INTERVIEW
黒曜日
2024.10.30UPDATE
2024年10月号掲載
Member:黒葉(Vo) CRAY(Gt)
Interviewer:杉江 由紀
気が付いたら黒曜日の世界に深く惹き込まれていた、という空間を作っていきたい
-いやはや、それは相当なスパルタ加減ではないですか。もっとも、現代のDTM技術をもってすれば歌もエディットでかなり"いじる"ことは可能なはずです。それでいて、あくまでもCRAYさんは録り音のクオリティにこだわられるのですね。
CRAY:そこはもう、歌は生ものじゃないですか。素材そのものが良くなければ、いくらエディットしたところで聴く人の心は動かせないと思うんですよ。だから、どうしてもこだわってしまうんです。まぁ、一時期やってたボカロ曲みたいなタイプのものはそもそも息継ぎするところがなかったりするんで(笑)、時にはレコーディングで"繋ぐ"ようなこともやったりしてましたけど、やっぱりちゃんとした生歌を活かす方向で作っていくほうが黒曜日には絶対合っているというのも、それをやって分かったことでもあるんですよね。ここまで試行錯誤も経てきた上で、今ではレコーディングのペース自体も前に比べればかなり早く進められるようになってきてます。
-完成度を求めるために必要なスパルタ的レコーディングだとはいえ、黒葉さんからすると場合によってはキレたくなる場面はあったりしないのですか??
黒葉:あります、あります(笑)。結構揉めたりはしてますよ。CRAYさんから説明されて"なるほど"って納得するときもある代わりに、自分が作った曲に対しては"ここはこの歌い回しがいい!"って譲らないときもあるんで。
-ヴォーカリストであると同時にコンポーザーでもあられる黒葉さんが、曲作りをしていく上で重視することが多いのはどのようなことになりますか。
黒葉:風景が浮かぶ曲、色が見える曲、そういう視覚的要素まで伝えられるような曲を作りたいという意識は常にありますね。もちろん、いかにインパクトを持ったメロディを作れるかということも大事にしています。ありきたりなものは作りたくないんです。
-CRAYさんはコンポーザーとして、黒曜日の曲に必要なファクターとはどのようなものであると認識されていらっしゃいますか。
CRAY:何よりも黒葉さんの歌が映えるものであること、というのを自分は一番に考えてます。アレンジをしていくときにも、全ての楽器は黒葉さんの歌を引き立てていくためのパーツとして捉えているところが大きいんですよ。ギター・ソロにしても、ギタリストとして自分が弾きたいから弾くというより"歌を引き立てながらきれいに繋げていくためのもの"として作ってますね。
-ギター・ソロといえば、CRAYさんはXにて"ギターソロいらない説なんて何かの冗談さ"とポストされていらっしゃいましたね。
CRAY:ギタリストとしての感覚でソロが必要だと思ってるという以上に、作曲者として考えたときのほうがギター・ソロって重要だったりするんですよ。だいたい、いらないって言うんだったらギター・ソロどころか曲によってはイントロだっていらないんじゃないの? なんでギター・ソロだけを標的にするのかな? そんなに削ぎ落としたければ、いっそアカペラにしちゃえばいいじゃん! って個人的には思います(笑)。
-やりたい人はやればいいし、聴きたい人が聴けばいいだけの話であって、何も"ギター・ソロ不要論"などと分断を煽る必要はないように思います。CRAYさんがお好きだったというPaul Gilbert、Steve Vai、Joe Satrianiあたりはソロでの超絶プレイが魅力的な方たちですし、その一方で某V系バンドは、ギター・ソロのある曲は数少なかったですけれど非常にカッコいいバンドでした。音楽は自由であっていいはずですよね。
CRAY:だと思いますよ。歌にプラスの効果があれば入れるし、なければ入れない。自分の場合のギター・ソロに対する考えはそこに尽きます。
-CRAYさんは曲によって7弦と6弦を使い分けられているようですが、ご自身で自覚されているギタリストとしてのセールスポイントとはどのようなところですか。
