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INTERVIEW

明日の叙景

2025.09.04UPDATE

2025年09月号掲載

明日の叙景

Member:布 大樹(Vo) 等力 桂(Gt) 関 拓也(Ba)齊藤 誠也(Dr)

Interviewer:サイトウ マサヒロ

戦争は嫌だと思っても、戦場で平和の旗を振る勇気や覚悟はない。そんな弱さや自分さえ良ければいいって感情を懺悔する内容が多い


-今作の歌詞は、"個から社会"、"物語から現実"をモチーフにしたそうですね。

布:そもそも自分だけで歌詞の世界を考えていると、どうしても明日の叙景の歌詞にならないので、メンバーが普段感じていることを汲み取りながら書いていくことが多いんです。で、「コバルトの降る街で」のキーワードとして等力が上げたのが"資本主義への批判"でした。これまで明日の叙景では政治や時事的な問題をはっきりとは扱ってきませんでしたが、今作では差別や搾取、戦争といった部分に切り込んで自分なりの考えを表明するような歌詞が増えたと思います。
ただ、ハードコアやヒップホップでは、自分の正しさを貫いて社会の在り方を問う形のリリックが多いですけど、僕は搾取の上に成り立つ生活の豊かさを受け入れてしまう弱さを描きたかった。遠くの国で戦争が起きているけど、僕は今もこうしてのうのうと生きている。戦争は嫌だと思っていても、戦場に行って平和の旗を振る勇気や覚悟はない。そんな弱さや、自分の中にある差別心、自分さえ良ければいいっていう感情を懺悔するような内容が多いですね。

-たしかに、社会そのもののことを歌っているというよりも、やはり社会と摩擦した個のことを歌っているような印象です。

布:そうですね。そんな情けない自分の視点で書かれた歌詞と、それに対する理想の他者の視点で書かれた歌詞という2本の柱があります。「DAWN」、「ステラ」、「コバルトの降る街で」は前者、「マジックアワー」、「ツェッペリン」、「明日は君の風が吹く」は後者を書いた曲かなと。

-「ドグマ」はいかがですか? 今作の中でも取り分けセンセーショナルな歌詞だなと。

布:これはもう、最強クラスの懺悔ですよね。能力主義に抗わないで消えていくことを選んでしまったら、自分と似たような立場の人はいなくなるべきだと思っていることになるんじゃないか? という。自分を卑下することは、同時に同じ境遇の他者を卑下することでもある。

等力:自虐は自分以外にもダメージを与えるっていうね。

布:一昨年、治る見込みのない病を患ったため安楽死を望む人と、その家族に取材した記事を読んだんです。家族は安楽死に反対しているんですけど、"では、あなたがもしこの人と同じ境遇になったとしても、安楽死は望まないんですね?"と尋ねると、"いや"と否定する。"俺が安楽死するのはいいけど、こいつはダメなんだ"っていう。そこで、支える側にいる内はいいけど、支えられる側に回るのは嫌だというままならない人間の感情があるんだなと思って、「ドグマ」の着想を得ました。

-なるほど。さて、今回の取材では収録曲それぞれについて伺う時間がないのですが、せっかくなので、メタルコア要素が色濃く、いわば最も"激ロック的"なオープニング・トラック「DAWN」について、裏側をお話しいただけますか?

等力:サポート・メンバーのGen(Gt/GREEN3YED/ex-Graupel)とツアーをしていて、彼の演奏からインスパイアを受けたのと、単音の分かりやすいリフがライヴでは印象に残りやすいという実感から作った曲です。あと、FACTをイメージしたハーモニーのリフもありますね。リヴァイヴァルが来るんじゃないかと思ってたら、本当に復活しちゃったっていう(笑)。

齊藤:「DAWN」は最初からアルバムの1曲目にしようというつもりで制作しました。

等力:いきなりドカーンと始まるので面食らう人も多いと思うんですけど、これをオープナーにしたいなと。歌詞に関しては、ELLEGARDENの「Fire Cracker」からのインスピレーションが大きいですね。歌い出しからとんでもなく暗くて、活動休止前でギリギリだったELLEGARDENの状態が表れてるんですけど、『アイランド』以降の明日の叙景の感覚としては共感できるところもあるというか。走り続けないといけないという苦しみが僕の中にもあって。それを背負いつつ、力強く進みたいという思いでこの曲調になりました。

布:あと、リファレンスとして最初に上がったのはヤナミュー(ヤなことそっとミュート)の「morning」じゃなかった?

