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INTERVIEW

鈴華ゆう子

2025.11.11UPDATE

2025年11月号掲載

鈴華ゆう子

Interviewer:杉江 由紀

"多ジャンルの融合"と決めた時点でメタルはマストだったんです じゃあ今メタルで何を叫びたいかといったら、平和への願いでした


-かと思うと、今作にはアニメ"ニンジャラ"エンディング・テーマでもある、ユーロビートと和の融合を具現化した「ケサラバサラ」のような曲も収録されています。

実は、和楽器バンドだと忍者をテーマにした曲はあえて作ったことがなかったんですよ。それには理由があって、和楽器バンド8人組がベタベタな形でそれをやってしまうと、どっしりしすぎてしまうかなという懸念を持っていたところがあったんですね。なおかつ、忍者に対するイメージは日本と海外で両極化しているところがあるというのも、忍者をテーマにする上で課題の1つでした。忍びの者という面からの少しアングラな忍者の描き方もあれば、海外の方たちがお土産さんで見つけて喜ぶような分かりやすい忍者グッズに代表される、キャッチーなイメージもあって、そのどちらを選ぶのか? を決めるのがバンドでは難しかったんです。
でも、ちょうど"ニンジャラ"は忍者をテーマにしたこども向けのアニメですし、ソロであれば上手く消化できるだろうとも思ったので、ここではダンス・ミュージックの要素を取り入れながら、"くノ一"をモチーフにした詞を書いていくことにしました。あと、この曲を作ったことから、その流れで今回「甲賀忍法帖」(陰陽座)のカバーをさせていただくことになったんですよ。

-「甲賀忍法帖」はプロアマ問わず多くの方にカバーされてきている曲となりますが、鈴華さんが歌われるときに留意されたのはどのようなことだったのでしょう。

原曲があるので、やはり陰陽座さんや黒猫(Vo)さんに対するリスペクトの気持ちを大前提にして歌っていますが、その上で"私が歌ったらこうなるよ"と提示もさせていただいています。とはいえ、当初これをアルバムに入れる予定はなくて、自分で作ったMVをYouTubeに投稿するだけのつもりだったんです。ところが、投稿してわりとすぐの段階で98万回再生くらいになっていたので、"皆さんが喜んでくださるなら"と思いアルバムにも入れることにしました。

-また、激ロックの読者的には、和とメタルとラップの要素が三つ巴で混ざり合っている「Incubation」も、非常に需要が高いのではないかと思われます。

あれはラップと言っていいんですかね? ちょっと響きとしてはお経みたいになってますけど(笑)、今回アルバムについては、"多ジャンルの融合"というコンセプトで作っていこうと思っていたので、その時点でメタルはマストだったんですよ。じゃあ、今メタルで何を叫びたいかといったら、それもまた平和への願いと日本という国に対するメッセージでした。この国はとても素敵で捨てたもんじゃないのに、今ってみんな疲弊してしまっているところがあるじゃないですか。

-いわゆる失われた30年の中で、氷河期世代以降からZ世代や現在のこども世代まで、多くの人々が未来に期待をしにくくなっていましたからね。小学生のなりたい職種アンケートも、一昔まではYouTuberやインフルエンサーがトップでしたが、最新結果では会社員が男子でトップ、女子でも2位となってしまっているそうです。あまりに夢がなさすぎます。

そんな人たちを応援したかったというか、聴いている人が"一緒にここから前に進んでいくぞ!"って気持ちになれるような曲を作りたかったんです。「Incubation」の詞は広く見れば政治的なものに聴こえるかもしれないですけど、視点を変えると身近なことにもきっと当てはまると思いますしね。会社内でのこととか、いろんな人間関係なんかも含めて。だから、メタルの激しい音が鳴るなかで、みんなに対して"立ち上がれよ!"っていうエネルギーを放つ曲を発信していくようにしました。その先頭に私がいる感じで。何より私自身、こういう曲が大好物なんです(笑)。

-その熱さは間違いなく聴き手の皆さんに伝わることでしょう。それから、大胆にして斬新なアプローチが楽しめるという点では、「The Battle of the Monkey and the Crab」も特筆すべき楽曲ですね。

