば、これが一番の力作かもしれません。おそらく、メタル界隈だとこういうアプローチをする人はまずいない気がします。
-かくして、今作『Mardelas Ⅳ』の最後を締めくくるのは「M.D.M.A」となりますが、この曲にはMardelasの王道が詰まっておりますね。
蛇石:Mardelasではこれまでも、アルバムの最後はバラードと正統派の王道曲の2曲で締めるというのが、ひとつの流れとしてありましたから、ここでもそこは貫いてます。
及川:やっぱり、最後はメロディック・メタルじゃないとね! ただ、その中でも新たな領域を追求してまして、さっきの「String of Life」とは真逆で、わざとIMPELLITTERIみたいな、曲芸的でいい意味で頭悪いギター・ソロを弾き倒しました(笑)。
-だがそれがいい、というやつですよね。
及川:なんだかんだ、自分のルーツですしね。速弾きが大好きだったあの頃の自分を忘れないぞっていう気持ちで弾いてますよ。このくらいは弾けるんだよ、ということを最後に本気でやってみました。
-ギター・ソロ不要論が湧きあがる今どきにあって、とても素晴らしいスタンスです。
及川:世の中には間奏だからとりあえずギター・ソロを入れとくか、みたいなケースがあるのも事実と言えば事実ではありますからね。でも、だからこそ僕は"聴く価値のあるソロ"をちゃんと弾くようにしてるんです。それに、もはやこれはひとつの伝統芸能でもある気がするんですよ。
-守るっていくべき文化である、ということですか。
及川:後世に伝えていきたいですよね。歌がハイトーンでサウンドは激しくてソロがあって、みたいなこういう音楽を。今回のアルバムで挑戦したように、モダンさを取り入れていくことも大事で、そうしないと若い子たちは聴いてくれなくなるだろうけど、でもトラディショナルな部分は絶対に忘れたくないですし。要するに『Mardelas Ⅳ』はここからの未来を見据えながら作ったアルバムなんです。
蛇石:詞も「M.D.M.A」は極めて直球で、生きるとは、人生とはみたいなところを力強く歌ってます。すべてを聴き終わったときには達成感を得るとか、"明日もまた生きていこう"っていう気持ちになってもらえたらすごく嬉しいです。
-Mardelasの音楽を後世に伝えていく場としては、このアルバムのみならず、今度の["Mardelas Ⅳ" Tour 2022]も大事になってくるかと思います。ぜひ、説得力あるライヴを繰り広げてきてくださいませ。
蛇石:今回はとてもいいアルバムができたと思ってるんで、まずはそれを生の音で待ってくれている人たちのもとへ届けにいきたいと考えてます。
本石:ひたすら頑張るぞという気持ちではいますし、今度のツアーは音にもこだわりたいですね。配信の活動を通してこの2年ちょっとで音に対するノウハウはいろいろ得られたので、それをライヴでも反映させていきたいです。
及川:今回のアルバムから僕も歌詞を書くようになって、自分の弱い部分とかもいろいろ出したりしましたけど、僕たちは、みんなに希望を与えていかなきゃいけない立場だよなって心から思ってるんですよね。だから、今度のツアーではキレッキレの演奏をして、"俺たちはコロナとかあっても死んでねーぞ!"っていうところをマジで思いっきり見せつけたいです。コロナの終わりを告げるじゃないですけど、ここからの未来を僕たちのライヴを通してみんなに必ず感じさせます。