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LIVE REPORT

mitsu

2025.12.11 @渋谷REX

Writer : 平井 綾子 Photographer:尾藤能暢(Yoshinobu Bito)

ヴォーカリスト mitsuの誕生日当日である11月11日、渋谷REXを舞台に行われた"mitsu BIRTHDAY LIVE2025「Lucid Grace」"。今年は7月にソロ活動10周年を迎え、さらに"歌"の道を歩み出してからは20周年の節目の年ということもあり、mitsuにとっては例年以上に特別な誕生日だったに違いない。とはいえお祝いムード一辺倒ではなく、"俺だけが楽しいんじゃ嫌だ!"とオーディエンスと楽しさを共有することを欠かさず、"俺も含めて、今日ここにいる皆さんが新しい自分になる日です"と語ったように、mitsu主導で大いなるアップデートを遂げた1日だったと言える。そんな"今"を強く感じさせながらも多幸感に包まれた空間は、まさに夢のような現実――言わば、"明晰夢"さながらのライヴだった。

暗転と同時に、幕越しに重厚なサウンドが重なっていく。幕が開き、バンド・メンバーがmitsuを迎えたステージには、いつになく荘厳なオーラが漂っていた。スターリーな「スローペース」がロマンチックなオープニングを飾ると、続く「シュガー」ではクラップが起こり、一気にポップス感が強まる。どこか日常会話のようなフレーズを歌う様子には等身大なmitsuの人間性が滲み出ており、包容力を感じさせる大人びた一面も垣間見えた。

"2025年11月11日、「mitsu BIRTHDAY LIVE2025「Lucid Grace」」へようこそ! 楽しむ準備はできてるかい? 今夜は、なんといっても誕生日です。ただただ幸せで、ただただ来てよかったと、そんな1日にしませんか? 楽しんでいきましょう!"

こうして突入した「Live Your Life」は、ややBPMが上がっているようにも思えた。そうした部分にもステージ上のテンションがダイレクトに反映され、生命力に満ちたパフォーマンスが際立つ。さらに、ジャジーなジャムから続いた「It's So Easy」が生み出すポジティヴなエネルギーが観客の心を軽くしたのか、場内はいっそうグルーヴィに熱を上げていった。

ここでmitsuは、"気付けば自分だけのものではなく、みんなのものになっていた"と自身の軌跡を振り返った。17歳でバンドのヴォーカルとして歌い始めた頃は、"目に見えるものばかりを求め、先のことを見ていなかった"という。しかし"気付けば37歳までこの道で生かしてもらって、今、あの当時描いてた夢とか以上に価値のある時間を過ごせてる実感があります"と話していたように、これまで経験してきた苦楽は全てmitsuだけのものである。その時間の経過による重みによって味わいを増したのが、次のセクションでもあった。

まず、夢時のアルペジオがエモーショナルさを掻き立てた「鼓動」が彷彿とさせたのは、初期衝動にも似た物事が始まる起源。続く「Naked」では、ピアノを奏でるKAZAMIと向き合いながら丁寧に歌い出し、時に声を荒げる程心情を剥き出しにする姿がドラマチックなシーンを生み出していた。「Naked」の冒頭で"先に言っておくね。今日、絶好調です。今年もいいスタートになりそうです"と伝えていたのも納得の、気持ちが乗った歌声に会場中が魅了されていく。そして、温かみを纏った季節感にぴったりの「キンモクセイは君と」、さらに10周年ライヴ以来2度目の披露となる新曲が、"今"へと時間軸をグッと引き寄せた。mitsuが辿り着いたとも言える悟りの境地を綴った新曲の間奏には激情的な長尺のアンサンブルが展開され、"最高のメンバー"と紹介された"mitsuバンド"の存在を含めた彼のソロ・ワークにおいて、見事に"最新こそが最強"を証明していたと言っても過言ではない。

「水深」では、孤独や葛藤を歌う叫び交じりの歌声に大熊けいと邦夫のドラムを中心とした轟音が重なり、ステージ上を照らす海の底を思わせる照明も相まって、深淵へと突き落とされるような感覚に陥る。しかし、孤独や葛藤にもがいていた時間こそ、今となってはmitsuが飛躍するための力を蓄えるのに必要なものだったと思える説得力が宿り、決して"苦しさ"だけで終わることはない。同じ"暗さ"でも、「MIDNIGHT LOVER」では妖艶なギラつきへと転じ、mitsuがベースで先導するRENAに迫ったり最前列の男性に絡んだりと、艶やかな表情を見せた。

