INTERVIEW
鈴華ゆう子
2025.11.11UPDATE
2025年11月号掲載
Interviewer:杉江 由紀
和を以て貴しとなす。詩吟師範の資格を持つだけでなく、音大ではピアノを専攻し、ジャズ・シンガーとしての経験も持つ鈴華ゆう子は、言わずと知れた和楽器バンドの創始者でありヴォーカリストだ。ここに来て彼女が9年ぶりに完成させたソロ・アルバム『SAMURAI DIVA』には、長きにわたり積み重ねてきた叡知と卓越したスキル、豊かな人脈までもが全て反映されていると言っていいだろう。鈴華ゆう子の生きてきた証としての音楽がここにはある。
-9年ぶりとなるソロ・アルバム『SAMURAI DIVA』は、ヴォーカリストたる鈴華さんの豊かな歌声と、和の心を重んじながらもEDMからクラシックまで多彩な要素を織り込んだサウンドを堪能できる作品へと仕上がりました。バンドでも和を追求されてきた鈴華さんが、このたびソロ・ワークスでも和を意識された理由をまずは教えてください。
今作と9年前の1stミニ・アルバム(2016年リリースの『CRADLE OF ETERNITY』)では、そもそも作っていく姿勢が全く違ったんです。というのも、バンドのほうが活動しているなかで出した前作は、逆にその裾野を広げるという意味で、あえて和から離れたものを意識して作ったものだったんですね。具体的にはアニメやゲーム"ガンダム"の曲("機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ"挿入歌「戦火の灯火」、"SDガンダム ジージェネレーション ジェネシス"オープニング・テーマ・ソング「永世のクレイドル」、エンディング・テーマ・ソング「Remains」)等を中心に、普段とはちょっと違う界隈にも知っていただくための役割を担ってほしいなという思いを込めた作品たちでした。
そこからは和楽器バンドに注ぎ込む9年を過ごしてきたんですが、今回のソロ作品で和の世界を描くことになった理由は、そもそもバンドを立ち上げたのは私であり、なぜああいったコンセプトを提示することになったか、というところに通じるんです。
-それは鈴華さんご自身のアイデンティティに繋がるお話になりそうですね。
私は幼少期から吟詠、詩舞を始めたことで常に和楽器の音があるなかで生きてきていますから、バンドを起ち上げた理由は"日本人としてのアイデンティティを、和楽器を駆使するバンドというスタイルを通して世の中に広めたい"という気持ちからでした。バンドは1つの様式美であって、限られた編成のなかで魅せていく様式美が日本らしさ、そしてカッコ良さに繋がっていくのではないか、という思いでずっとやってきたのが私にとっての和楽器バンドなんです。そして、そのバンドが活動休止中の今ソロを改めてやっていくとなれば、やはり和をやらないわけにはいかないんですよね。私の人生と和の世界は切り離せないものですので、バンドがお休み中だからといって何もやらないというのは、むしろ不自然なことになってしまいます。
-なるほど。今作『SAMURAI DIVA』が和を重んじる作品に仕上がっているのは、必然であったと言えそうです。
しかも、ソロの場合は、バンドでは表現しきれない和楽器たちもよりいろいろと使うことができますしね。今回のアルバムは雅楽や歌舞伎等の要素も新たに取り入れながら、私が今アーティストとしてやりたいことを、日本人であることに誇りを持ちながら、特に日本の若い人たちに、"やっぱり日本の文化ってカッコいいものなんだ"というアイデンティティを、今一度認識してもらえたらなって気持ちで作っているんです。と同時に、海外に向けては、"日本にはこんなカッコいい音楽があるんだ"と知ってもらうことで日本の価値を高めたい、という意図も込めています。さらに、このアルバムには、世界共通語である音楽を通して平和を願いたいというメッセージも託しているんですよ。
-『SAMURAI DIVA』には鈴華さんの意思と意図と意志が詰まっているのですね。そんな今作の表題曲は、なんと初めて"詞先"で作られたものだったのだとか。
自分の作り方だといつも曲と歌詞が同時に生まれてしまうんですが、この曲については作ってくださった田中公平さんからの提案をいただき、詞先で作っていくことに挑戦しました。思えば詩吟も詩から始まる音楽ですし、この詞については曲と切り離して作っていくというルールのもと、美しい語順を考えながら俳句を詠んでいくような感覚で書いていったものになります。実はアルバムの中で最初に作ったのがこの曲で、タイトルを"SAMURAI DIVA"にすること、これを表題曲にすることも当初から決めていました。
ただ、今回私は「SAMURAI DIVA」のために3つの詞を書いたんですね。実際に楽曲化したのは2つなんですが、田中さんが、その2つだと"どちらも選べないから両方の曲を書きたい"と言ってくださって、その1つが「SAMURAI DIVA」として完成したものなんです。
-壮大で美しく、それでいて力強くもある「SAMURAI DIVA」は高い訴求力を持った楽曲だと感じます。
