FEATURE
AC/DC
2014.11.27UPDATE
2014年12月号掲載
Writer 井上 光一
ロックするのか、さもなくば破滅か。AC/DCが40年以上に渡って自らに問い続ける、単純明快でありながらも、これ以上はないロックンロールの真理が込められたメッセージをアルバム・タイトルに冠することができるバンドは、やはりAC/DC以外に有り得ないのだろう。
世界的な大ヒットとなった前作『Black Ice / 悪魔の氷』から6年振り、通算16枚目となる最新作である。本作のリリースを前にして、Malcolm Young(Gt)の病気療養によるバンド脱退(ソングライティングのみ参加、本作のレコーディングは以前にもツアーでMalcolmの代役を務めたことのある、Young兄弟の甥であるStevie Youngが担当)や、Phil Rudd(Dr)の逮捕といった話題が世界中を駆け巡ったことは周知の事実ではあるが、彼らはロック・バンドであるのだから、否、AC/DCであるのだから、疑いようのないAC/DC印が刻印されたご機嫌なロック・ナンバーで、ファンのやきもきを一掃させるような、1つの答えを提示してみせた。リスナー側も、周囲の喧騒などよりもそういったバンド側の変わらぬ基本的態度をこそ、受け止めるべきなのであろう。後は自分自身で判断すればいいのである。
前作と同じく、プロデューサーには名匠Brendan O'Brienを、ミックスにはMike Fraserという布陣で制作された本作は、全11曲で約35分、というアナログ時代を彷彿させるような、実に潔い内容となっている。前作が15曲というボリュームであったのと比べるとコンパクトであるが、ロックを愛し、ブルースを愛し、自分たちの音楽への揺るぎない信頼を、その純度の高さを、凝縮して形としたような、ルーズでありながらも限りなくタフなスタイルである、と言えよう。
荒々しく豪快なギターに、激タイトなリズムが加わって、"Are You Ready?"という景気の良いBrian Johnson(Vo)のシャウトが炸裂する、1曲目にしてアルバム表題曲の「Rock Or Bust」から、いつまでも変わらない、変わりようのない彼らに再会することができる。先行シングルの「Play Ball」、からっとしたアメリカン・ロック風のキャッチーさが光る「Rock The Blues Away」、老いてなお盛ん、といったような言葉も実に陳腐に聞こえてしまう、男臭いコーラスが印象的な「Miss Adventure」、どっしりと構えたドラムスに導かれ、雷鳴の如きギターとシンガロング必至のサビが際立つ「Got Some Rock & Roll Thunder」、と質実剛健、頑固一徹な男たちによる、アルバム・タイトルのもう1つの意味である、岩をも砕く爆音のロックンロールが見事に鳴らされているのだ。ミドル・テンポによるリフ主体の楽曲を得意とする彼らだが、Angus Young(Gt)の強烈なパフォーマンスで盛り上がる大観衆の姿や、ハイウェイを飛ばすドライブの情景が浮かんでくるような、グルーヴィでノリの良いリフで若々しく疾走する「Baptism By Fire」のようなナンバーも収められている。頭で考えるよりも前に、肉体に直接的に訴えかけてくるような、プリテミティブな快楽原則に則ったグルーヴ感は、巷に溢れる裏打ちのリズムに頼り切ったダンス・ミュージック及びその表面的な要素を拝借した今時のロックなどよりも、ひたすら踊り狂える魅力があるのだ。
過去の名盤に対する過剰な思い入れから、昔は違った、などといったファンの身勝手ではあるが、致し方ない複雑な想いを抱えざるを得ないのは、特に長いキャリアを持ったバンドなら往々にしてあるもので、それはAC/DCも例外ではないと思うが、彼らの場合は、徹頭徹尾、基本となる音楽性を曲げないというスタイルを貫き通してきたからこそ、老若男女問わず、一度好きになってしまえばずっと好きでいられる、というファンとの理想的な関係が生まれたのだと思うし、それは現在進行形で続いているというのがまた、驚異的なのである。マンネリズム、などと批判するのは簡単なことだ。好き嫌いは別として、音楽に対して何か高尚な意味性を求める人には理解しがたい存在であるのかもしれない。ところがAC/DCは、活動開始から40年以上過ぎた今も、世界中のティーンを新たなファンとして獲得し、熱狂させているのだ。無論、そんなファンの信頼に胡坐をかくことなどせず、予期せぬ困難も強靭なリフでねじ伏せ、ロックし続ける姿は、彼ら自身がかつて歌ったように、"ロックンロールはただのロックンロールさ"という、ぶっきらぼうな誠実さを持った態度そのまま。本作においても、それは健在である。後は、すべてのエモーションを爆音で塗りつぶすAC/DCのロックンロールに身を任せてしまえばいいのだ。
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