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INTERVIEW

kein

2024.11.20UPDATE

2024年12月号掲載

kein

Member:眞呼(Vo) 玲央(Gt)

Interviewer:長澤 智典

keinのようなバンドがメジャー・デビューすることに すごく意味があると思ってる


-そんな背景もあったんですね。

玲央:個人的に、その感覚が懐かしかったですね。今はそれぞれがDTMで、構成も含めて自分の中でこねくり回して原曲を作るパターンが多いですし、lynch.もその方法で作っています。効率的にもすごくいいことだと思うし、そういうのを得意としている人たちもいますが、僕等は全員DTMもできるけど苦手な人たちばかりで。お互いにスタジオで顔を突き合わせて、音を重ねて作るスタイルが好きだし、休憩時間中に雑談をしながら、ふと"今の曲の2回目のBメロの後にCメロを入れたらどうかな?"とか、曲のアイディアが降りてくることも多いんですよ。昔のkeinはまさに人と直接触れ合いながら楽曲を生み出していたから、「Spiral」を作ったときはその感覚を思い出して懐かしくなったし、改めて"バンドしているなぁ"と感じましたね。

-今回の作品、皆さんトリッキーなプレイが多いですよね。

玲央:基本的に、全員ユニゾンで演奏しないですからね。しかもどの曲も、打ち合わせすることなくそれぞれが自由に演奏して、そこに眞呼さんがメロディを乗っけて、自分もaieさんの演奏を聴いて"じゃあ、自分はこの辺のポジションでこう弾こう"とアプローチして、その上でまたaieさんが、と互いに刺激し合って生まれているんです。keinの曲作りって、真ん中に向かって全員が1つに重なり合うのではなく、1本の大きな幹があって、そこから5本の線があちこちに出ているイメージなんですよ。だからユニゾンで演奏する必要もないし、全員が違うことをやっていて全然OK。だけど、それがしっかりと1個の音に、1つの音楽になっていく。それこそがkeinなんですよ。

-そこは眞呼さんも一緒だ。

眞呼:"好きだから、そう歌いました"というだけです。それぞれが、自分がかっこいいと思うものを出していく。それがkeinなんだと思います。

-収録したどの楽曲の歌詞にも言えることですけど、例えば「Spiral」なら"赦されていい 許さない"や"どうか幸せに 愛するものに囲まれ/どうか気を付けて 誰の報い受けてる?"等、あえて"相反する思い"を並べて感情を伝えてきています。その表現に強く惹かれました。

眞呼:物事1つ取っても、捉え方次第で"いい"と思えることも、裏を返せば"悪いこと"にだってなっちゃうものなので。どの歌詞もそうですが、それぞれの正解は自分で出してもらえればいいんです。僕は決して"こうです"とは断言できない。言ってしまえば"正しさ"自体が不確かなことだから、"こうだな"と感じた思いがその人の答えとして正しいと私は思っています。

-「Spiral」では相反する言葉を並べながら自問自答もしています。この曲に込めた思いも気になりました。

眞呼:「Spiral」でテーマに据えたのは"復讐"ですね。どの曲でもそうなのですが、この曲でも主人公に憑依して書いています。

-眞呼さん自身、痛みを表現していることが多くないですか?

眞呼:この世が楽園だったら私は歌詞を書いてないです。みんなが幸せだったら、私が書いているようなものはいらないのかもしれないですが、世の中を見渡せば、非常識とも言えることがまかり通っています。その逆も然り。だから表現しているんでしょうね。

-「Puppet」の歌詞を読んだとき、個人的には腐敗した今の政治の世界に当てはめて捉えていました。眞呼さんは世の中を皮肉って書くことも多くないですか?

眞呼:皮肉って書いてるというよりは、捻くれてるやつが書いたから、皮肉に聞こえるんだと思います(笑)。

玲央:眞呼さんのまっすぐさがこういう表現なんですよ。歪に見えるかもしれないけど、自分の中ではまっすぐに想いを表現しているというか。久しぶりに一緒に作品を作りながら、そこは本当に変わらないなぁというか、人と視点が違うところが面白さだなぁと思いましたね。

眞呼:「Puppet」の歌詞は、"操り人形"の視点というのが思い浮かんで、登場人物になりきって言葉にしたもので。"どれか選んでもいいよ"と言われても、選ぶ物事自体に"本物"がないのは怖いことというか、全てにおいて事実や真実、救いがないところから"さぁ選んでください"と言われてもいったいどうするのって。これは全曲に言えることですが、私は空想の物語として歌詞を書いていません。全部現実を題材にしています。だから絵空事とは捉えずに、そこは受け止めてほしいですね。

-玲央さんは、眞呼さんの書く歌詞をどのように受け止めています?

玲央:言ってしまえば、僕と考え方や表現方法が全く違うんですよ。違って当然だし、無理に擦り合わせる必要もないんですけど。それは演奏面にも言えることで、眞呼さんの中に伝えたい思いがあって、それを眞呼さんなりの言葉でまっすぐに伝えたいんだったら、それはそうするべきだと思います。僕等だって、その曲に対する思いを乗せてまっすぐに弾いてパフォーマンスをしているので、シンプルにそれだけのことだし、それがkeinなんです。個人的に気になっている歌詞について語ってもいいですか?

-ぜひ!

