INTERVIEW
INORAN
2025.09.22UPDATE
Interviewer:杉江 由紀
まだこの人生の中で"ニライカナイ"を探すことができているのが、幸せだなと
-今作の中だと、特に「Diffused reflection」はグルーヴの存在感が強い曲になっていませんか。生身の人間が醸し出している音ならではの絶妙な揺れ感が最高です。
ありがとうございます。僕もそう思いますよ(笑)。
-ちなみに、この『ニライカナイ -Rerecorded-』を制作されていくなかで、INORANさんにとって最も手強かったのはどの曲になりますか?
やっぱり、1曲目の「Determine」は難しかったですねぇ。人間っていろんな知識を得て、いろんな経験もして、賢くなればなる程物事の捉え方が複雑になってくるでしょ? そういう意味で、この曲は、一旦ちょっと身に付いてるものを振り払いながら向き合っていくことが必要でした。と言っても、なかなか振り払い切れないものもあったりして(笑)。
-そこも含めて、今現在のリアルな音がここには封じ込められているのでしょうね。今回の「Determine」に関しては、旧バージョン以上に力強さや生命力がいっそう増しているように聴こえます。
そうだね。やっぱり今回リレコーディングして良かったなと感じてます。
-なお、INORANさんはギタリストとしてエレクトリック・ギターとアコースティック・ギター、その両方を曲によって使い分けていらっしゃいます。楽器それぞれとの付き合い方というのも、18年前と今では違いますか?
違うでしょうね。そのつど、その都度、自分にとってのトレンドは移り変わってきてるし、今回のレコーディングでは、エレクトリック・ギターとアコースティック・ギターの割合が結構変わってるんですよ。オリジナルのときはアコースティックがめちゃめちゃ多かったんですけど、今回はカットした部分がわりとあります。
-18年前と今ではレコーディング技術、機材の面でも大きく進化しているのだと思いますが、ギターの音を録っていく際に"エモさを求めるのか"、あるいは"完成度を求めるのか"でいうと、今回のINORANさんはどちら寄りでしたか。
俺はいつの時代のエモさ優先(笑)。そもそも理論をよく知らないし、譜面も読めないですからね。ここまでずっと感覚を頼りに生きてきちゃったから、余計なことを考え出すとそれに邪魔されるんです。
-エモさとは少し違いますが、「Walk along」に漂う穏やかでニュートラルな感覚からは癒しを感じました。オリジナルよりもより優しい味わいになっておりますね。
当然18年前とも違うし、これがもし10年前に録り直してたとしても、またこれとは違ってたんじゃないかな。今の大人なところがいい形で出てるんじゃないかと。
-それから、この『ニライカナイ -Rerecorded-』は、歌詞を見渡してみると"明日"や"未来"といったポジティヴな言葉が随所に見受けられます。INORANさんにとってのこれらに対するイメージというのは、18年前と今で違いはあるでしょうか。
違うところもあるとは思うんだけど、相対的に見たら一緒な気がする。自分から発信するものは希望を感じさせるものや、ポジティヴなものでありたいと普段から思っているんですよ。言霊ってあるからね。
-なるほど。では、さらに伺わせてください。「I miss you」でINORANさんは、"何が 僕には今から出来るのだろう"と自問自答をされているのですが、18年前に書かれたこの詞に対する"答え"はその後に見つかったのでしょうか。
ふふふふ(笑)。面白いことを聞きますね。明確な答えっていうのは出てないけど、いい悪いは別として上手くはなったかもしれない。それは誤魔化し方だったり、はぐらかし方だったりする可能性もあるけど。でも、この"何が"っていう部分に対しては30代のときと50代の今では全然意味が違うよね。それと同時に、結局これは正解がないものだから。正解がないものに対して、どうやって人に伝えるか? というね。この曲はそんなことを考えながら歌ったわけです。
-そんな「I miss you」には"失うことでしか 気づかなかった"という一節もございます。そこについての今現在の感覚は、INORANさんにとって変化はあるでしょうか。
