INTERVIEW
PENDULUM
2025.09.12UPDATE
Member:Rob Swire(Vo/Syn/Producer)
Interviewer:山本 真由 Translator:安江 幸子
ロックとエレクトロニック・ミュージックの懸け橋となるような、アグレッシヴ且つダンサブルな音楽性で一世を風靡したPENDULUMが、一時の活動休止を経てついに本格的にシーンに復帰。ロック・シーンからEDMブームへリスナーを導く存在でもあった彼等が、どうしてバンド活動を離れ、そしてまたバンドとして再始動したのか。インタビューでは、その挑戦的な内容に驚かされる約15年ぶりのアルバムについて語ってもらうなかで、情熱を保ちながらクリエイティヴであり続ける秘訣を教えてもらった。
義務感からじゃなくて、"書きたいから書いた"んだ。だからこのアルバムを"Inertia"(惰性)と呼んでいる
-ニュー・アルバム『Inertia』の完成、おめでとうございます! 今作は、実に約15年ぶりのスタジオ・アルバムということになりますが、作品を完成させた今の率直な感想は?
すごくほっとしているよ。シングルだけで出ている状態だと実感がないから、アルバムとして出せてようやく実感が湧いてきた感じかな。
-大ヒットした前作『Immersion』(2010年リリースの3rdアルバム)から、これ程までに期間が空いたのはなぜだったのでしょうか? 活動休止期間やコロナ禍もありましたが、EPは出していましたよね。
PENDULUMにどういう音が望ましいかを見極めるのに時間が必要だったんだと思う。2012年に活動を休止した頃、僕たちはエレクトロニック・ミュージックをやることのほうにより興味が向いていた。ちょうどその頃SKRILLEXなんかがシーンに出てきたこともあって、ああいう感じの音楽に興味があったんだ。そんなこともあって、次のPENDULUMのアルバムがどんなサウンドになるのか見当がつかなかった。一旦離れて、自分たちが何をやりたいのかちゃんと考える時間が必要だったんだ。それを思い出すのに時間がかかったんだと思う。
-なるほど。EPを出しながら、このバンドの形を見極めようとしていたのでしょうか。
そうだね。復帰するときにはロックやメタルの影響が強い状態になっていたいというのは分かっていた。僕たちがずっと前から大好きで、聴いて育ってきた音楽だからね。でも2012年当時はたぶん、ドラムンベース・ミュージックの中でどう受け取られるか分からなかったから怖かったんだと思う。歳を重ねたおかげで、人の反感を買うことがあまり気にならなくなったしね。やりたいことをやる自由を与えられたんだ。いいことだよ。
-実際の制作はいつ頃から開始されたのでしょうか? 曲によっては2020年に遡るものもあるようですが。
うーん......断続的に6年くらいかかったんじゃないかな。「Nothing For Free」は復帰初期に出した曲の1つだったけど、あれももともとは(別プロジェクトの)KNIFE PARTY向けのつもりで、PENDULUM向けじゃなかったんだよね。でも蓋を開けてみれば、みんなに"PENDULUMの新曲ができたね!"なんて言われてさ。"いや、KNIFE PARTY用なんだけど"と言ったけど、本当はPENDULUMのほうが合っているって、僕が気付く前にみんな気付いていたんだろうね(笑)。
-先程PENDULUMの音楽を改めて見極めたかったという話がありましたが、前作のすぐ後にもアルバムの計画があったらしいですね。その当時の考えと今とでは、やりたいことは変わっていますか?
間違いなく変わったね。『Immersion』の直後に出していたら、安全パイに留まったものになっていたと思う。『Immersion』とそんなに違わないものになっていたかもしれない。もし今回のアルバムをあの当時に持っていったら、"ジーザス! 勇気あるな~"と思ったんじゃないかな。メタル要素が多いから、きっとショックを受けていたと思う。こういうものができてハッピーだよ。
-活動休止期間中、あなたとGareth McGrillen(Ba/DJ)については、よりフットワークの軽いKNIFE PARTYとしての活動に忙しかった時期もありますが、その活動が今作に与えた影響はありますか?
