INTERVIEW
YOU(足立祐二)
2020.03.17UPDATE
2020年04月号掲載
Interviewer:杉江 由紀
曲を作っている側の感覚としても、短編映画を作っているようなところはすごくありました
-今作『YOUCOUSTIC』は、そうした取材活動もおおいに反映された、イマジネーションの広がる音に仕上がっていると言えそうです。例えば、先ほど憂鬱というキーワードが出てきておりましたけれど、「My Melancolia」と「My Melancolia 2」の2曲は、"意図的に自分を憂鬱な状態に置いてみる"ことで生まれたものになりますか?
ええ、その2曲はたしかにそうですね。「My Melancolia」が完成した途端、5分後には続編として「My Melancolia 2」が出てきたので、これは連作にしました。この曲たちができたことは自分にとっても強いインパクトがありましたから、ある意味ではこのアルバムの中の核になっている曲たちであるとも言えます。
-そうした一方、今作にはYOUさんご自身の思い出が音で描かれて、「Little Boy」と特典CDで聴ける「1964」という形で収録されておりますね。
「Little Boy」は僕がちっさいときに具合が悪くなって、親がお医者さんに連れていってくれたときの話をもとに作りました。帰りに駄菓子屋で大きな箱のキャラメルをお母さんにおねだりしようと思ったら、お店は閉まっていて買ってもらえなかったのに、朝起きたら枕元に欲しかったキャラメルが置いてあったという、今でも大切な一生の思い出をここに詰め込んだんですよ。「1964」のほうは思い出というのとはちょっと違うんですが、自分の生まれた年が1964年で、そのときの両親はこんな気持ちだっんたじゃないかな? ということを想像して書いた曲です。
-これまた思い出とは少し違いますが、「L'Olympia」がDEAD ENDでのパリ公演("JAPAN MUSIC Fest. 2014")のときにできた楽曲であるというのも、興味深いトピックスです。
あれは6年くらい前でしたかね。2,000人キャパくらいの会場で、入ったときにまずは2階の客席からステージを眺めてみたんですよ。大昔からある場所でいろんなアーティストの方がライヴをしてきたそうなんですけど、その眺めたときの一瞬でこの曲は浮かんできちゃいました。
-かと思うと今作にはレモン農園で働く男性を主人公とした「Black Lemon」や、病弱で貧しい男性が助けた犬に救われることになるという「Gypsy Red」、はたまた愚かな人間に対して神々が罰を与えたのち、改心した人間と7人の風神たちが、協力して街を再建していくという壮大なストーリーを持った「7 Storm」など、それぞれの1曲が、1本の映画としても成立しそうなくらいの"世界"として仕上げられていることに驚きます。
曲を作っている側の感覚としても、短編映画を作っているようなところはすごくありましたね。そういうものって、作っていると楽しいんですよ。「7 Storm」なんかはテーマとしてはシリアスだし、ハードなところもあるんですが、曲調は関係なく、作っているときは楽しくてたまりませんでした。前に映像作家さんと少しお話をさせていただく機会があったんですけど、いつかは自分の曲を本当に映像化して発表することもやってみたいですね。
頭の中は今でも完全に子供なんでしょうね
-それから、楽曲としての旋律の美しさという面では「指人形」も非常に素晴らしい仕上がりですね。クラシカルな要素も含まれているせいか、繊細な音像をたっぷりと堪能することができました。
なんだか不思議なんですよね。学校に行っていたときに音楽の授業で聴いたり、学生のときにクラシックのコンサートに行ったくらいしか、僕はクラシックに触れたことがなくて、特に勉強をしたこともないんですよ。Yngwie(Malmsteen)なところはまったくないんです。それなのに、この曲に関しては"クラシカルですね"ってよく言われます。
-なお、この「指人形」は、"事故により指が動かなくなってしまったバイオリニスト"のことを描いたものであるそうですが......使用楽器の違いこそあれど、このテーマはYOUさんにとって、ただの絵空事では済まないところもあったのではありませんか?
自分に起きたらと思うとただごとではないですよねぇ。でも、この曲の中の彼はプレイヤーから指導者になるわけなんですけど、僕は幸いギタリストではあっても、ギターで曲を作っているわけではないので、万が一ギターを弾けなくなってしまったとしても、創作そのものはずっと続けていくと思います。
-それから、これもひとつ気になったのですが、今作には男の子と両親の間に通う幸せが描かれた「7(Seven)」、とある少女が真実に気づく「小さな窓」、山で暮らす異形の兄弟をモチーフとした物語「Peter」、ペンギンの子が主人公の「Flipper」と、童話に近いようなストーリーが軸になったものがいくつかございます。子供がモチーフになっているケースが多いのには何か理由があるのでしょうか?
あ、言われてみるとそうですね。たぶん僕が子供やからやと思います(笑)。歳で言えばおじさんですけど、頭の中は今でも完全に子供なんでしょうね。ちっさい頃から絵本とか大好きやったし、妄想癖もその頃からあったし、変わってないんですよ。
-さて、『YOUCOUSTIC』のアルバム本編としては12曲、さらには、特典CD収録曲やこのタイミングで発表される配信限定曲も含めると、全16曲がここに堂々と完成したわけですが。これらを仕上げたことにより、今のYOUさんがさらなるこの先に向けて何か思いを馳せていらっしゃることはありますか?
それが、すでに「My Melancolia 3」がもうほとんどできかけているんでね。僕としては、早くも『YOUCOUSTIC 2』を出したいなぁって、まだ今回の『YOUCOUSTIC』が発売にもなってないのに(※取材は3月上旬)、構想を広げてます。ぜひやりたいですねぇ。次はどんな世界を生みだすことができるのか、自分でも楽しみで仕方ありません。次は今までにあまり作ったことのない女性目線の曲なんかも作ってみたいですねぇ。
-となると、その前に女性という存在についての取材が新たに必要になりそうです。とりあえずは、手始めに若い女性がたくさん集っているスイーツ系カフェにでも潜入なさってみるのはいかがでしょう(笑)。
それ面白そうですね。いや、半分冗談みたいに言ってますけど、自分の足でその場に行ってダイレクトに何かを感じるって大切なことなので、近いうちに行ってみます(笑)。