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INTERVIEW

OLEDICKFOGGY

2023.03.30UPDATE

2023年04月号掲載

OLEDICKFOGGY

Member:伊藤 雄和(Vo/Mand) スージー(E.Gt/A.Gt/Cho) 三隅 朋子(Acc/Key)

Interviewer:杉江 由紀

歴史は夜作られる。夜を彩る様々な音色、物語、そして歌声。OLEDICKFOGGYにとって5年ぶりのフル・アルバムとなる『残夜の汀線 -ZANYA NO TEISEN-』では、様々なカラーリングが施された全11曲を通して幾つもの夜が描かれているが、それは時に力強い印象を与えることもあれば、時に悲哀や哀切の面持ちを含み、はたまた場合によってはシュールな場面として映ることもあるだろう。バンジョーやアコーディオンも交えながらの唯一無二にして確固たる彼らのバンド・サウンドは、渾沌とした現世を生き抜く人間の心模様たちを浮き彫りにするのだ。

-今作『残夜の汀線 -ZANYA NO TEISEN-』は、OLEDICKFOGGYにとって5年ぶりにして7枚目のフル・アルバムとなるそうですね。

伊藤:7曲入りのミニ・アルバム『夜明け来ず跪く頃に』を2021年に出してますし、作品そのものは出してきているんですけどね。実は今回も7曲入りにする予定だったのが、制作過程でレーベル側から"まだちょっと時間もあるし、あと何曲か足したらフル・アルバムになりますね。どうですか?"と言われて"じゃあ、そうするか"ってなりました。

-では、そんなアルバムの中身に関する方向性やテーマなどについて、今回バンド内でどのようなディスカッションが展開されていくことになったのかも教えてください。

伊藤:いやー、してないですね。普通に曲を作っていっただけですよ。テーマを決めてからアルバム作るなんて、そんな一流なことをしている人は僕らの周りにもいないです(笑)。

-そうでしたか。今回の公式資料には"唯一不二である先鋭的な「オールディックフォギー・サウンド」の新たな地平を、より「ポップ」に、より鮮やかに切り開く渾身なる力作"という文言があったものですから、このアルバムはてっきり狙いを持って作られたのだと思っておりました。

伊藤:まぁ、結果として作ってみたら"そうなってた"っていうことなんでしょうね。最初から狙ったとかではなかったです。

-ちなみに、OLEDICKFOGGYの場合だと曲作りのプロセスは基本的にどのような流れを辿ることが多いのでしょう。

伊藤:僕が曲を作るときは原曲の段階だとかなりラフですね。そこから、メンバーみんなで音を練っていく感じで作ることが多いです。

-アレンジ段階でイニシアチヴを取られることが多いのはどなたですか。

伊藤:基本的には曲を持ってきた人が主導権を握ることが多いですけど、曲にもよりますね。特に、僕はあんまり自分でカッチリ決めてしまうよりも、各メンバーから出てくるアイディアを生かしながら面白いものを作っていくほうが好きなんですよ。

-なお、OLEDICKFOGGYには5弦バンジョーを担当されている四條未来さんもメンバーとして在籍されているわけですけれど、弦楽器のアンサンブルを組んでいくときにギタリストであるスージーさんが留意されている基本メソッドなどは何かありますか?

スージー:バンジョーに関しては、ロールっていうオーソドックスな奏法で出すポコポコした音をアンサンブル面ではわりと重視してます。でも、そこ以外はもうすべて彼に任せているので、曲によってはバンジョーでギターっぽいことをやって僕のギターと絡むっていうパターンもあるんですよ。いずれにしても、バンジョーらしい音をちょっとでも使うと独特の雰囲気が出るので、そこはなるべく生かすようにしてますね。

-三隅さんはキーボードとアコーディオンを曲によって使い分けていらっしゃいますけれど、各曲でどちらの楽器を使うかというジャッジはどのようなことを基準に決められることが多いのでしょう。

三隅:曲を作ってきた人に"どんなイメージの音がいいですか?"って聞いて、そのうえで決めていくことが多いですね。実際にスタジオで試したときに、その場で"アコーディオンよりピアノの音のほうがいいね"となって楽器を替えることなんかもあったりします。

-個人的に、三隅さんが最も好きな鍵盤楽器はどれですか?

三隅:アコーディオンの音色とか、アコースティックっぽい音がもともと好きで楽器を始めたので、シンセサイザーはOLEDICKFOGGYで活動するようになって使い始めたくらいなんですよ。だから、やっぱり音的に一番好きなのはアコーディオンですね。

-バンジョーやアコーディオンを交えつつのバンド・サウンドというのは、まさにOLEDICKFOGGYならではの味わいであると言えるでしょう。今作『残夜の汀線 -ZANYA NO TEISEN-』でも当然そこは存分に生かされているわけですが、1曲目の「消えて行く前に」はアルバムのリリースに先駆けて先行デジタル配信がされておりました。この曲をまず最初に提示された理由がありましたら教えてください。

