INTERVIEW
PIERCE THE VEIL
2023.03.09UPDATE
Member:Jaime Preciado(Ba)
Interviewer:山本 真由 Translator:原口 美穂
PIERCE THE VEILが、前作『Misadventures』(2016年)以来となるニュー・アルバム『The Jaws Of Life』をリリースした。パンデミックや自然災害などの影響を受けて、前作から約7年もの期間が空いてしまい、ファンはもちろんメンバー自身も待ち遠しさを感じたという今作。プロデューサーにMUTEMATHのPaul Meanyを迎え、まったく新しい手法で制作されたというこのアルバムは、グランジ/オルタナティヴ・ロックのテイストが強く、計算された美しさよりも偶然に生まれる生命力を感じるテクスチャーが、作品のコンセプトにも繋がっている。今回はそんな久々のアルバムであり、新たなPIERCE THE VEILを見つけることができる新作について、メンバーの近況も含めインタビューで詳しく語ってもらった。
-今日はよろしくお願いします。東京は今、雪が降っていて寒いですが、そちらはどうですか?
東京で雪!? それは寒そう。東京も雪が降るんだね。僕は今サンディエゴにいるんだ。こちらは快晴だよ。さっき窓を開けたくらい暖かい。
-うらやましいです(笑)。まずは、約7年ぶりとなるニュー・アルバム『The Jaws Of Life』のリリース、おめでとうございます。
7年もかかったのは、わざとじゃないんだ(笑)。僕たち自身も、気が狂うくらい待ち遠しかった。間が空きすぎて、アメリカでのリリースまであと数時間(※取材は日本時間2月10日)だなんて現実味がなくてさ。信じられないよ。すごく興奮してる。本当に長かったからね。仕事の量、かかった時間、パンデミック、たくさんのことをみんなで一緒に乗り越えてできあがった作品だし、"ようやくこの時が来た!"っていう感じですごく嬉しいよ。
-新作の背景として、バンドのここ数年の近況からうかがってもよろしいでしょうか。パンデミックの間は、バンドとしてもプライベートでもどのように過ごされていましたか?
パンデミックの間は、ずっと離れ離れだった。もちろん、Zoomでのミーティングはやっていたし、アイディアのやり取りはしてたけど、新しいアルバムにはあまり手をつけなかったんだ。アルバム制作を続けたくないと思ったわけでは決してない。ただ、世界がどういう方向に向かっているのかわからなかったし、これからショーというものがどうなっていくのか、昔と同じように演奏することができるのか、音楽の聴き方がまったく違うものに変わっていくのか、先が読めなかったから、しばらく様子を見ることにしたんだよ。もしかしたら、ライヴを観れるのが車の中やオンラインだけになる可能性だってあると思って。そういう不安があったんだよね。でも、新しいアルバムを作りたいという気持ちは確実にあった。だから、明らかに"アルバムを作り始めることが安全だ"と確信が持てるようになってから、またみんなで集まり始めたんだ。実際に集まってみるまで、どれだけお互いを恋しがっているかにさえ気づいていなかった。でも顔を見て、一緒に制作できることがすごく嬉しくて、これまで以上に絆が深まったと思う。やっぱり自分ひとりだと、曲を作ろうと思っても、あまり刺激的な時間にはならない。だから、無理やりリモートで個々で曲を作るのが正しい選択だとは思えなかったんだ。多くのミュージシャンやバンドが、パンデミックの期間に多くの音楽を制作してリリースしていたことは知っているし、それはもちろん素晴らしいことだと思う。でも僕らは、パンデミック中は頭が真っ白になった時期だったんだ。時間がかかった理由はそれ。でも理由はもうひとつある(笑)。再びすべてが動き出し、一度みんなで集まって作業を始めると、その勢いはすごかった。だからニューオーリンズに一軒家を見つけて、プロデューサーのPaul Meany(MUTEMATH/Vo/Key)を見つけ、本格的にアルバム制作をスタートさせることにしたんだ。そしたら、ニューオーリンズに出発しようとしたときに、ハリケーンがニューオーリンズを直撃してさ(苦笑)。それでさらに延期になってしまったんだよ。でも、そのあとからはノンストップで作業した。そしてついに今、アルバムができあがり、みんなに披露できる時が来たというわけ。
