INTERVIEW
DEZERT
2024.11.23UPDATE
2024年11月号掲載
Member:千秋(Vo) Miyako(Gt) Sacchan(Ba) SORA(Dr)
Interviewer:山口 哲生
-すごい状況ですね(苦笑)。
千秋:僕等に関わってくれた全人類を傷つけるツアー。ただ、あれはターニング・ポイントになったというか。"何かをしないといけない"っていう気持ちがなくなりましたね。それまでは"水に石を落とさなあかん"みたいな気持ちがあったんです。エンターテイメントなんでそこは常に考えてるし、今もあるんですけど、石を落として水がどう跳ねるかっていうところまで考えないといけなかったものを、とりあえず石を落としてみようみたいな感じでやるのはやっぱり良くない。かなり勉強になりました。
-"千秋を救うツアー"が始まる直前、2017年1月に新木場 STUDIO COASTで主催ライヴ[DEZERT PRESENTS 【This Is The "FACT"】]をやっているんですよね。第一線で活躍している先輩バンド3組と、それを乗り越えようとしているDEZERTをはじめとした次世代のバンド3組がぶつかるという構図は、まさにシーンに一石投じてみようという気持ちの表れであって。
千秋:うん。何かを変えなきゃいけないんだけど、その何かが分からないまま出発してしまったっていうのが、ちょっと反省点かなと思いますね。
-"何かを変えなきゃいけないのは分かっているけど、それがなんなのかは分からない"という状況ってめちゃくちゃ苦しいですよね。
千秋:そうなんですよ。あと、("千秋を救うツアー"の行程が)行きっぱなしのツアーだったんですよ。今は週末に行って帰ってくることが多いけど、2週間とか、下手したら1ヶ月半ぐらいはメンバーと一緒にいたんで、たぶんお互いのヘイトも溜まってたと思うし。うちのメンバーは面と向かって俺にそういうことを言ってきたりはしてこないけど、僕は思ったことをすぐ口にして、みたいなことはあったなって。
-SORAさんとしては"千秋を救うツアー"の頃、千秋さんが"なんとも言えない雰囲気を醸し出していた"ときって、どんなことを思いながら活動してましたか?
SORA:やっぱしんどかったですね。さっき千秋が喩えで、石を投げて何かしなきゃいけないと思ってたって言ってたけど、俺は"石を投げなくてもなんとかしないといけないんじゃないの?"って思っちゃってたんですよ。俺は学生時代とか10代の頃に好き勝手生きてきてしまった人で、その当時27歳だったんですよ。ロック・バンドやってる人って27歳で自殺する人が多いじゃないですか。だから大人になって、さらに転換期みたいなタイミングだったんだと思うんですよ、知らんけど。
-うん(笑)。
SORA:そのタイミングで、今まで好き勝手やってきたからそろそろちゃんとやりたいなと思って、自分なりに不器用ながらドラムを練習したり、音楽の勉強をし始めたんで、千秋のやってることが当時は理解できなくて。普通にやろうよって思ってたんですけど、千秋は石を投げたいから、例えばセットリストを急に変えて、できないメンバーがいたらキレるとか。なんでそんなことしちゃうんですか? みたいな気持ちからいろんなことが重なって、これは俺もうできないな、どうしようかなって抱え込んじゃって、ツアー中にホテルの部屋から出なくなりました。
-それぐらいメンタルに来てしまって。
SORA:当時は普通にメンバーに会いたくなかったですからね。バンドを続けたかったから、メンバーと会って揉めたらもっと自分が嫌になるし、相手にも不快な思いをさせちゃうから会わないほうがいいなって。"そういうときは会わないほうがいいんじゃない?"みたいな助言もあったんです。僕も"そうですかね"とか言って。メンバーとライヴ以外で会うのがしんどかったんで。
-その状態から抜け出せたきっかけってあったんですか?
SORA:なんでだったんだろう......俺、バンドやっててそういう地獄になったのが3回ぐらいあるんですけど、"千秋を救うツアー"のときはどうしたんだっけ......忘れちゃったな(笑)。何かきっかけは絶対にあったんですけどね。
-距離を置いたほうがいいのではというところから、あえて距離を近づけてみたとか?
