MENU

激ロック | ラウドロック ポータルサイト

INTERVIEW

FEAR NO EMPIRE

2020.10.27UPDATE

2020年11月号掲載

FEAR NO EMPIRE

Member:Ali Tabatabaee(Vo)

Interviewer:山本 真由

-あなた方の今までとは違う音楽性を垣間見られるのも楽しいです。また、今回のEPは配信のみのリリースということですが、気軽にレコード・ショップに行くことのできないこの状況や、CDがアメリカではもうあまり人気がないですとか、需要が増えて人手が足りない宅配業などへの配慮もされてのことでしょうか?

そう、今君が指摘したことは今本当に重要なことなんだ。8ヶ月前とはご時世が違うからね。できるだけ早くメッセージを出すことが重要だと考えていたから、この方法がベストだと思ったんだよ。

-そう言えばZEBRAHEADは、Twitterに、日本語で"いつも配達ありがとうございます。"と書かれたステッカーをアップしていましたね。こういったアイディアも今回の活動に関わっているのでしょうか。エッセンシャル・ワーカーたちの努力についてとか。

そうだね。特にコロナ禍でわかったことだけど、例えば、スーパーで働いている人たちや郵便配達員、医者......こういう人たちはみんなヒーローなんだ。

-まったくそうですね。

俺たちは彼らの存在に本当に感謝している。残念ながら統計的には、その第一線で働いている人たちは他の人たちよりも高い確率で病気になってしまうんだ。心が痛むよ。世の中には働かなくても暮らしていける人がいたり、自宅でディスタンスをキープできる立場にある人がいたりする一方、働いて家族を養わないといけない人たちがいる。つまり、ものすごい格差社会なんだ。世界中ほとんどの地域がそんな感じだと思うけどね。そういう問題にも光を当てたいと考えたんだ。

-リリースのタイミングについて、できるだけ早く出したいという話でしたが、今作のリリースはアメリカ大統領選挙の1週間前となっていますね。このスケジュールも、世の中でどんなことが起こっているか考えて、投票するようにと呼び掛けるための大きなメッセージとなっているということですね?

もちろんさ。アメリカではもうすぐ、11月3日に大統領選挙が行われる。メッセージのひとつは、"今の政府のパンデミック、社会的不公正、人種差別への対処の仕方が不満なら自分の声を使うこと。そして、投票することだ"ということなんだ。俺たちのアメリカ人ファンに今回伝えたい、とても重要なメッセージだね。そして世界中の人たちにも、もし自分の声が(政府に)届いていないと感じたら、もし世の中が良くなっていないと思われる節があったら、自分のプラットフォームがなんであれ、それを使って自分の意見を、声を上げてほしいし、それが他の人たちのインスピレーションになることだと伝えたい。変化をもたらすにはそれしかないんだ。11月3日にはたくさんの人たちが投票することを俺たちは願っているよ。

-日本でも投票率の低さは問題になっています。日本のファンにとっても、次の選挙のことを考えるきっかけになると思います。

そうだね。より良い世の中になるための変化を起こすインスピレーションになることが、俺たちにとっては重要なことだし、このバンドを始めたときに達成したいと思ったゴールのひとつなんだ。

-また、1stシングルとしてすでに配信されている「Revolt」は、現在も世界的な運動として広がっている人種差別問題にも切り込む内容となっていますね。不穏な空気感が表現され、警報にも聴こえるようなヘヴィなギター・リフが印象的な楽曲ですが、この楽曲を最初に発表しようと思った理由は?