-アルバムのタイトル"The Jaws Of Life"は、救助活動に使われる油圧式ツールの名前ですね。そこからイメージされる"救済"や"困難からの脱却"といったものは、アルバムのテーマに繋がっているのでしょうか。
そうそう。タイトル曲「The Jaws Of Life」の歌詞は、特にそうだと思う。でもこの質問は、歌詞を書いたVic(Fuentes/Vo)に聞いたほうがいいかもね。全体的に、このアルバムの歌詞の内容は、僕らが曲を作る前から持っていた"Jaws of Life"のコンセプトだと思う。僕らはアルバムを作り始める前からそのコンセプトを気に入っていたんだ。映画とかで観る、誰かが地面に埋まっていて、その人の手が土の中から出てきて、泥を振り払いながら地面から出てくるようなシーン。僕らはああいうのをイメージしていた。地面から出てきて、目を開けて、太陽や光を見る瞬間。そして身体を整えてまた歩き出す。ああいうシーンは、何かを克服する姿を思い起こさせるんだよね。だから僕たちは、あのツールを見て"かっこいいな"と思ったんだ。単なる機械には見えなくてさ。そこにインスパイアされて、自然とテーマがそういう内容になっていった。あえて意識したわけではなかったけど、結果、いいものができあがって良かったと思う。あのアルバムを"The Jaws Of Life"と呼ぶことはずっと前から決まっていたんだ。2019年か2020年くらいにはすでに考えていたんだけど、ちょうどそのころにパンデミックが始まって、さらに意味を持つ言葉になった。そこで"これはいい!"ってことで、そのアイディアにしがみつくことにしたんだ。そしてホワイトボードに"Jaws of Life"と書いて、いろいろな曲のアイディアを書き込んでいったんだよ。
-アルバムのジャケット・アートワークも、その"Jaws of Life"の写真を使用したシンプルなものになっています。これまでの作品では、そのアルバムの世界観に合ったバンド名やタイトルの表記もアートワークの魅力でしたが、今回このようにシンプルなデザインとなった意図は?
たしかに、シンプルになっているよね。今回のアルバムに限らず、新しいアルバムを作るときにはいつも、同じようなものは作らないように意識しているんだ。その前に作ったアルバムから自分たちが何が好きで何が好きではないのかを学び、ミュージシャンとして、ソングライターとして、バンドメイトとして、人間として、とにかく全体的によりレベルを上げることを心掛けている。だから今回のアルバムでも、1歩下がってこれまでの作品を振り返った。そして、"今回はもっとシンプルなものにしたい"と思ったんだ。"シンプルなサウンド"という意味ではなく、もっと"インパクトのある、ある大きなひとつの瞬間"を表現したような、そんなアルバム。でも、やってみるとそれはすごく難しかった(笑)。だって、やっぱり強調したいものがたくさんあってさ。何かを隠すっていうのは、僕たちにとってはすごく難しかったんだ。このリフも表に出したいし、このパートも削れない、みたいな。でも僕らはそれに挑戦したし、そうやって、僕たちは自分たちを追い込みたいんだよ。だからこそ、Paul Meanyが必要だったんだ。僕らがアーティストでもあるプロデューサーと仕事をしたのは初めて。彼はMUTEMATHのメンバーで、僕らはあのバンドを尊敬しているし、大ファンなんだ。彼はバンド活動の裏も表も知っているし、バンド・メンバーの扱いやレーベルの運営も経験したことがある。彼というもうひとりのアーティストが僕らと一緒にいて、アイディアを出し合ったり、時には強い意見を投げてくれたりしたことは、本当にクールなことだった。それは、僕たちが望んでいたことだったからね。自分たちが作っているものに対して、意見をくれる人が欲しいとずっと思っていたんだ。