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INTERVIEW

明日の叙景

2025.09.04UPDATE

2025年09月号掲載

明日の叙景

Member:布 大樹(Vo) 等力 桂(Gt) 関 拓也(Ba)齊藤 誠也(Dr)

Interviewer:サイトウ マサヒロ

ブラック・メタルとJ-POPを夏空の下で溶かし、シーンを超える支持を獲得した前作『アイランド』から約3年。国産ポストブラック・メタルの代表格、明日の叙景が8月6日にリリースした3rdアルバム『Think of You』で描くのは、冷たい風が身体のか細い輪郭を際立たせる冬の世界だ。季節が巡って、メタルとJ-POPの関係も移り変わっていく。世界各国でのツアーを含む活動規模の拡大を経た現在、彼等はいかに社会と接続し、どう他者を想うのだろうか?

-2022年7月リリースの2ndアルバム『アイランド』は"J-POP?それともブラックメタル?"という惹句の通り独自の音楽性を開花させた一作で、国内外から大きな反響を呼びました。以降はバンドのエネルギーがそれまでより大胆に外部へと向けられている印象です。改めて、この約3年間をどう振り返りますか?

等力:『アイランド』はコロナ禍に作っていたアルバムで、その前の3年程は全くライヴ活動をしていなかったんですよね。なので、ある意味タイミングが良かったのかもしれません。コロナ禍に集中して制作をして、『アイランド』をリリースしてからは、世間の動き的にもライヴができる機会に恵まれたというか。

齊藤:全くライヴをしないまま制作した『アイランド』がこれまでよりも大きい反響を得て、2023年5~6月には"UK/EU Tour"をして、振り幅が激しかったですね。いろいろな経験を重ねながら、どうすればライヴを良くできるかという調整を続けてきた期間でした。

布:反省になるんですけど、『アイランド』は内省的な部分だけではなく、人との関わりを描いていきたいと思いながら作り始めたはずだったのに、気付いたらやっぱり自分と向き合う内容になり、目指したものとは少し違う方に向かってしまって。その葛藤を抱えたままライヴをやっていくなか、共演するバンドから影響を受けたり、いろんな人と話したりもしたけど、よりコミュニケーションの難しさを感じることも多々あった。それが"もっと他人と向き合いたい"という思いになって、今回の『Think of You』にも反映されたと思います。

-『アイランド』でトライしきれなかったことがその後のライヴ活動のテーマにもなり、『Think of You』という作品に結実したんですね。

等力:ライヴをしたことで、トライできてなかったことに気付いたというか。

布:以前は良くも悪くも自分勝手でしたね。自分たちの世界をそのまま披露すればいいんだ、ただ曲を演奏すればいいんだっていう。それはそれで悪いことじゃないけど、でもそれだけじゃないよってことを今は表現しようと思っているんです。盛り上がってようと盛り上がってなかろうと、ライヴには必ずミュージシャンとお客さんの間にコミュニケーションがある。それを分かりやすい形にして見せていくのがいいんじゃないかなと。バック・ビートで煽ったり、クラップを促したりする場面があるからこそ、重たく動きの少ない場面も映えると思います。今作もライヴでの反応を想像しながら制作しましたし、まさに"あなたを想う"というタイトルに恥じないアルバムになりました。

-数年ぶりのライヴ活動再開となった、2022年12月のshibuya CYCLONEでのワンマン・ライヴ[Asunojokei presents "Island & Wishes release solo concert"]は、2020年12月のEP『すべてか弱い願い』の再現と、『アイランド』からの演奏という二部構成でしたが、パフォーマンス、音響、照明演出の趣向がそれぞれ異なっていて、振り返るとこの時点で"内から外へ"の動きが意識されていたように思います。

齊藤:今の明日の叙景の萌芽が第2部で見えて、それが時間をかけてさらに育ったんだと思います。

等力:補足すると、『アイランド』は、映画"シン・エヴァンゲリオン劇場版"みたいなイメージのアルバムだったんですよ。アートワークでも、空が映っている鏡は割れている。そういう"オタクは現実に帰れ"じゃないですけど。

布:幻想をぶち壊す的な。

等力:っていうつもりだったんだけど、自分たちも結局夏っぽいモチーフが好きだっただけなのかもしれないとか、ライヴをしていく内にいろんなギャップに気付いて。

-夢から覚めたつもりでいたけど、まだ現実に手が届いていなかったような。

等力:そうですね。その葛藤の末にできたのがこの『Think of You』という。

布:『アイランド』ではまだおとぎ話を必要としていたけど、『Think of You』ではもうおとぎ話を必要としなくなったかなって。

等力:たしかに。

-では、『Think of You』の楽曲制作はいつから始まったのでしょうか?

等力:シングルになった「コバルトの降る街で」は2年前の夏ぐらいから作ってたけど、それ以外は去年の8月ぐらいからですね。「ツェッペリン」、「別れ霜」あたりから作り始めて、今年に入ってからレコーディングをしてという感じでした。

-ちなみに、最後にできた曲は?

等力:「天使」です。あまりにもギリギリで、レコーディングの2週間前まで作ってました。

布:(AT THE GATESの)「Blinded By Fear」枠。

等力:最後に作ったものが名曲になるっていうね。

布:名曲になるかどうかはこれからの反応次第で楽しみなところだけど。

-「天使」は今作のアートワークに沿った楽曲のようにも感じられますが。

等力:アートワークはわりと早い段階で、去年の冬には完成していたので、それを見ながら最後にピースを嵌めていったところはありますね。

-そうだったんですね。作品全体の話に戻りますが、様々なコンセプトが織り重なって作られたアルバムのように感じます。"君が笑ってくれるなら、僕はJ-POPにもメタルにもなる。"というキャッチコピー、冬のモチーフ、そしてライヴへの意識等......。最初にメンバー間で共有されていたのはどのようなイメージだったのでしょうか?