失うことでしか、とは今は思わないかな。今のほうがそこのレンジは広くなってるし、失う前に気付くことができるようになったっていうのもあるし。それでも、失うことで初めて気付くっていうことはやっぱりあるからね。
-「I miss you」はそのあたりの深さが増したことで、ことさら説得力を増したように感じます。考えさせられるところも多いというか。
こういう曲の歌詞やメロディに対して、聴いている人たちが自分をもっと投映できるようなものになるといいなと思っていたので、そう感じてもらえると嬉しいです。
-「時の色」は響きが素敵な曲に仕上がっておりますが、作っていらっしゃるときにはギタリストであるご自身と、歌われるご自身、どちらの視点に立たれていたのでしょう。
この曲に限らず、今は歌かな。だけど、ギターを弾くときは未だにギタリスト脳ですよ。同時にやるとギターを優先するんですけど、ソロで音源を作るときはやっぱり歌です。ここまでの経験によって、歌の大事さというものがどんどん分かってきてますね。
-今作の場合は、全曲が日本語詞であるというところも影響していそうです。
英語と日本語では発声の仕方からして違うし、それこそ行間や隠れてるものは日本語で歌ったほうが細かく表現しやすいというのは、たしかにあると思います。
-さて。『ニライカナイ -Rerecorded-』のラストを締めくくるのは、"旅は終わらない 存在のカケラ 探してく"というフレーズが響く「存在のカケラ」です。これもまた実に味わい深い一曲ですが、当時この曲を最後に置いた理由は覚えていらっしゃいますか?
この作品は沖縄でのある1日を描いたもので、この曲は夕日が落ちていく情景を歌ったものだからなんですよ。陽が落ちていく光景と自分の心情を重ねて作ったわけなんですけど、なんで1日が終わろうとしてるのに希望が生まれてくるんだろう? とか、なんでみんなで夕陽を見に行ったりするんだろう? とか考えたときに、これは1日というものに対する感謝の気持ちがあるからなのかなと、感じたところがあったんですね。あとは、次に向かっていけるということに対しての喜びを感じるからなのかな? とか。そういう自然の巡り、人間という生き物の持っている揺らぎを曲にしたかったんです。
-加えて、今さらではありますが"ニライカナイ"という言葉についても、改めての解説をINORANさんからいただけますと幸いです。これは沖縄地方において理想郷を意味する言葉であるそうですね。
あの時期にこの素敵な言葉をいただいて、アルバム・タイトルにもさせてもらえたことは、僕にとって大きな意味がありました。というのも、まだ自分はそれを探してるからなんですよ。まだこの人生の中で探すことができているのが、すごく幸せだなと今改めて感じてますね。
-今作の公式資料には"ルーツに戻ってみる。そうすることでまた新しい冒険のテーマが湧いてくる"との文言もございます。このたび、INORANさんが『ニライカナイ -Rerecorded-』を録り終えたことで、ルーツに戻れたのだとすると、ここから始まっていく新しい冒険"INORAN TOUR Determine 2025"も、実に楽しみですね。
そうなんですよ。これから始まっていくツアーという名の旅がとにかく楽しみだし、その先の未来もほんとに楽しみで、そこに繋がっていく作品としての『ニライカナイ -Rerecorded-』を作れて、本当に良かったなと思ってます。
-INORANさんにとってバンドとソロは強い相関関係を持ったものであり、完全なる並行世界であるということを今回の取材では再確認させていただけた思いです。
僕からすると、どっちがどっちとかって分けられないものなんですよ。完全に紐付いてますからね。自分の中では違いも別にないんですよ。
-すでにその領域にまで達していらっしゃいますか。
周りの人たちは何かと分けたがるけどね(笑)。バンドの現場にはバンドのファミリーとファンがいて、それはソロも同じことだから。どっちの場でも自分は心を込めてプレイしたり歌ったりするだけ。両輪があることの幸せを活かしながら、これからも活動していかなきゃいけないなと思ってます。まぁでも、無駄な力を入れず心を開いていれば、より面白い新たな冒険とまた巡り合っていけるんじゃないかな。