INTERVIEW
OMNIUM GATHERUM
2025.11.06UPDATE
2025年11月号掲載
Member:Markus Vanhala(Gt/Clean Vo)
Interviewer:菅谷 透 Translator:安江 幸子
フィンランドが誇るメロデス・シーンの重鎮 OMNIUM GATHERUM(以下:OG)が、最新アルバム『May The Bridges We Burn Light The Way』を完成させた。自ら"AORDM(アダルト・オリエンテッド・デス・メタル)"と形容する、プログレッシヴさとキャッチーさを併せ持ったスタイルのサウンドへと、音楽性を果敢に変化させてきた彼等だが、記念すべき10作目のアルバムは初期作品のアグレッシヴな要素もふんだんに取り入られた、キラーチューン満載の作品に仕上がっている。ソングライターのMarkus Vanhalaも"最高傑作"と語るアルバムについて、詳しい話を訊いた。
-OGとしては2024年に5年ぶりの来日公演("Omnium Gatherum Japan Tour 2024")を行いましたね。何か印象に残っていることはありますか?
もちろん! 日本のショーはいつもスペシャルだし、オーディエンスも熱狂的だしね。たしか東京のショー(9月16日公演)はソールド・アウトになったんじゃなかったかな。大阪も最高だったよ。東京では(2日間)セットリストを変えてプレイしたんだ。 でも、東京に着いたとき、俺たちの荷物が全部フィンエアー(フィンランドの航空会社)のロスト・バゲージになっちゃったんだよね(苦笑)。初日のショーはレンタル機材でなんとかやりくりしたよ。俺はもちろんギター・オタクだから、都内のJackson Guitarsの店に行って、新しいギターを買ったけどね。ギターがパーフェクトじゃないと気が済まないから(笑)。Brandon Ellis(CANNIBAL CORPSE)モデルのギターを見つけたんだ。Brandon EllisはTHE BLACK DAHLIA MURDERの元メンバーで、仲のいい友人だからね。東京では友達がやっているメタル・バーにも行ったよ。東京でも大阪でも、いつも楽しい時間を過ごしているんだ。
-そうだったんですね。荷物は結局取り戻せたのでしょうか。
翌日届いたよ。航空会社あるあるだよね。困ったもんだよ(苦笑)。俺たちは東京に行ったのに、荷物は乗り継ぎのアムステルダムで足止めを食らってしまったんだ。
-なるほど。帰国時にはギターが少なくとも2本になっていたということですね。
そう。東京はそういう意味で俺にとっては危険な場所だよ。この前INSOMNIUMで日本に行ったときもデカいギター・ストアに行ってさ。Valley Artsのいいストラトキャスターを見つけて、買わずにはいられなかったよ(笑)!
-つまりロスト・バゲージがあろうとなかろうと、帰国時にはギターが増えているんですね(笑)?
ああ(笑)。東京が悪いんだよ。いいギター・ショップがありすぎるんだから(笑)!
-(笑)さて、記念すべき10作目のアルバム『May The Bridges We Burn Light The Way』が完成しました。リリースを控えての心境を教えていただけますか?
心からハッピーだよ。アルバムをレコーディングして、ミキシングして、マスタリングして......なんて作業を続けていると1,000回くらい聴くことになるから、向こう何年かは聴きたくないと思ってしまったりするけど、最近また聴いたんだ。Century Media Recordsから完成品が送られてきたからね。それで改めて聴いてみたけど、なかなかいい作品だと思うよ。俺たちが求めていたものそのものだ。 『Origin』(2021年リリースの9thアルバム)は今にしてみればちょっとミドル・テンポが過ぎたというか、壮大なアルバムだったから、今回はもっとコンパクトにしようと考えた。昔のメタル・アルバムみたいに40分くらいにね。短いアルバムのほうが、聴いた後でまた再生ボタンを繰り返し押したくなるだろうし。それから、もっと速くてキャッチーな曲をやろうと思ったんだ。キャッチーなメタル・アンセムだね。『Origin』はプログレ度の高い壮大なアルバムだったし。 『May The Bridges We Burn Light The Way』はOGにとって10作目のアルバムなんだ。そういうこともあって、いっそう頑張ったよ。10枚もアルバムを作れるバンドはそう多くないし、マイルストーンみたいなものだよね。そんなこともあって、今回はOGのヒストリーを考えながら作っていたんだ。10作目のアルバムだから、このバンドのヒストリーやレガシーに敬意を表しながらも新しい要素があるものにしたかった。それで前回より少し速いアルバムになったんだ。昔の俺たちはアグレッシヴなメロディック・デス・メタル・バンドだったのが、プログレ度が上がっていったからね。
