INTERVIEW
BACK LIFT
2022.11.30UPDATE
2022年12月号掲載
Member:KICHIKU(Vo/Ba) SEIYA(Gt/Cho) HEAVIN(Dr/Cho)
Interviewer:杉江 由紀
-なお、今回のEP『Dream Wagon』については "全A面と言いたいほどの仕上がりで、今後のバンドライフでも欠かせない楽曲ばかり"とのコメントがあるのですけれど、その中でも「Dream Wagon」をタイトル・チューンとして選んだ最大の理由はなんだったのでしょう。
KICHIKU:そこは歌詞の中に今の自分が言いたいことが詰まってるから、というのが大きいです。ざっくり言うと、この詞の中には、僕が高校生とか大学生だった頃の気持ちを思い出しながら書いたところもあって、当時は遊びで楽器をやるやつはいても、本気で音楽をやろうとしたのって周りでは自分だけだったんですね。むしろ、本気でやってるみたいなことを言うと寒がられるくらいでしたけど、別に人からそんなふうに思われたってどうでもよかった。ところが、そういうマインドで始めたはずなのに時を経ていろんなことがあったり、いろんな人やいろんな環境に自分も揺らいだりしていくうちに、気がついたら"あの頃の気持ち"にビビり出してる自分がいたことも、この歌詞の中では書いてるんですよ。自分で自分に対して"おい、お前の「あの頃の気持ち」はどこいったんや?"って問い掛けをしてるし、怖いもの知らずだったあの頃みたいな感じでいいんじゃないの? って肯定もしてるということですね。これは一時期バンドの状態が不安定だった頃の、周りに対しても自分に対しても感じてたモヤモヤを、率直なかたちで言葉にした詞だと言えます。"Dream Wagon"という言葉は僕の造語で、これは方舟みたいなイメージもあるものですね。
-ノアの方舟ですか。
KICHIKU:そうそう。俺らじゃどうしようもないからお前が連れってってくれ、みたいな願いを託した言葉なんですよ。
-そんな「Dream Wagon」の音を仕上げていく際に、各パートの見地からみなさんが特にこだわっていたのはどのようなことでしたか。
HEAVIN:今回のEPの中では「Dream Wagon」が最初にできていた曲で、これをリード曲にしたいということもあらかじめ聞いていたんですけど、最終的にサビのメロディができたのは最近のことだったんですね。それを聴いたときに"理想の曲ができたな"と感じたので、僕はそのメロディを生かせるような跳ねたリズムを、KICHIKUからの要望もありつけ加えていった、という流れでした。
KICHIKU:前のめりな感じが欲しかったんですよ、この「Dream Wagon」には。
SEIYA:当然それは僕も意識したところで、サビの前のめりな感じをより強調するために、さっき言ったみたいな、"これまでのBACK LIFTだったら使ってなかったようなコード"をあえて使って、対比を出していくようにしたんです。だけど、あくまでも主役は歌だからギターは主張しすぎないというバランスも重要でしたね。
KICHIKU:俺は俺で、ベースを弾いていくときには出るところは出て、退くところは退くということを考えていたので、お互いに考えながら最適ないい絡みができたと思いますよ。あのコードの響きもあって回想シーンみたいなところから始まっていく雰囲気、そこから現在に向かってストーリーが進んでいく感じが1曲の中にうまく詰め込めました。
SEIYA:もともとファンだった自分が聴いても、今回メンバーとして作った自分が聴いても、この「Dream Wagon」は音も詞もめっちゃいい曲なのは間違いないです(笑)。
HEAVIN:ちゃんと"らしさ"はあるけど、新しいことにも挑戦できて、今このタイミングで出す曲として最高のものが完成したと思います。
-もっとも、今作には「Dream Wagon」以外にも、素晴らしい個性を持った楽曲たちが収録されておりますので、ここからはダイジェスト的な感じでそれぞれの曲紹介もしていただけますでしょうか。まずは「Midnight Summer」からお願いします。
KICHIKU:夏が好きっていう超個人的な感覚を曲にしたのが「Midnight Summer」ですね。カンカン照りの夏! 海! みたいな夏ソングは過去にもいろいろ作ってきたなかで、自分は夏の夜中っていうのもすごく哀愁があって好きなので、今回はその雰囲気を曲にしてみました。8月末くらいの頃のあの独特な空気感を音と詞にしていったんです。
-日本ならではの沁みる風情を感じる曲ですよね。
KICHIKU:風情でしかない曲です、完全に(笑)。今作では唯一のしっとり系の曲ですね。
-一方、その反動なのか「Hokey Pokey」はアグレッシヴなトーンですね。
