INTERVIEW
kein
2025.07.08UPDATE
2025年07月号掲載
Member:眞呼(Vo) 玲央(Gt) aie(Gt)
Interviewer:サイトウ マサヒロ
keinが7月9日にメジャー2nd EP『delusional inflammation』をリリース。今回も、22年ぶりの再結成後に書かれた新曲たちを収録。バンドが渾然一体となって獰猛に襲い掛かってくる前作『PARADOXON DOLORIS』に対して、本作は眞呼の紡ぐ歌と言葉が手招きするような蠱惑的な魅力を放つ。その変化は、彼等がレジェンドとして――言わば化石的な存在ではなく、今なお生々しく蠢き続けていることを証明している。全5曲に刻み込まれた現在地について眞呼、玲央、aieの3人に訊いた。
-まずは前作について聞かせてください、2024年11月にリリースしたメジャー・デビューEP『PARADOXON DOLORIS』は、再結成後に制作された新曲が詰め込まれたこともあって、第二の処女作的な重みを持った作品だったのではないかと思います。周囲からのリアクションはいかがでしたか?
玲央:"こういう作風のEPをメジャーから出せるんだね"と言われました。垣根がなくなってきているとはいえ、メジャー・デビューというものに対する固定概念を持っている人はまだ多いので。
aie:たしかに。俺も黒夢で言えば「for dear」、LUNA SEAで言えば「BELIEVE」みたいな曲じゃないとって思うし。
眞呼:サイン会に海外の方が来てくださったのが嬉しかったですね。"好きです"って言われて、"私も好きです"と答えました。
-遠くのリスナーまでリアルタイムに音楽が届くのは、再結成以前の時代ではありえないことだったわけで。
玲央:そうですね。あとは単純に、再結成したっていうこと自体がまだ行き届いていなかったので。メジャー・デビューして店舗さんや媒体さんに展開していただいて、keinが現在進行形なんだと広まっただけでもすごく良かったと思います。
-リリース・ツアー("TOUR'2024「PARADOXON DOLORIS」")では、セットリストに新曲が加わりました。
玲央:意外と、20年以上前の曲と合わせても違和感のないメニューを組むことができたかな。そう考えると、各々が別の活動をしつつ普遍的に好きなもの、カッコいいと感じるものが変わらないままでまた集まれたのかなと思います。
眞呼:曲を作っているときから、"この人がこんな曲を作るんだ"っていう驚きがあって。でも、今このタイミングでこの曲を作るってことに納得感もあるというか。それぞれの活動の反動なんじゃないかなって。もしバンドがあのまま続いてたら、『PARADOXON DOLORIS』より、『delusional inflammation』のほうが先にできてたかもしれない。
-再結成以前と以後で、ライヴの空気感やフロアの光景の変化についてはどう考えていますか?
aie:"お互い歳取ったね"と感じつつ(笑)。当時の俺たちはまだキラキラしていたし、その頃の彼女たちの目はハートだったけど、いろんな人生を経て、ちょっと違う目になってる。
眞呼:ピンクだったのが、紫になっちゃったよね。
aie:それだとよりエロくなってる(笑)。今はもっとラフに楽しもうっていうか。"今日は気合を入れてお気に入りの服を着よう"もあるし、"この日だったら子どもを預けてライヴに行けるかもな"もある。俺たちにもルールはないし、誰でもふらっと来て楽しめる、純粋な音楽としてのライヴができるようになったと思います。
玲央:縛りみたいなものを感じなくなってますね。再結成前はそういう息苦しさがお互いにあったと思うんです。こんなバンドのライヴのときはこうやって乗らなきゃみたいな。今はもっとオープンになりましたよね。
-そうして開けた場所を作り上げていくなかで、先程の眞呼さんのサイン会でのお話もありましたけど、新しい人にkeinが届いているという実感はありますか?
眞呼:どちらかというと、私たちのほうが新しい領域に入って行ってるのかもしれない。かつてはヴィジュアル系じゃないといけないと感じていた部分があって、ヴィジュアル系が好きな人だけに届けていたけど、今はそうじゃないところに飛び込んでる。
玲央:当時は音源を取り扱うのも専門店のみで、インターネットも今程充実してなかったですから、自ずとそういう客層の方しか作品を手に入れられなかったんですよね。そう考えると、今は本当に興味を持った人が選別されることなく楽しめる環境になっているので。お客さんも多種多様になってきた気がします。
aie:そもそも、ヴィジュアル系自体がよく分からなくなってきてる。どっぷりこのシーンにいて、"この沼を抜けることは不可能なんだろうな"って半ば諦めて生きてきたけども、そんなことを思ってるのは40代のバンドマンくらいで、下の子たちはそもそもヴィジュアル系をやってるという感覚もなく、たまたまそこのシーンにいるだけみたいな。例えばSUPER BEAVERと何が違うのって聞かれても答えられなくなってきてるし。(※keinのアーティスト写真を指しつつ)BTSが黒い服を着たらこんな感じになるんじゃねーのかとも思う。俺たちの掲げ方次第だから。まだまだ自分のことをヴィジュアル系だと思いすぎてる気がする。
-まだまだkeinというバンドを自由に解き放てるような気がする?
aie:先輩たちがどうしてもこの沼から抜け出せないのをずっと見てるから難しいなと思いつつ、もっと自由にやれるんじゃないのかって。だから、どっちともつかないようにやってはいます。
-では、7月9日にリリースされる2nd EP『delusional inflammation』について。制作はいつ始まったんですか?
