INTERVIEW
マチルダ
2023.12.06UPDATE
2023年12月号掲載
Member:喰(Vo) 一檎 ジャム(Gt) ヰ瞑 うに(Gt) 時雨 環(Ba) 米田 米(Dr)
Interviewer:杉江 由紀
"明確にこのことについて考えて作りました、あなたはどう感じます?"っていうものを作っていきたい
-ただ、それに次ぐのは「新宿鮫」ではなく「トレパネーシヨン」です。この曲にはKYOKUTO ROMANCEのRyuji(Ba)さんがコンポーザーとして参加されているようですが、これはいかなる経緯で実現したことだったのです?
時雨:実は、僕の師匠がRyujiさんなんです。楽器を初めた直後に出会って、それから16年くらいの関係になります。今回はマチルダにとって初のフル・アルバムということで、作曲をお願いしました。僕からは"ベースは簡単にしてください"って頼んだはずなんですけど、できたのを聴いたら全然簡単じゃない曲になってて、"これくらい弾けるのがベーシストとして最低限のラインだぞ"って言われたんですよ。"もし弾けないんなら、今年中に引退しろ"とも言われて、完全にヤられました(苦笑)。
-無事、その課題には応えられたようですね。スラップ満載の仕上がりです。
時雨:普段は全然やらないし、得意じゃないんですよ。でも、そういうRyujiさんのスパルタなところはキライじゃないんで、なんとか今回は頑張りました。
米田:「トレパネーシヨン」は僕も左腕が大変でした。自分にとってもこれはすごい新鮮で、難しいっていうよりは新鮮で楽しい! っていう気持ちで叩けたんですけど、左腕の使い方は今までにないくらい忙しかったです。
一檎:その点、「トレパネーシヨン」のギターは今回のアルバムの中だと比較的シンプルなほうかもしれないですね。ギター・ソロだけ速弾きなので、そこは楽しく弾きました。
ヰ瞑:いつもと違う人が作ってる曲だから、こういう感じもマチルダでやれるんだなっていうのは発見でした。大人っぽい感じが好き、って思いました。
-なお、この「トレパネーシヨン」の歌詞は殺人とはまた別の方向性で、かなりショッキングなものになっているようですね。
喰:これもリアルな話がモチーフです。穿頭術って言って、頭蓋骨のおでこ部分に手術で穴を開けると第六感を目覚めさせられるっていう話を信じている人たちがいるらしいんですよ。マジ意味わかんないですよね(笑)。でも、これはその件をもとに書いた詞です。
-一方、リード・チューン「新宿鮫」も実際に起きた事件をもとにした曲ということですが、この全体的に漂う緊張感はなんとも言えませんね。
米田:拍子的に言うと、似たようなパターンが連続しているように聴こえると思うんですけど、実際には裏打ちのアクセントのつけ方で印象を変えるようにしていたりするので、これは細かい動きを入れながら叩いていく必要がある曲でした。
時雨:ベーシストとしては、音を止めるタイミングが大事でしたね。ギターとはユニゾンで、ドラムとは縦で合わせるっていうことも必要で、ここまで止めて合わせるっていうことを考えた曲は今までなかったです。
一檎:ここまでベースとユニゾンするような曲ってほんとなかったんで、これはサビのメロ以外はエッジ感のあるリフで聴かせるタイプの曲になったと思いますね。
ヰ瞑:僕は開放弦を使ったのがこの曲でのポイントかなぁ。
-各メンバーのアプローチが生きたことで、この「新宿鮫」はとてもドラマチックな楽曲に仕上がりましたね。ところで、先ほど喰さんは「新宿鮫」の詞は現在のトー横問題と繋がるものだと話されていましたが、ひと口にトー横と言っても、マス・メディアの中で扱われるトー横とSNSの中で見るトー横、そして実際に通りかかったときに見かけるトー横はどれも同じようでいて、実は違うような気がするのですよ。そのあたりを、喰さんとしては今どのような視点でとらえていらっしゃいます?
喰:僕もその3つってそれぞれ違うと思いますね。新宿はライヴで行くこともあるし、何もなくてもただ行って街を観察するのも好きなんですけど、自分としては受け手側に対してドラマチックではあるけど、リアルに伝わりやすいような詞を書いて歌ってます。
-かと思うと、四つ打ちビートのアッパー曲「バラバラ」は、曲調のポップなハジけ方に対して内容は殺人というギャップがとても強烈です。なんなら、詞も最初はハッピーに始まるところが怖いですよね......。
喰:そりゃだって、恋愛って最初はハッピーなもんじゃないですか(笑)。でも、2行目からもう一気に悲しくなっちゃいますからね。曲調とのギャップもあるので、サイコパスみはわりと出せたんじゃないかと思います(笑)。
-「トレパネーシヨン」の詞については"マジ意味わかんない"と発言されていた喰さんですが、この「バラバラ」の主人公である女性の心境についてはいかがです?
