FEATURE
BLINK-182
2023.10.19UPDATE
2023年10月号掲載
Writer : 山本 真由
ポップ・パンクの魅力を再確認させられる重要作品!錆びない精神と、切っても切れない絆が生んだ最高のメロディ
2022年10月、突如として発表されたBLINK-182のTom DeLonge(Vo/Gt)復帰。Mark Hoppus(Vo/Ba)、Tom DeLonge、Travis Barker(Dr)の黄金トリオによるBLINK-182のツアーと新作が予定されているという発表は、もちろんファンにとっては奇跡のように感動的なニュースだった。もしかしたら、心のどこかで"やっと帰ってきたか"と、ホッとしている親心のような感情を抱いたファンもいたかもしれない。
今作『One More Time...』は、BLINK-182のバンドとしては4年ぶりだが、先に挙げた3人のメンバーが揃ったアルバムとしては12年ぶりの作品。その年月の間には、音楽シーンの変遷だけでなく、パンデミックによりもたらされた世界的に大きな変化もあり、またメンバーの個人的な状況も大きく変わった時期でもあった。その時間の変化を受け止め、物理的にも心情的にも離れていたTomが、どのように再びBLINK-182というバンドと向き合うこととなったのか。彼らの近年の活動や音楽シーンの流れを振り返りつつ、今作の魅力について考えてみようと思う。
BLINK-182は、1992年にカリフォルニアで結成された。メロコアの祖ともいわれる西海岸パンク界の重鎮 BAD RELIGIONに大きな影響を受け、90年代に大ヒットを飛ばしたGREEN DAYやTHE OFFSPRINGのあとに続くバンドとして、ポップ・パンク・シーンを牽引した。
90年代は、エクストリーム・スポーツと相性の良いポップ・パンクが幅広い層の若者に支持され、80年代までのハードコア・パンクのようにアンダーグラウンドなイメージや暴力性、マイノリティ文化的な排他的カルチャーから、"パンク"というものがかなり明るく楽しいイメージへと進化した時代だった。それでも、もちろん"パンク"と呼ばれる音楽には、抑圧された若者たちの怒りや社会への不満というものが根底にあることには変わりないが、そういったものの発散方法や多様性、自由意志などが音楽的に盛り込まれていったのが、BLINK-182に代表される90年代後半や2000年代初頭のポップ・パンク・ムーヴメントだ。そんななかでも特にBLINK-182というバンドは、等身大の若者の日常や心の機微に触れるリリックと、ユーモアに富んだキャラクターで、突き抜けて"ポップ"な存在としてキッズを魅了していた。
そして彼らが特別であった理由は、キャッチーなその存在感と親しみやすい音楽性だけではない。大きな転機は1998年のTravis Barkerの加入だ。オリジナル・ドラマーのScott Raynorに代わって加入したTravisが持つ、多彩な音楽経験のバックグラウンドがバンドの楽曲をより華やかで、個性際立つものへと成長させたのだ。
Travisが参加した最初のアルバム『Enema Of The State』(1999年)では、ミュージック・ビデオも大いに話題となった「What's My Age Again?」や「All The Small Things」をはじめ、ハーモニーやメロディの美しさとサウンドの遊びが見事な調和を生んだキャッチーな楽曲が生まれ、それに続く『Take Off Your Pants And Jacket』(2001年)では、「First Date」や「The Rock Show」など彼らの代表曲とも言えるような印象的なナンバーが誕生した。そして、その約2年後にリリースされたセルフタイトル作『Blink-182』(2003年)で、さらに独自路線を突き進む音楽的進化を遂げる。ヒップホップ文化にも親しんだTravisのグルーヴィなドラムのアレンジや、ダークなテーマを扱ったエモーショナルな楽曲など、バラエティに富んだチャレンジが組み込まれたこのアルバムは、"大人ブリンク(BLINK-182)"として音楽的、人間的なバンドの成長をアピールしただけでなく、ムーヴメントとして成熟しきって飽和状態だったポップ・パンク・シーンに風穴を開けるような作品となった。
しかしそんなふうに傍から見れば絶好調な流れのなか、2005年にバンドは無期限の活動休止を発表する。
blink-182 - What's My Age Again? (Official Music Video)
blink-182 - All The Small Things (Official Music Video)
そして、BLINK-182の退場とともに2000年代後半に入ると、ポップ・パンク・シーンにも変化が訪れる。表現を模索し多様化するバンドが増え、またEDMが音楽シーン全体を席巻していたこともあって、そういった波に乗るバンドも増えた。一方、激しいサウンドを求めるロック・ファンはよりコアなポストハードコアなどへと流れていき、ポップ・パンク・シーンの絶頂期はこうして終焉を迎えていく。