SORA:いや、めっちゃ離れていってましたよ。メンバーは覚えてないかもしれないけど、"反省会したいからみんなで飯食うぞ"となったときに、"俺、本当に行きたくない"ってSacchanにめっちゃ話したことあります。"無理だから"って。当時ですけどね。なんだったっけ。誰か覚えてない?
千秋:たぶんね、Sacchanは俺にずっと隠蔽してた、そのことは。
SORA:あ、そうだ。俺、そのときSacchanに"バンドやめるわ"って言ったんだ。2人で池袋の串カツ屋かなんかに行ったのを思い出してきた。
-Sacchanさんどうだったんです? 串カツ屋の話。
Sacchan:池袋に串カツってありましたっけ(笑)?
一同:ははははは(笑)。
SORA:いや、思い出してきたな。2人でさ、あれ? 鍋だった?
Sacchan:しかも串カツじゃねぇんだ。
SORA:とにかく2人で"ちょっとごめん、Sacchan。俺しんどい"と。Sacchanは達観しているほうなので、そのときに"武道館やってからやめれば?"って言われたんですよ。
千秋:へぇー!
Sacchan:かっこ良。
千秋:繋がっちゃってるやん!
SORA:そうだ。"千秋を救うツアー"のときは、"今やめてもなんの名刺にもならん"と。"せめて武道館をやってやめたら、この人は武道館までやり切ったドラマーなんだって、その後の人生もいろいろ広がるでしょ?"って言われたんですよ。そのタイミングはそれで乗り越えたんじゃないですかね。その経験を得て、俺は千秋をもっと理解しないといけないっていうモードになったんです。それで、千秋を教えてたボイトレの先生がいるんですけど、その人に俺も習いに行こうということになって、なぜか歌を習うって謎の行動をし始めたのがその頃で。
-へぇー! すごいですね。
SORA:共通認識が欲しかったんですよ。千秋がどういう感覚と感性で音楽に向き合っているのかっていうのを、千秋と直接話しちゃうと俺はたぶん理解できないけど、そこの認識が同じだったら今までみたいなことにはならないだろうなと思って。それがたしかその辺だったよね?
Sacchan:そんな気がする。
SORA:それで"千秋を救うツアー 2"で、中野サンプラザでライヴをやったときに、千秋の先生が俺のことを褒めてくれたみたいなんですよ。それを千秋に言われたのはすごい覚えてますね。
千秋:うん。
SORA:"SORA君は姿勢がいいって言ってた"って。そこなんだ? とは思ったんですけど(笑)、その辺から普通に頑張ろうってなった感じですかね。で、2019年でまた落ちて、コロナ禍に入り、いろいろあって今に至るって感じなんで、2017年からここまではとにかく波がすごかった。
-たしかにすごいアップダウンでしたね。Miyakoさんは、加入した後にどんなことを感じながら活動されてました? かなり苦しいことも多かった時期ではあったと思うんですが。
Miyako:その時期はめちゃくちゃ悩んでましたね。自分はもっとできるイメージがあるのに、なんか全然上手くできない自分に対してものすごく腹が立ったし、なんでなんだろうみたいな。やっぱり20代前半とかバンドを始めたばかりの頃って、自分やバンドのメンバーに対して"自分たちは特別なんだ"って、まぁ勝手にですけどね(笑)、思い込んでいたんですが、歳を重ねるにつれて"俺ってすごい平凡だな"っていうか。別に特別な存在でもなかったし、すごく普通というか、現実が見えてきたなかですごい悩んでいたんです。で、すごく詳しく覚えているわけでもないし、僕がそういう弱音を話したからそう言ったのか分からないけど、どこかのタイミングで千秋君に"自分を受け入れろよ"みたいなことを言われて。
-おぉ。
Miyako:今までは、そういう自分を認めたくないから"いや、それは本当の俺じゃない"みたいな感じだったんですけど、"でも、そうだよな"ってちょっと考えたときがあって。俺は普通の人かもしれないけど、1歩ずつというか。その1歩は本当に小さいかもしれないけど、自分ができることを飛び級しようと思わずにやっていこうって。そのほうが自分にとってもいいかもしれない。というか、それが本当の自分なのかもしれないと思ったことがあって。そこから少しずつやってきて、(渋谷CLUB)QUATTROで千秋君から"武道館"というワードが出たときは、正直自分の中で武道館は1歩先のことじゃなかったから、そんなに考えてなかったんですよ。でもあの言葉があったことで、頭の中で自分たちが武道館に立って演奏している姿をちょっとずつ想像するようになって、"じゃあそれをやるためには、成功させるためにはどうしたらいいんだろう"と現実的に考えるようになったっていうのはあるかもしれないですね。
-千秋さんの言葉があったからこそ、1歩ずつやってこれたと。
Miyako:そのちっちゃい1歩をちょっとずつ重ねて近づいていってたのかもしれないですね。QUATTROで"武道館"と千秋君が言った瞬間も、イメージはなかったけどそこまで驚いた感じもなかったので。
-Sacchanさんは、千秋さんがQUATTROで"2年後に武道館"と言い出したときにどう思われました?
