INTERVIEW
I PREVAIL
2025.09.30UPDATE
Member:Eric Vanlerberghe(Vo)
Interviewer:菅谷 透 Translator:金子みちる
初来日となった"NEX_FEST 2023"でのパフォーマンスが大きな話題を呼んだI PREVAILが、4thアルバム『Violent Nature』を発表。ツイン・ヴォーカルでクリーン・パートを担っていたBrian Burkheiserの脱退を経て、スクリーマーのEric Vanlerbergheがクリーンも兼任する、新たな布陣でのリリースとなった最新作は、タイトルが示す通りにバンドのアグレッシヴな側面を押し出した作風で、過去最高クラスのヘヴィネスとエモーションが交錯する強力な一枚となった。新章に突入したバンドと、アルバムについてEricに語ってもらった。
1~2年前の俺だったら、自分がこんなことを歌う必要があるなんて、全く想像もできなかったんじゃないかな
-"NEX_FEST 2023"で来日した際にインタビューさせていただきましたが、東京公演の感想はその前日の取材だったためお聞きできませんでした。改めてどのような印象だったか伺えますか?
人生の中でも最高の時間の1つだったよ。本当に素晴らしかった。あの公演は俺にとってこれまでのライヴの中でも特にお気に入りだった。初めての日本だったということもあるけど、それを抜きにしても、すごく特別な体験だったんだ。旅そのものもそうだし、日本での経験そのものが信じられないくらい素晴らしかったな。ライヴの出来はまさに10点満点だった。あのショーの素敵な思い出はたくさんあるし、今でもしょっちゅう思い出すよ。俺たちはまた日本に行きたいって話ばかりしてるからね。本当にまた日本へ行くのが待ち遠しいな。オーディエンスも最高だったし、人々もみんな素晴らしかった。言葉では言い尽くせないくらい、素晴らしい時間を過ごせたよ。
-最新アルバム『Violent Nature』は、あなたがクリーンを含むメイン・ヴォーカルを一手に担ったアルバムになりました。新たなヴォーカルを入れる、ライヴでクリーンを担当したギタリストのDylan Bowmanをメインにする、あるいはスクリーム主体のバンドになる......等様々な選択肢があったと思いますが、あなたがメイン・ヴォーカルを担当することになった要因はなんでしたか?
過去のアルバムでも、俺はちょっとしたハーモニーとか、時々部分的に歌うことがあったから、ある程度経験があったんだよ。そんなわけで、俺が唯一のヴォーカリストになることになった要因は、I PREVAILのレコードを聴いている人たちにとって、俺のヴォーカルはすでに馴染みがあって、もう少し歌ってみるいい機会なんじゃないかと思ったからだ。ライヴでは、これまでDylanはバッキング・ヴォーカルを歌ってきたし、(クリーン・ヴォーカルを担当していた)Brianが歌っていなかったパートも担当していたから、今後は、古い曲の多くは彼が歌うことになると思う。
実のところ、今回の新しいアルバムでは彼がほとんどの曲でハーモニーを歌っているんだ。これは俺たちが意識して取り組んだことで、ライヴで演奏するときに、ハーモニーが全部トラック任せにならないようにしたかった。つまり、レコーディングでも俺とDylanが一緒に歌うことで、ライヴでも同じように再現できるようにしたかったんだよ。そうすればアルバムを聴いたときとライヴで聴いたときの印象がほとんど変わらないから、それが目標だった。ただ、Dylanにはギター・プレイとハーモニーに集中してもらいたかったし、全く新しい声にリスナーを慣れさせるよりも、もともと少しは俺の歌声を聴いたことのある人たちに、もう少しだけ俺の歌を聴いてもらえるようにしたかったんだ。
-その決断をした際、メンバーはどのような反応をしていましたか?
この件に関しては、みんなで特に話し合いをしたわけではなかったんだ。ただ、自然と"よし、これでいこう"ってなった感じだった。特に話さなくてもみんな同じ考えだったんだ。こうやってバンドが先に進んでいくんだって共通のヴィジョンをみんなが持っていたから、すごく良かったと思う。
-これまでにクリーン・ヴォーカルを担当した経験はあったのでしょうか?
