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INTERVIEW

POPPY

2023.10.27UPDATE

2023年11月号掲載

POPPY

Interviewer:山本 真由 Translator:安江 幸子

革新的なサウンドを発信するアーティストを多く抱えるSumerian Recordsの中でも、特に尖った存在として近年注目を集めているPOPPY。かわいらしい見た目とはギャップのある前衛的なサウンドと、実験的なヴィジュアル・アート、その根底にあるのは、かなりのサブカル・マニアで日本のカルチャーにも造詣が深い彼女の探求心だ。そして、そんな彼女のニュー・アルバム『Zig』は、新たな挑戦が詰め込まれたダンサブルなサウンドながら、心地よい毒も仕込まれた不思議な魅力に満ちている。今回は、そんな新作とそれが生まれた背景にある彼女のアート・スタイルや、これまでの活動についても詳しく語ってもらった。

-5thアルバム『Zig』の完成、おめでとうございます。激ロックでは初めてのインタビューになりますので、まずは基本的なことについて質問させてください。アーティスト名の"POPPY"という植物には、かわいらしいポピーの花(corn poppy)と薬品に利用されるケシ(opium poppy)のふたつの異なるイメージがあり、それはかわいらしい見た目と対照的な、前衛的で尖ったアートを創造するあなたを象徴するのにぴったりだと思うのですが、アーティスト名の由来について教えていただけますか?

初めはニックネームだったの。昔から芸名は絶対欲しいと思っていて、いずれ自分にぴったりのものが見つかると考えていたのよね。実際その通りになったわ! テネシーに住んでいた頃(10代半ば)に"POPPY"として知られるようになって、それ以来この名前なの。切っても切れないわ(笑)。

-ということはPOPPYになってから結構長いんですね。

そうね、人生の半分くらいかな。

YouTubeでは、必ずしも音楽がメインではなく、視覚的な表現も併せて総合的なアートと呼べるような斬新な映像が数多くアップされていますね。こういった作品を作ろうと思ったきっかけや、自身の表現スタイルを確立させたきっかけのようなものはあったのでしょうか?

もちろんリリースごとに違うけど......昔から音楽はやっていたけど、初期の映像はパフォーマンスが主で、ショート・ビデオを作っていたの。その頃はレコード会社と契約があったけど、そことはもう音楽を作りたくなかったのよね。それでビデオばかり作っていたら、契約から抜け出すことができたの。何百本もビデオを作っていたから、もう映像1本に絞ってやっていくと思われたみたい。で、契約が切れたところでまた音楽を作り始めたのよ。"POPPYユニバース"といった感じのものをね。

-音楽作りを再開したからこうしてインタビューできるということで、音楽に戻ってきてくれて感謝です。

ええ、私もそうして良かったと思ってるわ。ところでみんな(レコード会社担当者&通訳)は今どこにいるの?

-東京です。

実は私、日本に7~8回行ったことがあって、日本語も4年くらい勉強していたの。しばらく勉強からは離れてしまっているけど、日本に行くのは大好き。

-たしか歌詞に日本語が出てくる曲もありますよね? "たべてください"と歌っていたような(2021年6月リリースのEP『Eat (NXT Soundtrack)』収録曲「Eat」)。

そうね。ファッションも大好き。日本のものは含みを持たせているところが好きなのよね。KAWAIIカルチャーも、すごくキュートなのにグロくて怖い要素もあったりするし。そういうところにすごく惹かれるわ。

-KAWAIIだけじゃなくて......。

コワイも入っているわよね。KOWAII(笑)。

-あなたもKAWAIIとコワイを同時に体現している点がありますね。そこがいいと思います。

エヘヘ(照笑)。

-あなたの作品は、ダンス・ミュージックでありつつ、インダストリアル・ロックのようなヘヴィなサウンドもあり、ポップな面がありつつも大衆的になりすぎないバランスが独特に感じられます。影響を受けたアーティストや尊敬するアーティストなど、あなたの音楽的ルーツについて教えてください。

David Bowieは昔から大好きだったわ。理想の人って感じ。彼のことは昔から大ファンなの。Gary Numanも大好きだし、Björkも。David Bowieは、アルバムをリリースするたびに新しいチャプターに確信を持って足を踏み入れていて、しかもヴィジュアルも強力だった。そういうところに心から憧れているわ。

-あなたも彼と同じようにリリースごとにサプライズがありつつ、独特のPOPPYさがありますよね。

うわぁ、そんなこと言ってくれるなんて嬉しい(照笑)!

-先ほどは日本のKAWAIIカルチャーの話が出てきましたが、音楽以外にも、アートや映画、ファッションなどでインスパイアされているものはありますか?