玲央:「Toy Boy」で、"頭の中"の後に眞呼さんが"2, 3, 5, 7, 11, 13, 17, 19, 23 ..."と数字を言い始めるんですね。ここは、この曲を作っていくなかで"ここにちょっとメロを追加したいんですよね"という話になって、後で付け加えた部分なんですけど、まずは楽器陣でそこを作って、眞呼さんに"何か歌詞を入れられます?"と聞いたところ、その場で書いて歌ったもので。いきなり数字が羅列されるから"その数字はどういう意味なんですか?"と聞いたら"素数です"と。それで改めて聴いてみると、確かに素数を言ってるんですよ。素数を歌詞に当てはめようとするその発想がすごいし、普通だったらない表現じゃないですか。そこにびっくりしたことを、どうしても言いたかったんですよね。

-素数という発想は......。

眞呼:"ここの歌詞どうします?"と言われたときにパッとひらめいて歌ったら、それが活かされました。歌っているときや歌詞を書いているときは、その曲の登場人物になりきっているから、あのときも自然と素数が出たんですけど。私の歌詞の中ではよくあることです。

-「Toy Boy」は、それまで5人が自由奔放に演奏していたなかで、"引き戻される night and day"、"引き摺り戻される night and day"と眞呼さんが歌い出したとたん、演奏陣が1つに固まって、強烈なパワーを発揮していきますよね。あの展開が好きなんです。

玲央:あそこのパートでは、メンバー全員が感情を出しまくっていましたからね。

-「Rose Dale」の冒頭で、眞呼さんが"強制、不当、常軌、異常、暴行、日常、狂気で育った"等、強烈な言葉を吐き出していますが、それも現実にあることを題材にしているわけですよね。

眞呼:世の中には"かわいい、かわいい"と育てられていない子たちもいて。"自尊心だけでしか生きられない人ってこうなるよな"という思いを書きました。これに共感してくれる人もいるけど、"分からない"人たちのほうが多いし、できることならこういう人生は送りたくないし、経験もしたくないけど、だからこそ言わなきゃなと思って、歌詞にしています。

-たしかに「Rose Dale」の歌詞にダイレクトに共感を覚える人は一部なのかもしれません。でも、「リフレイン」で綴った歌詞は、いじめのことと自分が捉えていたように、自分事として聴く人が多そうだとも感じました。特に好きなのが"「帰りたい....。」/腕の中?"の部分。この言葉が「リフレイン」を紐解く鍵になっていませんか?

眞呼:そう思ってくれたということは、(自分も)そういう立場になった経験があるということですね。

-まさにそうです。EPにはトリッキーな楽曲が多いなか、この曲は比較的ストレートでキャッチーなアプローチをしていますよね。

玲央:"そういう曲が欲しいね"ということで「リフレイン」を作っていますからね。

-タイトルの"PARADOXON DOLORIS"は、直訳するなら"矛盾した痛みや悲しみ"というような意味になるでしょうか。まさにその言葉通りの作品だと感じました。改めて、眞呼さんの口から、タイトルに込めた思いを語っていただけますか。

眞呼:いわゆる"常識"と言われる物事も含めて、苦痛ばかりの世の中じゃないですか。常識に沿って生きていれば幸せになれるわけではなく、そこから脱落する人もいて。でもそれは脱落したのではなく、1つの物事に無理やり当てはめられて、翻弄された結果、苦痛を強いられたということでもあるし、実際に痛みを感じていたり、傷を負っていたり、血を流している人たちもいる。その痛みを経験しながら、どう変化していくのか......。"生きていくこと"は"経験を重ねていく"こと。分からないからこそ、他人の考えを理解するために人は生きているんです。"この人、何言ってるのか分からない"、"この人、どうしてこうなったんだろう?"と思っているその人自身が、輪廻転生したときにそういう人生を送るかもしれない。人が生まれてくる理由も含め、全てを理解するのは不可能ですけど。人の人生は同じ物事が永久的に続くのではなく、必ず変化がもたらされる。そこを、タイトルやこの作品から感じ取ってもらえたらなと思います。

-完成した作品について、今お2人はどんな思いを抱いています?

眞呼:こんなトリッキーな作品をメジャーからリリースして大丈夫ですか? っていうか(笑)。もちろん、全力を尽くして作り上げたベストな作品だけど、決して万人受けするものではないし、むしろ(一般的には)とっつきにくい作品じゃないかなと。でも、私どもは最高にかっこいいEPを作りましたので、どうぞよろしくお願いします。

玲央:ここ最近にはないくらい、しっかりとバンド感を反映した1枚ができたし、そこに意味を持った作品になりました。しかも、このEPでkeinはメジャー・デビューします。今もまだ多くの方が"メジャーに行くと日和った作品になる"、"大衆受けする楽曲になる"等、メジャー・デビューに対して偏見を持っていると思いますが、『PARADOXON DOLORIS』はそういうものが一切ない、紛れもなくメンバーの純度100パーセントで作り上げた作品です。 最近でこそ、メジャーとインディーズの垣根はなくなったと言われていますけど、その垣根は確実にあります。バンドをバックアップしてくれる方々の人数とか、制作面での予算や環境にも大きな違いがあります。僕等はこの作品をすごくいい状態で作ることができたから、若いバンドたちにもその環境を目指してほしいと思っているんです。本当に自分たちで納得のいくいい作品を作って、それを広めていくには、自分たちの力だけでは絶対に限界が来るし、SNSだけでは広められない世界がある。だからこそ、keinのようなバンドがメジャー・デビューすることに僕はすごく意味があるなと思っているし、絶対に音楽シーンにプラスに働くと考えています。そこも伝えたいですね。

-最後に、これから始まるツアー"TOUR'2024「PARADOXON DOLORIS」"についての思いもお願いします。

玲央:最新EP『PARADOXON DOLORIS』を手にした東名阪2デイズ・ツアーになります。今回の作品がセットリストに加わることで、ライヴの中で見えてくる景色もだいぶ変わっていくはずなので、それを目の前で味わってほしいし、楽しんでいただきたいですね。