Sacchan:"あ、言った!"って思ったのは確かで。それで、さっき千秋君もちょっと言ってましたけど、メンバー含め周りのスタッフの人たちも、"言霊って言葉があるぐらいだし、現実的にそこ狙いに行きますか"みたいな雰囲気になったのは間違いないんですよ。僕としては、2017年まで自主でやっていた感覚なんですけど、中野サンプラザでやるあたりから、もちろん動員が全てではないにせよ、次のライヴの規模感をどう狙っていくのかっていうのはずっと考えていた部分で。その選択肢の1つとして2018年に事務所に入って、ちょっと環境を変えてみたりもしてみたんですけど。
-なるほど。
Sacchan:ただ、事務所に入ったはいいものの、チームとしてなかなか定着しなかったところも実はあったりして。毎回"この布陣で頑張りましょう!"とはなるんですけど、人によっては会社を辞めたり、違う部署に行ってしまったり、そういうことの繰り返しで。その時々にいる人たちとは作戦会議じゃないですけど、いろいろしていたことはたくさんあったんですが、なかなか締まり切らずというか。みんなもちろん夢は語るし、前向きなのは前向きなんですけど、具体的に"武道館"という発言する人もあんまりいなかったっちゃあいなかった。そういうところから千秋君がステージでバンッ! て発言をしてくれたことで、今まで漠然としていたものが現実的に動き始めていくきっかけになったのは間違いないので、ステージで聞いたときは"しまった!"と思いました。
千秋:ははははは(笑)。
Sacchan:"やってしまった!"じゃなくて"締まった!"のほうですけどね。目標が定まったみたいな、そういう感覚は内心ありましたね。
-ワクワクするというか、いい意味でゾクッとするみたいな。
Sacchan:そうですね。長く活動してきたなかで、"今から武道館を目指そうぜ!"って決起するのって、ちょっと小っ恥ずかしいっちゃあ小っ恥ずかしいんですよ。もちろん会場はすごく立派なんですけど、そういう雰囲気がなんとなくあって。ただ、それを率先して、しかもライヴで言ってくれたというのは、スタッフたちも"いやぁ、言ったんだから仕方ないですよね!"って、それを理由にできるような感じというか(笑)。恥ずかしさが全部取れたような感覚に全員がなれたのは覚えてますね。
-締まったし、ブレイクスルーでもあったんでしょうね。なんとなく漂ってる閉塞感が、霧が晴れたようにさっと消えて。
Sacchan:かもしれないですね。明確になった感じはありました。
-SORAさんも明確になった感覚ありました? 千秋さんがステージで"武道館"と言ったとき。
SORA:そのときは"やったー!"って感じでした。"言いよったー! やるしかねぇー!"みたいな。やっぱりファンの前で言う重みは、フロントマンだから一番知ってらっしゃると思ってたんで。バンドっぽくて、すごく素敵なバンドだなって思いますね。シンプルにステージ上で興奮してブチ上がってたんで。それもコロナ前だったから、きっとここから険しいことがあるんだろうとかも分からなかったし。