等力:いつも僕がGoogle Docsで企画書のような資料を作ってるんですけど、まずは"点から線へ"っていうキーワードがありました。『アイランド』が点だとしたら、今作は誰かと誰かを繋ぐ線のようなアルバム。
あとは、ジャンルへの意識を変えようと。これまでは、ブラックゲイズもそうだし、例えば『アイランド』の1曲目「臨界」で言えば"DEFTONES+DEAFHEAVEN"みたいな、すでにあるサウンドを意識して作ってたんですけど、そうじゃない方法にしようというか。ジャンルとしての捉えどころはなくてもいいだろう、ポストジャンル的な感じでいこうという考え方がありました。ギター・サウンドにおいては、太い音が出るハムバッカーではなくて、シャキッとした音が出るシングルコイルのギターを使うのが冬っぽいんじゃないかと。そんな話を共有した記憶があって、その通りの作品になったと思います。

布:あとは『アイランド』のキャッチコピー"J-POP?それともブラックメタル?"に対しての答えだね。

等力:それは一旦J-POPという回答にしておこうってことで。なぜそこに辿り着いたかというとライヴの話になるんですけど、特に海外でやるときには別に"ブラックゲイズ・バンド"として見られるわけじゃなくて、"日本のバンド"として見られることが多いんですよね。僕たち自身も、"メタル・バンドだ!"と思いながらやってるというよりは、ただ自分たちのライヴをやってるって感覚なので。メタル的なジャンル分けよりは"J"なのかなという。

齊藤:最終的には、ジャンルに固定されない明日の叙景が、お客さんのことを想って出力するものがどっちになったって構わないという意味で、"君が笑ってくれるなら、僕はJ-POPにもメタルにもなる。"に収束しました。

-国境やジャンルの壁を超えた支持を獲得したこととそれによって得た自信が、その回答を導き出したとも言えそうですね。

等力:そうですね。

布:答えを相手に委ねてみるのもいいよねっていうことで、バンドとリスナーのコミュニケーションを表したコピーでもあると思います。

等力:前作のコピーがインパクト強すぎた分、今回はかなり迷っちゃって。ポスターのデザインを考え始めた頃に布さんがポロっと提案してくれて決まりました。

布:その前に出した齊藤の案も詩的で良かったけどね。作品の本質を掴んでた。でも、第三者に届けるってなると違うかと。

-おぉ、その案も気になります。

齊藤:"天使が叫ぶ、世界はきらめく。"ですね。天使が叫んでる一方で、それとは関係なく世界は煌めいているというふうにも取れるが、実は因果関係にあるんだみたいな意味や、ヴォーカルはシャウトだけど、曲はポップであることも組み込んだコピーなのですが、ちょっと抽象的だよねって。

等力:僕等のセオリーとして、コピーはあんまりポエティックにするとよく分からないから、俗っぽくしようっていうのがあって。

布:昔のそれこそ『すべてか弱い願い』以前の明日の叙景だったらそれで採用だったよね。でも、例えばTOWER RECORDSにヒゲダン(Official髭男dism)のCDを買いに来た、明日の叙景を知らないお客さんに"なんだこれ?"って思わせるには俗っぽさが必要。

-『アイランド』ではポルノグラフィティ『foo?』等がリファレンスになったそうですが、今回はアルバム全体を通して参考となった作品はありましたか?

等力:今回は特にこれというのはないかもしれないです。どちらかというと、サブスク時代のプレイリスト的にコンパクトに聴けるものを想定して作った感覚で、全体で36分。一曲一曲も短いですし。『アイランド』だったらもう1回、2回していた展開を削っていきました。

-個人的には『Think of You』を聴いていて強烈に思い出したアルバムがあります。それが9mm Parabellum Bullet『Movement』なんですけど、叙情性やテクニカルさを保ちながらアレンジとサウンドをスッキリさせて歌を立たせる、過去作からの変化に類似性を感じまして。『Movement』には「銀世界」という曲が収録されていますけど、冬や雪のモチーフが音像の鋭化と共に一致するのも興味深いです。

等力:はいはい。最初にメンバーに共有したイメージの中に入っていました。『Movement』、冬っぽさはたしかに感じますね。

齊藤:ちなみに、サブスク時代にアルバムをどう届けていくかって面で、先行曲をMVと共に出してからアルバムをリリースするという形を提案しました。僕自身もプレイリストに載っている楽曲を聴いて好きになったバンドが結構ありますし。俗っぽい聴き方だなとは思うんですけど、それに寄り添ったチャレンジをしてもいいんじゃないかという。

布:メタルをはじめとする洋楽の、アルバムで聴くべきっていう考え方に毒されすぎてたのかなって。オリコンだって、アルバム・チャートよりシングル・チャートのほうが絶対に盛り上がってるじゃないですか。だから、シングルを中心に聴くほうが日本の音楽業界としてはむしろスタンダードで。齊藤は俗っぽいって言ったけど、小中学生の頃に"Mステ(ミュージックステーション)"のランキングを観てたときの感覚に、戻っただけのような気もしますし、好意的に受け止めたいです。