この詞は先程発言したこととも重なる、平和への願いをこの日本という土地から叫ぶ想いで書いたもので、曲調としても壮大なものになるだろうとは予測していました。田中公平さんと言えば"ONE PIECE"の主題歌「ウィーアー!」(きただにひろし)をはじめとして、"笑ゥせぇるすまん"や"サクラ大戦"(の劇中音楽)等幅広い曲を作られてきた方ですし、きっとドラマチックな曲が来るんだろうなとは思っていたものの、実際にできてきたものはその予想をはるかに上回るスケール感を持った、まるでミュージカルのような仕上がりで、1曲の中に映画1本分くらいの物語が詰め込まれてる感じの曲になっていたんです(笑)。
-たしかに、そのくらいのインパクトを「SAMURAI DIVA」は持っていますものね。
田中さんとしては、鈴華ゆう子が歌ういろんな表情をこの1曲に全部詰め込みたかったそうなんです。"タイアップありきみたいな縛りもないし、好き勝手やらせてもらえたからすごく楽しませてもらったよ"とおっしゃってました。私の書いた詞を見た瞬間に"オーケストラのサウンドが頭の中に鳴って、曲のイメージが広がった"とも言ってくださって、それは彼としても珍しいことだったらしいです。こういう曲を表題曲に持ってくる発想は自分からだと絶対に出てこなかったと思うので、初めて曲をいただいて聴いたときにはそのことも含めて驚きがありました。
-「SAMURAI DIVA」はファースト・インパクトも強いですが、聴けば聴く程に味わいが染み出してくるスルメ系な魅力も持っている楽曲だと感じます。音に奥深さを与えてくださっているという点では、東儀秀樹さんが奏でられている素晴らしい雅楽の音色の存在感も大きいのでしょうね。
東儀さんとは以前から仲良くさせていただいてまして、和楽器をテーマにしたテレビ番組等でご一緒する機会が多かったことから、そのうちプライベートでもクラシック・カーで自宅まで送っていただいたり(笑)、何かと交流させていただいていたんですよ。とても気さくな方ですし、お話を伺っていると方向性の面で私と近いものを感じるところが多いんです。
-雅楽師としての活動がつとに有名である一方、現代音楽やロックにも精通されていらっしゃいますものね。
雅楽というと伝統的で地位の高い人のための音楽と思われがちだけども、東儀さんはもっと多くの人に気軽に親しんでほしいと考えていらっしゃる方なので、そうした面では私と相通ずるものがあると思うんですよ。以前にライヴでの演奏は誘っていただいてご一緒したことがあったんですが、私としては"いつか作品作りも"と思っていましたし、東儀さんも"やろうよ"とおっしゃっていたので、今回のアルバム制作に向けてLINEでご連絡したところ二つ返事で"ぜひぜひ!"と快諾していただけたんです。具体的には「SAMURAI DIVA」と「Bloody Waltz」の2曲に笙(しょう)と篳篥(ひちりき)で参加してくださいました。2曲お送りしたら"選べないよ。どっちも好き"と言ってくださったんです(笑)。
-今のご時世ではどんな音でも電子楽器で出せますし、宮内庁管理の音源を許諾の上でサンプリングする方法もあるようなのですが、やはり人から生み出される生音には魔力にも近い魅力が備わっていますね。鈴華さんが魂を込められている歌とあいまって、ここには底知れぬ程に奥深い世界が映し出されていると感じます。
ありがとうございます。日本古来の楽器の音色や、私の伝統的な唱法を取り入れた歌を通して、生身の人間味というものが伝わっているんだとしたらとても嬉しいです。今のような時代だからこそ、こういうのもアリなのかなと思うんですよね。
-それこそ「SAMURAI DIVA」ではこぶしの効いているくだりもありますが、歌われていく際に心掛けられたのはどのようなことでしたか。
ミュージカル的な面があるという意味では、喉を開いてクラシック調に歌った部分もありますし、和に寄せたいところでは節調と節回しを狙ってしているところもありますね。それから、公平さんに"音程とかじゃなくて叫ぶように歌ってほしいんだ"とリクエストされた、最後の"生まれし世界(ほし)に 安らぎを/今"っていう部分は、もともと普通に歌っていたんですがリテイクしました。そこも、今までの自分だったらやってなかった表現の仕方に挑戦した部分です。
-"SAMURAI DIVA"というタイトルが表しているのは侍そのものよりも、きっと鈴華さんの内面で燃えている"侍スピリッツ"のことなのでしょうね。その矜持が凛とした歌からひしひしと伝わってきます。
もちろんスピリッツとしての侍を意識しているところはあります。それと、私は剣舞も昔からずっとやってきているので、そこを同時に表した言葉でもあるんですよ。日本の文化を担う女侍が、今も戦争している国がある世界に向けて、誰もが隔たりなく同じ人間として美しく生きることの大切さをこの国から歌い叫ぶみたいな。"SAMURAI DIVA"とはそういう意味を持ったタイトルなんです。