「Revolt」は俺にとってすごくパーソナルな曲なんだ。俺は6歳でアメリカに移民した。この4年間の政府のやり方は、移民の子供たちを親から引き離すというやり方だ。檻みたいなところに閉じ込めてね。特に今はパンデミックがあるというのに、檻の中、ものすごく密な状態にいるというのはすごく危険だし非人道的だ。想像もできないよ。6歳でアメリカにやってきて、親から引き離されて檻に入れられて、二度と会えないなんて。しかも、パンデミックだよ。あの子供たちがどんな思いをしているかなんて想像を絶してしまう。そういうこともあってあの曲は俺にとってパーソナルな曲だから、FEAR NO EMPIREの曲としてどうしても最初に出したいって猛プッシュしたんだ。願わくは、もし政権がひっくり返ったら、その子供たちを親御さんのところに戻してあげてほしい。

-檻の中の子供たちには心が痛みます。パンデミックの終わりも親御さんにいつまた会えるかもわからないなか、言葉がわからないから、不安を表現することもできないなんて......。そういう子たちにこの曲は光を当てているんですね。大事なことです。

うん。俺個人にとっても、俺の家族にとっても本当に大切なことなんだ。

-さらに、2ndシングルの「Amplifier」は、パンデミックの中で浮き彫りとなった格差社会に対する怒りが込められた楽曲ですね。ミュージック・ビデオを観ました。痛烈なという言葉が合っているかはわかりませんが......観る人に考えさせる内容だと思います。パンデミックの恐ろしさと共に、最後はあなたが"投票しました"ステッカーを誇らしげに見せるシーンで、投票へ行くことの大切さが表現されています。このビデオのアイディアは楽曲と同時に生まれたのですか?

ビデオのコンセプトは曲ができあがってから思いついたんだ。俺にとってあの曲の主なインスピレーションになったのは、さっきもちょっと話したけど、階級の格差がものすごくあって、それがパンデミックの中で顕著になっていることだった。ステイホームしたり、ディスタンスをキープしたりする余裕がある人たちがいる。彼らの病気になる確率は、家族を養うためにスーパーや銀行、病院で働かないといけない人たちよりもはるかに低いんだ。こういう格差は、それまではもしかしたらあまり気づかれなかったことかもしれないけど、今回こうして浮き彫りになった。そういうことにインスピレーションを得て曲ができたんだ。で、この曲をどうやってヴィジュアライズしようかという話になったとき、人々が1票を使うことの意義や大切さを強調しようと考えた。この不平等に対して声を上げるためにね。それまではそんなに不平等が広がっていなかったかもしれないし、気づかれなかったかもしれないけど、今誰が感染していて誰が死んでいるかを見ていると、自分の声を使って投票して、より良い世の中へと持っていこうとすることの重要さがわかる。ビデオのアイディアはそういう感じに進展していったんだ。

-なるほど。あれは砂漠で撮ったのでしょうか。どんな場所だったのでしょう?

撮影は2ヶ所で行ったんだ。ひとつはロサンゼルス北部、もうひとつはパーム・スプリングスで撮ったよ。ものすごく暑かった(笑)。

-画像を合成したわけじゃなくて、本当にあの場所に行ったんですね。

両方の場所でロケをやったよ。(※日本語で)アツイデス(笑)。

-暑いんですね(笑)。すごく走っていましたが、余計"アツイ"だったのでは(笑)。

Oh my god! 本当に"アツイ"だったよ(笑)。

-でしょうねぇ。"いったい何回リハーサルやったんだろう?"と思いましたよ(笑)。フル・スピードで走っていましたし、でも、何テイクかは撮ったでしょうし(笑)。

うん。なんとかテイク数は最小限にとどめるようにしたよ。"これでいいと思うよ! もういいんじゃない?"って(笑)。

-3rdシングル曲「Super Spreader」に関しては、楽曲自体、非常に激しいパンク・ロック・ソングですが、ミュージック・ビデオが過激すぎて動画サイトから削除されてしまったとのことで、驚きました。オリジナルがもう観れないのは残念ですが、いったいどんな内容だったのでしょうか?

