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FEATURE

GREEN DAY

2012.11.06UPDATE

2012年11月号掲載

数々の伝説を作り上げてきたGREEN DAYがテン年代に放つのは最高で最悪な“へべれけ”ロック・パーティー!!

Writer 山本 真由

00年代は、希望に飢えた時代だったと言っても良いかもしれない。テロに戦争、改善しない経済格差に失業率、自分の足元すら見えないような深い霧の中で、何に対して怒りをぶつけたら良いかもわからない子供たちに、GREEN DAYは『American Idiot』、そして『21st Century Breakdown』という強力な武器を与えてくれた。特に『American Idiot』の手榴弾をモチーフにしたアートワークは反戦メッセージをイメージさせるが、そこにあったのは短絡的な政府批判や社会批判ではなく、絶望の淵に立たされた子供たちに自分の意志を強く持って自分の人生を戦うことを諦めさせないポジティヴなパワーに満ち溢れた音楽だった。

その後、2009年にはアメリカ初のアフリカ系大統領が誕生し、2010年から2011年にかけてジャスミン革命を発端とするアラブの春があり……世界同時不況やシリア騒乱など問題は山積だが、時代は確実に動いている。そんな今、このテン年代に彼らは何を歌うのか?今年6月、GREEN DAYは新作のリード・トラックとして「Oh Love」を発表した。そう、答えはシンプル、“LOVE”なのである。
では、“LOVE”とは何か?“FUCK”、つまり“愛し合うこと”だ。脳みそからの指令より下半身からの指令が優先されるティーンエイジャーみたいな発想だが、聴いて納得、彼らの新作は前2作『American Idiot』と『21st Century Breakdown』から完全に脱皮して、バンドとして新たに生を受けたようにフレッシュなエネルギーをもって生み出されたものだ。むしろ、その印象は初期2作品『39/Smooth』と『Kerplunk』に近いと言えるかもしれない。
また、完全なる脱皮という意味では、この3部作の前2作品との圧倒的な違いは、その歌詞にあると言っても良い。プリミティヴでパーソナルな欲望と葛藤、快楽と幸福が綴られた詞には、共感という安心と見透かされたような不安を同時に喚起させ、リスナーをどんどんのめり込ませていく。「Oh Love」を聴いた瞬間の、何かが自分の中に生まれるとき、湧きあがる名付けようのない感動は、このトリロジーを象徴する感覚だろう。

今回の3部作『iUno!』『iDos!』『iTré!』について、フロント・マンのBillie Joe Armstrongは、“とにかく楽しい作品にしたかった”と語っており、そしてそのサウンドについては“『iUno!』はパワー・ポップ・パンクよりのアルバムで、『iDos!』はもっとガレージっぽいサウンド、『iTré!』はその両方を少しずつ反映している”と表現している。
その言葉通り、1作目の『iUno!』はパワー・ポップ寄りの明るくシンプルな楽曲で構成されており、初期のGREEN DAYを彷彿とさせる初々しいサウンドが詰まっていた。そして、続く2作目『iDos!』は、彼らのロックンロールのルーツを感じさせる60’sガレージや、さらにはブルースの要素がGREEN DAY流のポップ・パンク・サウンドに料理されている。
それもそのはず、本作収録のガレージ・ナンバー「Fuck Time」は、当初FOXBORO HOT TUBS(GREEN DAYの覆面プロジェクトであるガレージ・ロック・バンド)のために作られた曲なのだ。故に本作は、00年代以降のポップ・パンクに触手の動かないTHE STROKESやTHE VINESのファンなどガレージ・リバイバルに傾倒しているロック・ファンを始め、さらに幅広い層に響くだろう。
それだけでなく、カントリー調のシンプルなギター・サウンドやデルタ・ブルースをパンク・アレンジした、まさに悪魔に魂を売り渡したようなノリ、Link Wrayを思わせる泥臭さ、ROXY MUSICバリのポップネスとセクシーなメロディ、そしてさらに、かつてRAMONESのコピーなどと揶揄された彼らの初期衝動を爆発させた“ルーツの卸問屋”のような作品なのだ。多くのパンク・バンドがロックンロールのルーツであるブルースをどこかに置いて来てしまった中、ソングライティングの根幹にブルージーな色気と哀愁を漂わせ、独自のポップネスと融合させたGREEN DAYの楽曲は、絶妙な危うさと攻撃性を醸し出し、彼らを完全にオリジナルな存在として確立させている。
そして、このアルバムのもう1つスペシャルな要素というのが、全く新しい試み“女性ラッパーをフィーチャーした”、「Night Life」が入っているという点だ。この気だるくて退廃的なイメージがまた、本作独特の色気に拍車をかけている。

“『iDos!』は地獄からやってきたパーティーみたいな感じで、あるいは地獄のパーティーみたいなアティテュードがある”―Billie

『iUno!』ですっかり盛り上がったパーティーを楽しんだら、この『iDos!』という悪酔いが誘う異世界への招待に抗うことが出来るだろうか?

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