喰:自分がその立場だったら、こういう気持ちになるかもなっていう視点は持ったうえでこの詞は書きましたね。この狂気は理解できます。簡潔に言うと、これは心がバラバラになってしまった結果、相手をバラバラにしましたっていう歌ですから。そして、この曲に限らずですけど、聴いたときの音は一緒でも使ってる漢字が違うとか、いろいろこだわってる点も多いんで、できれば歌詞カードを見ながら聴いてほしいです!
-歌詞および楽曲ともに「感動ポルノ」も聴き応えのあるものに仕上がっておりますが、思うにこの曲でもマチルダの新しい一面が提示されているのではありませんか。
喰:ですね。マチルダは振り幅の広いバンドだと思うし、ここから先もよりそうなっていきたいと思ってるんですけど、この「感動ポルノ」は音的に言うとちょっと大人っぽい方向に振り切った曲になったと思います。
米田:この曲はグルーヴ感を出すのがめちゃめちゃ大事でした。
時雨:あんまり目立ちすぎないように、でも大事なところはしっかり支えてっていう弾き方をしていきましたね。
一檎:ここまでマチルダを6年やってきて、今だからこそやれたのが「感動ポルノ」かなと思います。最初のうちだったら、ギターもこういう音はきっと出せてなかったですね。
ヰ瞑:難しいなって思いながら、この曲は弾きました。今回のレコーディングで、精一杯着いていった感が一番強かったのはたぶんこの曲でしたね。
-「感動ポルノ」の詞は、何がきっかけとなって生まれたものだったのでしょうか。
喰:"ポルノ"っていうとちょっとエッチな意味にとられがちですけど(笑)、これはタイトル通りに感動を煽るようなものをテーマにした詞です。世の中にはフード・ポルノとか、いろんな種類のポルノがあるじゃないですか。その中で、僕が題材として最も面白そうだなと思ったのが感動ポルノだったんですよ。
-ここ数年で多様性という言葉がもてはやされるようになったのと同時に、社会的価値観の拡がりが生まれることで、人々の間の分断はより激化してしまったところがあるように思います。チャリティは偽善だ、いや善だ。障害者に対する気遣いは時に差別にもなりうる、といった意見などもいろいろと出てくる昨今ですので。そうした世相にまで斬り込んでいるこの詞世界は、考えさせられるところが多いです。
喰:いろんな視点で語る人がいて、どの視点も支持される時代になってますからね。多様性だ多様性だって言うんで、いろいろ拡がりすぎてこれも"バラバラ"になっちゃってる感じ(笑)。その状態自体が争いを生みやすくなってるんじゃないかと思います。
-マチルダの楽曲はどれもエンターテイメント作品ではありますけれど、ひとクセあるうえに噛み応えがありますし、どれもドラマとリアルが交錯していて面白いですね。
喰:ありきたりなものは作りたくないんで、そう言ってもらえると嬉しいです。僕らからすると、"愛してるよ~♪"みたいな歌は"それ、誰の恋愛の歌なん?"ってなるし、逆に"漆黒のなんちゃら~♪"とかも"それ、どこのなんのこと?"ってなるんで(笑)、マチルダとしてはこれからも"明確にこのことについて考えて作りました、あなたはどう感じます?"っていうものを作っていきたいと思ってます。
-そんなマチルダが、このアルバムに"♯マチルダ"と冠した理由は?
喰:ハッシュタグをつけると、それについての情報がダーッと出てくるっていうのと同じです。今まで作ってきたものと、新しく作ってきたものがこのアルバムにはたくさん入ってるので、これがマチルダですよっていう意味ですね。
米田:来年3月29日に渋谷WWW Xで"毒味録-ドクミロク-"、3月31日に池袋BlackHoleで"毒味録-ドクミロク-裏面-"っていう6周年ワンマンも2本あるので、そちらもぜひよろしくお願いします!
時雨:2日間で今ある60数曲を全部やるっていうの、なかなかイカレた企画だとは思ってますけど(笑)、体力を持たせるようにして、最後まで飽きさせないようにしたいです。
一檎:マチルダには落ちる曲からウキウキな曲までいろいろあるんですけど、全曲ワンマンではレア曲も含めてすべてやるので、よりこのバンドの多彩さが如実に出るんじゃないかと思いますね。この6年間で培ってきたものをすべて生かしてやりたいと思ってます。
ヰ瞑:3月で僕はマチルダに入って2年になるので、みんなとは4年のギャップがあるんですよ。今度のワンマンでは、どこまで馴染んで追いつけるか挑戦したいです。
喰:最初に言った、他のバンドを喰ってやりたいみたいな気持ちは今もありますけど、マチルダとしてはみんなに喰ってもらいたい気持ちも当然あるので、まだうちらのライヴを観たことがないという人は、この6周年の"毒味録-ドクミロク-"と"毒味録-ドクミロク-裏面-"でぜひ毒味して味わってみてください。