うーん......僕たちは2つの活動をできるだけ分けて考えるようにしているんだ。別人格に近い感覚だね。僕の頭の中では特に内容が通い合っているわけでもない。完全に別物として考えているよ。まぁ、潜在意識的にはきっと影響しているんだろうけどね。KNIFE PARTYのときはエレクトロニック・ミュージックにパンクなアティテュードで臨むようにしているから、それがPENDULUMに大きく影響を与えているのかもしれない。
-KNIFE PARTYの活動を経て、リフレッシュした状態でPENDULUMに立ち戻ったような感覚はあるのでしょうか。
あぁ、それはあるね。2つプロジェクトがあることの素晴らしさはそこにあるんだ。片方にフォーカスしすぎたと思ったらちょっと離れてもう片方に行ってみれば、戻ってきたときにまた新鮮に感じることができるし、またエキサイティングなものになるんだ。大事なことだよ。
-COVID-19によるパンデミックもあり、音楽シーンを取り巻く環境も大きく変化していますが、PENDULUMの制作スタイルや方針には何か変化はありましたか?
間違いなくあったね。いい方向に変わったんじゃないかな。僕は完璧主義なところがあって、それに悩まされてきた。どうしても完璧なものにしたくて、心配ばかりして時間を過ごしていたんだ。でも長年の間に、そんな気性の扱い方が前より上手くなってきたような気がする。完璧なものなんて存在しないことは明らかだ。1曲に100年かけたければかけることだってできるけど、そうしたところで改良されないかもしれないし、なんなら改悪されてしまうかもしれない(苦笑)。そう思えるようになってから、完璧主義との付き合い方が前より上手くいくようになった気がするんだ。特にコロナ禍以降はね。 大事なことだと思う。完璧にこだわりすぎて時間をかけて、自分で自分にストレスをかけていたのが、そのもののありのままの状態を受け容れることができるようになってきたんだ。"このドラムのサウンドは100パーセントパーフェクトじゃないかもしれないけど、曲との合い方がいいな"とか。完璧でないことはいいことなんだ。そういうものの良さが分かり始めてきたよ。いいことだよね。
-なるほど。"perfectly imperfect"(完璧に不完全)なものの良さがあるということですね。
(笑)うん。というか、僕の聴いている音楽の大半がそうなんだよね。ポップなレコードとか、あまりに完璧すぎるものを耳にすると......(※しばし考える)......ほら、モデルの写真を見たときみたいな感覚って分かるよね? パーフェクトなのは分かるけど、好きにはなれない。何かが間違っているような気がするというか、あまりにパーフェクトすぎると奇妙に感じてしまうというか。あと、完璧じゃない人と恋に落ちるときは、その不完全さもひっくるめて惚れ込んだりとか。音楽も同じことだと思うんだよ。完璧じゃないところの良さというのもあるからね。
-そうですね。その不完全さに音楽性や人間性が宿っていることもありますから。アルバムの内容に話を移しますが、今作『Inertia』のテーマについて教えてください。そういう不完全さを受け容れられるようになったからこそ、"勇気のある"制作が可能になったということでしょうか。結果として完全に素晴らしいアルバムができたわけですが。
面白い話があってさ。僕はセラピストにかかっているんだけど、そのセラピストはとても聡明な人なんだ。彼はミュージシャンでもあるから、ミュージシャンの扱いを心得ている。彼にはいろんな話をしているんだ。"聴いてくれ。僕は今いろんなネガティヴなことを経験していて、こんな気分になっているんだ"みたいな話をしたら、こう言われたよ。"君はハッピーな題材の曲をいくつ知っている? 音楽というのは苛立ったり怒りを覚えたりとか、そういう状態からより良くなっていくために生まれるものなんだ。時には、そういうネガティヴな感情から最高の音楽が生まれることもあるんだよ。もし今の心理状況が治ったら、もう書く題材がなくなってしまうかもしれないよ?"。そう言われてハッとしたよ。"あぁ、それはいい考えだな"と思った。直さないといけないものもあるけど、音楽を作る理由になるものもあるから、それは持っていないといけない。 今回のアルバムの多くはそういうところから来ていると思う。据わりの悪さとか、何かに悲しむこと、何かに怒ること。その何かがもっと違うものになればいいのにと願う気持ち。僕が自分の好きな曲を書くのはそういうところからだ。心地よくはないけど自分には必要なものがある、そういう心境だね。
-さっき話していた不完全さの話にも通じるものがありそうですね。とても良い視点だと思います。"Inertia(惰性、無気力、無力)"は心理学用語だと思いますが、タイトルもそういうところで繋がっているのでしょうか。
その通りだよ。大半の曲はひとりでに生まれたんだ(笑)。だからこのアルバムを"Inertia"と呼んでいる。アルバムの曲を"書かなくちゃ"という義務感からじゃなくて、"書きたいから書いた"んだ。そのとき自分が感じていたことを反映できるようにね。曲ができるたびに"これは僕の感じていることそのものじゃないか!"と感じることができて良かったよ。音楽がフィーリングとマッチすると最高なんだ。そうするとハッピーになれる。