INTERVIEW
塩原康孝
2015.09.14UPDATE
2015年09月号掲載
Interviewer:沖 さやこ
-まず、塩原さんがバンドを脱退されたのは、アパレル・ブランドの立ち上げが理由のひとつで。
そうですね、アパレル・ブランドをやってみたかったし。今後バンドをやるつもりはなかったんですけど、サポートや楽曲提供のように音楽の仕事は続けたいなと思っていました。
-ソロ活動を始めようとも思っていたんですか?
実はソロ・ミュージシャンとして活動することはそんなに頭になかったんです。でもこれも不思議な話で......3~4月くらいに友達の紹介の繋がりでお芝居の仕事をしたんですね。経験はまったくなかったんですけど、やってみないとわからないなと思って。そのときにいろんな方から"君は表に出なさい。裏方じゃだめだよ""ひとりでやってみたら?"と言っていただいたんです。そのときにはもう裏方として楽曲提供はしていたんですけど、表に出るつもりがあんまりなくて。たしかに曲は作れるし楽器も弾けますけど、歌なんて歌ったことはない素人ですし......最初は"いやー、自分がソロ・ミュージシャンはないでしょう! それを商品にするのはいかがなものか!"と思ってたんですけど(笑)、結局お芝居の仕事をやったのと同じように、やらないと何も変わらないのかなと思って。
-うんうん、なるほど。
アパレルも最初いろんな人から"無理だよ""ノウハウないでしょ? 経営なんて知らないでしょ?"と言われたんですけど、やってる人たちに相談すると"やってみたら嫌でもできるようになるよ!"と言われて(笑)。"悩んでやるんだったら、最初からやらない方がいいよ""やったら嫌でも覚えるし、むしろ1~2回失敗するくらいの方がいいよ"と言われたりもして......やらないと何も変わらないな、と思って、そのあとすぐにソロとして動くことを決断しました。それで曲を作って、レコーディングは6月くらいにして。
-4月にソロ活動をすすめられて、4月に活動開始を決めて、曲作りをして、6月にレコーディング......とんでもないスケジュールですね(笑)。
笑っちゃいますよね(笑)。アパレルや楽曲提供でも忙しくて表に出るつもりはなかったけれど、どこかにそういう(表に出て活動したいという)気持ちはあったのかなー......と自分でも思いますね。だから本当に今年に入ってから、すべて不思議な巡り合わせで進んでいて......タイミングって大事なんだなと思いますね。昔は事務所にいて、メジャーのレコード会社にもついてもらって、自分が曲を作って演奏していれば、1から10まで人が動いてくれるという環境にいて。昔もわかっていたつもりではいたんですけど、人が自分のために時間を使って動いてくれることのありがたさは、ひとりになってから本当によくわかりました。難しい時期に助けてくれる人たちは、本当に大事にしたいなと。
-そうですね。脱退発表のときにも"バンドはもうやらない"とおっしゃっていましたが、やっぱり動き出すことを決めたとしてもその選択肢はなかったと。
なかったんですよね。"バンド"だけは、去年の末(の脱退ライヴ)で自分の中で区切っちゃったんです。"バンドはもうやらない"というのは、腹をくくってた部分でもあるので。"バンドよりソロがいい?"と聞かれたりするんですけど、5人でひとつのものを作るのと、ひとりでひとつのものを作るのは、経過がまったく違うから比較できないんですよね。
-『overture』のサウンドの基盤は、打ち込みを用いながらもバンド・サウンドが多めで、Track.6「みらいドロップ」のようにバンド・サウンドではないものは一切楽器を使っていない。これは塩原さんの今やりたいこと、ということですか?
ひとりというのもあって、本当に好き勝手にやりました(笑)。僕はメロがわかりやすい聴きやすいものが好きなので。オケが変なことをしていても、メロだけはちゃんとしておこうと。それは昔から変わってないですね。今回はバンド・サウンドが多めなんですけど、そこから外れた曲はまったく楽器がいらないものなので。人に渡して恥ずかしくないものを作れたらいいかな......って。
-ははははは。
(笑)僕はいちベーシストだった人間なので、ソロを出すにあたってナメられるなと思ったんですよ。今まで知ってくれてた人もいるけれど、このソロから知ってくれる人もいるだろうから、今までとも環境が変わってくるとも思うし。マイナスのところから入る人の方が多いのかなとも思ったので、そういう人でも"お? 意外とこいつ悪くないじゃん"と思えるものになったらいいな......という感じでしたね。昔の方がガッツはあったかも(笑)。
-バンド時代に塩原さんが作っていた曲は凝ったものが多かったですものね。今回はとてもシンプルだったので驚いて。
今回は引き算をしました(笑)。やっぱりどうしても音を入れちゃうんですよね......。だから最初はもっと音を入れてたんです。でも録ってミックスしてるときに"なんか違うな"と思って。曲によってはシンセをごっそり外した曲もあるんですよ。バンド時代はシンプルさを薄っぺらいと捉えられるのが怖くて、重厚感で押してたところもあったんです。でも、"今の自分はそういうところで勝負してないしな......前みたいにそこにこだわらなくてもいいか"と思って、どシンプルにしました(笑)。これもひとりだからできることだと思いますね。
-ではやはりバンドとソロはまったく違うものですね。
そうですねー......。バンド・サウンドを作っていてもバンドのときとは感覚がまったく違うので。バンドは5人で作っているんですよね。だからひとりで同じことをしようとしても無理なんです。だからひとりなりの"こいつ自由だなあ"みたいな感じを探していった方がいいのかなって。ソロでやる以上は"バンドで音楽をやる感覚"を1回全部取らないと、すぐ行き詰まるだろうなと思ったんですよね。バンドと同じことをしたら"じゃあなんで脱退したんだよ"って自分でも思いますし。だから自分ひとりだからこそできることをやるのが、今の自分にはいいのかなと思いました。自由すぎるくらいでいいのかなって。......年末にバンドを辞めて、2015年に入って看板も肩書きも守ってくれるものもなくなって、すべてが自己責任になって、時間もあるしいただいた話は全部やってみようと思って。とにかくいろんなことをやっていたので"本職なんなの!?"って言われるんですけど(笑)。
-はははは。そうやっていろんなことにトライするのは、すごく大事なことだと思います。経験は絶対に無駄にはなりませんしね。
良い方向に捉えない人もいるかもしれないですけど、今年すごく楽しいんです。好き勝手生きてます(笑)。