INTERVIEW
Sick.
2017.08.21UPDATE
2017年08月号掲載
Member:詩季(Vo) 風輝(Gt) 吏(Pf) Avel(Ba) 豪(Dr)
Interviewer:杉江 由紀
-各パート、各メンバーの立場からすると、今回のミニ・アルバム『PhAntom.』全体を作っていくなかで特に重視していたのはどんなことだったのでしょうか。
Avel:前回の『II i I vii』は、ベースが少しデジタルっぽい音だったんですよ。フレットレス・ベースを使って、アンプでジャキジャキ感のある音を作っていったんですね。その点、今回はフレットありのベースで弾いていって、生音の状態でもわりとエッジ感は出ていたから、そこの違いが大きかったんじゃないかと思います。
風輝:そこはギターも一緒です。今回は、エディットっていう作業をなるべくしないようにしたんですよ。一発録りにこだわりましたね。
-エディットやリアンプありきのレコーディングが半ば当たり前となっている昨今、その姿勢は実にロックですねぇ。
風輝:まさに、そういうロックな音が欲しかったんですよ。といっても、普通にパっと聴いただけだったら一発録りなのか、そうじゃないのかなんてあんまりよくわからないとは思うんですけどね。そうだとしても、やっぱり自分としてはアナログにあえてこだわりたかったんです。
豪:そのせいか、今回はギターのメタルっぽさが増したよね。
-では、ことドラムの音に関してはいかがでした?
豪:僕の個人的なこだわりなんですけど、今回はいわゆる流行りのドラムの音を、意識的にも無意識的にも取り入れることになったと思います。例えば、7~8年前だったらツイン・ペダルを踏めるのが一番の流行りみたいな空気があったじゃないですか。でも、今はそれもまだあるけどシンバル・ワークであったり、裏拍、ジャズ的要素なんかを入れるのが流行っているので、そういう今の僕が最先端だと感じている音を、今回の『PhAntom.』の中には積極的に入れていくようにしました。
-既存のスタイルにとらわれることなく、常に新しく刺激的な音を模索していくスタンスは非常に素晴らしいですね。
豪:まぁ、場合によってはやりすぎてしまって、メンバーから"これ、ほんまにいる?"ってダメ出しをされちゃったたこともありましたけどね(苦笑)。そうならない限りは、かなり今やりたいことをやれたと思います。
風輝:要は、ニューメタル系によくある"シンバルを基準に一定のスネアが繰り返されて、あとは足でリズムを刻む"みたいなところから始まって、手の方もちょっと崩してみる的なことですよね。そういうのって、たしかに最近ならではの感じなんだろうなという気はしてます。
豪:そういうふうにやることで、今回はツイン・ペダルのスピードも上がりましたしね。聴いている側が気持ち悪くならない程度に気をつけながらやりました。
-吏さんは、今作と対峙していくなかではどんなことを考えていらっしゃいました?
吏:音的なことでいえば、ホラーの要素やシアトリカルな面を打ち出していくために、これまでよりも神秘感みたいなものをなるべく色濃く醸し出すようにしていきました。1枚目と2枚目は全体的に攻撃的なトーンが強かったぶん、例えば今回は「PhAntom.」の中でシャウトをしたときにも、MVの中に出てくる儀式みたいなシーンを意識しながら、ちょっと呪文っぽい感じで恐ろしさを感じさせるような演出を加えていったんです。
-なお、今作には「PhAntom.」のほかにも「Under.」や「Monster.」、「Cinema.」といった、タイトルを見ただけでもいろいろと想像力をかき立てられるような楽曲たちがあれこれと収録されています。ただし、唯一「A.S.B」だけは曲タイトルの持つ意味がわかりにくいのも事実です。これがいったいどんな内容の楽曲になっているのかも、少し解説をしていただけますか。
詩季:あぁ、そこを聞いてもらえるのは嬉しいですねぇ。これは、15世紀から16世紀にかけてのスコットランドに実在していたとされる食人一族の長だったアレクサンダー・"ソニー"・ビーンをモチーフにして作った曲なんです。この一族は、あの"進撃の巨人"のモデルになった人たちでもあるんですよ。
-えっ! 実話なのですか!?
詩季:昔のことすぎて確実に事実だという証明はされていないものの、一応そういうことみたいですね。働きたくない、何もしたくなさすぎるアレクサンダー・"ソニー"・ビーンという男が、最初は洞窟に引きこもるところから話は始まるんですよ。彼は、おんなじような考えを持った女と結婚して、日々怠惰に過ごしているうちに食べるものに困って、ついに食人をするようになるわけです。
-食べるのに困っての食人だなんて、完全に理解不能ですね......。
詩季:しかも、この夫婦は性欲も盛んだったからどんどん子供が増えていったらしいですよ。そのうち、その子供と子供同士でも子供を増やしていくことになって、何十人もの一族になっていくっていうね。当然、そんな状態だと誰も教育なんかは受けていないので、まともに喋ることもできないような人間たちが人を殺して食べることだけに長けた一族として増えていく、ということだったんですって。