FEATURE
MGK
2025.08.21UPDATE
Writer 山本 真由
古き良きアメリカを探す旅――
それは自由への渇望とリンクするロックの精神
時代の最先端を走りつつ、どこかノスタルジックなものに憧れを持ち、それを表現してきたMGKが新アルバム『Lost Americana』で表現したのは、彼自身の中に持っていた"アメリカン・ドリーム"だ。アメリカ人だけでなく、アメリカのカルチャーに触れた経験のある者なら誰でも、理想化された"古き良きアメリカ"という漠然としたイメージを、心のどこかに持っているはず。今作で彼は、そんなアメリカン・ドリームをパーソナルに掘り下げ、"失われたものを探し求める旅路"をエモーショナルに描く。
ヒップホップ畑で新しい風を吹かせ、ポップ・パンクの復刻に一役買ってきたMGK。好きなものにはなんでもどっぷりハマって、ポーズだけじゃなく本物にならなきゃ気が済まない彼らしく、ニュー・アルバム『Lost Americana』の予告編では、アメリカン・ロックの象徴的存在 Bob Dylanがナレーションを務めている。Bob Dylanを出されてしまったらもう、老いも若きも傾聴するしかないだろう。
mgk - lost americana [album trailer]
アルバムのオープニングを飾る楽曲「Outlaw Overture」は、'80sのエッセンスもあり、パワフルでどこか懐かしいエモみのあるナンバー。Bruce Springsteenばりに反抗的なロックと大衆音楽としてのキャッチーさが共存し、加えてMGKらしいクールなノリとポップ・パンクの下地も効いた爽快な仕上がりだ。
mgk - outlaw overture (Official Music Video)
続いてMVも発表されたシングル曲「Cliché」は、アップテンポでポップだけれど切なさもあるナンバー。アルバム・バージョンとは別にピアノとヴォーカルだけの"Sad Version"も公開されており、こちらはさらにその切なさが際立つ形となっている。この"Sad Version"についてMGKは、"最初はアコースティック・バージョンに挑戦したが、ドラムがなくなっただけで原曲と変わらなった"と述べ、ピアノとヴォーカルのみのバージョンを制作した意図を語った。なるほど、たしかにバンド・アンサンブルを取り除いてメロディだけに集中してみると、リズムのポップさやロックの勢いが抜けて、純粋なバラードとして楽しめる。改めて彼の繊細なソングライティングのセンスに気付かされる一曲だ。
mgk - cliché (Official Music Video)
他にも、"博物館と吸血鬼"というユニークなアイディアのMVも話題となった「Vampire Diaries」は、軽やかで疾走感がある青春ポップ・パンク。そして、ロード・ムービーのサウンドトラックのような爽やかな楽曲「Miss Sunshine」では、ヒップホップの素地を活かしたグルーヴのあるインディー・ロックを披露した。さらに、「Starman」では、'90sにヒットしたTHIRD EYE BLINDの「Semi-Charmed Life」のコーラスを取り入れ、90年代のカルチャーを再構築。ラップをメインにした「Tell Me What's Up」では、最新版のMGKとして再び彼のオリジンであるヒップホップを表現した。 そんなふうに様々な表現に挑戦しつつ、今回の『Lost Americana』では、誰の真似でもないMGK流のロック・サウンドを固めている印象だ。どの曲を聴いても、"これはMGKだな"と確かに感じられるエッセンスがある。今作は、長年のコラボレーターと協力しつつも、華々しいラインナップで様々なアーティストをフィーチャーしてきたこれまでの作品とは違い、より自身の創造性に向き合っている作品だ。
そして先述のアルバム予告編のナレーションでは、"このアルバムは夢想家、漂流者、反抗者等、再発見を求める人々に送るラヴ・レターだ。忘れ去られた場所の音の地図であり、再発明の精神への賛辞であり、アメリカの自由の神髄を取り戻す探求でもある。ダイナーのネオンの輝きからオートバイの音まで、これは再構築される過去と、自分で切り拓く未来の中間的な空間に見いだされる美を称える音楽である"と語られている。今作はMGKのパーソナルな物語でありながら、自由に憧れる全ての人々にとって、心に眠っていた冒険心とワクワクを蘇らせてくれるものだ。
また今作のMVでは、MGK本人が本格的なダンスを披露する場面が多く見られるが、ほんとに"いや、ダンスも上手いんかい!"と思わずツッコミを入れたくなってしまうようなセンスの良さ。細胞レベルで染みついた彼独特のリズムやグルーヴが、等しく楽曲にも、そしてダンスという身体表現にも表れているのを見て、アーティスト MGKの神髄を理解できたような気がした。全てが本当に自然体なのだ。
『Hotel Diablo』(2019年)で、ロックを取り入れ、『Tickets To My Downfall』(2020年)で、ロック畑へ転身したヒップホップ・アーティストとしてロック・シーンに殴り込み、『Mainstream Sellout』(2022年)で、完全なるロック・アーティストへと進化したMGKは、ついに今作で本物のロック・スターへとのし上がった。ポップスをやっても、ヒップホップをやっても、それがMGK流のロック。古き良きアメリカ――"失ったものを探す、自由への旅"というコンセプトに挑戦したニュー・アルバム『Lost Americana』で、自由の国 アメリカの象徴としてのロック、それを深く掘り下げることによって、形式にとらわれない新しいロック・スタイルを手に入れた彼の行く道は、さらに無限の可能性へと広がっている。
▼リリース情報
MGK
NEW ALBUM
『Lost Americana』
配信/輸入盤:NOW ON SALE!!
生産限定盤LP:2025.08.22 ON SALE!!
TOWER RECORDS
1. Outlaw Overture
2. Cliché
3. Run Rebel Run
4. Goddamn
5. Vampire Diaries
6. Miss Sunshine
7. Sweet Coraline
8. Indigo
9. Starman
10. Tell Me What's Up
11. Can't Stay Here
12. Treading Water
13. Orpheus
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