正直言ってショックだったよ、YouTubeから削除されてしまうなんて。どうしてかわからないんだ。何回も問い合わせたけど、理由は教えてくれなくて"YouTubeには載せられません"と返事が来るだけだった。こういう内容なんだって2、3回説明したけど、乗り気じゃなかったね。正直言ってあのビデオのどこに問題を見つけたのかわからないんだ。ともあれ、あの曲の内容というのは......俺たちはこの25年の間に何度も日本に行っている。そっちではマスクが政治に利用されるなんてあり得ない。あくまで自分が病気になったときに、自分の周りの人や家族を守るためのものだ。だけど、ここアメリカではマスクが政治に利用されてしまって唖然としたよ。マスクをするっていうのはとてもシンプルな話で、科学的根拠に基づいている。マスクがあれば他人の命を守ることができるんだ。俺たちはあまりにフラストレーションを感じたから、このことを曲にすることにした。マスクをするというのは政治的な意思表示なんかじゃない、命を守るための行為なんだってね。

-まったくですよね。アメリカ人の中にはマスクをしたくないからと言って、抗議のデモをする人たちまでいるとニュースで見ましたよ。何をそんなに大げさに......と思いました。大切な人たちを守るためのものなのに、デモをするほど厄介なものだと考える人がいるというのがショックでしたね。クレイジーですよ。

うん。意味がわからないよね。何が本当で、何が科学的根拠に基づいているかを見極めるのが、こっちでは大変になっている。人々がそれぞれの信条から分断されてしまっているんだ。心が痛むよ。

-あなたは医学部を目指していたこともありますし、他の人よりマスクの大切さを正しく理解しているでしょうね。

......まぁ、そうかもしれないけど、例えば自分の主治医や他の医者が"煙草を吸うな。煙草は癌の原因になる"と言ったら、多くの人は煙草を吸うのをやめるよね。でも、医者が"マスクをしなさい。他人の命を守ることになる"と言うと、"俺はマスクなんてしないぞ。あんなのは民主党支持者のするもんだ"なんて言うやつらがいるんだ。"おい、違うよ。医者が言ってるんだぞ"と言いたいね。わけがわからないよ(苦笑)。まったく腹立たしいね。今でもこっちはそういう腹立たしい状態なんだ。

-"マスクをするのは自由を剥奪されるのと同じだ"とかねぇ(苦笑)。理解に苦しみます。

死ぬほうが、マスクをするよりよほど自由を剥奪されるのにね(笑)。

-本当ですよね。すべての自由を剥奪されてしまいますよ......ビデオは反マスク派に対する皮肉みたいなものだったんでしょうか。

マスクをしたがらない人たちが皮肉だと考えたら皮肉な内容になるかもしれないけど......皮肉な内容にするつもりは一切なかった。単に、マスクをすることが自由の剥奪になると主張するのが、いかに意味のないことかを伝えたかっただけなんだけどね。あくまで現実に即してその影響を表現しただけで。どうして削除されたのかわからないけど、いつかは公開させてくれるかもしれないね。

-ちなみに新しいビデオを作り直したりはしたのでしょうか。

いや。もとの形にこだわるつもりだよ。いつかはどこかで日の目を見るといいね。

-楽しみにしています。4thシングルの「Destroyer Feat.Zebrahead」は、アラブ音楽をサンプリングして効果的に使っているところがかっこいいですね。アメリカの中東情勢への介入や差別問題を示唆しつつ、音楽的にも面白い表現になっていて素晴らしいと思いました。こういったアレンジはどなたのアイディアでしょうか?

あの曲はみんなで書いたんだ。あれも同じように、"ギターのパートにこういうアイディアがあるんだけど"とDanが持ってきて、俺は俺でエレクトロニックな感じのループを作ってあって......そういうアイディアを交換し合っているうちにできた感じかな。Benはアレンジで大活躍だったよ。Mikeも"ドラムのサンプリングはこれでどうだ"とか、"本物のドラムはここに入れてみたらどうだ"と案を出してくれた。とんとん拍子にできあがったね。俺自身の個人的お気に入りでもあるよ。

-あのギターのリフもアラブ音楽のサンプリングもいいですよね。あのサンプリングの部分は自分で演奏したのでしょうか?

ありがとう。今はループの作り方もいろいろあるし、プラグインも"Pro Tools"もあるからね。クールにする仕掛けはなんでもありなんだ(笑)。楽しかったよ。家にいるから結構その手の技術も覚えてきたんだ。時間ができたからね。