こういうフットワークの軽いコラボ・ワークはバンドだとなかなか難しいので、これもソロだからこそ形にできた曲だと思います。発端としては、この曲の作曲と作詞とプロデュースを手掛けてくれているシライシ紗トリさんと私が、プライベートでも仲がいいというところから、"ソロ・アルバムを作るんだったら一緒にやろうよ"と声を掛けてくださいまして。私からは"1曲は男性ヴォーカリストとコラボしたい"、"ラップもできる方がいい"という意見を出したんですね。
で、シライシ紗トリさんと言えばORANGE RANGEのプロデューサーでもあるわけで、第一候補としてHIROKI(ORANGE RANGE)さんにお声掛けさせていただきました。そうしたら、彼から、"ゆう子ちゃんとやるなら日本昔話みたいなテーマだと面白そうだよね"という言葉をいただいたんですよ。私も和でアルバムを作るなら妖怪か日本昔話のどちらかは絶対入れたいと思っていたので、すぐ意気投合しました。

-それにしてもですよ。数ある日本昔話の中で"さるかに合戦"をチョイスされた理由はなんだったのですか? "かぐや姫"あたりはモチーフになるケースがたまにありますけど、このパターンは初めてで面白すぎます。

HIROKIさんと歌うなら2人なので、猿と蟹でいいかなぁって(笑)。土台の詞はシライシさんが作ってくれて、そこに私とHIROKIさんもそれぞれ自分の歌うところを書き加えていく形でした。

-遊び心が満載で面白くはあるのですけど、曲も歌もラップも最高にカッコいいところがポイントだと思います。

こういうテーマだと滑稽にはいくらでもできるんですよね。でも、それをシライシさんなら絶対にカッコ良くしてくれるだろうなと確信してました。さらにそこに和楽器をどう入れていくかって点は私が提案をしまして、各奏者たちに声を掛けてレコーディングに参加してもらい、現場ではディレクション指示もしていきましたね。

-相当に明確なヴィジョンをお持ちだったのですね。

歌舞伎座サウンドも入れたかったんですよ。だから、掛け声や篠笛も生で録ってもらって交ぜてます。

-サンプリングに頼らずそこも生なのですね。実に贅沢なつくりです。

そこは私の特権というか、人脈を存分に活かしたところですね(笑)。知り合いの若い奏者たちの力も借りましたし、尺八はうちのバンドのメンバー(神永大輔)だし、さっきの「SAMURAI DIVA」ではうちの夫(いぶくろ聖志)が箏を弾いてます。三味線にしても「The Battle of the Monkey and the Crab」は津軽三味線ですけど、「SAMURAI DIVA」は中棹三味線を使っていて、それも夫が弾いてるんです。こういう細かな音の使い分けも、バンドではやっていなかったことですね。

-和×EDMのアプローチが光る「SHIGIN BEATS-大楠公-」は、どのような成り立ちの楽曲となりますか。

私が剣舞パフォーマンスをする際に、こういうタイプの曲に合わせて刀を振ることもあるんですけど、しっかりしたビートが刻まれているなかで詩吟を詠った曲は、あまり世の中に見当たらないですし。詩吟というと難しい印象があったり、よく知らなかったりする人が多いと思うので、ここでは詩吟に触れてもらうための第一歩、興味を持ってもらうための第一歩としてこんな曲を作ってみました。

-鎌倉時代の武将、徳川斉昭が詠んだという"大楠公"が下敷きになっているということで、検索をすると出てくる原形の詩吟にも触れてみるといいかもしれません。

アルバムの中でのポジションとしては、耳休め的なインタールードとして聴いていただいてもいいと思います。少し一息つきながら、自然と耳に入ってくるような詩吟に仕上げてあるのでぜひ楽しんでみてください。

-ボーナス・トラック(CDのみ収録の森口博子カバー「サムライハート」)まで入れると全15曲の大作ですから、中盤での「SHIGIN BEATS-大楠公-」はいい折り返し地点になっていますね。

まぁ、最近はサブスクで音楽を聴く人が多いから、アルバム1枚を通して聴く機会は減ってきてるんでしょうけどね。でも、私はアルバムをじっくり聴くのが好きなタイプなので、そういう文化も大事にしたいなと思いながら今回『SAMURAI DIVA』を作ったんですよ。だから、こういうインタールードとか曲順にもかなりこだわってます。