玲央:『PARADOXON DOLORIS』のリリース・ツアーの打ち上げで、2025年の夏頃に、このぐらいのボリュームのものを出したいっていう話をしたのがスタートです。そこで僕が、今作(『PARADOXON DOLORIS』)はライヴ映えするエネルギッシュな曲を集めたけど、次作はkeinが持ち合わせていながらもあまり表には出してこなかった"メジャー感"、"抜け感"といった要素を意識した作品にしないか? って提案をしました。それをそれぞれが咀嚼して原曲を作り、完成させたんです。
眞呼:曲を持ち寄ったのは3月末でしたね。
玲央:作業の初日で収録曲は固まりました。
-その"メジャー感"というキーワードを、皆さんはどのように解釈したのでしょうか。
玲央:僕の中での"メジャー感"は、8ビートとその名の通りのメジャー・コード。やっぱり、多感な時期に聴いた80年代後半から90年代のロック・バンドですよね。その頃の邦楽が今でも好きで聴きますし。
-10代の自分が聴いてガツンとやられるようなイメージですね。
玲央:はい。流行ってることをやろうっていう発想はなくて、あくまで自分の中にある要素から作り上げれば嘘がないし、得意なことでもあるので。ただ、それに引っ張られるのも良くないから、制作にあたって聴き返すのはしませんでした。
-aieさんにとっての"メジャー感"は?
aie:keinじゃないところからオーダーを受けたとしたら、NIRVANAの「Smells Like Teen Spirit」やレッチリ(RED HOT CHILI PEPPERS)、スマパン(THE SMASHING PUMPKINS)のようなポップさに行くと思うんですけど、今回は日本のロック・バンドがメジャーから出したシングルっていうのをイメージしました。で、やっぱり90年代。あの頃好きだった先輩たちの音楽を、30年くらい演奏してきて、スキルもそこそこ付いてきた俺たちがやったらどうなるかっていうアプローチですね。
-楽曲展開の分かりやすさとか?
aie:そう。Aメロ、Bメロ、サビがちゃんとあるっていう。keinはそういうバンドだと思うから、そこは気を付けたかな。
-そうして完成した作品に付いたタイトルが"delusional inflammation"。あまりメジャー的な分かりやすさがある名前ではないですが......。
aie:俺たちも昨日まで読めなかったですから(笑)。
-(笑)"妄想による炎症"を意味し、名付け親は眞呼さんだそうですね。
眞呼:真実や事実を無視した勝手なイメージが先行している世の中って、まさに妄想だなと思って。"この人って、こういう人そう"ってイメージがあると、それがその人そのものになっちゃうんですよね。その気持ち悪さ。
-その思いは、収録曲の歌詞を書いていくなかで立ち上ったのでしょうか? それとも、こういうことを描きたいというモチベーションが初めからあった?
眞呼:前から漠然と思っていたことでした。世間であっても、近くにいる人であっても、本当のことはどうでも良くて"◯◯そう"で物事が進んでいくから、どうでもいい世界だよなって感覚はずっとあったんです。でも、それが間違っていた場合、炎症を起こすわけですよ。"これが特効薬ですよ"って言われて飲んでみても、身体は拒絶して、正直に事実を語るというか。我々には耳があるし目があるし言葉も喋れるんだから、五感をフルに活用して物事を考えたら、もっと世の中って良くなるんじゃないかなと思います。
-真実や事実を無視して見たいものだけを見ていると、いつかハレーションが起きるということですね。「幻想」の歌詞はファンタジーな言葉選びではあるものの、まさに"妄想による炎症"を患っている現代社会を見つめている歌詞なのかなと。
眞呼:まさにそうです。村のような、小さいコミュニティで起こったことと考えてもらってもいいんですけど。
-そういったメッセージも含めて、ライヴを意識した前作に対し、今作は眞呼さんの歌と言葉をじっくり聴かせる内容になっていますね。
玲央:それも"メジャー感"や"抜け感"で、再結成前のkeinから持ち合わせていたものだと思っています。その部分を今回はより強く出そうと。なかった要素を持ってきたわけではなく、もともとあったものを、レイヤーを入れ替えて表に出してきたというだけなんです。