INTERVIEW
鈴華ゆう子
2025.11.11UPDATE
2025年11月号掲載
Interviewer:杉江 由紀
-アルバムの前半パートにはR&B風味を纏ったジャズ「泥棒猫」、より本格的なジャズの世界を味わえる「Bloody Waltz」も収録されておりますが、これらは鈴華さんの卓越したヴォーカリゼイションに酔える曲たちとなっていて、大変素敵です。
ジャズも大好きなんです。私、デビュー前は普通にジャズ・シンガーとして京王プラザホテルとか、赤坂プリンスホテル(現赤坂プリンスクラシックハウス)とかのラウンジで歌っていた時代がありますし(笑)。
-貴重な経験をされているのですね。
クラシック・ピアノを勉強するために音楽大学に行っていたときは、ピアノでジャズを弾くと型が崩れるからダメだって言われていたので、ジャズは歌ってたんですよ。ジャズが好きなのは私の父の影響が大きいですね。
-鈴華さんが柔らかに大人な雰囲気で聴かせる歌からは、上品な色気を感じます。
和楽器バンドだと、8人もいるのであんまり優しく歌うと埋もれてしまうんですよ(笑)。こういうアレンジだと優しく歌うことができるので、これもソロだからこそですね。
-優しさを感じる歌という点では、ノスタルジア漂う「うたいびと」からは繊細な温かさが感じられましたし、悠久の時の流れを思わせる「巡り巡る」では深遠なる響きを感じ取ることができました。
「うたいびと」はもともとコロナ禍のロックダウン中にワンコーラスだけ作った曲で、当時そのできた部分だけYouTubeに投稿したこともあったんですけど、これは私自身が優しさを求めていたときに作った曲でしたね。皆さんからも"この曲に救われた"という声をいただいていたので、今回やっとフル・コーラスにして収録することができて良かったです。そして、「巡り巡る」については死生観と向き合った曲もこのアルバムに入れたかったんです。バンドでも必ず1曲はそんな曲を入れてきていますし、ヴォーカリストとしてはバラードをちゃんと歌える歌い手になるのが夢だったので、こういう表現も私にとって自然なものだと言えますね。
-「月の兎」はシンプルなピアノ・バラードで、ここではニュートラルな鈴華さんの歌を聴くことができるのも嬉しい限りです。
ピアノ弾き語りの状態をほぼそのままに聴かせたい、というのがこの曲のコンセプトでした。聴き手に対して語り掛けるような歌声を最後に持ってくることで、このアルバムを締めくくりたかったんです。詞は実際に飼っていたことがある兎のことを想いながら、生きていくなかで自分の弱さを感じているような人たちに、寄り添うことができる歌にしたい、弱さを持った人たちへの共感を伝えられる歌手でありたい、と願いながら書きました。
-そうしたシリアスな楽曲がある一方、アッパーな空気感がはじける「ミトコンドリア」と、メロディアスで美しい「パピヨン」は、ある意味でJ-POP的な香りを感じる仕上がりです。これらもいいアクセントになっておりますね。
「ミトコンドリア」は、ライヴでみんなとタオル回して盛り上がれるような曲が欲しくて作ったものですね。あと、この詞は私がこどもを産んでから増えた同世代の女性ファンや、これから家族を持つかもしれない年代の女性ファンに向けて書いたところがあります。今うちのこどもは2歳児なんですけど、子育てをしながら歌手として生きている姿とか、母親としての大変さとか強さとか、いろいろと共感を持ってもらえているなという感覚があるので、そこをフィーチャーしたみんなへの応援歌にしたかったんですよ。
-むしろ、これは世代を問わず女性全般への応援歌にもなっているように思いますね。"後ろ髪ひいてくる 炭水化物 糖質制限/意識高い系って言葉に拒絶反応"といったあたり等は、子育て世代どころかおばさん世代にも刺さりますよ。
しんどいよなぁ......と思いながら書きました。ご飯大好きなのにー! って(笑)。
-分かりすぎます(笑)。
その"分かるー"が欲しくて書いた詞ですからね。"自暴自棄から脱出しよう フォーマット入力"っていうのは、ジムのWEB入会をしてる場面ですし。かなりリアルな経験を書いてます(笑)。
-となると、「パピヨン」の詞も鈴華さんにとってリアリティのあるものですか。
和楽器バンドが活動休止期間に入ったときに、こう思ったんですよね。私自身も好きなグループが活動休止したり、解散したり、そういう経験はしているので。うちのバンドは解散ではないですけど、それでもファンのみんなの気持ちを考えたらやっぱり申し訳ないなと。だって、皆さんがエンターテイメントにお金と時間を使ってくださるのは、日常で頑張っている分の癒やしや救いを求めているからだと思うんですよ。
-推し活が生き甲斐だ、と感じている方はきっと多いでしょうね。
