FEATURE
AVENGED SEVENFOLD
2016.11.01UPDATE
2016年11月号掲載
Writer 井上 光一
2016年10月28日、事前告知一切なしに、そのアルバムはフィジカル、デジタル両方で突如世界同時リリースされた。現代ヘヴィ・メタル・シーンを代表する存在であり、その動向は常に話題を呼び、注目を浴び続けるAVENGED SEVENFOLD(以下:A7X)の通算7枚目にして"Capitol Records"移籍第1弾となるニュー・アルバム『The Stage』である。先日のHi-STANDARDによるサプライズ・リリースも記憶に新しいが、多種多様な音楽の聴き方が溢れる今の世の中において、アーティスト側がフィジカル・リリースに価値を見いだし、大切にしているということに敬意を表したい。A7Xのような、大物ヘヴィ・メタル・バンドがそういう手法を取ったこと自体が、実に痛快ではないか。インタビュー記事に目を通した限りでは、アルバムというフォーマットへのこだわりも感じられ、その姿勢は、A7X史上でも最長の73分40秒という大作となったこの最新作へとそのまま繋がっているのだろう。本作はコンセプト・アルバムであり、アメリカの天文学者、SF作家のカール・セーガンや、スペースX社のCEO、イーロン・マスクなどの著作から影響を受けて、"人工知能"をテーマに掲げた内容となっているのだ。先行公開されていた、表題曲のTrack.1「The Stage」は、いきなりの8分超えとなる楽曲である。Synyster Gates(Gt)によるタッピングを駆使した流麗なギターに導かれ、どっしりとした重量感とシアトリカルな雰囲気がドラマチックにせめぎ合い、キャリアを重ねるたびに、さらに強靭になっていくM.Shadows(Vo)のヴォーカルが、叙情性を帯びたメロディを堂々と歌い上げる様は、どこを切り取ってもA7X節と言えるだろう。
Track.2「Paradigm」においては、迫力のスクリームが炸裂しながらも、全体的に悲哀を感じさせるメロディが印象深い。イントロのリフがいかにもA7X的なTrack.3「Sunny Disposition」は、全体を引っ張る歪んだベース音と、途中に導入されるブラス・セクション(!)に耳を奪われる。アルバムの中では最も短いTrack.4「God Damn」はスラッシーでヘヴィなリフを駆使しつつ、中盤でクリーンなギターを渋く決めるあたりがA7Xらしい遊び心を感じさせ、昔の彼らの面影も感じ取れるだろう。2015年にバンドに加入した新ドラマー、Brooks Wackerman(ex-SUICIDAL TENDENCIES/BAD RELIGION)との相性も気になるところではあったが、単にテクニカルでヘヴィなだけではなく、いくつもの表情を持った楽曲を時にしなやかに、時に軽やかに、柔軟な態度で支えていかなくてはならないA7Xが求めるドラマーの役割を、見事にこなしている。Track.5「Creating God」のAメロにおけるグルーヴ感覚と、ギター・ソロで派手に暴れるプレイを聴けば、熱心なファンも納得するのではないか。説得力のある熱いロック・バラードTrack.6「Angels」、ブルージーな香り漂う始まりから、堰を切ったようにヘヴィな展開へとなだれ込んでいくTrack.7「Simulation」、分厚いコーラスやピアノを導入し、1曲の中で様々な表情を見せるTrack.8「Higher」、壮大なストリングスを駆使したTrack.9「Roman Sky」、手数の多いドラムスとクサクサなギターが唸りを上げ、大仰とも言えるA7X節がたっぷりと詰め込まれたTrack.10「Fermi Paradox」と、ひとつひとつの楽曲はどれもA7X印のサウンドではあるが、即効性のあるキャッチーさよりも、コンセプチュアルなアルバムの流れを重視している印象だ。過去作においても、長尺な楽曲を積極的に生み出してきたA7Xではあるが、本作は今まで以上に大作志向を押し出した作品であり、それが最も如実に表れているのが、アルバムのラストを飾るTrack.11「Exist」だろう。なんと15分超えというプログレッシヴな構造を持った楽曲であり、言うまでもなく、過去最長のA7X楽曲である。小手先のテクニックのみならず、確かな作曲能力と強固なバンド・アンサンブル、並外れた集中力があってこそ、初めて成立するタイプの曲ではあるが、A7Xの面々はその条件すべてをクリアし、壮大な音世界の構築に成功していることは、実際に楽曲を聴けば理解できるはずだ。