いつもいろんなものにインスパイアされているわ。映画が大好きだから、観た作品の記録をつけているの。ツアー中はメインのエンタメになっているわ。ショーの合間に観ているからね。好きな映画は......『Amélie(アメリ)』の大ファン。あと、Panos Cosmatos監督の大ファンなの。『Mandy(マンディ 地獄のロード・ウォリアー)』と『Beyond The Black Rainbow』を手掛けた人。それから......ホラーものに好きな作品が多いのよね。最近ではA24(アメリカの映像制作会社)の映画『Talk To Me(TALK TO ME/トーク・トゥ・ミー)』を観たわ。ホラーやサスペンスを楽しんでいるの。他のアートは......エクスペリメンタル・ミュージックも好きなものが多いかな。日本のバンドで大好きなのがあって、なんて発音したらわからないけど、OOIOOって言うんだけど......。

-あぁ、それはそのままO-O-I-O-Oと読むんですよ。

そうなのね。あのバンドの作品がすごく好きなの。あと、Borisも大ファン。

-日本の音楽もよく聴いているんですね。

そうね。JUDY AND MARYとかも大好き!

-ベテランですね。日本でも人気がありますよ。......と今名前が挙がったアーティストたちを取ってみても、あなたの音楽的なバックグラウンドがとても多彩なことがわかりますね。

ありがとう! 何かを発見するということ自体がアートだと思うし、大好きなの。例えばレコード店に行ったり、口コミから自然な形でバンドや映画を知るときとか、すごい達成感があるのよね。テイストが信頼できる友達がいるから、その人たちに"これおすすめ"と言われたら真面目に受け止めて、本当に映画を観に行ったりして。ツアーではオフ日に珍しい都市に着いたらスリフト・ショップやレコード店を覗いたり、美術館に行ったりして、日々のルーティンから離れたことをするようにしているの。何かを発見することって本当に大切なことだと思うしね。ネットで"発見"することのほうがよほど簡単だけど、フィジカルな形で何かを"発見"したときのほうが強い達成感があるわ。デンマークやアムステルダムのレコード店に行って......アムステルダムには春に行ったんだけど、ブラック・メタル専門のレコード店があったの! 爆買いしちゃった(笑)! アーティストとかはわからなかったけど、素晴らしい作品がいろいろあってワクワクしたわ。

-次のアルバムはブラック・メタルものになるかもしれませんね(笑)。

わからないわよ(笑)?

-ニュー・アルバム『Zig』を聴かせていただきました。現時点(※取材は10月17日)で公開されている3曲(「Church Outfit」、「Knockoff」、「Motorbike」)だけでも過去の作品とも違いますし、3曲同士も違いますね。ヴィジュアル面でももちろんですが、あなたは昔から音楽的にも活動していたということで、ヴォーカル以外にも、ギターやベースなどを演奏しているようですが......。

そうなの。ライヴでも演奏しているわ。

-楽曲の制作はどのように行っているのでしょう? 今回の楽曲はエレクトロ寄りな気がしますが、ギターやピアノなどのアナログ楽器でアイディアを作るのでしょうか、それとも初めからデジタル作業で行うのでしょうか。

今回の場合はちょっと違ったけど、ギターやピアノでの曲作りは昔からやっているわ。コラボ相手と一緒だったり、自分ひとりだったり。アイディアの"スケルトン"を私が考えついて、そこから曲を組み立てていくの。最近はモジュラー・シンセサイザーにハマっていて、小さなユーロラックを持っているから、それでサウンドを作ることもあるわ。ソングライティングのプロセスとしては、どのアルバムもそれぞれ違うメソッドで作ったと思う。

-例えばiPhoneに歌のアイディアを吹き込むとか。

そうね。『Zig』の場合は私が音のムード・ボード(※アイディアを視覚的にまとめるためのコラージュ)を作ってセッションに持っていって、それを使ってAli(Payami/プロデューサー)に説明したの。それから私のコラボ・パートナーのSimon(Wilcox)と曲の骨になるものを書き始めて、いろんなアイディアを融合させていったわ。私のヴォイス・メモを軸にAliがトラックを書いたときもあった。そうやって柔軟性を持たせるのがいいと思うの。オープンな状態だったら、いろんな視点からものを見ることができるから、コラボのプロセスにすごく役立つのよ。

-ちなみに先ほど"スケルトン"という表現を使っていましたが、それについて詳しく教えてください。

もちろん! 曲の"スケルトン"というのはメロディや歌詞だけのアイディアで、私がヴォイス・メモに録音するものなの。......ヴォイス・メモに録音するものはみんな"スケルトン"と言っていいかも。

-その"スケルトン=骨"に肉づけをしていくわけですね。ひとりまたはコラボ相手と。

そう!

-ありがとうございます。今作のジャケット・アートワークは、学生の制服らしき衣装や剣など、ストーリーを感じさせる意味深なヴィジュアルですね。こちらにはどのようなコンセプトやストーリーがあるのですか?

