INTERVIEW
FIXER
2017.06.13UPDATE
2017年06月号掲載
Member:Jey(Vo) Yuhma(Gt) Aika(Gt) 70.(Ba) Korey(Dr)
Interviewer:杉江 由紀
ローマ神話やギリシア神話に登場する正義の女神たちは、一様にして天秤を掲げ持っている。そんな天秤のことを、ラテン語で"libra"と呼ぶそうだ。シーンの先陣に立つ気鋭のFIXERが、ここにきて発表するミニ・アルバムのタイトルは、まさに"Libra"。バンドとしての"新章"へ突入することになった今作で、どうやら彼らはこれまでにないアプローチや、これまでよりも進化した表現方法を体得したものと思われる。直感派のメンバーと、理知的なメンバーが混在しているというFIXERは、ある意味でバンド内にも天秤を持ち合わせているのかも......。絶妙なバランス感によって司られた、FIXERならではの音というものがここには在る。
FIXERにとって、ヘヴィな音は間違いなく"核"ですね
-今作ミニ・アルバム『Libra』でのFIXERは、SE「friccion」(Track.1)からの実質的な「アスタリスク」(Track.2)で、かなりヘヴィな音像を打ち出してきている印象です。様々な楽曲のバリエーションを持つ一方、あえてアグレッシヴな側面を冒頭に持ってきているということは、これがこのバンドにとっての看板的な音であると言えそうですね。
Korey:FIXERにとって、ヘヴィな音は間違いなく"核"ですね。だから、今回は「アスタリスク」をリード・チューンとしてその位置に持ってきたんですよ。
-だとすると、メンバーのみなさんがFIXERの中でヘヴィな音を出していく際に、こだわっていることはなんですか。
Korey:当たり前ですけど、重くてしっかりとした音を出すことですかね。
Yuhma:僕は特に考えずにやっています。
70.:Yuhmaは直感型で感覚派のギタリストなんですよ。
Aika:ほんと、Yuhmaは放っておいても良い音を出すんですよね(笑)。別に何を使ってもちゃんと良い音を出す、天才肌タイプだと思います。
-かくいうAikaさんは、ヘヴィな音の中でもどんな音がお好きですか。
Aika:うちのバンドはチューニングがドロップBなので、かなり低い方だとは思うんですけど、それでも細部まで輪郭がボヤけないような音を出すようにしていこう、ということはいつも意識していますね。特に、ベースとギターの音域が被ってしまうと一気に音圧がなくなったように感じてしまうので、お互い殺し合わないようにしているんですよ。ベースの音に対して、なんとかうまく乗っかれるようにしています。
-Aikaさんは、Yuhmaさんとは正反対で理知的に音を出していく方なのですね。
70.:ウチのギター隊ってすごくバランスがいいんですよ。あとは、ベースとギターの噛み合い具合という点に関して言えば、それは俺のこの右手が左右しているところが大きいですね(笑)。やっぱり、ヘヴィな音楽の場合、ベースとかドラムが底を支えられるかが大事だと思うので、どっしりとした基盤を作ったうえで、ギターには好き勝手やってもらいたいな、というのが俺の希望なんです。
-ギター側はギター側で、"うまく乗っかれるように"考えていて、リズム隊はリズム隊で"底は支えているから好き勝手やってもらいたい"。その関係性は、まさにバンドとしての理想形だと思いますが、そうした音像を背景にJeyさんが歌を表現していく際、最も重視しているのはどんなことでしょう。
Jey:ヘヴィな曲でシャウトをガーッとやったりするのって、極端な言い方をすると誰でもできちゃうことですからね。ギャオギャオ言っている中でも、言葉とか感情がはっきりと伝わるような歌になるように意識しているというか、意識せずとも自分は"そういうヴォーカリスト"だと思ってます。ただうるさいだけにもなりたくないし、ただきれいに歌えるだけにもなりたくないから、たとえシャウトだけで完結するような曲でも、その中に緩急をつけながら"他とは違うな"と感じてもらえるような歌を届けていくように俺は心掛けてます。イメージで言えば"このシャウト、カッコいいだろ!"的な感じじゃなくて、自分としては歌詞も含めたところでの"伝わる歌"を歌っているんです。
-声色の使い分けなども、頭で考えているわけではないということですか?
Jey:僕もYuhmaみたいな直感型なので(笑)、"こういう歌い方をしよう"と考えてからレコーディングをしたことはないですね。そういえば、普段ヴォーカルはすべて自宅で録っているんですけど、近隣からヘンな苦情が来たことがありました。"複数の人が大声で話しているようだが、どうなっているのか"って(笑)。
-(笑)それはつまり......!?
Jey:たぶん、普通に歌っている声と、シャウトと、プレイバックで流している音とかが、それぞれ違った人の声として周りには聴こえていたみたいです。完全にひとりだったんですけどねぇ。
-ヴォーカリストとしては、苦情ながらも嬉しい"評価"ではありませんか。
Jey:そうなんですよ。内心、"やった!"と思いました(笑)。
-となると、歌録りの際のヴォーカル・ディレクションもご自身で?
Jey:すべてセルフです。ウチのバンドはみんなそうですね。
70.:というか、エンジニアリング自体もJeyがやっていますし、サウンド・プロデュースも全部Jeyがやっているんですよ。
Yuhma:Jeyは楽器も全般できるんですよ。すごいんです。
-ちなみに、エンジニアリングについてはどのようにして勉強されたのですか?
Jey:なんか、そこも直感です(笑)。"ここはうるせーな"とか"ここはもっとデカくしたいな"とか、そんな感じで適当にやってるだけなんで。あとは、Aikaもよくいろいろな意見をくれますね。"このあたりの帯域を削ると、タムの音が引き立つらしいよ"とか。"それ、欲しい情報だったわ!!"ってなることが結構あります。
Korey:メンバーだけで純粋に音を作っていける、というのはバンドとしての理想形をかたちにしやすくていいんですよね。
-なお、今作『Libra』はFIXERにとって"新章"の幕開けを飾るものになるのだとか。新章とは具体的にどういった意味なのかを、ここで解説していただけますか。
Jey:実際、今回も「アスタリスク」をリード・チューンにしているくらいなのでヘヴィなサウンドは大好きなんですけど、このところはあまりにも"FIXER=うるさい"というイメージが付きすぎてしまったところがあったので、いったんそこをちょっとリセットしたかったというのはあるんです。まぁ、うるさいまんまの方が"激ロック"的には良かったのかもしれないですけど(笑)。
-お気遣いをありがとうございます(笑)。
Korey:でもまぁ、そこは単にヘヴィなものばかりじゃなく、FIXERとしては他にもいろいろとやりたいことがありますからね。だから、今回は1枚を通して自分たちの中にある核を大事にしつつも、場面ごとに違う情景を描きたかったんです。この1枚をそのまま演奏しても、1本のライヴとして完結するくらいに。
Jey:もちろん、自分たち自身の感覚では、これまでもメロディのきれいさとか、聴かせる部分っていうのも大事にしてきていたはずだったんですけどね。なぜか、周りからはファンだけじゃなく、対バンするバンドとかからも、あんまり認識されていなくて、"あのシャウト、すごいっすよね!"みたいなことばかり言われるのが、ちょっと残念だったところがあるんです。