INTERVIEW
塩原康孝
2015.09.14UPDATE
2015年09月号掲載
Interviewer:沖 さやこ
-それは『overture』にも出ていますね(笑)。これはほぼおひとりで制作を?
耳につくようなメインのパートは"ごめん、目立つ部分だけ弾いてもらっていい?"ってニコニコ動画で動画をアップしている友達のギタリストに弾いてもらってます(笑)。ライヴでは僕はギターを弾くので、自分がライヴで弾くパートは自分で弾いて、ベースも自分が弾いて、シンセとドラムは打ち込んで。歌録りも自分でやって、リード以外の曲はミックスも自分でやりましたね。ほぼほぼ自分でやりました。ミックスの経験もなかったですし、歌も歌ったことがなければ歌録りもしたことないから、歌に何をかけたら綺麗な音になるのかすらわからなかったんです。だから"最低限の形にしなきゃ!"と思って、本っ当にいろんな人にやり方を聞いて......。
-ああ、そうだったんですね。
いろんな人から"ドラムは大事だよ"と言われたんですけど、何をしたらいいのかさっぱりで(笑)! ソロを始めようと決めた4月の時点ではそんな感じだったんです。人に聞いて、調べて......打ち込みのドラムをいかに打ち込みっぽく聴こえないようにするかとかも、家で1日ずっと調べて"ああ、こういうことか!"と発見したりして。
-でも、もともと塩原さんは完成度の高いデモを作る方なので、その延長線でできることでは?
いやあ、デモはメンバーやスタッフさんに聴かせるという、デモというものでしかなくて。今は商品にしないといけないから(笑)、キック、スネア、タムも全部別々に録るので、デモとは話が違うんです。少なからず音楽に関しては知ったつもりでいたんですけど、その音楽に関しても俺は知らないことがいっぱいあったんだなと実感しました。だから本当にバンド時代の環境がいいものだったんだなと。"これやりたいんです"と言ったら、プロデューサーさんやエンジニアさんが何とかしてくれてたんですけど、今回自分でミックスしてみて、"あ、すげえわがまま言ってたんだな!""すげえバカなこと言ってたな!"と思いました(笑)。
-自分でやってみないとわからないこと、本当にいっぱいありますよね。
ひとりになってみて感じること、本当にたくさんあるんですよね。バンド時代は次から次にリリースをしていたから、そのたびにお客さんもついてきてくれたけど、裏方になってもついてきてくれる人がいて、舞台も観に来てくれたりして......自分のためにこんなに時間とお金を使ってくれてるんだなと思うと、本当にありがたいなと思います。当時に比べると予算もないですけど、今の環境で自分から動いてることはまったく苦ではないし。だから音楽より先にアパレルやってて良かったな、とも思いますね。"これはお金をかけるべき""これは自分でやって削るべき"という金銭感覚は、アパレルのおかげでなんとなく頭でわかるようになって。音楽でも"ここはお金を使わないと絶対にだめだ"という部分と"ここは自分でできるでしょう"というのは最初から結構クリアでした。
-本当に、このソロ第1弾は人生経験の賜物ですね。イントロになっているTrack.1「0.00001」はパソコンのキーボードを打つ音が聴こえてきますが、これはどういうコンセプトで作られたものなのでしょう?
最初はもっとガッツリした、めっちゃEDMのイントロダクションを作ってたんですよ。1週間かけて作って、すごくかっこよくて納得したんですけど......"なんかこれ、このCDに入れたいものじゃないな。今の自分の出したいものじゃないな"と思ったんです。"塩原康孝としてありのままの音楽を出そうとしてるのに、何でこんなかっこつけてんだ!?"と思ったんですよね(笑)。だからそれはライヴ用のSEにして、他に作ろうと。でもTrack.2「-overture-」に繋がる曲を入れたいな......と思って"今の自分って何だろう?"と考えて。それで"生活音を入れちゃおう!"と思ったんです(笑)。
-ははは! この音は今の塩原さんそのものなんですね。
本当に今は家で仕事をしていることが多いんですよ。だから仕事してる間の音をiPhoneで2日間くらい録音しっぱなしにしてたんです。風呂に入ってる音も調理してる音も、コンビニ帰りで袋をガサガサしてる音も入ってて(笑)。その生活音をシュッとさせて、その中に自分の曲をラジオっぽくして入れて。......こういう、生活音を繋ぎ合わせたものや、街の音から曲に繋がるものをやってみたいとも思っていたんですよ。でも外で録ったらかっこよくなりすぎちゃう気がしたので、しょうもない自宅での自分のリアルなところから曲に繋げて。
-タイトルが意味深ですが。
あ、これは、1曲目の1にもなんねえな、1にカウントするのも申し訳ないな......と思って"0.00001"に(笑)。
-ええっ、まさかそんな理由(笑)!?
タイトルだけ見るとかっこいいですよね......意味深にも見えますよね(笑)。ソロ活動を始動させることを発表した7月頭には、もう全部録り終わってたんですよね。だからそのときに収録曲もバッと出したんですけど、それを見て自分で"やべえ、この「0.00001」ってかっこよく見えすぎてる!"と思って......。でも実際は"1曲にも満たない、0.00001くらいの気持ちで聴いてください"という気持ちです(笑)。
-それだけ生身で勝負できるのは、ひとりで活動していることにちゃんと誇りを持てているからだと思います。やっぱり怖くて昔を引きずる人は多いだろうし。
やっぱり、本名を出しているので、出すものに関しては過去を吹っ切っているんだと思います。でも、僕が"塩原康孝"と名乗っても、周りが"ルイ君"と言ってくるのは仕方がないことだとも思うんです。それを否定するつもりもないですし、それも今までやってきたことがあるからこそだとも思うので。だから"自分でどんどん削ぎ落としていったものを見て(昔のイメージで自分を見ている人は)どう思うんだろうな?"とも思うし(笑)。
-もともとバンド時代に塩原さんが原曲を作っていた楽曲はヘヴィでラウドなサウンドにいろんなギミックが効いたカラフルなものが多かったですし、今回のソロ作も意外性があるというよりは、すごく腑に落ちるところが多かったです。私は塩原さんの書く歌詞を読むのは初めてなのですが、苦悩の中からも希望を掴むような、ポジティヴで1作目に相応しい言葉が並んでいますね。
すごい昔は歌詞を書いていたんで、歌詞を書くのは久し振りで。僕、ネガティヴなものが好きじゃないんで......ネガティヴな言葉が続く曲をあまり聴かないんですよ。アルバムの中に1~2曲そういう曲があるのは作品として当たり前だと思うんですけど、基本的に僕はこういう性格なので、ネガティヴなワードの引き出しがあんまりないんですよね(笑)。