CRAY:俺だけのニュアンスを持った音、ですかね。他とは一味違う音を出しているつもりはあるので、そこは自分にとっての売りだと思ってます。分かりやすく言うと、チョーキング1つ取っても"ついやりすぎちゃう"ところが自分の色なんですよ(笑)。もちろん、歌は何よりも尊重してますけど、きれいに弾くことよりも"出るところでは思いっきり出る! 行き切る!!"というのが自分のスタイルです。さっき、黒葉も"ありきたりなものは作りたくない"って言ってましたが、自分の中にもそういう気持ちはあって、ギターを弾く以上はただ普通に弾きたくはないですね。例えば「Gravity」(『ENDORPHIN』収録曲)のソロの最後の部分は、少し荒いですが自分のギターの持ち味だと感じています。きれいに弾くだけでは出せない、退廃的な色を出せたと思いますね。
-いい意味でトゥー・マッチであることを、黒曜日は信条としているのですね。また、これもXでのポストの件にはなるのですが、CRAYさんは以前「Infinite Echoes」(2024年8月リリースの14thシングル)という楽曲に関して"重さは、チューニングが全てではなく、楽曲が持つ雰囲気が出す事もある"と記述されていらっしゃいました。せっかくですので、ぜひここは激ロック読者に向けて黒曜日の醸し出すヘヴィなサウンドの特徴をアピールしてくださいませ。
CRAY:いやほんと、俺は重さってチューニングが全てではないと思ってるんです。例えば誰もいない夜の海とか、怪しい森の奥のほうとか、そういったところの雰囲気を音で表そうと思ったら、聴き手の感情に訴え掛けていく必要がありますよね。黒曜日の場合は黒葉さんが作る曲そのものに、すでにその雰囲気が濃厚に漂っていることが多いので、さらにチューニングまで下げてしまうとバランスが取れなくなってしまう事態が発生する可能性もあるんです。そこの加減はとても難しいところなんですが、曲自体が重さを持っているときにはむしろレギュラー・チューニングのほうがいい、というケースが意外とありますよ。
-ヘヴィな音を目指すなら多弦にダウン・チューニング、と思いがちですが必ずしもそうではないのですね。
CRAY:極端なこと言うと、人との会話でも言葉のやりとりだけで重い雰囲気が生まれることってあるじゃないですか。そこにさらに重いBGMなんかがかかったりしたら、場の雰囲気のバランスって崩れると思うんですよ。自分が大事にしてるのは、ただ物理的に重い音を出すことではなくてトータルでの空気感のほうなんですよね。低い音が必要なときもありますけど、必ずしも必要かというとそうではないっていうことです。
黒葉:要は歌詞や歌に合う音かどうか、ということが黒曜日では何よりも大切なんです。
-歌詞といえば、黒葉さんはXでのポストにおいて"黒曜日にはYouTube上に上がってない曲があるんだけど"、"まぁ、歌詞がヤバい"との記述されているのをお見かけしました。黒葉さんは歌詞を書く際に、どのようなポリシーをお持ちなのでしょう。
黒葉:1stフル・アルバム『ENDORPHIN』を作り上げていくのにあたっては、美しいものを表現するために汚いものや破壊も必要だと思って、ちょっとヤバめな歌詞を書いてしまったんですよ。黒曜日の歌詞は、生きていくなかで苦しんでいたり、つらい想いをしている人たちの代わりに心の薄暗い部分を叫んでいるようなものが多いんですね。リスナーのみんなが言葉にしづらい感情を吐き出せるように書いている歌詞が多いから、結果的にヤバい詞になることもあるんです。
-「不完全な世界」(2024年6月リリースの12thシングル)という曲ではCRAYさんが作詞も担われたそうですが、CRAYさんは作詞というものに対してはどのような概念をお持ちですか。
CRAY:その昔、音楽を始めたばかりの頃は作曲と作詞をセットで考えていたところもありましたし、「不完全な世界」に関しては僕が作曲をしているので、ちょっとその頃の感覚を思い出しながら詞も書いてみたんですよ。多少、黒葉さんにブラッシュアップしてもらったところもありましたが、最終的には"いいんじゃない"と言っていただけましたんで(笑)、今後も作詞にはまた挑戦していきたいと思ってます。