その間、BLINK-182の3人も音楽的な模索を続けていた。MarkとTravisは+44としてポップ・パンクの可能性を掘り下げ、Tomは自身の趣味趣向を生かし、SF的なコンセプトを持つオルタナティヴ・ロック・バンド ANGELS & AIRWAVESを立ち上げた。そして2008年、彼らに大きな転機がやってくる。Travisが飛行機事故によって生死の境を彷徨い、その悲劇はバンドを再び結束させたのだ。翌2009年のグラミー賞授賞式で彼らは復活を宣言、WEEZERとFALL OUT BOYがサポートを務めたツアーも開催し、2011年にはリユニオン後初となるアルバム『Neighborhoods』をリリースした。さらに翌年には20周年記念ツアーを行い、多くのフェスにも出演した。しかし、完全復活かと思われたBLINK-182は、また苦難の時期を迎える。2度目のTom DeLonge離脱である。前回は+44としてBLINK-182とはまた別の可能性を見いだそうとしたMarkとTravisだったが、今回はALKALINE TRIOのMatt Skiba(Vo/Gt)をツアー・サポートとして迎え、後に正式メンバーとしてアルバムにも参加させたのだ。Matt Skibaの参加は、バンドを良い方向に導いたと思う。彼の参加したアルバム『California』(2016年)と『Nine』(2019年)は、往年のBLINK-182らしさもありつつ、Mattのエモーショナルな表現と、クロスオーバーな魅力を進化させたTravisのドラムが、きちんとバンドのアップデートを感じさせてくれた。彼らが懐かしのヒット・ソングをこすり続けるダサいバンドにならなかったのは、BLINK-182として前に進むことを決断したMarkとTravisと、そのふたりの期待にしっかりと応える仕事をしたMattの新たな絆があったからだろう。本当にいい人を選んだと思う。
また、BLINK-182としての活動とは別に、Markはプロデューサーとしても多数の作品を手掛け、様々なアルバムにゲストとして参加するなど、アーティストからの信頼も厚いポップ・パンク界の兄貴的存在としてさらに成長する。一方のTravisは、2011年にリリースしたソロ・アルバム『Give The Drummer Some』でも多彩なゲストを集めるなど、ヒップホップ界隈とも繋がりを深めていく。そんななか、Travisの参加したMACHINE GUN KELLYのアルバム『Tickets To My Downfall』(2020年)が空前の大ヒット。世の中のY2Kブームとも重なり、ポップ・パンクが再び脚光を浴びることとなる。
そして2022年10月、冒頭に述べたTom DeLonge復帰だ。この復帰には、またメンバーの命の危機が関わっている。Markは2021年に自身の癌を公表、現在は寛解しているが、再発に備えて検査が欠かせない状況だ。そんななかで、3人は再びお互いと向き合う機会を得る。そして、答えはひとつ――Mark、Tom、Travisの3人によるBLINK-182の復活だ。
それによってバンドを離れるMattも、事前に詳しい相談があったわけでなく、突然そんなニュースを聞かさせることになったにもかかわらず、3人の門出を祝福したメッセージを送っている。本当に人間ができすぎている。大事なことだから2度目だけど、本当にいい人を選んだと思う。
そんな感動的且つ、音楽シーンの流れとしても最高の状態でできあがったのが今作『One More Time...』だ。甘酸っぱいポップ・パンクの魅力を存分に発揮しつつ、エモーショナルに訴え掛けるメロディにも磨きがかかり、Matt Skibaの残した影響も感じさせてくれるのが嬉しい。そして、やっぱりファンを泣かせるのはTom とMarkによる唯一無二のハーモニー、ふたりにしかできないコンビネーションのヴォーカル・ワークだ。ここぞとばかりに走りまくったTravisのドラムも最高だ。広い音楽の海でそれぞれの旅をしてきた3人がまた出会って、ここでしかできない音を鳴らす。最高だ。想像以上にストレートなパンク・ソングがあったのも嬉しいし、シンセを使ったポップ・テイストの楽曲などフレッシュなイメージもありつつ、真面目臭くならずにしっかりBLINK-182のやんちゃさを残しているところも、どこを切り取っても最高オブ最高。やっぱりBLINK-182は3人にとってはホームなんだなとひしひしと感じると共に、この素晴らしいバンドを支え、共に守ってきてくれたMattには感謝しかない。あとは来日公演があれば完璧なんだけど......船で太平洋ツアーとか? とりあえず来日が実現するまでTomには落ち着いていてもらわないと。BLINK-182の伝説はまだまだ続くと信じてます!
blink-182 - DANCE WITH ME (Official Video)
blink-182 - ONE MORE TIME (Official Video)
▼リリース情報
BLINK-182
ニュー・アルバム
『One More Time...』
【輸入盤CD/配信アルバム】
2023.10.20 ON SALE!!
【国内盤CD】
2023.10.25 ON SALE!!
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TOWER RECORDS
SICP-6561/¥2,640(税込)
※初回仕様限定アルバム
※ジャケット絵柄ステッカー/歌詞/対訳/解説付き
1. Anthem Part 3
2. Dance With Me
3. Fell In Love
4. Terrified
5. One More Time
6. More Than You Know
7. Turn This Off!
8. When We Were Young
9. Edging
10. You Don't Know What You've Got
11. Blink Wave
12. Bad News
13. Hurt (Interlude)
14. Turpentine
15. Fuck Face
16. Other Side
17. Childhood
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「One More Time」配信はこちらら
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