-実はそのあたりを質問しようと思っていました。これまでの"AORDM"に加え、初期を思わせるようなアグレッシヴな要素も増えています。あなたの狙いが的中したということでしょうか。
そうだね。ちょっとルーツに戻ることによって、過去を祝福しているんだ。同時にフレッシュな感覚も取り入れている。同じ方程式の繰り返しばかりするのは嫌だからね。ただ、今回は昔の要素に戻った部分があるんだ。俺にとっては曲を書くのがなかなか大変なアルバムだったよ。たくさんの曲がゴミ箱行きになった。......ちょっと考えすぎだったかもしれないな。でも最終的には心から満足できるものができたよ。どの曲もシングルにしてMVを作りたいくらいなんだ。 同時にギター・プレイ的には、OG史上一番大変だった気がするね。すごくチャレンジングな内容で、ギター・プレイをたくさん学び直さないといけなかったよ。ソロとかね。今回は『Origin』のときと同じく、俺が全部のギター・パートを録音したんだ。今は昔メンバーだったJoonas(Koto/Gt)が戻ってきたけどね。ゲスト・ソロは2、3曲やったけど、そのくらいだ。復帰した今は一緒にライヴに出ているよ。レコーディング中は彼がいなかったし、なんだか不思議な感じだったけどね。これからどうなるか、様子を見るよ。
-演奏的にも気心知れているでしょうし、すぐまた感覚を取り戻すでしょうね。
ああ。Joonasも"帰るべきところに帰ってきた気がする"と言っていたよ。彼が5年間脱退していたのは、移動ばかりの生活に飽きてしまったからだったんだ。2019年に日本でプレイ(["Extreme Dark Night vol.6" ー Omnium Gatherum & Scar Symmetry Japan Tour])した後に脱退してね。それまで5週間くらい飛行機移動が続いていたものだから、飛行機移動に疲れてしまったんだ。でも今は5年も充電したからすっかり元気だよ!
-また一緒にツアーできますね。ところであなたは歌詞について"90年代のスピリットが感じられるね。自伝的ではないにしても、街角でメタルを爆音で鳴らし、大きな夢を抱いていた僕等の原点を彷彿させるものだ"という説明をしていますが、ルーツに立ち返る的なものが今作のテーマなのでしょうか?
そう、今回はコンセプト・アルバムみたいな感じなんだ。街や路上で何が起こっているか。いいこと、悪いこと、醜いこと、美しいこと......10作目ということでノスタルジーも入っている。ストリートで友達と出会って、スケートボードや自転車で遊んでいたガキの頃を思い出してね。90年代に青春を送ったから携帯電話なんてなかったし、スマホはもちろん、インターネットもなかった。実際にストリートに出ないと友達に会えなかったし、彼等がどこにいるかも分からなかったんだ。そうやって俺たちは育ってきたし、音楽もストリートで聴いていた。そういうことが高じてこのアルバムになっているんだ。それから、俺たちも歳を取ってきているから、メンバーの家族に訃報があったりしてね。そういういろんなことが重なって、人生や、自分の若い頃について考えさせられた。 このバンドはもうすぐ結成30周年になる。こっちがいいことをしようとしても、それを受け止めないで腹を立てているやつらというのはいるものだ。タイトルの"May The Bridges We Burn Light The Way"は、そんな人の足を引っ張ろうとするやつらのことは気にせずに、自分らしいことをして前進するのみだ、という意味なんだ。もちろん他人にはいつも優しくフレンドリーでいるべきだけど、自分に対してフレンドリーじゃない人がいたとしても、それは自分のせいじゃないから、気にしないでまっすぐ進めばいい。
-ちなみにこのタイトルですけど、"ビバリーヒルズ高校白書"とは何か関連がありますか。"May The Bridges I Burn Light The Way"だと、登場人物のディラン・マッケイのセリフにあるらしいんですが。あのドラマも90年代でしたよね?
マジか! もちろんあのドラマは90年代当時に観ていたけど、ディランのセリフにそんなのがあったとはね。まったくの偶然だよ。でも90年代のドラマだし、シンクロニシティとしてはパーフェクトだな(笑)。
-(笑)90年代という時代は、皆さんにとってどのような意味を持っているのでしょうか?やはり少年時代、何も心配事もなく過ごせて、ミュージシャンになる夢を見始めて......という重要な時代だったのでしょうか。
ああ。俺がこのバンドを結成したのは14歳の頃だったしね。
-そうだったんですね。
8年生(日本の中学2年生に相当)で、90年代半ばのことだった。もちろん大きな夢を見ていたし――と言ってもその"大きな夢"は、"デモ・テープを作って地元の若者が集まるクラブやラジオ局でかけたい"とか、そういうものだったけどね(笑)。その夢は全部叶ったんだ(笑)!