黒葉:歌う側からしても、自分ではない人の書いた詞というのは新たな発見があって面白かったですよ。あの曲で黒曜日の世界の幅がちょっと拡がったと思います。
-さて。昨年リリースされた黒曜日の1stフル・アルバム『ENDORPHIN』では、帯に"これは、音楽シーンへの挑戦である"との文言が記されていました。黒曜日がその挑戦を経て、ここから獲得したいと目論んでいるのはどのようなものなのでしょうね。
CRAY:まずは、自分たちを必要としてくれる方々をもっと獲得していきたいですね。今の自分ができる最大限のことを形にした楽曲を好きになってもらえたら、ミュージシャンとしてこの上なく幸せだなと思ってます。
黒葉:黒曜日は、聴いてくれる人たちにとって心の避難場所でありたいと思っているんですよ。そして、黒曜日は枠にとらわれない自由な場所でもあります。ヘヴィな曲だけでなく、中にはそこまでロックじゃない曲とか、静かなインストゥルメンタル曲があるのもそのためなんです。黒曜日としては心を癒されたい人たちにも届いてほしいという思いを強く持って活動しているので、ここにしかない世界を必要としてくれる方たちや、今後新たに黒曜日と出会ってくれる方たちと一緒に、この先へ進んでいけたらと考えています。
-来る12月6日には、渋谷Star loungeにて初ワンマン・ライヴ"黒ノ乖離世界"が開催されるとのことですが、これに向けたヴィジョンもお聞かせください。
黒葉:黒曜日にとって初めてのライヴとなる"黒ノ乖離世界"では、現実離れした五感で感じられる空間を黒曜日として提供したいと思っています。
CRAY:一応、VI-ヴァイ-のときはライヴ活動もやってたんですけどね。黒曜日になってからはMV制作を主体でやってきていたので、今度はその世界をライヴという形でも表現していくことになるわけです。
-となると、ライヴの面でも黒曜日は"ありきたり"ではない世界を展開していくことになりそうですね。
CRAY:実際にどうしていくか、という案は今まさに黒葉さんが練っている最中でございます。僕もその世界を表現できるように頑張っていきますので、ぜひご期待ください(笑)。
-観に行く側としては、いかなる心構えを持っていたほうがよろしいですか?
CRAY:黒曜日にはヘヴィな曲から、静けさを持った曲までいろいろあるんですが、いろんな要素を含んだ世界を提示していけるんじゃないかなという予感はしてますし、黒葉さんのステージングによってきっと皆さんは"どんどん深みにはまっていく"ことになると思うんですよ。まるで幻覚を見ているかのような世界を体験できるはずですし、黒曜日で初期の頃によく使っていたキャッチコピー通り"幻覚注意"な一日になることでしょう。どうぞ心置きなくはまりに来てください。
-合法的に幻覚を体験できるとは素晴らしいお話です。
黒葉:まるで幻覚のような現実逃避というのは自分自身にとっても必要なものだし、誰かにとっても必要であったらいいなと考えているんですよね。もちろん、これまで映像を通じてしか黒曜日を観たことがない方たちにとっては、幻覚どころか肌でリアルな形でも黒曜日を感じられると思いますし、これまでに作ってきた10本のMVをライヴで表現して、その集大成の場が"黒ノ乖離世界"になっていくとも思うんですよ。気が付いたら黒曜日の世界に深く惹き込まれていた、という空間を作っていきたいです。皆さんの五感で黒曜日を感じ取ってください。
LIVE INFORMATION
"黒曜日 ONEMAN『黒ノ乖離世界』"
12月6日(金)渋谷Star lounge
OPEN 18:00 / START 19:00
[チケット]
オールスタンディング ¥4,000 / 当日券 ¥4,500(D代別)
■一般発売中
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