ああ。I PREVAILを始めるずっと前、地元で活動していたバンドではスクリームも歌も両方やっていたよ。それから過去のツアーで、前のヴォーカリストが声帯を痛めたりしてツアーに参加できないときがあったんだ。そのとき、俺とDylanが代役を務めなきゃならなかった。Dylanが大部分を担当していたけど、複雑なギター・パートと同時には歌えない部分もあって、そういうところは俺がその場で覚えてなんとかやるしかなかったからね。まさに"火の中に放り込まれる"とか、"水の中に投げ込まれて泳ぐか沈むか"っていう感じだったよ。今振り返ってみると、あのときの経験が自信に繋がったのは間違いない。"一度やったことがあるんだから、またやれる"って思えたからね。
-クリーン・ヴォーカルを担当するにあたって、トレーニング等は行ったのでしょうか?
正直に言うと、特別なことはしていないんだ(笑)。ほとんど独学だったからね。ただ最近、すごく上手いヴォーカリストの友人ができて、その中の1人は自分のバンドで歌っているだけじゃなくて、ヴォーカル・コーチもやっているんだ。彼に連絡を取って、ウォームアップやクールダウンのちょっとしたコツとか、声を長持ちさせるための方法なんかを教えてもらった。でもそれ以外は、基本的にはずっと独学でやってきたよ。
-最新アルバムでは、これまでバンドが持っていたポップでキャッチーな面とヘヴィでアグレッシヴな面のうち、タイトル"Violent Nature"が示すように後者に比重が置かれているように感じました。楽曲制作において念頭においたことはなんでしょうか?
これまでもヘヴィな曲はあったけど、今作程のレベルには達していなかったと思う。俺たちはアルバムを作るたびに、次はどうすればもっと良くなるか、どうすればもっと発展できるかって考えているんだ。
このアルバムでは、自分たちの未来がどうなるか分からないなかでどの方向にバンドを推し進めていくべきか、そして、どうすればI PREVAILらしさを保ちつつサウンドを広げていけるかという問いがあった。で、今回俺たちが絶対にやりたかったことの1つは、よりヘヴィなサウンドに挑戦することだったんだ。だけど同時に、前作(2022年リリースの3rdアルバム『True Power』)で少し欠けていた、キャッチーでメロディックなコーラスを大々的に作ることも大切にしたかった。もちろん前作でもなかったわけじゃないけど、あのときはそこにあまり重点を置いていなかったと思う。もっとエレクトロニックな要素やラップの要素とかを試していたからね。
だから、このアルバムに取り掛かるにあたって、2つのことを決めたんだ。1つは、ヘヴィな曲をさらにヘヴィにすること。そしてもう1つは、これまでで一番ビッグで一番キャッチーなコーラスを作ることにもう一度力を入れる。この2つがアルバム制作中の俺たちのチェックリストの項目だったんだ。
-前作の『True Power』や前々作の『Trauma』(2019年リリースの2ndアルバム)では、Tyler Smythがプロデューサーを務めていましたが、本作ではJon Eberhard(Ba)がクレジットされています。彼が担当した経緯を教えていただけますか?
『Trauma』の頃に、数曲だけJonと一緒に作業したことがあったし、その後『True Power』でもTylerと並行して何曲かJonと一緒にやったんだ。それで彼とすごくいい関係になって、"もっと一緒にやってみたい"と感じるようになってね。ちょうどその頃、バンドにはベーシストがいなくて、ギター2本の編成だったから、まずベースを入れようという話になり、Jonのステージでの存在感やプレイ・スタイルがバンドにぴったりだったから、彼をバンドの正式メンバーに迎えたんだよ。彼はプロデューサーとしても優れているから、おかげで今ではツアー中でも曲作りやデモ制作ができるようになったんだ。
それに、彼は俺たちの住んでいる場所からそんなに遠くないところに住んでいるから、わざわざLAみたいな遠くに出向いて、長い制作期間を設ける必要もない。地元で作業ができるというのは本当に素晴らしいことだし、ツアー先でも彼と一緒に曲作りをするのは本当に大きな武器になったと思う。
実のところ、彼と一緒にデモ制作を始めたとき、彼こそが俺たちの求める人材だと確信したよ。彼はハングリー精神に満ち溢れていてとても意欲的だし、それにツアーで一緒にライヴをやっているからこそ、観客の反応やモッシュの瞬間を肌で感じて、それを曲作りに活かしてくれるんだ。俺たちはこれまで"ライヴでこんなふうに盛り上がる曲を作ろう"とか、そういったことを考えて曲を書いたことはあまりなくて、常に"アルバムにとって最高の曲を作ろう"と思ってきた。でもJonが入ったことで、曲作りのヴィジョンに"ライヴでどんなふうに聞こえるか"という視点が加わったんだ。彼は本当にクリエイティヴな思考回路を持っていて、俺と音楽的に共通点も多い。彼と一緒に作業することで、俺たちの新しい側面が開けたと思う。
-バンドはこれまでEDMやトラップ等の要素も積極的に取り入れてきましたが、今作ではドラムンベースやインダストリアル・ミュージックといった、新たなサウンド・アプローチを感じました。アレンジメントで意識したことはありますか?