KICHIKU:"Hokey Pokey"というのはまがいものみたいな意味がある言葉で、わかりやすく言うと人のことを誹謗中傷するような者に対して歌ってる曲なんですよ。
-昨今のSNSにおける人間模様を描いていらっしゃるわけですか。
KICHIKU:本人はなんの気なしに好きな発言をして、その瞬間は気持ち良く悦に入ってるんでしょうし、すぐそんなことは忘れてまた次の獲物を探すんやろうなって。で、もし自分に矛先が向いたら別のアカウントを作ってまたそれを繰り返して。そういう人は不幸なんやろうなって思いますね。この曲は、そんなSNSでは攻撃特化型だけど現実世界では満たされてない不幸な人たちの幸せを、逆に願いたいなっていう曲です(笑)。
-歪んだギターの音がシニカルな曲の雰囲気をより際立たせていますよね。
SEIYA:ギターはとにかく攻撃的なサウンドを意識しました。
HEAVIN:この曲は全パート攻撃的っていうのがテーマでしたね(笑)。
-対して、メジャー感溢れる「Holic」は爽快感が強く漂うところも素敵です。
KICHIKU:この曲は僕のルーツに一番近い曲なんですよ。シンプルな3コードで全員で歌えるような、'90sの時代感もあるこの感じは今でも大好きなんです。みんなでシンガロングしたら絶対楽しい! みたいなのが(笑)。いつも各作品にそういうタイプの曲は必ず入れていて、これはその最新形にして最高傑作ですね。
-そして、今作(配信盤)のラストを飾るのは「Karma」です。こちらはずいぶんと深い意味合いを持つタイトルが付けられた1曲ですね。
KICHIKU:前から"Karma"というタイトルの曲はいつか作りたいと思っていたんですけど、まずは曲ができたあと、詞が完成したときに"あぁ、ここに前から温めてた「Karma」って付けたら合うな"と思ったのがこれでした。詞の内容としては、因果応報じゃないですけど、自分の行いはやがて自分に返ってくる業というものについて、やっと書くことができましたね。過去は過去としても、ここからお前に何ができんねん? っていうところまで書けたのが自分としては良かったです。あと、曲の作り方としては、ラップ的な部分とそれ以外の部分は、もともと別の2曲だったものを1曲にまとめたという新しいやり方もしましたし、これも今までのBACK LIFTにはなかったタイプの曲になったと思います。
HEAVIN:リズム・パターン的にも、今までやったことないことをこれは結構やってますね。我ながらいいフレーズを入れられたなって感じてます(笑)。
SEIYA:いなたい曲を作りたいという話はKICHIKUさんから聞いてたんですけど、僕自身はそんなにヒップホップとかラップって通ってきてないところでもあったので、今回はこの曲に向けてKICHIKUさんからいろんな音楽を教えてもらいつつ、勉強したうえで臨みました。少ない音数の中でいなたさを出すということに挑戦できた曲ですね。
-さて。すでにこのEP『Dream Wagon』を引っ提げての[BACK LIFT presents "Dream Wagon Tour 2022-2023"]も始まっておりまして、こちらは現体制で初の長丁場なツアーにもなっていくと思われます。BACK LIFTとしては、どのようなスタンスで臨んでいくことになるのかもぜひ教えてください。
HEAVIN:ツアーというのは曲が育っていく醍醐味を感じられる場だと思うので、きっと『Dream Wagon』の曲たちもどんどん成長していくことになるでしょうね。僕らとしては、そこを見届けてもらいたいなという気持ちでいます。
SEIYA:実質2本目のツアーではあるものの、今回のツアーでは初めて行くところも多いので、自分としては各地の人たちに対して"初めまして"という気持ちも持ちつつ、1本ずつ噛みしめながらライヴをやっていきたいと思ってます。すごく楽しみですね。
KICHIKU:ここ最近は配信で新曲を出すことが多くて、まとまったかたちの音源を出すこと自体が、今回のEP『Dream Wagon』が4年ぶりだったりもするんですよ。ライヴ会場でも販売するCD盤には「Still Live On」っていうCD限定の曲も入りますし、CDのブックレットには各英詞の和訳もつくんで、僕としてはCDを手にしてもらいたいなって気持ちがまずあるんですけど、それと同時にツアーの内容という部分に関しては、新体制も固まった今、ようやくバンドとしてさらに勢いをつけて走り出すことができるようになったところを、今度のツアーでは伝えていきたいですね。名前だけは聞いたことあるけどまだライヴは観たことないとか、新しい音源が出たんならライヴも観てみようかなとか、コロナでしばらくライヴハウスからは離れてたんやけど、とかそういうたくさんの人たちとの新たな出会いが増えていく可能性もあると思いますし、ここからBACK LIFTのことが好きな人たちの輪をもっと大きく広げていきたいです。