等力:そうだったかも。あれもアルバム(『BUBBLE』)の1曲目で、フィードバックノイズから始まる。ヤナミューが好きなのはもちろん、僕は2010年代のいわゆる楽曲派アイドルにものすごくインスパイアされていて。「天使」にもsora tob sakana「夜空を全部」の影響がありますし。様々なジャンルを取り入れつつ、楽曲はアイドル・ソングの王道展開だったり、あるいはそうじゃなかったりという、いろいろな試みがなされてたあのシーンのムードは、潜在的に制作に反映されてると思います。

-そういえば、ヤナミューにも「結晶世界」という9mm(Parabellum Bullet)「銀世界」ライクな冬の曲があります。

等力:あぁ、ありますね。

布:僕は、ヤナミューと明日の叙景に近いところがあるんじゃないかって思うんですよね。"これアイドルが歌う必要があるの?"、"これシャウトでやる必要あるの?"っていう。ヤナミューを聴いたときに、"普通にバンドでやって、男の歌声が乗っててもカッコいいのに"って思っちゃったんですけど、きっと明日の叙景のリスナーも、"シャウトじゃなくてクリーンで歌えばいいじゃん"って思ってる。だけど、それこそがグループのアイデンティティなんですよね。だから、明日の叙景における僕自身の姿がどうあるのかを、ヤナミューから感じ取ったっていう。

等力:そういうそれぞれのアイデンティティこそがJ-POPネスなんじゃないかなと思います。

-等力さんはRAYやSAKA-SAMAといったグループへの楽曲提供も行っていますが、そういった仕事からのフィードバックは、『アイランド』以降の明日の叙景のJ-POP性に繋がる部分がありますよね。

等力:間違いなくあります。自分がJ-POP的な楽曲構成が実は大好きで、なおかつそれを作る才能があるということに気付けた機会でもあったので。アイドル楽曲の制作を通して掴んだ実務的な方法論というのは、前作にも今作にもしれっと活かされてますし。

-個人的に、等力さんワークスではSAKA-SAMA「朝日のようにさわやかに」等がお気に入りです。

等力:あの曲は当時グループのアンセム的な扱いをされてたんですけど、それまで暗い曲しか作れないと思ってた自分がめっちゃ明るい曲を作れてるっていう。それが、俺もこんなものを作ろうと思えば作れるんだっていう自信になりました。

布:明日の叙景では暗くなりがちだったけど、ソロではもともとアンセム感のある曲を作ってたよね。

等力:だから、結局ジャンルに対する先入観があったんだよね。ブラック・メタルは暗くあるべきだって思ってた。『アイランド』も『Think of You』も、その固定観念を引き剥がしていく作業だったっていう。明日の叙景のコンポーザーとしてのペルソナと楽曲提供者としてのペルソナが、10年くらいの時間をかけて少しずつ一体化されてきて、ようやく自己が確立されたように感じます。

-10月から11月にはリリース・ツアー("明日の叙景 -Think of You Tour 2025-")の東名阪公演が控えています。意気込みはいかがですか?

布:3公演、それぞれ全く別モノのライヴになるように仕込んでいきますので、ぜひ通しで来ていただけたら嬉しいです。明日の叙景のライヴは踊っていただいても最高ですし、じっと腕を組んで聴いても最高なので、皆さんの選択を精一杯尊重します。いろんな人に観てもらいたいです。

等力:今作はセトリの中で活きてくる楽曲がたくさんあると思っていて、いろんなバリエーションを見せられるのが僕等自身とても楽しみです。

関:『アイランド』リリース後のライヴはまだ手探りでしたが、それから場数を踏んだ今なら、最初から100パーセントの力で作品を表現できると思います。期待していてください。

齊藤:東名阪の前には中国ツアーもあるので、そこでの反響ももしかしたら取り入れられるかもしれません。セットリストの自由度が大きく変わったので、楽曲の強さが一番いい形で現れるライヴになるのではないかと思います。

-最後に1つ、あえてベタな質問なのですが、現在見据えている目標はありますか?

布:まずは、アジアで一番のエクストリーム・バンドを目指してやります。

関:渋谷WWW X公演、まずはあそこを埋めたいです。

齊藤:僕は長く続けることですね。

布:明日の叙景の根底には、音楽はライフワークだっていう考え方があるからね。

等力:僕は......自分自身でいられることが一番大事だから、それが答えになっちゃうかもしれない。

布:バンドの状況や周囲が変わっても、自分は自分でいるっていうね。もちろんそのままてっぺんを取ることも。

等力:そうそう、それは全然干渉し合うことではないと思う。