後半のスポークン・ワードはアメリカの天体物理学者であるニール・ドグラース・タイソンによるもので、このようなアイディアが思いつくセンスを持ったバンドであるというのも、改めて留意すべき点である。派手なヴィジュアルやイメージに惑わされがちではあるが、思慮深い一面もまた、彼らの奥深い魅力のひとつだろう。そんな彼らが思い描く音世界は、最後の1音に至るまで実に明確に、確かな説得力でもって、見事に表現されている。"アルバムというフォーマットへのこだわり"と先に述べたのは、つまりそういうことであって、曲単位でアトランダムにつまみ食いするような音楽の聴き方に慣れているリスナーからしてみれば、本作のように腰を据えて向き合うことを促す作品は、退屈に感じてしまう危険性があることは、正直否めない。大作であるがゆえの冗長さはまったくないとは言えず、評価が分かれる作品になるだろう。音楽の聴き方などというのは個人の自由であって、誰かに強制されるようなものではないが、アーティスト側の意図を想像して自分なりに汲み取ることは、音楽を聴くうえでの醍醐味でもあるので、本作のような作品は、アルバム全体を通して、繰り返し聴くことを推奨したい。その先に、リスナー自身にも新たな"ステージ"が見えてくるかもしれないのだ。
新世代メタルコア・ブームの潮流を生んだ時代の寵児から、A7X流の王道を極めたヘヴィ・メタル・シーンの頂点へ――輝かしい成功、そして喪失と再生の歴史
本作は、A7Xにとっては様々な意味を持ったアルバムである。レーベル移籍はもちろん、新たに迎えたドラマーと共に作り上げた初めての作品であり、何より2001年のアルバム・デビューから15年という記念すべき年にリリースされた作品でもある。振り返れば、ベルギーに拠点を置くハードコア系の代表的なレーベル"Goodlife Recordings"から、デビュー作の『Sounding The Seventh Trumpet』をリリースしたという歴史的事実は、ハードコア界隈を中心に活動しながらも、新しいヘヴィ・サウンドを模索していた若いバンドが多く存在していた2000年初頭という時代の空気そのものである。早い段階で頭角を現したA7Xのサウンドは、当時はニュースクール・ハードコアの括りで語られていたと記憶しているが、他のバンドと比べてもやはり異質な存在であった。メタルコアの歴史において最重要作品のひとつであろう、彼らにとっては2ndアルバムとなる『Waking The Fallen』(2003年リリース)の時点でも、A7Xの存在が周知されていたのは、少なくともここ日本においては、メタル好きよりもハードコア界隈のリスナーであったように思う。A7Xの名を世界中に知らしめた、バンドにとっては通算3枚目にしてメジャー・デビュー作となった『City Of Evil』(2005年リリース)あたりで、GUNS N' ROSESの再来だとかそういった評価も受けるようになり、本人たちもバッド・ボーイズム全開であったことも、今となっては懐かしい。成功を手にし、一気にスターダムに躍り出たあとも、バンドはひとつの場所に留まることをせず、セルフ・タイトルを冠した『Avenged Sevenfold』(2007年リリース)にせよ、ドラムのみならず多彩な才能でバンドを牽引した初代ドラマー、The Revの急死という最大の悲劇を乗り越えて生み出された『Nightmare』(2010年リリース)にせよ、正統派ヘヴィ・メタルの様式美を軸に、A7X流の王道を突き進むことを高らかに宣言した『Hail To The King』(2013年リリース)にせよ、彼らの歩みは時に批判の対象となりながらも、常に挑戦の連続であった。それは数多くのフォロワーを生み出し、名実共にトップ・バンドとなった今も変わることのない、音楽に対する絶対的な敬意と畏怖、疑いようのない誠実さの表れであるのだ。
王者としての風格と、今も挑戦者であり続けるA7Xの"リアルな"姿が刻印された『The Stage』と共に、現代ヘヴィ・メタル・シーンは新たな歴史を刻み始めることだろう。
▼リリース情報
AVENGED SEVENFOLD
ニュー・アルバム
『The Stage』
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1. The Stage
2. Paradigm
3. Sunny Disposition
4. God Damn
5. Creating God
6. Angels
7. Simulation
8. Higher
9. Roman Sky
10. Fermi Paradox
11. Exist
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