"進化してるでしょ? それは、続けてきた結果です"と、自信満々に口にしたmitsu。場内に起こった大きな拍手がその言葉を裏付け、mitsuの歌に魂が宿れば宿る程、バンド・メンバーとの相乗効果でレベルアップしているのは明らかで、さらにはそれゆえに起こる臨場感をステージ上のメンバー誰もが楽しんでいるようだった。直近の1年についても、"とてもいい1年でした。この1年、すごく成長できた。少しずつ優しくなれたんじゃないかな"と振り返りながら、"最近はみんなが愛を注いでくれて、孤独じゃないんだなと知ってから、呪いを自分の中で浄化できている気がして。そうなって気を付けたことは、「言葉」です。――みんなの心が解けていくような言葉を使ってこれからも生きてきたい。こういう気持ちに気付けたのも、歌を続けてきたおかげ。メンバーを含めた、みんなのおかげ。今が一番幸せです"と語っていた。

常に強くあろうとしてきたmitsuだからこそ、自分に掛けていた呪縛も多かった。その1つが、ソロでν[NEU]の楽曲を封印していたことだ。しかし今では、それが"縋る"ということではなく、胸を張って"俺の足跡"と肯定できるようになったからこそ、むしろ積極的に歌っている。さらに言うなれば、今年1月にν[NEU]を納得のいく形で完結させてからは、"歌い続けていく"という決心で向き合っているのだ。「YES≒NO」、「cube」といったν[NEU]の楽曲がここでは生バンド特有の迫力を帯びて届けられると、それに応じて躍動感を増していくオーディエンス。中でもmitsuバンドのアレンジでは初披露となった「ピンクマーブル」は、"踊れる人、いる?"という問いがもはや愚問であった程の盛り上がりを見せた。デジタル・サウンド(同期音源)を使わない点はν[NEU]と明らかに違うが、それでも各曲が持つ迫力は健在で、"同じ音楽を好きなメンバーと、俺がやりたくてやってるだけ"というのが決して強がりではなくたしかな意義を持っていたのは、バンド/ソロというmitsuの歩みがあってこそなせるものとも言える。

ここでバンド・メンバーの計らいでバースデー・ソングの伴奏とケーキが登場し、mitsuの誕生日をお祝い。そして、いよいよライヴも終盤に差し掛かると、「Crazy Crazy」、「Into DEEP」といったロック・チューンを連続で放ち、より鋭く、より自由に歌い上げていく。そして、"たぶん、大丈夫な気がする。だって俺、今、不安がないもん。今、mitsuバンドもピークにかっこいいから、これから更新していくだけ。一緒に人としてかっこ良くなっていこう"とコールされたのは、「ラストヒーロー」。"目は口ほどに物を言う"とはよく言ったもので、拳を高く突き上げながら歌うその目にはたしかな光が宿っているのが見て取れ、傷つきながらも迷わず進む決意がひしひしと伝わってきた。

ラストは、"あのときの自分のために。孤独を感じてる人へ贈ります"と届けられた「For Myself」。37歳の誕生日、かつて自分のために書き上げた歌をmitsuは笑顔で目の前の人々へ語り掛けるように歌っていた。"今日は、一緒に歌おう!"という呼び掛けに応じたシンガロングこそ、最高のプレゼントだったのではないかと思う。ソロ・アーティストにはあまり使う機会がない表現かもしれないが、バンド・メンバーとファンに囲まれて歌うmitsuの周りに広がる光景こそ"大団円"と呼ぶに相応しく、"これがmitsuというチームだ"と痛感させられたエンディングだった。そしてこれは偶然神から与えられたものなんかではなく、mitsuが自ら見つけ、掴み取ったものであることも大きな意味を持っている。

"ピークを、今日超えたね。だから「大丈夫」。来年は、もっと頑張るかも......!"と、去り際にはにかんだmitsu。"大丈夫"というさりげない一言に、こんなにも頼もしさや期待の念を抱いたことはない。冒頭でこの日のライヴを"明晰夢"と形容したが、"明晰夢"というのは夢だという自覚があるがゆえに自分の意思でコントロールできるという説がある。mitsuの意志がある限り、この夢のような空間はより鮮明に価値あるものへと変化し、覚醒していくことだろう。

[setlist]
1. スローペース
2. シュガー
3. Live Your Life
4. It's So Easy
5. 鼓動
6. Naked
7. キンモクセイは君と
8. 新曲
9. 水深
10. MIDNIGHT LOVER
11. YES≒NO(ν[NEU])
12. cube(ν[NEU])
13. ピンクマーブル(ν[NEU])
14. Crazy Crazy
15. Into DEEP
16. ラストヒーロー
17. For Myself

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