-本当ですね! それどころか世界中を旅して、日本のような遠いところにも来てくれています。
ここまで行けるとは想像もつかなかったよ。このバンドが結成した頃に日本に行くことができていた(フィンランドの)バンドは、たぶんSTRATOVARIUSくらいだったんじゃないかな? 日本で人気だったらしいからね。もちろん俺たちも、いつか日本に行けることがあったらとてつもなくクールな話だとは思っていたけど、それが叶ってとても嬉しいんだ。今じゃたしか、4、5回は行っているんじゃないかな?
-今年もINSOMNIUMで来日していますし、かなりの回数ですよね。アルバムに話を戻しますが、ヴォーカルはスウェーデンで、Björn "Speed" Strid(SOILWORK/Vo)のプロデュースで録音されたとのことですが、Jukka(Pelkonen/Vo)だけが行ったのでしょうか。
いや、俺も行ったよ。クリーン・ヴォーカルは全部俺が歌ったからね。Jukkaがグロウルを、俺がクリーンを全部やったんだ。楽しかったよ。Björnとは仲がいいからね。彼がTHE HAUNTEDのアルバム(『Songs Of Last Resort』)でヴォーカルのプロデュースをしていたことをSNSで知って、速攻で連絡したよ。彼のヴォーカルや作品が大好きだし、もしかしたらOGと仕事をする気があるかもしれないと思ってさ。即答でイエスと言ってくれたよ。このバンドが好きで音楽スタイルもよく分かっているからって。 それで、SOILWORKのギタリストのSimon(Johansson)のスタジオに行ったんだ。そこで作業をした。Simonが録音してくれて、Björnがプロデュースしてくれて、俺とJukkaが歌ってね。ストックホルムで一緒に過ごしてとても楽しかったよ。SOILWORKも、俺たちが90年代からよく聴いていたバンドなんだ。
-ここでもまた90年代コネクションが。
そうなんだよ。その昔OGに大きな影響を与えてくれたバンドの1つなんだ。だからそこで作業できたのは大きかったよ。面白い話があって、Simonのスタジオにはデカくて古いミキシング・コンソールがあったんだ。"このミキシング・コンソールには何か裏話が?"と聞いたら、ロンドンで買ったと。QUEENが『Innuendo』を録音したスタジオにあったやつらしい。つまり、俺たちがヴォーカルを録ったのは、Freddie Mercuryがヴォーカルを録ったのと同じ機材だったということなんだ。Simonは"君たちのヴォーカルがいい感じなのは、コンソールにFreddieの鼻毛でも紛れ込んでるんじゃないか?"なんてジョークを飛ばしていたけどね(笑)。
-(笑)90年代のヴィンテージ機材ということですね。他にもヴィンテージ機材を用いているのでしょうか?
ギターには本物の真空管アンプを使ったよ。俺たちはモジュラーを使わないからね。全部本物を使っているんだ。
-それでもこれだけモダンなサウンドにできるのが素晴らしいですね。
ああ。Jens Bogrenがミキシングを担当してくれたんだ。Jensがモダンなアルバムにするトリックを使ってくれている。
-前作でもミキシングを手掛けていましたね。
そう。古いものと新しいものがここでぶつかり合っているんだ。
-各曲についても伺います。「My Pain」では、これまでの作品と比べてクリーン・ヴォーカルが大胆に使用されていますね。この曲でこのアプローチを取った理由や、楽曲について教えていただけますか?
それは......ひとりでにそうなったんだ(笑)。特に計画もせずにああなった感じだね。実はこの曲は、アジア・ツアーのときに思いついたんだ。日本と中国に行ったときにね。あの曲のメイン・リフが俺のウォーミング・アップだったよ。あれを弾きながら、EUROPEのJohn Norum(Gt)とかを思い出していたんだ。あとはYngwie Malmsteenみたいなネオクラシカル系や、NEVERMORE。あの曲を書いていたときはNEVERMOREの影響が大きかったね。 で、クリーン・ヴォーカルはたまたま入ったんだ。あれは自宅で録ったもので、家にいたときに思いついたものをすぐ録ってみんなにデモンストレーションしたら、みんな気に入ってくれた。俺にとっては災難だったよ。スタジオで録らないといけなかったんだから。ギタリストなのにさ(笑)。バッキング・ヴォーカルはOGでも何作か前からやっているからいいんだけど、今度はソロ・ヴォーカルだろう? ちょっとしたストレスだったよ(苦笑)。初めてのソロ・ヴォーカルで、しかもBjörn Stridがすぐ側で聴いているっていう(笑)。



