伊藤:この曲は自分が"こういうことやりたいな"ってイメージした通りに作れた曲だったし、きっとみんなも"こういうの好きなんだろうな"と思ったんですよ。

-この曲はライヴ映えしそうな力強さを持っている印象です。

伊藤:たしかに、冒頭の"wowow~"という部分なんかは"ライヴでみんな歌うんだろうなぁ"と思いながら作りました。

-スージーさんは、この「消えて行く前に」という楽曲でいかなるプレイをしていこうと考えられたのでしょうか。

スージー:これは制作期間のわりと後半にできた曲だったんですけど、かなりサクッとまとまった感じだったんですよね。僕としても"ライヴで盛り上がりそうなロック・チューンだな"と思いながら、あんまり難しいことはしないでストレートなロック・ギターをシンプルに弾いていきました。

三隅:私もこの曲はスージーさんと同じで、シンプルさを大事にしていくようにしました。ただ、私にとってはシンプルにすることって結構難しかったです。無駄なことをせずにカッコいいフレーズって、どうやったら弾けるんだろう? って試行錯誤したので、やっていること自体はシンプルでもこの完成形に辿り着くまでにちょっと時間がかかっちゃいました。

-必要最低限の骨組みでしっかりした構造物を造ろうとすると難しいのでしょうし、塩だけで美味しく料理を味つけしようと思うと勇気と技術が必要ですものね。

三隅:どこまでを無駄なものを抜いていいのか、そこを判断するのが大変でした。

スージー:意図的にシンプルにしたのを、なんか"ラクしてるんじゃないか?"みたいに思われても困るしね(笑)。

三隅:そうそう(笑)。シンプルでも、ちゃんと聴いたときにはカッコいい曲なんだということが伝わる音にしたかったんです。

伊藤:この「消えて行く前に」は歌詞も難しくないストレートなものにしたかったんで、その面でも意外と難しかったですよ。

-まず"失った物の数ばかりを/数えてしまう毎日さ"という一節から始まり、終盤では"失った物よりも大切な事が/目の前にあるだろう/だから今を生きるんだ"と歌われているこの詞からは、ここ数年や現在の世相の動きを感じ取ることができました。

伊藤:どうなんでしょう......? 自分ではあまり意識して書いていたわけではなかったんですけど、そこは自然と出たところだったのかもしれない。というか、僕の書く詞ってどうも暗いなと自分で感じます。わりと思い詰めてるものが多いんですよ(苦笑)。

-どこか思い詰めた雰囲気は、第2弾先行配信曲でもあった2曲目の「夜光虫」の歌詞からも感じられます。また、こちらの曲やサウンドはマイナー・コードを効果的に駆使したものでもあり、バンド・サウンドの放つ陰影が良い味わいを生み出していますね。

スージー:これは暗いんだけどカッコいい曲、っていうやつです。でも、さすがに暗すぎるとダサくなるし悲しくなっちゃうんで、そこをちょうどいい匙加減にしていくようにしました。音階的には1曲の中で2オクターヴくらい行き来する感じにしてあるんですが、ギタリスト的にはちょっと面倒くさかったですね(笑)。

-「夜光虫」には中盤でキーボード・ソロが繰り出されるくだりがありますけれど、あれは三隅さんの意向によるものだったのでしょうか。

三隅:これはスージーさんが考えてきてくれた構成に、キーボード・ソロが入ってたんです。"ここはメチャクチャやっちゃっていいよ"って言われたんで、私としては思いついたことをすべてやりつつ頑張りました!

スージー:あのソロはちょっとT-SQUAREみたいになったよね(笑)。

-まさに"F1グランプリ"のOPとして有名になった「TRUTH」を彷彿とさせるような、80年代的バブルの香りがあのソロからは絶妙なニュアンスで感じられます。

伊藤:ほんと、あのソロは聴いてるとF1の映像が浮かんできますもん(笑)。

スージー:T-SQUAREはあれを80年代にサックス・シンセでやってましたよね。

-リリコンと呼ばれるサックス的なフォルムの楽器をMIDIシステムに繋ぎ、音そのものはYAMAHAシンセサイザーの名機 DX7から出していたはずです。

三隅:今回はレコーディングの前に当時のT-SQUAREの映像を観て、私も"こういうのやってみたい!"と思ってキーボードで近い音を出すように挑戦しました。やってみたら面白かったです。

スージー:全体的にもこの曲は都会っぽい音になったんじゃないかと思います。

-「夜光虫」は詞でも都会の夜を描いていらっしゃいますので、音と物語が完全にフィットしているということなのでしょう。

伊藤:歌詞を書くとき、僕はよく夜の街中を歩いたりするんですけど、ある夜、ふと"俺って夜光虫みたいだな"と思ったんですよ。ブラックニッカを片手にね。

スージー:それ、傍から見たらだいぶ不審者じゃないですか(笑)。

-まさかとは思いますが、職質をされたりすることはありません!?

伊藤:大丈夫です、時間が遅すぎて逆に職質はされないです(笑)。でもほんと、このアルバムは夜の歌ばっかりなんですよね。

-そういえば、カントリー風の曲調の中でバンジョーの音が響く「少し飲んで帰ろう」も月夜を描いたものですし、ミドル・テンポが心地よい「エンドロール」も夜を描いたものになっていますものね。

伊藤:時間帯で言うと「また今日が終わる」は朝から夕方にかけての話で、「さよならセニョリータ」もちょっとこれはまた違いますけど、あとは「満月とポイズン」もそうだし、このアルバムはほとんどが夜の歌になっちゃってます。