一番しっくりくる表現は、毎回アルバムを作るたびに前作を振り返るっていうことかな。"何が上手くいったか、何があまり良くなかったか"、"やりすぎた要素は次では少し休ませて、また別の機会に取り入れよう"とか、そういった話をするのさ。さっきも言ったように、今回はビッグなコーラスを書くことと、I PREVAILのヘヴィな部分をさらに広げることに重点を置いていたから、エレクトロニックやラップ的な要素はあまり必要ないと判断したんだ。
でもそれは俺たちのDNAに刻まれているものだし、本作には合わなかっただけで、俺たちが得意とするスタイルの1つだと思ってる。もしかしたら次のアルバムではまたその方向に強くインスパイアされるかもしれないしね。俺はI PREVAILで曲を書くとき、メンバー全員の音楽的なバックグラウンドがすごく幅広いところが好きなんだ。メタルもロックもラップもエレクトロニックも、みんなそれぞれいろいろなものが好きだから、10曲前後のアルバムに全てを詰め込むのは難しいんだよ。だから、エレクトロニックやラップの要素を捨てたわけじゃない。ただ今回のアルバムには合わないと感じただけで、今後どうなるかは誰にも分からないな。
-歌詞の面では、全体にテーマ等は設けたのでしょうか?
特にコンセプトやテーマを決めて作り始めたわけじゃないんだ。これまでのアルバムでもずっとそうだけど、歌詞はいつも心から出てくるものや個人的な経験に基づいて書いてきたし、今回もそれは変わらない。曲を作り始めたら、いろいろなテーマが音楽の中に自然と浮かび上がってきたんだよ。多くの場合、まずインストゥルメンタルから作り始めて、その音楽が持つムードを追い掛けていく。それが少し沈んだ雰囲気だったり、怒りだったり、何かしらの感情を帯びていたら、1stアルバムからずっと一緒に歌詞を書いているSteve(Menoian/Gt)と俺とで"この曲はこんな方向性を感じるけど、君はどう思う?"って話し合うんだ。逆に彼から俺に問い掛けてくることもあるね。
このアルバムには、人間関係のいざこざや、壊れてしまった関係についての曲がいくつかあって、最近の出来事から2年前のことまで、いろんな時期のことが題材になっているよ。今回初めて気付いたんだけど、別れとか苦難とか、何かを経験した直後はすぐに深く掘り下げて処理するのが難しいことがあるんだ。時には少し時間を置いて、冷静になってから振り返る必要がある。そうすることで、自分と正直に向き合って、その問題の原因が自分にあったのか相手にあったのか、きちんと理解することができるようになると思うんだ。だからこのアルバムには、近しい人に裏切られたことや、壊れた関係を改めて見つめ直すような内容の曲もいくつかある。それは癒えていないかさぶたみたいなもので、時にはもう一度開いて、中をきれいにして、何が問題だったのかを見つめ直す必要があるんだよ。
今回の曲作りはまさにそういう感じで、俺たちが個人的に、あるいはバンドとして抱えてきた未解決の問題をもう一度掘り起こして向き合う作業だったと思う。だから面白いことに、最初は"このアルバムはこういうテーマでいこう"って決めていたわけじゃないのに、1曲、また1曲と曲に命が吹き込まれていくうちに、気付けば自分が進むことになるとは思ってもいなかった道へと導かれていったんだよ。だからこそ、俺はこのアルバムが本当に好きなんだと思う。1~2年前の俺だったら、自分がこんなことを歌う必要があるなんて、全く想像もできなかったんじゃないかな。じっくり時間をかけて自分の本音を掘り下げることで、初めてリアルで本物の歌詞に辿り着くことができたんだと思う。