アートワークはアルバムの全体像に関連しているの。このアルバムにはパートナーがあって、あとから出るんだけど......二面性を表しているの。剣が出てくるのは、私が剣が大好きだから。制服姿のスクールガールが純真さの象徴になっているところも、剣が危険の象徴になっているところも大好き。

-スクールガールの純真と剣の獰猛さも二面性になっているのですね。

そうね。

-そしてこれのあとでもう1枚アルバムを出すと。

まだその話はしないようにって言われているの。まずは『Zig』にフォーカスしないといけないしね。でも......出すわ(笑)。

-タイトルはそうしたら"Zag"になるかもしれませんね(笑)?

なるかもしれないし、ならないかもしれない(笑)、まだわからないけど。

-サプライズが得意なあなたのことですから、"Zag"じゃなくて"こうきたか"という感じのものになるかもしれませんね(笑)。アルバムは先ほども言いましたが、今出ている3曲だけでもまったく毛色が違うものの、何かしらPOPPY的な共通点がある気はします。アルバム収録曲には、一貫したテーマやコンセプトのようなものはあるのでしょうか?

『Zig』全体は、自分をもっとよく理解すること、エンパワーメント、自信などを歌っているの。例えば「Prove It」という曲では"I just wanted to prove myself to me(自分に対して自分を証明したかっただけ)"という歌詞が出てくる。自分をしっかり持って自分のスペースに立つということに対して堂々としていようってことなんだけどね。

-自分自身に対するエンパワーメントであり自信なのですね。

まさにそれ!

-曲自体がパワフルなので、聴いている側にもエンパワーメントになると思います。

うわぁ、ありがとう! そんなこと言ってくれて嬉しいわ。

-今作では、Taylor SwiftやKaty Perryなど、多くの女性ソロ・アーティストの作品を手掛けているAli Payamiが今作のプロデュースを担当していますが、彼を選んだ理由は?

彼とは共通の友達を通じて出会ったの。実は今日も話していたところよ。どういうふうに組むことになったのか今となってはよくわからないけど、たしかその共通の友達が、彼に私のビデオを何本か見せたんじゃなかったかな。それで"彼女と仕事がしたい"って思ってくれたらしい。それを聞いて笑顔になれたわ。本当に才能がある人だから嬉しかったのよ。今日も同じようなことを言ってくれたしね。......というわけで、私も彼の手掛けた作品に馴染みがあったし、一緒に仕事ができたらいいなと思って、会うことになったの。一緒に湖畔を歩きながら、次のアルバムはこうしたいみたいな話を私がして、それから彼のスタジオに行ったら彼が音楽をかけてくれて、私も自分の曲をいくつかかけたの。そうしたら共通点が多くてびっくりしたのよね。影響を受けたアーティストとか。それでセッションをやってみようという話になって、それがすごくうまくいったから、『Zig』が生まれたのよ。

-自然な流れでできたのですね。良かったです。ちなみに彼が女性アーティストをたくさん手掛けてきた経験が、あなたの女性としてのエンパワーメントの力を引き出すのに役立ったと思われますか。

うーん......潜在意識的にはそうかもね。自分では気づかなかったけど。彼はスタジオの中ですごくサポートしてくれて、とても励まされたし、私の出したアイディアを進んでトライしてくれていたわ。おかげですごくコラボ度の高い環境になったと思う。その曲の行方を積極的に見守ってくれるというのかな。クリエイティヴなコラボの中で、私は信頼に一番重きを置いているから、とても助かったわ。密に仕事をする相手はやっぱり信頼できる人でないと。アイディアも秘密も、ものごとの進め方も共有しないといけないし、自分のいい部分に辿り着けるためにもオープンな相手でないとね。

-たしかに、曲を書くというのはある意味自分のことをさらけ出す行為かもしれませんから、信頼できる相手であることって大事ですよね。

そうなのよ! そしてその過程の中で励みになってくれて、自分が正直になるために背中を押してくれる人がいいわ。

-PARAMOREなど、どちらかといえばロックな作品を手掛けることの多いプロデューサー、Justin Meldal-Johnsenが手掛けた前作『Flux』(2021年9月リリースの4thアルバム)はバンド・サウンドがメインになっていた印象で、今作ではだいぶやりたいことが変化したのかなと感じました。今回、エレクトロニックなサウンドが前面に出る形になったのは、どうしてなのでしょうか?

『Flux』もまた、私が冒険したい、模索してみたいと思ったものを掘り下げたアルバムだったの。バンドとスタジオでレコーディングしたのも初めてだったし、生音で録音したアルバムになったわ。ああいうものができてとてもハッピーよ。今作は、自分のダンスのバックグラウンドと、自分が作っていた音楽がどういうふうに交わるかを見てみたくて作ったアルバムなの。『Zig』はその第1歩だと思っているわ。ダンスを取り入れたMVを作ったらどんな感じになるかなというアイディアがあって、そこから逆算して作ったのよ。そういうことをやってみたかったから、それに合わせてアルバムを作ったの。

-ヴィジュアルのアイディアが先にあって、それに合った音楽を作ったという感じなのですね。

そうね。