INTERVIEW
OMNIUM GATHERUM
2021.12.17UPDATE
2021年12月号掲載
Member:Markus Vanhala(Gt)
Interviewer:菅谷 透
-OGはリリースごとにその音楽性を進化、あるいは洗練させてきましたが、そうした活動を続けていくモチベーションや、インスピレーションの源はどういったところにあるのでしょうか?
(照笑)頭の中に呪いと恵みが両方あるような感じかな(笑)。同じことをずっと続けていくことには興味がないんだ。今も子供のときみたいにワクワクしながら取り組んでいる。音楽をやっていくこと、この生業が大好きだから、この音楽というフィールドの中でたくさん開拓して冒険していきたいんだよ。俺にとって音楽はワガママなものなんだ。基準が自分ファーストで、自分が満足してからやっと他のメンバーに聴かせることができる。だからクリエイティヴなプロセスもいつも長い。自分が自分の一番辛辣な評論家なんだ。
-(笑)今回は新しいチャレンジもしましたね。クリーン・ヴォーカルの大半も担当したそうで。
そうなんだよ(笑)。あれはロックダウンの現実のひとつだね。時間が山ほどあったから(笑)。俺はもともと全然歌ってなかったんだ。カラオケ以外は(笑)。家でデモを作っているときに歌うようになったけど、実際にアルバムの中で歌うつもりはなかったんだ。でもデモを聴いたメンバーが"いいんじゃない? お前がクリーン・ヴォーカルをやりなよ"と言ってきて......(声を低くして)"俺が?"なんて思ったよ(笑)。
-あはは(笑)。
言われたからもっと練習して......今じゃフィンランドのカラオケ・バーに行く回数がうんと増えたよ(笑)!
-来日公演が実現したらその美声を聴かせてもらいましょう(笑)。アルバム全体の構成は、起伏をつけながら前半にキャッチーな楽曲、後半にダイナミックな展開と長尺曲を配置するという流れになっているように思いますが、これは制作当初から念頭に置かれていたのでしょうか?
そうだね。俺はオールドスクールだからSpotifyとかApple Musicとかデジタルなものは自分ではやっていないんだ。今でもCDやヴァイナルを聴いている。今も集めているしね。俺自身大の音楽オタクでいつも音楽を聴いているんだけど、アルバムを全体として聴くのが好きなんだ。このアルバムからはこの曲、みたいなプレイリスト方式は自分にはあまり合わない。もちろん、知らなかったバンドに出会える素晴らしい手段だと思うけどね。アルバムは俺にとっては劇や映画みたいなものなんだ。アルバムには何かしらドラマがあるべきだと思う。OGのアルバムもINSOMNIUMのアルバムもたいていイントロ的なものがあって、ファンの期待を盛り立てるような感じになっている。
-そこへいくとオープナーの「Prime」は、アグレッシヴながらキャッチーで作品への導入に最適な楽曲です。
そう、イントロの「Emergence」から始まって、「Prime」は速さが人の興味を惹く感じだね。そのあとの「Paragon」は「Reckoning」みたいなもっとキャッチーな曲へ流れていくんだ。そういうふうにアルバムの中にダイブしていく流れになっている。そのあと壮大な曲が出てきてストーリーが広がっていくんだ。
-なるほど。ちなみにヴァイナルで言うと後半の壮大な曲がB面でキャッチーな曲はA面、みたいな位置づけはありますか?
そうだね。ただB面の1曲目は......ここもまたオールドスクールな考え方だけど、激しい曲を置いているんだ。俺の中では「Friction」がその曲だね。「Solemn」は映画や、壮大なゲームのエンディングみたいな感じ。
-「Paragon」のMVは、いわゆる"メロデス"的なMVからは縁遠いようなクラシック・カーやスポーツ・カー、そしてチアガールがフィーチャーされた、ユニークな作品になっていますね。こうしたMVにしたのはなぜでしょうか?
(笑)あれにはいろんな意味があるんだ。まず、人とは違う感じのビデオを作りたかったということ。よくあるデス・メタルのビデオはインダストリアルなホールみたいなところでプレイしているみたいな感じだろう? 暗闇で(笑)。あれを撮ったときフィンランドは夏だったし、曲もアガる感じだから、障害を乗り越えるぞ、諦めないぞ、みたいな雰囲気を作りたかったんだ。このロックダウンでみんなメランコリックだったり悲しい気持ちを抱えたりしていて、ムードも下がっていたから、アガる曲にしたかった。80年代のヴァイブもあるし......80年代のMVはスポーツ・カーやチアリーダーがよく出ていたしね。俺たちが演奏した場所もちょっと変わっていてね、ガレージでやったんだ。
-あれはガレージだったんですね。それでみなさん顔が泥だらけだったんでしょうか。
そう。あれは車繋がりで、オイルで汚れているって設定なんだ(笑)。
-なるほど(笑)。
それに俺は昔のアメ車が大好きだからね。実はあのライム・グリーンのコルベットは俺の車なんだ(笑)。
-自前でしたか(笑)。運転もご自身で?
自分で自分のスタントマンをやったよ(笑)。今までやった中でも最高に楽しいPVだったね(笑)!
-ということは運転している後ろでチアガールたちが......。
そうそう(笑)。速いスピードで運転して、後ろには女の子たちがいて、楽しかったよ!
-ご自身にとってもアガる曲になりましたね(笑)。
アガったね(笑)。チアリーダーは冗談で投入したんだけどね。いかにもアメリカって感じだから。アメ車にぴったりだし、女の子たちも派手に踊ってくれたしね(笑)。
-(笑)続く「Reckoning」はソフトなギター・フレーズやクリーン・ヴォーカルと、メタリックなリフが強烈なカタルシスを生む楽曲です。
あの曲はOGのベーシックなところを押さえているね。すごくメロディックで、それでいてすごくヘヴィな感じ。この曲は人々の"決めつけ(偏見)"についての曲なんだ。理由もなく何かを決めつける人たち。あまりアガるタイプの曲ではないけど、嘘をつかれたり決めつけられたりしたって知るもんか、という感じの内容なんだ。それもあってビデオも白黒になっている。白か黒か決めつけているから真ん中がないんだ。
-ただ、強烈なカタルシスを生む楽曲でもありますよね。最終的にはポジティヴな雰囲気に着地するといいますか。
そうだね。それが狙いでもあったよ。
-ただダークなだけじゃない、人々の心の明るい面に向かっていくような印象がありました。
そうだね。OGの曲のベーシックなムードもそんな感じなんだ。他人の決めつけについての曲だからダークだけど、そんなものに屈しないという意気も表している。自分を信じよう、最終的には自分が勝者になるんだ、という感じだね。