そんな状況でも、私たちに対して、"活動を休止する時間も必要だよね"と言ってくださるファンの方々がいることを思うと、私としてはやっぱり"みんなのことを寂しくはさせないから!"って気持ちになりますし、このソロ活動はそのためのものでもあるので、「パピヨン」はそういう愛を込めた曲として作りました。実は、このアルバムを作り出して最初に書いたのがこれなんですよ。
-"君の寂しさは、私が抱きしめよう"とはそういう意味でしたか。
当然バンドが好きな人のソロじゃ物足りないっていう気持ちも私はよーく分かるんです。それも私自身が経験したことがありますから。それは分かっているけども、楽しいことをここからもっともっと提供していくし、人生っていろんなタイミングがあるから大丈夫だよ! ってみんなのことを抱きしめられるような歌をここでは届けたかったんですよね。
-鈴華さんの聴き手に対する愛はこれにとどまらず、今作にはVOCALOID曲「百年夜行」が収録されている点も要注目ですね。
これはもともと2012年にカバーで出した(杵家七三社中with鈴華ゆう子「和楽・百年夜行」)ことがある曲なんですが、それは和楽器+私の歌のみだったので、原曲に近いロック+和楽器+私の歌というスタイルのものをファン方々がずっと待っていてくださったんですよ。それを今回ようやくアルバムに入れることができました。
-加えて、ボーナス・トラックの「サムライハート」はファン投票で1位を取った曲になるそうですね。
ファン投票自体はほぼまんべんなくいろんな曲に票が分かれてたんですけど、唯一複数投票が数名いたのがこの曲だったんです。以前から、私のファンの方たちに、この原曲を歌っていらっしゃる森口博子さんとの親和性っていうのを感じてくださってる方が多いこともあって、1stアルバムのときにも「水の星へ愛をこめて」(数量限定生産盤収録)を歌ったんですよ。森口さんとはイベントでもご一緒したことがあって、そういうなかで、今回は"SAMURAI DIVA"だし、"サムライハート"というのも合うのかなと思ったんです。それに、私は(この曲が主題歌を務めるアニメ)"鎧伝サムライトルーパー"は世代的に観たことがなくて存じ上げなかったんですけど、来年リメイクされるらしいんですよ。そういう影響とかもあって、何票か重なったのかもしれないですね。
-言うなれば、今作『SAMURAI DIVA』は、全部入りのフルスペックなソロ・アルバムに仕上がったということなのだと思います。鈴華さんはこれだけ大作を完成させた今、どのような手応えを感じていらっしゃいますか。
私がここまでアーティストとして生きてきた証として、この『SAMURAI DIVA』は今のタイミングで残しておきたい一枚になったなと感じてます。バンドだといろんなことを手分けできますけど今回はもう全責任自分でしたから。ジャケット、特典グッズ、(プレミアム盤限定の)羽織のデザインとかも全部プロデュースしたんですね。ちなみにこのジャケットは、女性だけでチームを編成して作りました。顔の文字もCGじゃないんですよ。女性書道家の方に書いてもらっていて、牡丹の花は、もともと着物染めをやっていたボディ・ペイントのアーティストに描いてもらってるんです。文字も牡丹も、ちゃんと私の顔の凹凸に合わせて書いてくださってるんですよ。
-音源だけではなく、パッケージまるごとが鈴華さんの作品なのですね。
9年も寝かしてしまった上でのソロ・アルバムですから、今やりたいことは全てやりきれました。もしこれがどう評価されようと、今この時代に生きる日本人である私が『SAMURAI DIVA』という作品を残せたことが、何よりもありがたいです。
-いやはや、今作のリリース後から始まる、ソロ・ツアー"鈴華ゆう子 LIVETOUR2025『SAMURAI DIVA』〜東名阪台ノ陣〜"も楽しみです。
アルバム自体は9年ぶりなんですけど、実はソロ・ツアーって今回が初なんですよ。9年前はバンドのほうが忙しすぎてやれなかったので、ようやくやれるのが本当に嬉しいです。そして、ライヴも制作会社に頼むところから自分で動いてプロデュースしてます。
-東名阪そして台湾と、バンド編成はいかなる感じになっていくのでしょうね。
ドラム、ベース、ギターに和楽器が入るんですけど初日は津軽三味線が入りますし、台湾は三味線と尺八もいて、東京はお囃子がいるんですね。各地によって人数や編成が変わるので、その日によって音も見え方も変わってくるところがあると思いますし、台湾は昼夜2回公演なのでそこはセットリストも変えてやろうと考えてます。
-さすがです。
パフォーマンスの面では必ず剣舞も入れますし、ファンの皆さんを巻き込んで盛り上がる曲では、私がデザインした舞扇子というおもりが入った回しやすいグッズもご用意していますから、ぜひ一緒にくるくる回してください。きっと、ライヴでは音源とまた違った形で歌にスピリットがさらに乗っていくと思うんですよね。もちろん、初のソロ・ツアーなので、皆さんの"あれは聴きたいよね"という気持ちは分かっていますから、その要望にもお応えするつもりです(笑)。みんなで楽しみましょう!










